1148井上章一著『京都ぎらい』

書誌情報:朝日新書(531),221頁,本体価格760円,2015年9月30日発行

京都ぎらい (朝日新書)

京都ぎらい (朝日新書)

  • 作者:井上章一
  • 発売日: 2015/09/11
  • メディア: 新書

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かつて洛北のさらに北にあたる左京区○○に住んでいたことがある。古くからの農家と新住民の住宅が混在していた。宅地化が急激に進んだ所でもあった。○○に住んでいると言うと,京都人からは○○は縁起のいい場所ではないと何度か聞かされた。○○○○院があって隠れた名所があるにもかかわらずだ。
嵯峨に生まれ宇治に住む歴とした京都人である著者にして洛中人からは「よそさん」であり「一種の居留民」と見なされ,鼻持ちならぬ「中華思想」や「選民思想」に辟易させられた話はよくわかる。
でもこの種の「差別意識」は京都の洛中・洛外だけでなく,都会と田舎,山の手と下町,白人と黒人,先進と発展途上などなど多く見いだされる。「重い差別が,社会の表面からはけされていく。しかし,かつての差別をささえた人間の攻撃精神じたいは,なくならない。そして,それは軽いとされる差別に突破口を見つけ,そこからあふれだす。あるいは,差別の対象ともみなせぬ小さな負の印に,と言うべきか」(46ページ)。
京都市生まれながら京都府生まれと書き,上七軒に「かみひちけん」とルビを振る著者は,洛中人から田舎人扱いされながら京都人としての「連帯感」を持っていた。著者の靖国や国旗・国歌への違和感にもっともひねりが効いていた。