ちくちく日記

DTP系備忘録。真面目にやってます。

モリサワ TypeSquareはけっこうおもしろいかもよ

JAGATのテキスト&グラフィックス研究会セミナー「Web電子出版システムとクラウドフォント・組版編集ソフトウェア」を受けてきました。

先日あったpage2012での注目製品を紹介ということで、モリサワクラウドフォントサービスTypeSquareと編集ソフトMC-Smart 1、CrossDesign社のコンテンツ管理クラウドサービスLEPUSが紹介されてました。


TypeSquare

すでにあちこちで話題になっているTypeSquareはモリサワのフォントがWeb表示につかえますという、フォントサービス。

モリサワのフォントがWeb表示につかるとなにかいい事があるのかというと…まぁテキスト検索がそのまま扱えるとか、テキスト変更するのにいちいち画像を作らなくてもいいとかそういう辺り。

技術的にはCSS3からこの機能は使えるようになった。なのでCSS3に対応した最新ブラウザでないとこの機能は使えない(というかうまく動作しない)

実際にWeb上でモリサワフォントをつかった表示がどうなるのかは、モリサワのシミュレーションサイト「クラウドフォント・シミュレータ」や実際に使ってみたサイト「名もないテクノ手に:TypeSquare使ってみた」あたりをみるとよくわかる


クラウドフォント・シミュレータ


今回のセミナーではこのTypeSquareの機能や利用環境などが説明された。


他のWebフォントサービス

まず、Webフォントについて、海外では「TypeKit」「Webtype」「fonts.com」「Google Web Fonts」といったWebフォントサービスがあり、活用されている。
日本では「デコもじ」「もじdeパ」「Font+」といったサービスがあるが、フォント容量などの問題もあり大規模な利用には至っていない。

TypeSquareでは使用される字種をサブセットでダウンロードする。ダウンロードされるデータ量は1000字種で1MBいかないぐらいだそうな。


TypeSquare 対応のブラウザ

以下のバージョンのブラウザに対応。

スマートフォンでの表示については、他にも表示可能なブラウザはあると思うがモリサワでは未検証。



TypeSquareでの配信(フォント)フォーマット

TypeSquareで配信されるフォントフォーマットは
TrueType 及び、WOFF(Web Open font format:Webフォント用に開発されたフォントフォーマット)、EOT(MS独自のフォントフォーマット)
Webでの表示に最適化するため、アセント、ディセントなどをチューニングしたものを配信している



利用料金

TypeSquareはサイトのPV(ページビュー)ごとに使用料金が設定されてる
TypeSquareから読み込まれたフォント情報はフォントキャッシュには残らないので、ページにアクセスする度に新規で読み込みされる。そのページビューの回数によって料金プランを選択するという仕組み。ちなみに検索エンジンクローラーはカウントしない。


現在無料キャンペーン中らしい

http://typesquare.com/img/service/cp_0yen.jpg

2012年12月31日(月)まで、つまり今年いっぱいはこのサービスを無料で利用できる。



使用方法

登録すると、TypeSquare専用タグが発行されるので、このタグを使用するWebサイトのhtmlファイルヘッダ内に記述する



使える字種

現在使用できる字種は、AJ1-6(23,058文字)の中でUnicode6.0(10.9,449文字)に含まれる部分(約1万5千字程度)。
今後IVSなどの利用が予想されるので、それに合わせて使える字種も増えていく予定

ちなみに一度にダウンロードされる字種には上限1,500字種という制限がある。(なんか不正利用とかなんらかのケースの予防策らしい…よくわからない。通常利用する上では1,500字種あれば十分と思われる)



配信フォントについて

配信されるフォントには、詰め情報、異体字情報、組版情報は含まれない。



ブラウザからの印刷、PDF保存について

ブラウザのバージョンによって、プリント、PDF保存の際文字抜けなどが発生する場合がある。
具体的にはIE8、7で一部の文字がぬけたり、すべての文字が抜けたりした。
Firefoxでも低いバージョンでの抜けがあった。
抜けはなくてもPDF保存の際に「Undefined font」として埋め込まれたりも。
やはりブラウザのバージョンが低いとそういった問題がおきやすい。



現状の課題

Windowsでの表示(Windowsだとあまり美しく表示されない)
表示スピード(サーバでの処理は200ミリ秒以内に行っているが、通信環境やブラウザごとのjavascript実行速度によってばらつき)


二次利用してもいいらしい

興味深いのは、ブラウザからの印刷、PDF保存についての所。

印刷はともかく、PDFへの保存ってもちろんフォントを埋め込んでの保存ですよ。
それってやってもいいの?って事で、最後のQ&Aコーナーで「PDFへの保存とそのPDFの2次利用はやってもいいのか?」と聞いてみた。

モリサワからの回答は「PDFの保存と埋め込みは(技術的に)制限できるものではないので、やるなとは言えない」「積極的にPDF保存して使ってくださいとは言わないが、やる事を止める事はできない」との事。
「使用許諾的に問題ないのか?」との問いには「問題ない」。

これ、結構面白い話だ。

正直、Web表示にモリサワフォントが使えるってだけじゃ「ふーん」って感じだったんだけど、その表示されたフォントをPDFなどで利用できるとなると、これは色んな使い道が考えられますよ。Webで表示した状態でそのままPDFにしたフォント埋め込みの印刷データを作るってのもできるかもしれない。

あと、やっぱり気になるのは電子書籍への展開。
今のところWebでの利用しか想定されてないんだけど、電子書籍で使用できるようにはなるんだろうか?

セミナー終了後にモリサワの人に質問してみたんだけど、そういう電子書籍での利用についての問い合わせなどもあるらしい。
ただ、モリサワとしても現在はWebに表示させるだけでいっぱいいっぱいで、そこまで対応できていない。フォントのPDF埋め込みとかそういう二次利用についても、そういう動作について検証が行き届いていないというところらしい。

無料キャンペーン中なのを見てもわかる通り、とにかく今は色んな人にTypeSquareを知ってもらい、使ってもらうのが優先ってとこかな。

今後どうなるのかわからないけど方向性によっては色々と使い道が広がりそうなTypeSquareでした。



■MC-Smart 1(http://www.morisawa.co.jp/font/download/catalog/e16it10000001wns-att/e16it1000000jh1z.pdf

次にMC-Smart1の紹介。

モリサワの作った組版ソフト…なんだけど、今ひとつターゲットがわからないなぁ…。
インターフェースがOfficeに合わせてあるから、Officeとかしか使った事がない素人ユーザー用なのかしらとおもったけどそれにしては組版内容が専門ソフト的だし、印刷ユーザー向けにするなら今度はInDesignに比べてこっちを使うメリットは何かって話になるし…。

すでにあるMC-B2との違いも気になるとこ。これは「MC-B2はバッチ処理に向きスピード重視、MC-Smart 1もバッチ処理はできるがどちらかというと全体のバランス重視」らしい。



CrossDesign LEPUS

CrossDesign社 LEPUSの紹介。

コンテンツ管理をWebで行い、一つのコンテンツから、印刷用誌面データ(PDF)、iPhoneiPad等のスマートデバイス用データなどを自動で生成しますよ、というサービス。まぁいわゆるワンソースマルチユースのためのシステムですな。

印刷用のデータと同時にWebや携帯、スマートフォンなど用のデータを作りたいという需要はかなりあるのでそういったニーズに応えるため、テキストや画像をDB管理→各フォーマットのデータに自動組版!データはできるだけプレーンな状態でDB管理しましょう!というソリューション。

デモでは毎日発行されるエリア情報誌の印刷データとWeb版を同時に作るなどを見せてました。


理想はわかるがそんなに簡単じゃない

データはプレーンな状態で、自動的に各メディアに合わせて自動組版で一発完成…というのは理想なんだけど、実際の業務でここまできっちり定型でしか動かない業務って結構すくなかったり。ないとは言わないけど…。
どんな業務でもやってるうちにイレギュラーな処理がでてきたり、追加要望がでてきたりと最初の要件定義ではおさまりきらない状態が絶対にでる。
その時に「仕方ない今回はその部分だけ手作業で」って逃げられればいいんだけど、このシステムはWeb上で組版したあと(印刷用には)PDFでしかデータがかえってこないので、手作業で逃げる事ができない。

システムに機能を追加するにしてもいちいちCrossDesign社に機能追加依頼するのは(コスト的にも時間的にも)大変。ある程度自分でカスタマイズ可能なバージョンもあるって言ってたけど、どの程度できるのかは不明。
与えられたテキストから条件判断して組版パターンをかえるといったような分岐処理をやるにはCrossDesign社に依頼してそういう処理をつけて貰わなきゃならないっていってたから、自分でカスタマイズできるってのはせいぜい組版の見た目ぐらいかもしれない。

CrossDesign社は自社での制作物の効率をあげる為にこのシステムを作ったって言ってたけど、自社で全部開発してるんだったらカスタマイズも簡単だしいいだろうなと思う。


組版エンジン何使ってんだろ?

LEPUSはこれを使いたいというより、LEPUSと同じような仕組みを自社で開発したいという感じ。自社で開発してればカスタマイズもしやすいから。
なので、組版エンジンとか何使ってんのかなーとか、どういう仕組みなのかなーとかその辺が気になったんだけどそこらへんはさすがに教えては貰えないですよね(笑)

組版エンジンについては後ろでInDesignサーバが動いているのかなと思って、セミナー後営業さんに「組版エンジンは何ですか?InDesignサーバですか?」と聞いてみたら「いえ、自社開発のエンジンを使ってます」と言ってた。
InDesignじゃないんだったら、禁則処理とかそういった部分はどの程度設定できるんですか?」と聞いたら「ある程度は可能で、今機能強化している」と。
んー、製品紹介のサイトみると、InDesignサーバ使ってるような事書いてあるんだけどなぁ…ちがうのか。っていうかわざわざ組版エンジンを自社開発するメリットがよくわからない。印刷用データ生成にはInDesignサーバつかった方が楽じゃないのか?


一番のハードルは

LEPUSはコンテンツをWeb上で管理する仕組みなので、当然コンテンツの作成や登録はWeb上で行うことになる。
…これ誰がやることになるのかなぁ、理想はコンテンツをもってるクライアントがやるんだけど、実際こういう新しい入力とかを提案してもいやがるクライアントって多いんだよね。今まで通りエクセルで管理したいとか、赤字は紙に書いて入れたいとか。まぁエクセルでとか言う部分は「エクセル取り込み対応にカスタマイズいたします」ってことになるだろうけど、手書き赤字とかはなぁ。
一番ハードル高いのは、印刷会社ではなくその先のクライアントだったりするんだよね実際。



と、言う事で、JAGATセミナーレポートでした。TypeSquareは使い道によっては色々面白くなるのかもしれないねっ。