「上から目線」の構造

確かに最近、「上から目線」という言葉はよく聞くが、それに焦点を当てて一冊の本にしたのは、本書が最初ではないか。著者は大阪大学助教授などを歴任した心理学者。なぜ「上から目線」という言葉がよく、特に「悪口」のように使われるようになったのかを分析する。プライド(それも、偽物の)の高い人が、「上から目線」にこだわるというのは、まあその通りだろう。日本人が人目を気にし過ぎる傾向にあるというのも、特に間違ってはいない。といった具合にどこかで聞いたことのあるような話が最後まで続き、目からウロコのような目新しさは、本書にはない。
「上から目線」の構造 日経プレミアシリーズ

就職、絶望期

著者の海老原氏の本は、これまで2冊読んだので、その主張はだいたい分かっているのだが、有名な経済学者も、こと「日本的経営」や「就職」等については、きちんとデータを見て物を言っていないことが、氏の著書でよくわかる。欧米においても長期雇用が普通で日本が特殊ではないこと(短期間に次々転職する特殊な「ジョブ・ホッパー」が平均値を上げている)、また、熟練すれば転職が可能という訳ではないこと(むしろ、業界や会社に特殊な技能となる)などが、数字で示されていて説得的に論じられている。
そうそう、本書の中心は就職活動である。大学生が全体で約55万人。しかし、人気企業の採用枠は2万人から3万人(景気等によって変動)。つまり、人気企業に入れる人はごくひとにぎりであり、考えるべきはそれ以外、中小企業等に入社する人たちのことを中心に考えようという提案は、その通りだ。また、大学生が人気企業からだんだんと諦めて(冷却)、自分とマッチする企業を見つけるのに時間がかかるから採用が長期化するという指摘も、まあ妥当だろうと思う。
とまあ、8割方は賛成できるのだが、就職活動が短縮したからと言って、学生は勉強しないだろうというのは、企業側の立場に立った物言いだろうと思う。もちろん、学生が遊びたいというのはわかるが、だからといって、採用活動で授業を蚕食していいということにはならない。私の持論は以前から、採用は手間をかけずペーパーテスト一発で決めろ、というものだ。
就職、絶望期―「若者はかわいそう」論の失敗 (扶桑社新書 99)