身分差を埋める闇

あまり意識したことはなかったけれど、彼は王子様なんだわ。
ミレーユはそう一人ごちた。
レイドックで王子に間違えられて(いや本当はそうなのだが単に記憶がないというだけで)、改めて認識させられて、そしてライフコッドで本当の彼に戻ったとき、今までのイザに少し気品がプラスされた気がしてどうも心に引っかかりを覚えてしまう。
仲間としては全然何も変わらないけれど、躊躇っているのは自分の恋心。

世界に知れ渡った強国と言えば、フォーン、アークボルトレイドックそしてガンディーノ
彼は両親のムドー征伐挑戦や、彼自身の功績によって、レイドックの強さを全世界に広めている。
レイドックの王子は国民にも好かれ、女子供からも絶大な人気がある。
暁の星、イズュラーヒン。
誇らしいのに、誇れるほど手が届かない人になっていく。
いいえ、元々手なんか届かない人だったわ。

私はといえば、先代のガンディーノ王の妾になりかけて牢屋行きになった女で、魔法使いギルドの名も無き魔女の一人にすぎない。
彼との関係は仲間。
この旅が終わってしまえば私は居る場所を失うのだ、そう思うと旅がいつまでも終わらなければいいのにと暗いことを思ってしまう。

正直、魔王が四人もいてよかったと今は思っている。
その分だけ旅が長くなるから。
彼の声を聞く時間が増えて、彼の横顔を見つめている時間が増えるから。
あとどれくらい彼の側にいられるのだろう、いつもそう考えている。

ああ、たまたま竜を呼ぶ笛を与えられて役割をこなすために仲間になる運命にあっただけで、彼らの強さについていけなければ私は用済みになってしまう。
世紀の大魔女に、ゲントの神の子といった輝かしい人たちが居る中では技を磨くことを怠れない。
怠らなくても生まれつきの差が存在しているのに、もっと差が開いてしまうのは嫌だわ…。
ハッサンは特別だから違う、彼はもはやイザの相棒となるべくしてラーの書に予言までされていた男よ。

考えれば考えるほど泥沼にはまっていく。
分かっているのに考えることをやめられない。

今はただ、魔王という闇に希望を埋めて抱きしめるだけ…