大学病院へ行く

しばらくしてホントに救急隊の方々が登場。マジかよー!!マスクをかけさせられストレッチャーへ。さすがに大の男が2人がかりでも厳しかろうと気遣い自分で乗り移った。搬送用エレベータで外へ出ると待ち受けていた救急車へ乗り込む。って、おいおい結構派手な振動だな。怪我人じゃなくて良かったぜ。

目的地である大学病院に連絡を入れいざ出発。『10分もかかりませんからねぇ』とのこと。んじゃ、わざわざそれだけの距離のために救急車使ってるわけ?なんか悪いなぁ。な〜んてね。学生時代、酔いつぶれた友人を急性アルコール中毒に仕立てて救急車を呼び、近くの病院まで運ばせて夜明けを待った、という極悪な経験の持ち主が今更なにを偽善者ぶってるんでい!!

車内で血圧測定。上が87下が63。すみません上下共に2桁なんですけど。僕まだ生きてますよね?

ほどなくして大学病院へ到着。夜間外来だか当直室だかに運ばれる。血液内科のドクターと看護婦さんがスタンバってくれていた。ストレッチャーからベッドへ。ここでもやはり自分で乗り移った。傍では赤ん坊が泣いている。『ごめんなさいねぇ、うるさくて』と看護婦さん。それは別にいいんですけど、イッタイ、ココ、ドコデスカ???って、痛っ!あぁ、採血ですか。ん?チョットマッテ、アナタ、ドコイキマスカ〜???

というわけで高熱で朦朧としていた僕は訳も分からぬまま強行採血を終え病室へ向かうことに。はてさてどうなってしまうのか。。。

告知

病室へ到着。大部屋のようだが患者さんがいる様子はない。何この部屋???『今日はたまたま皆外泊でいないんですよ〜』と看護婦さん。ふ〜ん、そうですか。って、外泊って何ですか???ま、いっか。

暫くしてドクターが登場。僕の骨髄を採取すると言っています。コツズイ???それってコムタンスープとかでちゅうちゅう吸ってるアレですよね?そんなものどうやって採るんですか?なんと!僕の胸に針を突き刺してそこの骨から吸い出すんですか!?ここまで来たら何でも来いですよ。好きにして下さい。

ウゲーッ気持ち悪っ!な骨髄採取を終えるとお着替えタイム。着ていた服を脱いで病衣に着替えます。って、看護婦さん、そこまで手伝ってくれんでもよかですばい。わいもオトナじゃけえそれくらいのことは一人で出来ますによって。。。あ、あ、あ〜〜れ〜〜〜!!はい、完了。

なんていうお戯れをしていると、ドクターが再び登場。さて、いよいよ告知か。

『亮臣さんの病気は白血病です』とドクター。
え?ちょっと待って。今何て?唐突に何言い出すんですかあなた。もう少しタメみたいのがあってもいいでしょう、そういうコト言うときは。
白血病には何種類かタイプがありまして、亮臣さんの場合"M3"という型になります』
淡々と続けるドクター。
ちょ、ちょ、だからちょっと待てって。そんなに焦るなよ。キャッチセールスじゃあるまいし、少しはこっちが理解する時間を与えて頂戴。
白血病というと不治の病というイメージが強いですが、今は治療成績も良くなっていて多くの方が生還しています』
嘘つけって!白血病といえば夏目雅子本田美奈子だろ。生還した人なんて聞いたことないぞ。ははぁん、なるほど。とりあえずこう言って一旦落ち着かせておいて、あとからジワジワ余命を宣告する気だな。どうせ死ぬんならスッと言っちゃってくれよ。レベルに応じて余生の過ごし方を決めなきゃいけないんだからさ。1ヶ月なのか?1年なのか?え?まさか1週間ってこともあるのか?
『"M3"というのは、アンディ・フグさんや市川團十郎さんと同じタイプになります』
ほらみろ。死んだ人ばっかじゃないか。くっそー!なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!俺が何か悪いことでもしたか?そりゃ清廉潔白というわけではないだろうけど、俺よりもずっと悪いことをしてる奴がごまんといるだろうに。なんでそいつらじゃなくて俺なんだよ。ったく!!つーか、早く余命を発表してくれ!!(すみません。この時点では團十郎さんも死んだ人だと思ってたんです)
『10年くらい前に特効薬が開発されたおかげで、"M3"の生存率は80%以上なんです』
え?なに?死亡率じゃなくて生存率が?80%もあるの?マジで?
『6ヶ月入院してもらうことになりますが、頑張って治していきましょう!!』
おいおい、随分明るく言ってるけど、ホントかよ!?半年入院すれば治っちゃうわけ?白血病なのに?信じていいんだな?そっか。ならやってみるかな。。。

この後、治療スケジュールについて概略の説明がありました。寛解導入療法、地固め療法、維持療法の3シーズンに分けて行われ、それぞれ最初の寛解導入では例の特効薬を内服、地固めでは抗がん剤を点滴、維持療法では最初と同じ薬か新薬を内服、とのこと。ヘロヘロしながらもその程度は理解し、コンセント(合意)のサインをしました。

テントで就寝

ここまでくるとさすがにヘロヘロです。熱は相変わらず40度ですから無理もありません。

看護婦さんが例の特効薬"ベサノイド"を運んできました。赤褐色と黄土色で塗り分けられたソフトカプセル風の薬です。このとき『こいつが世界を変えたんだなぁ』なんて実感が湧くわけもなく、ただ黙々と3粒たいらげました。



『ベサノイド』

さらに看護婦さんがベッドになにやら機械を取り付けています。アイソレータという空気清浄機のお化けだそうです。これで感染症から身を守るんだそうです。へぇなるほどね。ところでその感染症って何ですか???ん?っていうか、これじゃビニールハウスですよ。未熟児じゃないんだから、こんなとこ入れないで下さいよ。これビニールが透明だからいいですけどねぇ、青かったら上野公園でよく見かける建造物ですよ。

まぁともかくだ、何とか命はつながったみたいだし、明日まではココで面倒見てくれるらしいので、今日のところはおとなしくこのテントで寝るとするか。んじゃ最後にトイレへ行ってと。あれ?真っ直ぐ歩けませんよ。僕ったらどうしちゃったんですか?ちょっと、かぁ〜んごふさぁ〜ん!おしっこでたいよぉ〜!!って、何これ?尿瓶ですか?これにしろと?どうやって?それは自分で工夫しろ?まぁ〜じぃ〜かぁ〜よぉ〜〜〜っ!!

悲痛な叫びと共に入院初日は終わっていくのでありました。めでたし、めでたし!?

大病院へ行く

何が何だか分からんが、とりあえず紹介された病院へ行ってみることに。入院なんてことになると何かと物入りなんだろうが、とにかく急がないと午前中の診療に間に合わない。なんせ今日は土曜日。とりあえず着の身着のままでタクシーへ乗った。

運転手に行き先と受付時間のことを告げ尻を叩くが一向に動じない。自分ならこの時間もう一本奥の道を行くのに。もどかしさと体調の悪さでヘロヘロ。

ギリギリセーフでなんとか目的の病院へたどり着き、外来受付窓口へ。暫くすると名前が呼ばれ診察待合室へ行くように言われる。フラフラになって歩いていると看護婦さんが車いすを用意してくれた。しかも運転手付き。素晴らしい、こりゃ楽チンだ!!

喜んでいたのも束の間、問診、レントゲン、採血などを次々に済ませると、でっかい診察室の奥にあるベッドへ通されそこで待つよう指示された。しかし待てど暮らせど医者はおろか看護婦すら現れない。隣では兄ちゃんが点滴を打ってもらってるし。一体どこなのここは?トイレへでも行きたくなったらどうすりゃいいわけ?などと不安に駆られること約1時間、ようやくドクターが登場。さて診察の結果は?

『血液の病気であることは間違いなさそうなんですが、ココではすぐに詳しい検査が出来ないので大学病院へ行って下さい。今救急車を呼びましたので』

今何て言いました?大学病院?救急車って何のことです?一体僕はどうなっちゃってるわけ???

運命の診察

親知らずは抜いたし扁桃腺の腫れも引いたというのに40度の熱は未だに下がらない。抗生物質を昨夜で切らしてしまったので今朝は病院へ行かなくては。通常の3倍の鎮痛剤を野菜ジュースで飲み干し外出着に着替える。ダメだ、真っ直ぐ立ってられない。母から掛けられた『大丈夫なの?一緒に着いてってやろうか?』の言葉に塩らしく頷いた。病院までは歩いてたったの1、2分の距離だというのに。

待合室は冷凍庫さながらの寒さに感じる。ダウンジャケットのボタンは厳重に閉めているのにほとんど効果がない。目を閉じ、ひたすら自分の名前が呼ばれるのを待ち続ける。抗生剤さえ手に入れば帰れる。何度もそう唱えながら。。。

『亮臣さん、2番へお入り下さい』
無機質なアナウンスに促され診察室の扉を開けると、カルテに何やら記入しながらうつむいたままの先生が僕に尋ねた。
『どうしたぁ?』
『ええ、扁桃腺の痛みは消えたんですが熱が下がらなくて。。。』
僕がそう言い終えるのが早いか先生は顔を上げるや否や僕の喉ではなく目を大きく開き、強い口調でこう言った。
『すぐ血液検査しよう』

とはいうものの、小さな町医者に血液検査の設備は置いていない。全て専門業者へ委託している。僕が看護婦さんに採血されている間、先生は大至急でどのくらい時間が掛かるかをその業者に訊ねていた。そして受話器を置くと
『○○病院へ行きなさい。今なら午前中の受付に間に合うから』
今しがた採血を終えたばかりの僕にそう告げると、矢継ぎ早に紹介状を書き始めた。

ここで一緒に来ていた母も診察室に入れられ、僕が血液の病気にかかっている疑いが濃厚なこと、すぐに大きな病院で精密な検査と入院が必要なことが説明された。

おいおい、ちょっと待ってくれよ。血液の病気だって?俺は扁桃腺を診て貰いに来たんだぜ。それがどうして入院になっちゃうわけ?