大学生・大学院生の研究室での生き残り戦略

大学院修了まで、残り一ヶ月足らず。何も分からずに『研究室』という組織に飛び込んで3年が経とうとしているが、さすがに3年も研究室にいると、研究室内の力学なり、教授との距離の取り方なりが自然と分かってくる。
加えて俺は東工大→東大大学院と進学して二つの研究室に所属し、その二つの研究室が対照的な環境(のちに詳しく述べる)であったため、比較対象ができた。
この辺で、ある意味「社会の縮図」でもある研究室で、どう振る舞えば生き残れるか、を自戒もこめて、まとめてみようと思う。

以下こんてんつ。

0:前提、研究室の構成
1:研究室を敢えて分類してみる
2:それぞれの研究室の特徴
3:さて、どうすればどう生き残るか

0:前提、研究室の構成

まず前提として、研究室の構成について。

トップに一人、教授もしくは准教授がいる。会社で言えば社長みたいなもので、この教授・准教授が全ての権限を握っていると言っても過言ではない。新しい実験装置を買ったり(金額にもよるが)、学会に行きたい、論文出したい、などといった時には、最終的には教授の許可がいる。

そして通常は、トップの教授・准教授の下に、助手がぶらさがっていて、企業で言えば中間管理職のようなもの。

助手は大学生・大学院生を指導したり、たまには自分で実験もする。

基本的に教授は自分では実験せず、助手や学生が出したデータを、自分の研究室の情報として、さも自分が研究したかのように発表する。まあ、前提はこのくらいでよかろう。

1:研究室を敢えて分類してみる

研究室を分類する切り口は色々あるが、ここでは横軸に【指導方針】、縦軸に【教授の影響度】のマトリックスで考えてみる。

スパルタ型 放置型
教授独裁型
助手分権型

【指導方針】は研究室全体での学生の扱い方で、スパルタ型と、放置型に分類できる。

  • スパルタ型とはまさしく言葉通り。学生が研究テーマを与えられ、ほとんどレールが敷かれている。次はこの実験、次はこの実験、という風に。話を聞く限りだと、助手に半年先の実験予定までびっちり決められた、という同期もいた。
  • 放置型も言葉通り、放置が続く。研究テーマが与えられた後自ら実験をして、自ら教授・助手に議論しにいったり問題提起をしない限り研究は進展しない。待てど待てど、教授・助手の方からはなかなか方針が与えられない。俺の同期で、研究テーマを自分で考えなと半年ほど放置され、半年後に教授に相談してやっと研究テーマが決まった、という人も。

【教授の影響度】は、トップの教授自身が研究室内でどれだけ直接学生の面倒を見るか、もっと言えば、トップの教授が各々の学生の研究にどれだけ介入してくるか、を指標としている。

  • 教授独裁型は、トップの教授が各々の学生の研究に介入してくる、教授が学生の研究テーマを直接決める、ディスカッションしたりする、
  • 助手分権型は、教授よりも、教授の下にいる助手にある程度権限が委任されており、助手がメインで学生の指導や研究テーマの決定、方向性を決める。

さてここまで分類したところで、上の表の1〜4の研究室の特徴を、もう少し細かく見て行こう。

2:それぞれの研究室の特徴

  • 1:スパルタ型×教授独裁型

研究室のトップの教授が学生の研究テーマに介入し、実験などの路線を敷いてしまう。学生と議論もするし、中には博士課程の学生の奨学金申請に必要な研究計画を、こう書くと通りやすいぞ、と指導する教授も。
当然学生が多くなればなるほど教授の労力は増え、一人当たりに掛ける時間は少なくなる。そのため研究室の規模が大きくなる(学生が10人を超えるあたり)と、このモデルは自然と崩壊する。
助手はマネジメント面ではあまり機能せず、自分の研究テーマに集中していることが多い。

  • 2:放置型×教授独裁型

一般にこのタイプの研究室はあまり少ないと思う。独裁型の教授は往々にしてスパルタ型になりがちな気がする。
ただ、1の【スパルタ型×教授独裁型】の研究室で、当然ながら教授に気に入られる学生と、気に入られない学生が出てくる。そして気に入られない学生は必然的に構って貰えなくなり、自らの研究室を2の【放置型×教授独裁型】と感じることは多々ある。

  • 3:スパルタ型×助手分権型

教授の下の助手が中心となって学生を指導し、助手が学生の研究を付きっ切りでみるようなイメージ。大体研究室内に複数名の助手がいて、この学生はこの助手のグループ、というふうに分かれている。1の研究室より監視の目が厳しくなり、自由度は下がる。AM9:00からPM9:00までは必ず研究室にいなさい、なぜならば研究室にいることに意味があるのだ、とここかのコンビニか、と思うほどの訳の分からないルールもあったりする。

  • 4:放置型×助手分権型

教授の下に助手がいるが、その助手が学生を放置している研究室。自由度は高いが、研究がカオスになる可能性が極めて高い。そのおかげで教授に「お前の研究はサイエンスじゃない」と言われる事態も起きる。助手の言ってる事と教授が言っている事がかみ合わないことも多い。

ちなみに、大学の研究室は1の【スパルタ型×教授独裁型】、大学院の研究室は4の【放置型×助手分権型】であったので、完全に対照であった。

3:さて、どうすればどう生き残るか

であるが、研究テーマがどうとか、頭振り絞って考えろ、とか言う前に、教授独裁型の研究室は教授にかわいいやつだなと思わせる、助手分権型の研究室では、助手に可愛いやつだな、と思わせることが一番重要であると思う。
学生にとって研究室とは「成果主義」ではない。同じような実験をして、同じような結果を出しても、学生によっては教授に「ふむ、まあ悪くないな」と言われることもあれば「なにこれ、研究になっとらん」と全否定されることもある。
教授に可愛いやつだなと思わせれば思わせるほど、前者になる傾向があるのは俺の気のせいじゃないだろう。社交性がなく研究室という環境に篭りがちな大学院生は、否定されればそりゃ研究が欝になる、研究室に来るのがいやになるだろう。しかも通常は教授からは無関心で、研究を発表する時になったらやたら否定され、その後も無関心だとなおさらに。
そして研究というやつも、その分野を1,2年かじったくらいの学生が方向性を決めてしまえるほど、生易しいものではない。(まれにそれをやってのける天才がいるが。)放置型の研究室でも、結局は教授や助手のアドバイスなり導きがないと、カオスになることはほぼ間違いない。

スパルタ型研究室では教授・助手に気に入られればいざという時融通が利く。放置型研究室は気に入られないと研究に関する議論が適当になり、研究がカオスになることはほぼ確定。そのくせ、研究を報告すると全否定しにかかってくる。

  • え、じゃあ気に入られる方法?
    • 飲み会の席ですかさず先生方にお酒を注ぎ話しかけましょう。
    • 先生方に話しかけられたら大げさにリアクションしてあげましょう。
    • ゼミのときに先生の隣に座って、先生に話しかけてみましょう。

この三つでいいのです。そうすればあなたの研究室生活はだいぶ、楽になるはずですw

結局研究室という組織でも、研究ができるやつ、ばりばり実験してるやつ、というよりも、教授にうまい距離を取って気に入られたやつが生き残りやすい。まあ当たり前か。サイエンスの最前線である研究室という場でも、所詮は人間なので実態はこうなのですよ。
いじょ。