アンタレスを遠く離れて

http://d.hatena.ne.jp/summercontrail/20041129#ks
いつも読ませて頂いている夏のひこうき雲さんを読んで連想した事を書いてみる。連想なので、以下に書いていることは左近さんの誠実かつ真摯な議論とはあまり……と言うか、ほとんど関係がない。


俺の血液型はAB、生まれは11月3日なので蠍座である。AB型の蠍座、と言うのは血液型と正座の組み合わせとして最も印象が悪いものの一つに挙げられると思う。AB型は二重人格で秘密主義者でむらっ気が強く怠惰で常軌を逸した発言をバラ撒くタチの悪いトリックスターであり、蠍座は好色で悋気持ちで激情家で執念深い、と一般に言われがちだからである。こうやって列挙していくと相当なレベルの人格攻撃だと言う事が改めて解る(何せ、いわゆる七つの大罪の内の四つまでが含まれている)。
左近さんはこの種の血液型診断・星座占いの問題点として、

いちばん問題なのは、(1)不当な基準≒論理的に破綻している判断基準に基づいて、(2)「生まれつきの」、自分ではどうにもならない属性を材料として判断し、(3)相手の「人格」について断定的な評価を下すことだと思っています。

と言っておられる。全く同感で、こう言った誤った価値判断の基準が統計的な事実を装ったり、受け手の良心に訴えかける(「本当は自分は占いの通りの性格で、自分でそれを認めたくないんじゃないか?」)事が、占いによる心理的なダメージを被る事に繋がってしまうのだと思う。


ところで、上に挙げた蠍座の「特徴」を読んだ皆さんの中には「確かに蠍座の人にはそういう印象がある」と頷かれる方が少なくないと思うが、それは本当に星座占いで聞き知った、星座占いをベースにした認識だろうか? 俺はそうは思わない。蠍座には他の11ないし12星座とは異なる特殊事情があり、これはある意味で星座占いでの決め付け以上に悪質であると言える。その特殊事情とは以下のこれである。

いいえ私は さそり座の女
お気の済むまで 笑うがいいわ
あなたはあそびの つもりでも 
地獄のはてまで ついてゆく
思い込んだら いのち いのち
いのちがけよ
いいえ私は さそり座の女
さそりの星は 一途な星よ

最も良く知られる一番のみ引用したが、二番三番にも同様或いはそれ以上の断定が見られるので興味のある方はこちらを参照されたい。この国民的歌謡曲について、左近さんが挙げられている(1)(2)(3)の観点から検証・批判する。
まず(1)。論理的に破綻している判断基準に基いているかどうかと言えば、当然にこれは是である。むしろここでは論理的に破綻した自己に対する決め付けこそが詞中の女性の強みとなっている。これはどう考えても論理的な姿勢でないし、不当な決め付けである。
次に(2)。「生まれつきの」、自分ではどうにもならない属性を材料として判断しているか、と言うのは火を見るより明らかであろう。人は自分では生まれる日を選べない。男性が女性の心情を歌うというこの歌の形式により、さそり座に生まれたものは男女問わず自動的にこの詞の被害に遭うのだ。
最後に(3)。相手の「人格」について断定的な評価を下しているかどうか。ここが、この詞の最も狡猾な部分である。人格攻撃の意図を巧妙に隠しつつ、なおかつこの歌を聴いたもの皆に「蠍座の人間は皆こうである」と言う「印象」を強く与える。
(1)を批判する際にも挙げた「さそりの星は 一途な星よ」が曲者である。このフレーズは、一見するとあくまで詞中の女性が自分について述べているに過ぎないように思えるが、ここには周到なトリックが仕掛けられている。この歌詞は、「私にはアンタレスの加護があるから、決してあなたを逃しはしない」と言う意味合いを暗に含んでいる。そして、星の加護ならばこの女性のみならず蠍座の人間皆に与えられるものだと言う妥当な推測を経て、この「自分のことしか言っていない視野狭窄な歌詞」が、「さそり座の人間一般の人格を一方的かつ断定的に述べる歌詞」へとドラスティックに変貌を遂げるのである。おもーおいー、こんーだらー、しれん、しれんしれんのみーちーをー。
(1)(2)(3)のいずれをもこの詞は十分に満たす。ゆえに、この詞の内容は不当かつ非人道的である。ひどいよ姉さん。にも拘らず、この歌は例年のように大晦日に公共放送で流れており、「蠍座生まれはこういう人間だ」と言う「客観的事実とほぼ変らないほどの強固な印象」が日本国民に刷り込まれる。
歌の力は強大である。無謬性を装ったり科学的根拠を持ち出す必要すら無く、誤った印象を捏造出来るのだ。蠍座の人間は、血液型による断定以上に、この歌によって今まで謂れ無き誤解と偏見に晒されてきたのである。
血液型や星座に対する断定に対して否定的な見解を持つ方は、同様にこの歌に対しての批判を是非行って欲しい。
http://www3.nhk.or.jp/kouhaku/
そして、彼が出てきたらチャンネルを変えて欲しい。曙が負けるところとかに。
俺は彼が出て来る頃までには酩酊して寝てます。



追記。
何と言うか、こういうのをちゃんとしたネタに仕上げるのって難しいなあ……俺が好きなのはマトモな事を喋っているようでどんどん焦点がズレて行く反社会学とか土屋賢二みたいなネタなんだけど、冗長なだけで全然そうなってない。精進が足りていない。面白い事が言える人になりたい。