『土地』
メールをチェックすると、いつも通り何通ものジャンクメールが入っている。
『素敵な出会い』、『リバウンドなしのダイエット』、『まったく新しい金融商品』。
代わりばえしない文言が並ぶ。一瞥してすべて削除しようとしたとき一つだけ目をひくメールを見つけた。
『月の土地を買いませんか?』
なかなか興味をそそる文面だ。削除するのはやめて、見てみることにした。
『夜空に輝く月のオーナーになりませんか?今ならお手ごろなお値段で月の土地を分譲いたしております。そのようなことが本当に可能なのかお疑いかもしれません。しかし、可能なのです。現在、地球外不動産に関しては、二つの協定が存在します。 1967年の 宇宙条約と1984年の月協定です。しかしこれらの協定は、特に「所有権」について言及してはおりません。月協定にいたってはほとんどの国が批准すらしていません。そこで私どもは弁護士と協議し、月の土地を売買することが可能であると判断ました。ぜひこの機会にお買い求めください。』
調べてみると、本当に個人の天体所有に関しては規制がないようだ。高い値段ではないし、話の種に買ってみるか。いや、待てよ。月の売買が可能ならば・・・
それからの俺の行動は早かった。急いでアカウントを取得し、ホームページを開設した。
『land-of-Sun.com』
そう、太陽の土地を売ることにしたのだ。月よりもはるかに広大な土地。しかも無尽蔵のエネルギーを提供してくれる。ひょっとしたら、地球に降り注ぐエネルギーの所有権を主張して莫大な利益を手に入れられるかもしれない。
『あなたも太陽を所有してみませんか?無尽蔵のエネルギーがあなたのもの。』
ホームページのヘッドラインにはこんな文字が躍った。
太陽の所有権を主張するのは俺ぐらいしかいない。分譲するまではすべて俺の土地だ。当面売り切れることはないだろう。一体いくら儲かるだろうか。いまから楽しみだ。
次の日、メールが届いた。
『太陽の土地について』
さっそく購入申し込みか?
にやけつつメールを開けるとこう書かれていた。
『あなたの土地から産出した光線によって皮膚がんになったものです。つきましては損害賠償を請求したく・・・』
軽いめまいがした。