オペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ/道化師』メトロポリタン歌劇場、2015年

今シーズンのMETライブビューイングは、今作が最後となります。
今シーズンのラインナップは、やはりMETというか、新しい作品を手掛けたり新演出を行うなど、チャレンジングな姿勢が目立ちました。
しかし、その分興味をそそられはしても出かけていくところまではいかず、今作が今シーズン初めての鑑賞となりました。

東劇の客席も6〜8割くらい埋まっていて、やはり馴染みのある演目と言いますか、安心してみることのできる演目なのでしょう。
プロダクションはデイヴィッド・マクヴィカーによる新演出ではありましたが。


■プログラム

さて、『カヴァレリア・ルスティカーナ』ですが、これはこの作品のヴェリズモらしい雰囲気と言いますか、ドロドロした男女の関係を前面に出した演出でした。演出はとてもこの作品に沿ったドラマティックなものとなっていました。不自然さはなく回り舞台を活用した効果的なものとなっていました。サントゥッツァ役のヴェストブルックはとても力量のある歌手で、演技も迫真のものでした。トゥリッドゥ役のアルヴァレス、アルフィオ役のギャグニッザも非常に良かったと思います。母役の歌手もとても良かったです。

続いて『道化師』ですが、これは初見でした。独唱部分は非常に良いです。しかし全体としての作品の完成度ということでは、『カヴァレリア』には及ばないと思いました。

歌舞伎『第二十三回歌舞伎観賞教室』京都四條南座


国立劇場ではずいぶん以前に参加したことのある「歌舞伎鑑賞教室」ですが、京都でも行われているんですね。
京都南座というと芸妓さん、舞妓さんがずらりと桟敷席に並ぶ、華やかな「顔見世」のイメージがあるのですが、それ以外にも年間2〜3回程度の歌舞伎公演が行われているようです。
この鑑賞教室はチケットも大変お安く(3,000円)、この機会だからこそ南座を訪れたいという人も多かったのではないでしょうか。

南座の印象
まず、劇場の印象ですが、総座席数1,078席ということですから、東銀座の歌舞伎座の1,808席と比べ半分くらいのこじんまりとした劇場です。しかし、設えとしては格子状の天井が見事で、館内にはお食事処、休憩コーナーや売店などひととおりそろっており、それぞれが歌舞伎座とは違う雰囲気を持っています。内部は、なんというのか少し迷路めいたところがあります。階段の装飾などは銀座の教文館に似たところがあるなと思いました。座席やじゅうたんなどはさすがに老朽化が目につきました。これは新装なった歌舞伎座と比べてはいけないかも知れませんけれども。

■歌舞伎鑑賞教室について
さて、幕が開き歌舞伎鑑賞教室が始まります。
会場は京都らしく?着物を着た女性も多く、一方では中高生などの姿も見られ、ほぼ満席だったのではないかと思います。


■プログラム

  • 解説 南座と歌舞伎
  • 色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)かさね

まず「解説 南座と歌舞伎」ですが、落語家の桂九雀さんによる面白く分かりやすい説明で、太鼓の音による情景の演出やセリの仕掛けなどについて説明がありました。最初にこの催しに参加している学校生徒の出席をとっていたのはご愛嬌でした。また、一般の人にも歌舞伎を楽しんでほしいという趣向だと思いますが、会場のお客さんで希望する女性が歌舞伎の衣装を身に付けるコーナーがあり、司会者の九雀さんに選ばれたウクライナの留学生の立候補女性が着替えののち黒い着物を着て登場し、喝采を浴びていました。

九雀さんの説明の後は、休憩をはさんで、舞踊狂言の『色彩間苅豆(かさね)』が上演されました。「間」という字にを「ちょっと」とふりがなを振るのが面白いですね。それとも「ちょっと」に「間」という漢字をあてたのか、それはわかりませんが・・・。
夏はもう少し先ですが、この演目は背筋の寒くなるような怪談話です。悪事が発覚し逃亡中の与右衛門は中村松江、そして恋人の腰元かさねは上方歌舞伎上村吉弥が務めました。吉弥さんはこの歌舞伎鑑賞教室の第1回から連続で出演しており、ご自身もホームページ上で「南座の歌舞伎鑑賞教室は私のすべて。この公演がなかったら、今の自分はなかったと思います。私にとっても勉強の場です」と語っておられました。私にとっても「美吉屋(みよしや)!」(「よっしゃ」と聴こえる)という掛け声も初めて聴くもので、清元の印象的な舞踊狂言でした。

全部で二時間程度(11:00〜12:45)の短い内容でしたが、初めて訪れた南座の独特の雰囲気をたっぷりと味わうことができました。

映画『鏡』監督:アンドレイ・タルコフスキー、1975年

タルコフスキー自身の生い立ちをとりわけ母とのかかわりを中心に描いた作品。

鏡 DVD HDマスター

鏡 DVD HDマスター

■感想(個人的評価:★★−−−)
理解を超えた映画でした・・・これはあまりにも難解ですし、お勧めできるものではありません。
惑星ソラリス』(1972)の哲学性について心酔した自分もこの作品は分かりません。しかしまぎれもなくタルコフスキー作品なのです。戦争、独裁、文学、幼児しか持ちえない感覚、そういったものがないまぜになり過去と現在とを行き来しながら描いています。

映画『ワーグナー−偉大なる生涯−』監督:ヴィットリオ・ストラーロ、1983年

『ニーベルンクの指輪』をはじめ数々の大オペラを作曲したワーグナーの、国家に翻弄された生涯を綴った大叙事詩

■感想(個人的評価:★★−−−)
第一部を観ました。一つひとつのエピソードでワーグナーの作品と関連付けられている部分があり、なるほどと思わせるものがありました。
ワーグナー作品に関心のある人にはお勧めできると思います。ただし全体で7時間49分というのはいかにも長いですね・・・4日に渡って上演される『ニーベルンクの指輪』を意図したものなのでしょうか。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015《PASSIONS(パシオン):「恋と祈りといのち」の音楽》三日目、東京国際フォーラムホールA〈デカルト〉

昨日、一昨日に引き続き、今日も会場に行ってきました。
恒例の屋台村は本当に人手が多いです。タンドーリチキンの香ばしい匂いが鼻をくすぐります。
オシャレに(フランス風に?)簡易なテーブルで帝国ホテルが出店する屋台のランチを楽しんでいるカップルも見かけます。
テーブルの上にワインやシャンパンの瓶をずらりと並べて談義に耽っているグループも見かけました。
さすがに三日目ともなるとどっしりとして、定住しつつあるかのような光景です。

この一帯は別として、丸の内から有楽町のエリアは、以前の「オフィスだけ」の空間から洗練されたショップが立ち並び、賑わいのある町並みに変わりました。銀座もうかうかしていられないといったところではないでしょうか。

さて、今日は、「LFJ2015の大団円を飾るパシオンの饗宴」(プログラムナンバー316)を聴きに行きました。
会場は最も広いホールA〈デカルト〉、夜も遅い時間(21:00〜22:00)だったのですが、5008席がほぼ満席に近い状態でした。

今日の演奏は、オペラアリアとコンチェルトで、昨夜に引き続きオーケストラはポーランドシンフォニア・ヴァルソヴィア、指揮はアメリカのロベルト・トレヴィーノさんでした。


■プログラム

寸評ですが、
オペラアリアは、これは一日目と全く同じ曲でした。
プログラムからでは分からなかったので選んでしまい、失敗したと思ったのですが、聴いてみると内容は明らかに一日目よりよかったと思います。
パビアンさん、リベラトーレさんともに、力強さを保ちつつも落ち着いてしっかりと歌声を聴かせていました。「ワーッ」となってしまうというか、声を張り上げすぎてしまうところが少なかったと思います。

そして楽しみにしていたグリーグです。ソロ奏者はユリアンナ・アヴデーエワさん(29歳)で、前回(2010年)のショパンコンクールで優勝した方です。
ステージに向かってぴょこたんぴょこたんと歩いてくる姿が特徴的です。しかし、演奏に入るとこれは見事なグリーグを聴かせてくれました。個人的には、ちょっと元気があり過ぎてあの独特な暗さと仄明るさをもつ北欧的な曲調が少し南寄りにシフトしたかのような感覚を持ちましたが、テクニックにほぼ乱れがなく乱れがあったとしてもあまりそんなことは気にしない強さのある演奏だったと思います。第一楽章が終わって拍手さえ起こりました(たんにこの曲を知らなかったのかしら?)。コンチェルトの後、アンコールでショパンのワルツ第5番を演奏しましたが、この演奏を聴いてさらにその力量に感心しました。

次いでマルケスの曲は、この音楽祭の本当の締めになります。初めて聞きましたが、ラテンの雰囲気たっぷりの力強い曲で、指揮者のトレヴィーノさんも渾身のタクトでした。

曲が終わっても拍手が鳴りやまず、《椿姫》など実に3曲のアンコールが行われ、終了は22時30分でした。今年も非常な盛り上がりを見せたこの企画だったと思います。

なお、話題は変わりますが今回オフィシャルガイドの構成がとってもわかりやすくできており、これは来年にも引き継いでほしいと思いました。一日に各所で行われる催しが一覧でわかるところがとても良かったと思います。印象的なまなざしの表紙の写真もよかったですね。

<追>
ブログを書きながら、ルプーの演奏によるグリーグのピアノ協奏曲を改めて聴いていますが、この曲は本当にすばらしいですね。グリーグが北欧らしいのか、北欧と言えばグリーグのメロディーを思い浮かべてしまうのか。この曲のほか《ペール・ギュント》の「ソルヴェイグの子守歌」なども本当に好きです。若かりしシセルで聴きたい曲です。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015《PASSIONS(パシオン):「恋と祈りといのち」の音楽》二日目、東京国際フォーラムホールA〈デカルト〉

昨日に引き続き、今日も会場に行ってきました。
行く予定はなかったのですが、そこはどこ行くあてのないGW難民の集まるところでもあるのかもしれません。

プログラムを見ると、無料で参加できる関連イベントに「丸の内フェスティバルシンガーズ&市川交響楽団有志」による『アイーダ』がありました。どんな公演なのかなと興味本位で行ってみると、ここは座席の後ろに立ち見が何重にも囲み、二階の通路にも人がぐるりと囲むほどでした。
公演は、「清きアイーダ」、「勝ちて帰れ」、「凱旋の場」などハイライト場面をつなぐものでテノール、ソプラノのソロや数十人の合唱、そしてバレエなどで構成されていました。

さて、今日は、「恋する作曲家たち〜ショパンの燃え盛る初恋〜」(プログラムナンバー215)を聴きに行きました。
会場は最も広いホールA〈デカルト〉、5008席がほぼ満席に近い状態でした。

今日の演奏は、オペラ序曲とコンチェルトで、昨夜に引き続きオーケストラはポーランドシンフォニア・ヴァルソヴィア、指揮はアメリカのロベルト・トレヴィーノさんでした。


■プログラム

寸評ですが、
今日は、少し舞台から離れた席だったせいか、昨夜ほどの細かい音色が聞き取れなかったような気がします。全体的に平板に聴こえたところが残念でした。
その分会場全体を見渡せて安心感のある席配置でした。
ショパンは、ソロ奏者の小林愛美さんが20歳と非常に若いんですね。協奏曲の訓練をどのくらい積んでいるのかは知りませんでしたが、見事にこの曲を弾き上げていました。
若々しい躍動感があり、歌わせるところはきちんと歌わせて、というスタイルができています。
ただ、会場のせいなのか、弱音部分が伝わってこない、オーケストラに飲まれてしまうように感じるところが多々ありました。そこは、昨日のクレール・デゼールさんの音色の方が勝っているように感じられました。ミスタッチの後に少し遠慮がちな音になってしまっているようにも思われました。しかし今後の成長株だと思います。ショパン・コンクールにも出場されるのでしょうか、応援したいですね。

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015《PASSIONS(パシオン):「恋と祈りといのち」の音楽》一日目、東京国際フォーラムホールA〈デカルト〉

今回のGWは非常に天気がよく空気も乾いて爽やかな日から始まりました。

少し早めに着きましたので、丸ビルのマルキューブの会場を確認して、有楽町方面に向かって歩いて行きました。
会場に着くと例年の屋台村などで大変な混みようです。

線路側のガラスに囲まれた棟ではOTTAVAの公開放送が行われていて、イベントを主催するルネ・マルタンさんのインタビューが行われていました。
その後、希望者と記念撮影にも応じていたようです。

さて、今日は、そのルネ・マルタンさんがプレゼンターを務める「ルネ・マルタンのル・ク・ド・クール(ハート直撃コンサート)」(プログラムナンバー114)を聴きに行きました。
会場は最も広いホールA〈デカルト〉、5008席がほぼ満席に近い状態でした。

今日の演奏は、コンチェルトとオペラ作品で、オーケストラはポーランドシンフォニア・ヴァルソヴィア、指揮はアメリカのロベルト・トレヴィーノさんでした。


■プログラム

寸評ですが、
ショーソンの作品は、ヴァイオリンコンチェルトでした。耳になじみのない音楽でしたが、ソロ奏者のイレーヌ・ドゥヴァルさんの演奏は見事でした。
ショパンは、ソロ奏者のクレール・デゼールさんの滑らかなタッチが印象に残りました。もう一度聴きたいと思わせる表現力でした。ただし、この作品自体は単体ではよいのですが、やはり1番と比べてのスケール感のなさというのか、反復に近い印象をどうしても持たざるを得ないところがあります。
「私のお父さん」「私の名はミミ」のソプラノ、アマンダ・バビアンさん、アメリカ人で博士号を持ちながらメトでも「夜の女王」で歌っている実績があるようです。よかったと思います。
「人知れぬ涙」のテノール、アレッサンドロ。リベラトーレさん、イタリア人でイタリアの主要歌劇場で歌っているようです。若さもあってパワーが並はずれています。繊細な部分はこれからといったところでしょうか。アマンダさんとの息の合った「乾杯の歌」はアンコールでも歌っていましたが、声を傷めないようにと思うばかりの熱唱でした。