Book Review!


作者:A.E.W. メースン


レビュー: サハラに舞う羽根 (創元推理文庫) (文庫)

あとがきによると、本書は行動よりも心理に重点が置かれた話だという。その点に嘘偽りはない。だが読んでみて、こりゃないよと思った。戦争に行くのを拒否して、臆病者の烙印を押された主人公ハリーが、1人戦地に赴いて友人たちを救う…このあらすじで、心理に重点と聞けば、主人公が友人たちを救うため、あるいは自らの名誉回復のため、その他理由は何であれ、危地に身を投じる決意をするまでの心理が克明に描かれる、と想像しても、決して的外れではないだろう。だが意外にも、この種の心理描写は全くなく、ハリーはあっさりと冒険に赴く。そして物語の主体は、ハリーのもと婚約者エスネと、エスネに求愛する友人のデュランスに切り替わる。誰とも結婚する気になれないが、デュランスをはねつけるのも忍び??!
?いエスネの心理が、これでもかこれでもかと描かれる。ハリーはどうしたの、といいかげん我慢の限界に来ていたところ、エスネのもとにハリーの冒険の知らせが届けられる。なに、ハリーの冒険は、こんな間接的な形でしか描かれないの? 主人公は彼じゃなかったの? この後、この知らせに心を乱されたエスネの心理が、再びこれでもかこれでもかと描かれるだろう事は、読まなくても容易に想像がつく。こう思うと完全にイヤになって、本を壁に投げつけてしまった。多少ネタばらしになっても、このような特殊な展開をする話だと、あとがき等でそれとなく警告してほしかった。そうしたら、少なくとも読者が本を投げ捨てる事態は避けられただろう。


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