Book Review!


作者:杉田 望

レビュー: 総理殉職 (ハードカバー)

 大蔵省高等官六等大平正芳内モンゴル近くの張家口にあった。齢二十九歳。鈍重な風貌でどこか才気に欠け、見た目には年寄りじみていた。昭和十四年(一九三九)年六月末。
 この書き出しから、次の締めくくりまで、伝記小説的作品480ページは一気に読ませる迫真力がある。
 雨はやみかけていた。献花の列は二時間にわたり続いていた。無名の人々に、大平の遺影が微笑みかけていた。(完)
 主要参考文献数十冊を駆使してノンフィクション首相伝記という様相もあるが、話し言葉の会話を織り込んで小説の書き方に従っていることは確かである。
 しかし、無口は生来の性格だ。語ることよりも思考することが好きで、演説するよりも文章を好み、自らを主張するよりも、相手の話に耳を傾ける??!
?とを楽しむ、日本では珍しいタイプの政治家だ。(183ページ)
 急速な変化を、大平は嫌った。世論に媚びることも嫌った。大平はポピュリズムが国を危うくする歴史の経験を知っている。大事にする政治手法は、合意形成の手順だ。大平は真性の保守主義者だ。それが周囲には歯がゆく映る。(366ページ)
 田中六助は手を握った。大平は握り返した。六助の目から涙があふれた。「心配するな、大丈夫だから・」と繰り返した。大平は目をつぶった。
 現職総理の死は日本中をかけめぐった。


更に詳細を見る