「弁護士も弾圧、戦前の教訓は 治安維持法、過酷取り調べ・資格剝奪」(朝日新聞)

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 以下は、2017年4月18日16時30分版の朝日新聞・「(問う「共謀罪」)弁護士も弾圧、戦前の教訓は 治安維持法、過酷取り調べ・資格剝奪」から。

 「新たな言論弾圧の道具になりはしないか――」。政府が「共謀罪」の趣旨を盛り込み、国会での審議が始まった組織的犯罪処罰法改正案に、愛知県岡崎市の弁護士天野茂樹さん(71)は警鐘を鳴らす。弁護士だった父は戦前・戦中に言論弾圧に使われた治安維持法の被害者。歴史の教訓から法案に不信の目を向ける。


 父の名は天野末治(1901〜76)。小作料減免を求める農民を弁護し、弱者の側に立つ弁護士だった。

 同法違反容疑で逮捕されたのは33年。共産党員が大量検挙された「3・15事件」(28年)などで被告の弁護人を務めた「日本労農弁護士団」の約25人が一斉検挙されたときの一人だ。「焼けた火箸を突きつけられて『言う通りに話せ』と脅されたよ」。当時を茂樹さんにそう語ったという。

 「国体」(天皇を中心とした国のあり方)の変革や私有財産制度の否定を目的とする結社を禁じた治安維持法。「3・15事件」を機にした改正で「目的遂行罪」が導入された。

 目的遂行罪は、ある行為が結社の目的遂行のためになっていると当局が見なせば、本人の意図に関わらず罪に問える。森正・名古屋市立大名誉教授(憲法)は「弁護士団事件では、法廷での弁護活動までも『共産党の目的遂行のためにする行為』とされた」と話す。

 末治さんは執行猶予付きの判決を受け、弁護士資格を剥奪(はくだつ)された。39年に復帰したが、41年の法改正で、治安維持法事件の担当弁護人は国が指定した弁護士からしか選べなくなった。

 今回の法案は処罰対象をテロ集団に限っていない。政府は「一般市民は対象にならない」と説明しているが、法務省は「正当に活動する団体が犯罪を行う団体に一変したと認められる場合、対象になる」との見解も示している。

 荻野富士夫・小樽商科大特任教授(日本近現代史)は「組織的犯罪集団の認定は、いずれも警察側が判断し、拡大解釈の危険性が残る。恣意(しい)的な運用ができた『目的遂行罪』を武器に、特高警察が治安維持法の適用を際限なく広げていった過去を想起すべきだ」と指摘する。

 茂樹さんも思う。「『テロ対策』を口実とした法律が、政府に批判的な市民団体などに適用されていかないか、心配だ」

 「あんな暗い時代を二度と繰り返してはいけない」と語った父。その言葉の重みをかみ締めている。(黄チョル)