「言論弾圧「横浜事件」を舞台化 逮捕者の長男が脚本」

f:id:amamu:20051228113104j:plain

 以下、朝日新聞デジタル版(2017年10月29日11時35分)から。

 戦時下最大の思想・言論弾圧とされる「横浜事件」を劇団「青年劇場」(東京都新宿区)が舞台化し、11月に上演する。神奈川県警特別高等課(特高)に逮捕された当時の中央公論編集長、故藤田親昌(ちかまさ)さんの長男で劇作家のふじたあさやさん(83)が書き下ろし、演出も担う。「『共謀罪』法が施行された今だからこそ、言論弾圧の恐ろしさを知ってほしい」と話す。

 1942〜45年、中央公論改造社朝日新聞社などの言論・出版関係者ら約90人(氏名不詳者を含む)が「共産主義を宣伝した」などとして治安維持法違反容疑で特高に逮捕された。総合誌中央公論」「改造」は廃刊に追い込まれ、拷問による取り調べで4人が獄死、約30人が有罪判決を受けた。のちの再審で免訴判決が確定。横浜地裁は2010年、刑事補償を認める決定をして実質的な「無罪」判断を示した。

 親昌さんは44年に逮捕され、拷問を受けた。少年時代、ふじたさんは特高警官が家に踏み込み、本棚の本をたたき落とすのを見ていた。親昌さんは1年にわたって勾留され、なぐられて歯が全部取れてしまい、体はむくみ、あざだらけになって帰ってきた。

 作品名は「『事件』という名の事件」。親昌さんや関係者に聞いた話、資料を基にふじたさんが書いた。富山の旅館で編集者たちが撮った記念写真が端緒で、この写真が「共産党再建準備会議」に参加した証拠だとでっちあげられ、相次いで逮捕された。特高の拷問の様子や、無理やり共産主義活動をしたと自白させられたり、手記を書かされたりする過程も上演する。拷問の場面は音響や人形を使うなど、表現を工夫する。

 劇中では、竹刀の先で太ももをたたかれて拷問を受けた男性が、傷口にできたカサブタを保存、拷問の証拠にする場面がある。その男性の役などを演じる葛西和雄さん(63)は「自分が受けている仕打ちの理不尽さや、潔白を絶対に証明しようという決意に打たれます」と話す。

 ふじたさんは「父は『人が信じられなくなった』とよく言っていました。事件や当時の人たちの置かれた状況を知り、『共謀罪』法のこともよく考えるきっかけにしてほしい。父の思いを果たそうと、遺書のつもりで書きました」と言う。

 公演は11月2〜12日、新宿区の青年劇場スタジオ結(YUI)である。(山根由起子)