天野 翔のうた日記

2018-02-21 岬のうた

伊良湖岬(webから)

辞書によると、岬・崎(みさき、さき)は、丘・山などの先端部が平地・海・湖などへ突き出した地形を示す名称。「さき」は「先」の意味で、「みさき」と読む場合の「み」は接頭語。

  遠き岬(さき)近き岬岬(さきざき)とうちけぶり六月の海のみどりなる照り

                    窪田章一郎

  眺めつつ来ても岬はまだ遠し海も空もただ光にけぶる

                     植松寿樹

  かの遠き岬の端にゐる雲の心となりて何を呼ぶべき

                     安田章生

  岬(さか)をあらふ寒(さむ)潮(しほ)のおとわが胸を洗ふがごとくによもすがら鳴る

                     木俣 修

  波暗くうごき雲うごくあひだにて雪の岬はしづかに白し

                     長澤一作

  ともに来しをとめたちよりやや離れ春の岬に立ちて放屁

                     安立純生

  鬩ぎ合ふ海と陸との伊良湖岬心の鷹の飛び立ちやまず

                    駒田善治郎

岬の全体が見渡せる場所に立つ時、どのようなところに注目するか。初めて訪れた場合、故郷とする場合 それぞれで感懐は違うであろう。岬の名前が分ると共感しやすいのだが。

駒田善治郎は、歌枕を意識したのだ。この伊良湖岬は、秋に数千羽のタカ類が渡る中継地点として有名。周知のように、この地を詠った作品に

  うつせみの命を惜しみ浪にぬれ伊良湖の島の玉藻刈り食す    麻績王(おみのおおきみ)

  浪もなしいらこが崎にこぎ出てわれからつけるわかめかれあま   西行

     鷹ひとつ見つけてうれし伊良湖岬     芭蕉

などがあり、歌碑、句碑として岬の先端周辺に立っている。さらに島崎藤村「椰子の実」の詩碑もある。

[参考]本ブログ2016年10月31日「わが歌枕ー伊良湖岬」には、西行の別の歌や他の歌人の歌もあげておいた。

2018-02-20 ウミネコ

海猫

海猫はカモメ科の鳥。日本近海の沿岸や島に生息する。五か所には集団で繁殖しており、天然記念物になっている。黄色い嘴の先端に赤と黒の模様があるところで、他のカモメと区別される。猫のような鳴き声で啼くところから名前がついた。魚に群れるので魚群発見に役立つとされる。海猫と書いて「ごめ」ともいう。


  海猫はいまも啼きたつ心(うら)細る雪の夜ふけのわれに迫りて

                      木俣 修

  照らされし赤き濁流の上にして群れつつぞゐる海猫のこゑ

                      岡部文夫

  雛いだきしづまりてゐる海猫のこゑなき哀れ近く見てたつ

                     佐藤佐太郎

  海猫は雛はぐくみて粥のごと半消化せる魚を吐き出す

                     佐藤佐太郎

  海猫の風にたゆたふ一瞬の光崩れて声啼きにけり

                      千代国一

  海猫のとどまる巌(いはほ)くろきうへ舞へるいく羽は光となりぬ

                      千代国一

  ぼんやりと海に日の差し人を見ず八戸鮫町は海猫のこゑ

                      恩田英明

  くらぐらと雪風(し)巻くときうみねこの白(しろ)点となり消ゆるわたなか

                      原田律子

  つばさも胸もごめは曇りの色なるにひるがへるときどこかが光る

                      大塚陽子

  繁殖の地としてうみねこ群れ棲めり愛しき鳴き音こもごも曳ける

                      今村充夫

  蕪島の夏空ひくく飛ぶ海猫(ごめ)のひるがへりざまかすかに足掻(あが)く

                     勝倉美智子


 以上の作品では、鳴き声、飛翔の瞬間、子育て、群の姿 などに注目して詠まれている。

ところどころに主観語が入っているが、おおかた客観写生である。

[注]掲載の画像は、NHK BSテレビ「美景・絶景 日本列島再発見」から借用した。

2018-02-19 丹頂鶴(2/2)

釧路湿原の丹頂鶴

  丹頂の飛び立つときに湿原の空から花片のやうな雪降る

                      山名康郎

  紅梅にみぞれ雪降りてゐたりしが苑(その)のなか丹頂の鶴にも降れる

                     前川佐美雄

  一羽また舞ひくだり来て湿原に丹頂鶴は花のごと立つ

                      武田弘之

  冬空に首ながく延べかが鳴けるつがひの丹頂吐く息白し

                      鎌田和子

  ぽつつんと頭ひかりて去りゆけり丹頂に子ひとりわれに子ひとり

                      坂井修一

  とどまれる丹頂の羽うす汚れオホーツク高気圧圏の夏

                      足立敏彦

  丹頂の清き交尾を目守(まも)りつつ人間(ひと)なるものの羞恥のぼり来

                    蒔田さくら


前川佐美雄の歌: 紅白の色彩対応が、梅と霙、雪と丹頂 という対比で示されている。

鎌田和子の歌: 「かが鳴ける」は、「日々鳴ける」という意味。

足立敏彦は、夏になってもとどまっている丹頂を薄汚れたとみている。丹頂鶴は白雪に

囲まれてこそ美しい、との認識があるようだ。

2018-02-18 丹頂鶴(1/2)

釧路湿原の丹頂鶴

現在、北海道釧路地方の天然記念物として保護されている。鹿児島県出水市に他の鶴にまぎれて数羽くることがある。三月から九月にかけてつがいが湿原テリトリーをかまえて繁殖する。

  松蔭に丹頂の鶴二羽ならび一羽静かにあなたに歩む

                    窪田空穂

  吹き過ぐる風は光れり丹頂の鶴翼張りひろげ声啼きにけり

                    川田 順

  うちつれて雪に啄ばむ丹頂の自在にくねるその長き頸

                   大悟法利雄

  遠き木に陽光けむれる雪の原丹頂の鶴寂莫とたつ

                   久方寿満子

  湿原の神(カムイ)と呼びし丹頂の白き一点こゑ高くあぐ

                    千代国一

  雪の上にあひ群れて啼く丹頂のほのかに白きこゑの息あはれ

                   上田三四二

  丹頂の一躯(く)を支え一本の鋼(はがね)の脚は冬ふかく差す

                    石本隆一

  海わたる丹頂の頭(づ)にみちびきの地磁気影さす花のごとけむ

                    小池 光

丹頂鶴のどこに関心を持つか。つがいの行動、鳴き声と息、雪に立つ長い脚、地磁気に沿っての渡り などであり、それぞれが上の作品に詠まれている。中で最も詩的な発想をしたのが、小池光であった。結句の表現である。地球を取り巻いている磁力線を鳥たちはどの部位で感受しているのか。南北がわかる磁石の働きをしている場所は頭部にあるだろう。鳥には花の咲く道のように映っているに違いない、と小池は想像したのである。


[注]掲載の画像は、NHK BSテレビ「美景・絶景 日本列島再発見」から借用した。

2018-02-17 山河生動 (13/13)

『飯田龍太全句集』角川学芸出版

 最後に、露の句が大変に目立つことを言っておかねばならない。季語としての露を入れ

た句は、全3347句のうち69句、2・1%になる。

その背景について、廣瀬直人や杉橋陽一は、「龍太にとって露は、叙情などというよりも、

もっとその生き方とでも言っていい精神の歩みを託してきた季語の一つではなかろうか。」

「露は、龍太の住む村に特有の秋の空気といってもいいのだ。」などと分析している。

 三人の兄たちを戦争や病で失い、自身肋骨カリエスで勉学を断念、郷里に帰って家業を

継いだが、本意ではなかった。子供をもうけても次女を小児麻痺で亡くした龍太にとって

は、一茶の句

  露の世は露の世ながらさりながら     一茶

と同様な思いがあったのではないか。郷里境川村での自らの境涯を「露」をモチーフとし

て表現したのである。

  露の川ときに嘆きの音もあらむ      『山の影』