天野 翔のうた日記

2017-05-26 現代俳句の笑いー川崎展宏

川崎展宏(全句集『春』から)

 川崎展宏は古典的な俳諧発句)の技法を現代俳句に展開した。自身の人生の終末期も「笑い」の俳句で表現した。失笑、苦笑、泣き笑いが多いようだが。全句集の中の『冬』以後 から例をあげよう。


     枯芭蕉厚いおむつをあてようか

     表裏洗はれ私の初湯です

     セーノヨイショ春のシーツの上にかな

     而(シカウ)シテ見るだけなのだ桜餅

     両の手を初日に翳しおしまひか

     薺打つ初めと終りの有難う


 最後の二句は、「俳句」平成二十二年一月号向けに書かれた「白椿」八句にあるもので、死の十三日前に編集部へ送られた。「薺打つ」の辞世句は、芭蕉の句「よもに打(うつ)薺(なづな)もしどろもどろ哉(かな)」を踏んでいると解釈したい。芭蕉は、正月七日未明、七草粥のために七草を俎板の上で叩く音と囃し声がしはじめ、四方(よも)にその数を増して調子が入り乱れた、という目出たい情景を詠んだのだが、展宏はこれを転じて、生死の境にあってしどろもどろながら人々の新年の健康を祈念すると共に、自分の一生涯にこの世でお世話になった人々への感謝の挨拶とした。川崎展宏究極の俳諧精神の表れであった。


[注]本文は、「古志」2014年2月号に発表した評論「スミレと薺」の終りの章から抜粋したものです。

2017-05-25 現代俳句の笑いー現代風素材

シーラカンス(webから)

 川崎展宏の俳句の特徴として、素材に外国の名詞が多いことがあげられる。季語との取合せが見どころになる。現代俳句と呼べる所以でもある。


     シグナルのがらがら降りる峡の秋

     ゴルファーらヘアピンのごと枯芝に

     臘梅をポケットに入れバスが揺れ

     クレヨンの沈んでをりし芹の水

     振つてみるアフガンの鈴鳥曇

     須臾(しゆゆ)にして逆光のジャンク黒揚羽

     老鶯の鳴き交はす中アンジェラス

     風(アネモス)の花アネモネを提げて来る

     フルートになりし男の端居せる

     探梅のナップザックに電子辞書

     パドックの砂塵たちまち春塵に

     星飛んでモノレールといふ弥次郎兵衛

     水仙にショート・カットがよく似合ふ

     白魚のシーラカンスの如き胴


他に、自転車、電話線、洋梨、郵便車、避雷針、時計、緬甸(ビルマ)、背高泡立草、成人の日、西洋皿、鉛筆立、万年筆、洗濯屋、南蛮煙管、喞筒(ポンプ)、飛行機雲、信号、航空燈、全円、英文学者、地球儀火車、北緯六東経九十二、潜航艇、思想、金管楽器炊飯器弦楽四重奏、皇龍寺(ファンヨンサ)、韓(ハンミンゾ)民族、掃除機、天狼星(てんらう)、万国旗、左右相称(シンメトリー) など日本語化された素材がある。

  参考: 現代風素材は、全2308句中149句の6.5%になる。

2017-05-24 現代俳句の笑いー比喩

柊書房刊

 比喩の種類には、次のようなものがある。高野公彦『うたの回廊』(柊書房)から要約。

直喩(明喩とも): 一つの事物を、「やうに」「やうな」

    「如く」「如し」「に似る」などの語を介して、

    他の事物になぞらへる方法。

暗喩(隠喩とも): 一つの事物を直接他の事物になぞらへる方法。

換喩: 一つの事物を表現するのに、その事物の特徴的な部分を

    言うことで全体を表現する方法。

提喩: 個(特殊なもの、個別的なもの)によって類(総称的なもの、

    全体的なもの)を表したり、反対に、類によって個をあらはす方法。

諷喩: 全く別の表現によって本義を類推させる方法。

音喩: 事物の様態を直接描写せずに、抽象的な音であらはす方法。

    オノマトペ

序詞: 下の句に対して比喩として有効に働く。


 以下に川崎展宏の例句をあげる。

     夕映えや残雪斧のかたちして       (直喩)

     身をよぢる如くに束ねられ紫苑      (直喩)

     冬晴れの微塵となりし母の愚痴      (暗喩)

     春水にあばたの鐘を撞き鳴らす      (暗喩)

     春濤に箏を差し出したる岬        (暗喩)

     襟巻や毛皮ぞろぞろ念仏寺        (換喩&音喩)

     露地露地を出る足三月十日朝       (換喩)

     月見草轍の水のしんと冷え        (音喩)

     饐えやすき猫の御飯におろおろす     (音喩)


 換喩は江戸俳句でもよく用いられた。省略と誇張の表現ともいえ、笑いをもたらす。

     川越て赤き足ゆく枯柳        鬼貫

     おちぶれて関寺うたふ頭巾かな    几董

     春雨やものがたりゆく蓑と傘     蕪村


なお比喩の分類・種類には諸説あり、擬人法も比喩の一種と考えられる。与謝蕪村は、比喩を多様に用いた。

[参考]佐藤信夫レトリック感覚』、『レトリック認識』

              (いずれも講談社学術文庫)、

    堀切 実『表現としての俳諧』(岩波現代文庫

2017-05-23 現代俳句の笑いー折句

かきつばた

 折句とは、和歌俳句で,各句の上に物名などを一文字ずつおいたもの。

有名な例では、

  ら衣つつなれにしましあればるばるきぬる

  びをしぞ思ふ            在原業平


には「かきつばた」が折込まれている。次の和歌には「をみなへし(女郎花)」が折り込まれている。

  小倉山峰立ちならし鳴く鹿の経にけむ秋を知る人ぞなき

                  紀貫之古今集


五七五各句に折込む三字折,七七の2句に折込む二字折など多くの種類がある。俳句の場合を二例、次にあげる。なお芭蕉の場合は、彼が意識して作ったわけでなく偶然であった。

     古池や蛙飛び込む水の音      芭蕉 「ふかみ=深み」

     夕立や田をみめぐりの神ならば   其角 「ゆたか=豊か」


 次の川崎展宏の俳句には、周防(すはう)が折込まれている。

     涼しさは晴間見えたる有為の山   

     (すずしさははれまみえたるういの山)

2017-05-22 現代俳句の笑いー掛詞・枕詞

こぶしの花(街路樹)

 掛詞は室町時代俳諧連歌以降、特に江戸時代の貞門俳諧において盛んに使用された。以下に数例をあげる。

     

     手をにぎるこぶしの花のさかりかな

            『竹馬狂吟集』(室町時代の俳諧集)

     見事やと誰も五体をゆりの花      松永貞�噐

     印地して人をあやめの節供哉      古仙慶友

     みじか夜はひとまろねしてあかし哉   畑 永治


これらは掛詞・同音異語による駄洒落で、読んですぐにわかるが俗っぽい笑いになる。対して川崎展宏は、和歌の雅を継承する枕詞をよく用いた。以下の太字部分。


     桃の咲くそらみつ大和に入りにけり 

     鶏が鳴く吾妻に欅もみぢあり 

     ともしび明石の宿で更衣  

     玉くしげ箱根のあげし夏の月 

     むらぎもの心くだけし牡丹かな 

     畳薦(たたみこも)平群(へぐり)の丈夫(ますらお)より賀状