天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

副詞―個性の発現(6/11)

宵月夜(webから)

俳人がよく用いた副詞
俳人毎に最もよく用いた副詞がある。各人五句以上に使った例を全てあげよう。


芭蕉の場合: 「まだ」「まづ」「猶」の三種。
「まだ」九句
  見る影やまだ片なりも宵月夜
  京まではまだ半空(なかぞら)や雪の雲
  春たちてまだ九日(ここのか)の野山かな
  木曾の痩(やせ)もまだなをらぬに後の月
  曙はまだむらさきにほととぎす
  初茸やまだ日数へぬ秋の露
  ちさはまだ青ばながらになすび汁
  蕎麦はまだ花でもてなす山路かな
  前髪もまだ若艸の匂ひかな
「先/まづ」九句
  先しるや宜竹(ぎちく)が竹に花の雪
  ばせを植てまづにくむ荻の二ば哉
  やまざくら瓦ふくもの先(まづ)ふたつ
  物の名を先(まづ)とふ蘆のわか葉哉
  鹿の角先(まづ)一節(ひとふし)のわかれかな
  城あとや古井の清水先(まづ)問(とは)む
  桟(かけはし)や先(まづ)おもひいづ馬(こま)むかへ
  西か東か先(まづ)早苗にも風の音
  先(まづ)たのむ椎の木も有(あり)夏木立
「猶/なほ」六句 (相変わらず、さらに、よりいっそう などの意味)
  かなしまむや墨子芹焼を見ても猶
  梅の木に猶(なほ)やどり木や梅の花
  猶(なほ)見たし花に明行(あけゆく)神の顔
  ひよろひよろと猶(なほ)露けしや女郎花
  秌(あき)の風伊勢の墓原猶(なほ)すごし
  鶏頭や雁の来る時なほあかし


蕪村の場合: 「とかく」「又」の二種。
「兎角/とかく」五句 (あれやこれや、ともかくも などの意味)
  兎角(とかく)して踊となしぬ若イ者
  とかくして一把(いちわ)に折(おり)ぬ女郎花
  八朔もとかく過行(すぎゆく)おどり哉
  此森もとかく過(すぎ)けり百舌おとし
  とかくして散る日になりぬ冬のうめ
「又」五句
  苗代や浮世の塵の中に又
  きのふ暮けふ又くれてゆく春や
  烏(からす)稀(まれ)に水又遠しせみの声
  初雪や消(きゆ)ればぞ又草の露
  いざや寝ん元日は又翌(あす)の事