アストロサイトはベースレベルのシナプス伝達を制御する

こんにちは。3です。
今回紹介する論文は以下。


Astrocytes are endogenous regulators of basal synaptic transmission at central synapses

Audo Panatier et al. Cell 146. 785-798. 2011


近年、アストロサイトがニューロンの持続的で激しい活動を感知し、シナプス伝達を制御するということが報告されています。しかし、ニューロンは激しいネットワーク活動を伴わなくとも、一発の発火のみで情報を伝達することが可能です。本論文は、アストロサイトがこのような単回のイベントを検出し、シナプス伝達効率を上昇させるということを報告したものです。以下、まとめ


以下では、海馬急性スライスのCA1錐体細胞およびstratum radiatumに存在するアストロサイト (パッチクランプ法により同定) より記録を行っている。
まず筆者らは、アストロサイトのprocessに、小さな広がりを持った特徴的な構造 (compartmentと呼ぶ) が存在し、そこで局所的なCa²⁺活動が自発的に起こることをCa²⁺イメージング (Fluo-4) により確認している (Figure 1) 。シャッファー側枝にminimal stimulation (単一のプレシナプス線維を活性化するような刺激、注目しているアストロサイト近傍のCA1錐体細胞からのホールセル記録により確認) を加えると、アストロサイトのprocessにおいて急速かつ局所的なCa²⁺活動が観測された (Figure 2) 。Ca²⁺活動はTTX (1 μM) によりブロックされた。また、Ca²⁺活動にはfailureがあった。共焦点顕微鏡を用いたreconstructionにより、アストロサイトのcompartmentがスパインのごく近傍にあることが、またグルタミン酸アンケージングによりcompartmentにおいて局所的なCa²⁺活動が生じることが確認された (Figure 3) 。
次に、アストロサイトのCa²⁺活動がベースの (=単回の活動電位によって起こる) シナプス伝達に影響するか否か検証している。minimal stimulation (0.05 Hz) に対するCA1錐体細胞の応答のfailure rateは、アストロサイトへのBAPTAのロードによって上昇した (Figure 4) 。一方、failureを除いた応答の強度に有意な差はなかった。mGluR5阻害薬 (MPEP、25 μM) のbath applyによりこの現象は再現され、アストロサイトのCa²⁺活動は確かに阻害された (Figure 5) 。また、アストロサイトにBAPTAをロードした後にMPEPを処置しても、failure rateに対する影響はなかった。ニューロンへのBAPTAのロードはMPEPの作用に影響しなかった (failure rateは上昇した) 。さらに、A2A受容体阻害薬 (SCH 58261、100 nM) のbath applyによってもfailure rateは上昇し、この作用はMPEPの作用とocclusionを起こした (Figure 6) 。failure rateの上昇は、プリンの放出を抑制するテタヌス毒素軽鎖をアストロサイトにロードした際にも観測された。最後に、抗体染色により、mGluR5がシナプトタグミン (プレシナプスマーカー) と共局在せず、S100β (アストロサイトマーカー) と共局在する事、またA2A受容体がS100βと共局在せず、シナプトタグミンと共局在することが確認されている (Figure 7) 。

以上より、アストロサイトが単回の活動電位によるシナプスの活動を感知し、mGluR5、A2A受容体シグナルを介してシナプス伝達効率を正に制御することが示唆された。


上の話を簡単に解釈すると、
プレが発火→グルタミン酸が放出される→mGluR5に作用→アストロサイトでCa²⁺活動(→アストロサイトからATP放出)→A2A受容体に作用→failure rateの低下 (伝達物質放出確率の増大)
ということになります。
この流れを見てまず疑問に思うのが、なぜアストロサイトを介するか、ということです。単にこれだけを実行するなら、プレシナプスに自己受容体を発現させるだけで良い気がします。そこでひとつ思いつくのは、アストロサイトがよりグローバルな制御を行っている可能性です。自己受容体を介したシグナリングでは話が単一シナプス内で完結しますが、アストロサイトは複数のシナプスを支配しています。となると、 (実際存在するかは知りませんが) アストロサイトのgliotransmitterの放出確率が一様に増大することで、複数のシナプスが一斉にupregulationを受けることになります。こうなってくるとアストロサイトによるシナプスの支配のパターン性も気になり始め、ひとつの発見で色々な話がつながるんだなあ、と思った論文でした。