2010-11-15 11月15日〜20日 ブルゴーニュ訪問
訪問したのはBeaujolais Nouveau解禁を控えた11月の第3週。吐く息は白く、空気はとても乾いていた。雪こそ、まだ降ってはいないが、肌を刺すような強く冷たい風は、じっとしていると身体の芯まで、あっという間に冷え切ってしまうほどだ。東京では感じることの出来ない澄み切った新鮮な空気を、身体いっぱいに吸い込むと、浄化されるような気持ちになるから不思議だ。
今にも泣き出しそうな、どんよりと重くのしかかる灰色の雲が、ブルゴーニュ全体を覆っていて、オフシーズンの、しんと静まり返ったこの小さな町は、どこか荘厳な雰囲気に包まれていた。葡萄畑では既にどこも葉が落ち、厳しい冬への支度を始めていた。
今回はグレートヴィンテージと前評判の高い2009年産を試飲してまわった。
Domaine Christophe Bryczek
出迎えてくれたのは三代目当主としての風格も出てきたクリストフ・ブリチェック氏。身体は決して大きくはないが、年々がっしりと貫禄が出てきた。彼の祖父でドメーヌの創始者であるジョルジュ・ブリチェック氏は未だ健在で今年で98歳になる。心身ともに今も充実しているそうで、毎日ワインを1本空ける生活を続けている。
いつもはクリストフが一人で対応してくれるが、この日は三十前の研修生の男性がテイスティングのサポートをしてくれた。彼の醸造家になるという夢を、彼の母親は彼がアル中になってしまうのではないかと、とても心配しているそうだ。母の思いは国を超えても似たようなものだと感じながら、このところの作柄から話を聞いた。
2010年は腐敗果があった為、選別を厳しくせざるを得なかった。2009年に比べ、約30%収量が減ったと話す。ただ健全な葡萄の粒は小ぶりで凝縮した果汁を備えており、良い年だと語っている。彼のドメーヌでは花が咲いた後、風通しをよくする為、他のドメーヌよりも多くの葉を落としたそうだ。これにより腐敗果は予想以上に少なかった。凝縮感に溢れ、タンニンはなめらか、熟度がたっぷりとあるエレガントなワインとなったようだ。2010年はバランスの取れたワインになるだろうと予測している。果汁は果実味が強く、長い余韻を持っている。長熟型の将来がとても楽しみな年だろうとの事だ。彼のイメージでは1985年や1979年に似ているのではないかと語っているが、あくまで現時点での予想だ。
2009年をボトル、または樽から試飲した。
1.Bourgogne Grands Ordinaire Blanc 2009 (瓶)
2009年は9月12日に収穫された。最近瓶詰めしたばかりのキュヴェ。モレ・サン・ドニ村の真ん中にある畑で、ドメーヌから200mに位置し、家々の間にある畑から造られる。年産は1200本足らず。酸がしっかりとあり、熟度はそれほど高くないが厚みとミネラル感は十分にあり、とても飲みやすい。アメリカン・オークを使用しているため、ヴァニラなどの甘い香りが印象的だ。度数は12.5%あり、シャプタリザシオンはしていない。
2.Chambolle Musigny 2009 (樽)
収穫したのは9月12日。2009年は2100本〜2400本程度が生産予定。2010年は2000本以下まで減るそうだ。1年樽と2年樽を使用する。シャンボールの繊細なニュアンスは新樽を使うと消えてしまうからだ。香りは今のところ少し還元香があるが、スワリングのうちに消えてしまう程度。タンニンも柔らかく質感もキメ細やか。熟度と酸とのバランスもよく、飲み心地も優しい。芯の通ったしっかりとした構成がとても魅力的だ。
2009年は熟度が高い為、酒石酸と同じ成分の酸を醗酵中に若干加えたそうだ。これは2003,2005年のブルゴーニュで特に暑かった年にも同様に行われた。彼の好み以上にファットな果汁だった為に加えられた。
過剰に熟した果実はピノ・ノワールの洗練されたニュアンスを表現することは難しいという。甘く飲みやすいだけのワインは凡庸でフィネスを感じることはできないと考えているからだ。かといって収穫を早めると、果汁に必要な成分を得ることは出来ない。そんな時、彼はピノ・ノワールから抽出した酒石酸を加えるそうだ。これにより果実味、タンニンのバランスを的確に表現することが出来る。
3.Gevrey Chambertin 2009 (樽)
ラベルにはリューディ名である" AUX ECHEZEAUX "が記されている。これはジュヴレ・シャンベルタン村の一番南に位置する畑で、隣の畑はマゾワイエール・シャンベルタンという好立地。2009年はドメーヌではこのオー・エシェゾーという区画から20樽(6000本)程度生産された。6ヶ月間新樽に入れ、その後6ヶ月間1年樽、それから6ヶ月間2年樽で熟成させる。2010年は約20%ほど減り、4500本程度になったそうだ。
2009年12月は極端に各所で冷え込み、村の各地で夜間にマイナス20度になった箇所もあった。日中でもマイナス5度しかない日が3日続いた。ヴォーヌ・ロマネ村は、かなりの被害があったのではないかと彼は言う。ヴォーヌ・ロマネの下の方は水が溜まって広範囲に渡って土が凍ってしまい死んでしまった樹もあったようだが、彼の所有する畑もいくつかの樹は凍ってしまったそうだ。幸い完全に枯れてしまう事はなかった。凍ってしまうとその年には葡萄は全く実をつけなくなるそうだが、その翌年から半分程度は復活して実を付ける。そして数年で元に戻るらしい。自然の力とは何と素晴らしいことだろう。彼は自然のままにしておくことが樹にとって、一番いい事だと考えているが、中には肥料を加えてしまう生産者も中にはいるそうだ。
残念ながら、ヴォーヌ・ロマネ村の完全に枯れて死んでしまった樹々は当然植え替えが必要だ。ただし、樹を植えたとしても実がなるのは少なくとも4年はかかる。しかし若すぎると、やはり深みに欠けてしまう。いい葡萄が出来るには10年はかかるそうだ。当たり前だが、葡萄の樹は生産者にとって過去から受け継いだかけがえのない遺産なのだ。
4.Morey St. Denis 1er Cru Cuvée du Jean Paul2 2009 (樽)
しっかりとした濃縮感と質感のきめ細かさはやはり別格。現段階でも飲み心地はよく、継ぎ目のないシルキーでエレガントな1本。フィネスがあり、かなりの満足度を約束してくれるワインになっている。2009年は2700本のみ生産された。2010年は少し減って2400本程度になるだろうとの事。出荷が待ち遠しいワインだ。
5.Morey St. Denis 1er Cru Cuvee du Jean Paul2 2008 (瓶)
日本でも2010年10月にリリースしたばかりのワイン。2008年は2700本生産された。これは2009年と同じ生産量。葉をかなり落として風通しを良くしたおかげで、予想よりも腐敗果が少なく、良い葡萄が取れたそうだ。
女性的で柔らかく、2009年よりもさらに質感がきめ細かい。穏やかで包み込むような清らかな果実味が印象的だ。このキュヴェだけを比べるのなら2009年は果実の熟度の高さとそれを支える酸からパワフルかつエレガントな女性的ニュアンスを感じる。リッチでゴージャスな印象が強い。対して2008年はこの現代において、大和撫子のような奥ゆかしさを秘め、フィネスに溢れながらも芯のはっきりとした日本人が好む美を表現しているように感じる。
どちらも好みが別れる難しい選択ではあるけれども、素晴らしいワイン。
6.Morey St. Denis 1er Cru Cuvée du Jean Paul2 2002 (瓶)
未だ元気に畑仕事に勤しんで人生を楽しんでいる先代エドゥワールのワイン。今回、特別に開けてもらった。タンニンが溶け込んでとてもしなやか。程よい熟成感と豊かな複雑味。滋味深くフィネス溢れる味わいを持つ、彼が手がけた最後の作品となった。彼のワイン人生の集大成とも言うべきもので、素直にいいワインだと思える。うっとりするような果実味のしなやかさはこの畑の持つ個性を余すところなく的確に表現している。
いつか手がけてみたいアペラシオンは?との問いにクリストフはECHEZEAUXを是非やってみたいと即答してくれた。ECHEZEAUXは、普段から色々な生産者のワインを飲む機会に恵まれているそうだ。生産者によって品質のバラつきはあるが、畑のテロワールはかなり的確にとらえている様子。
Clos de Vougeotもいいが、広い為に立地の当たりはずれがあり、そこには同じ名前でも埋めようのない差があるからねと笑っていた。いつの日か彼のECHEZEAUXがリリースされる事を願うばかりだ。
このドメーヌでは毎年40人程度を動員して2日で全ての畑の収穫を終えるそうだ。彼の祖父のときは同じ面積を約2週間もかけて行っていた。ただこれは、熟度が上がるのを待っていたと言うより、ランチにワインを飲み過ぎたり、食事に時間をかける為にそれだけかかっていたとかだ。昔はどこもそんな感じで、とってもゆるい感じで収穫は行われていたんだそう。
ちなみに98歳の彼の祖父は今でも朝からワインを飲むそうで、彼にはワインは水と何ら変わらないもののようだ。孫のクリストフは収穫は最も大事な作業のひとつだと考えているので一切飲まないで臨むと言う。楽しみは全てが終わってから、と言う。
クリストフはワイン造りを例えるなら、一種の麻薬のようなものだと語る。一度、ハマるとやみつきになり、その快感が忘れられなくなるそうだ。もちろん麻薬は知らないけどねといたずらっぽく笑う。だから彼の父であるエドワールも未だ畑仕事に勤しんでいる。クリストフが幼い頃、ワイン造りは自分の天職だと父から聞いた事があるそうだが、自分もこの仕事に誇りを持っている。ワイン造りが好きで仕方がないのだ。そんな彼の造るワインはやはりその喜びと情熱に満ち溢れている。GevreyChambertinとChambolle Musignyに囲まれたMorey St.Denisは日本では少し地味な存在かもしれない。ただ、頑張っている良い生産者は沢山いるし、ブリチェックはその中でもトップ生産者の一人だ。
Domaine Robert Sirugue & Ses Enfants
出迎えてくれたのは女性醸造家マリー・フランス氏と彼の実弟で共にドメーヌの運営に携わっているジャン・ルイ・シルグ氏の二人。ジャン・ルイ・シルグ氏とはいつもタイミングが悪くて今回初対面。関取のように大柄な彼の愛車は1300ccのヤマハ XJRなのだと嬉しそうに話してくれた。兵役ではバスドライバーだったそうで、運転するのが好きな人懐っこいおじさんだ。彼の息子は醸造学校を卒業後に他のドメーヌで修行しているそうだ。別の生産者の下で学ぶのはとても大切なことなのだそうだ。
地下のセラーは元々整然として、きれいだったが、来るたびにさらに環境が良くなっているように感じる。セラーや醸造所がきれいなところはワインにはっきりと現れる。その逆も然りだ。造られる環境はそのままワインに現れるのだ。幸い今AMZが正規で取り扱っている生産者はどこも驚くほどきれいだ。クリーンである事は基本的なことだが、その最低限の管理が出来ていないドメーヌがあることも確かだ。ワインは正直なもので必ずそれはワインに反映されるのだ。
1.Bourgogne Aligote 2009 (瓶)
9月に瓶詰めされたフレッシュ感溢れる1本。熟度の高さから、リッチで柔らかく酸も穏やか。甘みもたっぷりとあり適度な酸とミネラル感はとても親しみ易い。牡蠣などの海の幸との相性は抜群なので年産1万本ながら、世界各国で人気のアイテムだとか。残念ながら、日本未入荷。
2.Bourgogne Aligote 2008 (瓶)
2009に比べ、酸がきりっと引き締まったアリゴテらしい味わい。フレッシュさとミネラル感が程よく、食事がすすむ味わい。
3.Bourgogne Pinot Noir 2009 (ステンレスタンク)
2009年は9/11に収穫をスタートした。白を収穫後赤は日本未入荷のLadoixから始め、Chambolle Musigny,Vosne Romanée,Bourgogne Rougeと順に収穫した。ACブルゴーニュの畑はClos de Vougeotの下のレ・コンブという区画を中心に4ヶ所に点在し、総面積は約2haほどある。12月に瓶詰め予定で、今回はステンレスタンクからのサンプルを試飲。通常、年産15,000本程度。3〜5年使用した樽で1年間樽熟させた後、ステンレスタンクでアッサンブラージュして、1ヶ月寝かせてから瓶詰めされる。通常は18ヶ月樽熟されるが、2009年は12ヶ月と短くした。果実の高い熟度を純粋に表現したかったからだ。
現時点でのアタックはややバランスを欠いた感じがあるが、単純にまだこなれていないだけで、スワリングすると開いてくる。濃縮感の高い果実味はとても柔らかくとても飲み心地がいい。このドメーヌが一皮剥け、抜きん出た存在になった記念すべき年である2007年にさらに厚みを加えたようなスタイルだ。
4.Chambolle Musigny Les Mombies 2009
これもステンレスタンクでアッサンブラージュ中のものをテイスティング。人気アイテムだが年産僅か1700本しか造られない為に、残念ながら供給が追いつかないアイテム。シャンボール村の持つ繊細で優雅な味わいを実にうまく表現している。とても柔らかく、純度の高い甘みをたっぷりと含んだ果実味としなやかなタンニンとフィネスは傑出したバランスの良さがある。瓶詰め後、すぐにでも飲めるほどこなれた味わいは、また新しいファンがまた増えることを予感させてくれる素晴らしい造り。
5.Vosne Romanée 2009 (樽)
Chambolleよりもさらに厚みが増して樽の香ばしいニュアンスがより深い味わいを表現している。オー・レア、オー・コミューン、レ・バロー、レ・シャルダン、ボジェの区画から産出される。樹齢は平均で45年。艶やかで熟度の高い果実味、適度な酸の度合い、清らかで純粋なミネラル感。Vosne Romaneeのテロワールを的確に理解した見事なワイン。
6.Vosne Romanée V.V 2009 (樽)
年産3000本。樹齢60年以上から造られる。前述のワインよりもさらに熟度の高さを感じる。さらに香ばしい樽香によって厚みと複雑味を表現している。しっとりと落ち着いたエレガントなミネラル感と、パワフルでとても力強い果実味の豊かさが、とてもバランスよく1本のボトルに封じ込められている印象。しかしまだまだ発展途上で、今後さらに化ける可能性が高い1本。
7-1.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
まだ樽熟中のもので、それぞれ違う樽を試飲。まずは1年使用した旧樽に入ったワイン。このワインは最終的に新樽比率は50%となる。新樽の強い個性がない分、より純粋な果実味を感じることが出来る。
7-2.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
レモン社製のトロンセ産の新樽。新樽特有の樽の乾いた印象のワインで、タンニンの力強さが際立ったワイン。全てのキュヴェにおいてノン・フィルターでコラージュもしない。それぞれ樽熟後、ステンレスタンクで1ヶ月寝かしてから瓶詰めされる。
7-3.Vosne Romanée 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
ルソー社製のトロンセ新樽からのワイン。8よりも濃さがあるように感じられる。粘性のある果実味とスタイリッシュな酸が特徴的だ。
7-4.Vosne Romanee 1er Cru Petit Mons 2009 (樽)
より華やかな香りが印象的なワイン。アーモンドをフライパンで炒ったような香ばしい樽由来のニュアンスがワインに奥行きを与えている。しなやかで官能的なスタイル。このキュヴェだけでも商品化すればものすごいインパクトを市場に与えてくれそうなワイン。聞けば、樽職人の中で名人とも言える人が手がけた樽なのだとか。樽には他との違いを一目で分かるようにゴールドメダルが刻印されている。通常の新樽は540€だが、これはそれよりも100€高く640€もするそうだ。
このいわゆる名人樽の使用は2009年からで全10樽の内、Vosne Romanée V.Vは6樽、Petit Monsには2樽が使われた。最終的には新旧それぞれ別の樽で熟成された同一キュヴェをアッサンブラージュさせる。そうすることで、単一樽以上の複雑味を表現することが出来るそうだ。どのヴィンテージにおいても前年よりもさらにおいしいものを造りたいという強い想いが感じられる。
8-1.Grands Echezeaux 2009 Cuvée 1(樽)
レモン社製のトロンセ新樽。Grands Echezeauxは2樽しか造っていない。1樽ずつを違う樽メーカーの樽で熟成させる。濃密でしなやかな果実味の清らかさが際立つ。
8-2.Grands Echezeaux 2009 Cuvée 2(樽)
ルソー社製のトロンセ新樽。レモン社製の樽よりもオークのインパクトが強い。果実味がしっかりとしているので樽負けしておらず、洗練されたフィニッシュはとても長く感じられる。この2つの樽がブレンドされてどのように出荷されるのかとても興味深いが、入荷は極僅かなのがとても残念。
2009年はとても分かり易い。熟度と糖度が高く、ぎっしりとつまった果実味の凝縮感がたっぷりと感じられる。タンニンの角がないので若いうちからスムースに飲み進めることができる。パワフルでリッチな葡萄はまさにグレートと呼ぶにふさわしい出来だが、ピノ・ノワールに必要不可欠な酸をどれだけ表現できているかが、どのドメーヌにおいても大きな鍵となる。厚ぼったくてフィネスのない甘いだけの大柄なピノ・ノワールはブルゴーニュの本来のスタイルではないのだ。このドメーヌはそのあたりも良くわかっている。分かっているというか脈々と受け継がれた生産者の本能と経験なのだろう。彼女は決して自身の手がけたワインを得意気に自慢したりしない。今年も一生懸命造ってみたけど、おいしいかしら?と、はにかみながらこちらの様子を見ているような姿と、試飲後のこちらのいい反応にほっとした表情がいつも印象的だ。チャーミングかつ大人のエレガントさも備えた彼女の人柄がワインに良く現れている。
9.Vosne Romanée 2008 (瓶)
日本では11月から出荷が始まった2008年。入荷前の予約で完売。このドメーヌでは通常Vosne RomanéeとVosne Romanée V.Vを別のキュヴェとしてリリースしているが、この年はV.Vをリリースしないで、2つをアッサンブラージュしてVosne Romanéeだけにした。ヴィンテージの個性、テロワール、葡萄の出来など様々な事を考慮し、複雑な味わいを表現するのにはこれが最善だと考えたからだ。確かにV.Vの葡萄が入っているだけあって、いつもの村名よりも洗練されたフィネスと奥深さがある。最近では2001年、2003年、2004年も同様にV.Vのリリースはなかった。果実の熟度は2009年ほどはないが、その分、緻密な構成とバランスの良さはこのドメーヌならではのもの。青さもなくタンニンも溶け込んでスムースな果実味とクリーンなミネラル感、ピュアさとフレッシュさが渾然一体となって口中に広がる。本当に厳しく真面目に果実を選別したんだろうなとその姿が容易にイメージできる。
2008年は長熟型のスタイルだとマリー・フランス氏は言う。2009年に比べれば簡単な年ではなかったけど、そういった年の方がこれまでの経験が活かされるので楽しみでもあるわと笑う。彼女は醸造学校に通いながら1976年からドメーヌで働き始めた。彼女が本格的に関わり、ファーストヴィンテージとなったのが1979年。
ブルゴーニュにおいては不作とされる年だった。最初から難しい年で、とても苦労したそうだが、逆にそれが彼女の醸造家人生の礎になったのかもしれない。それは全て自然の成せるもので、誰もそれには抗えないというもの。ヴィンテージの出来不出来にも決して動じることなく、知り尽くした畑から産する全ての葡萄に敬意を払い、常に最善の策を講じることこそが自分に課せられた使命なのだと彼女は感じている。決して造りこんだりせずにその年々の長所が輝くようにその手助けをしてあげる、まるで母親のようだ。ここ数年、年を重ねるごとに品質が飛躍的に向上しているのは彼女が常に新しい事にチャレンジし続けていることが大きく寄与している。「30年やってもまだまだわからない事だらけだわ。」と優しい口調で新樽を撫でながら喋る姿がとても心に残った。
Domaine Andre Bonhomme
出迎えてくれたのは当主のエリック・パルテ氏。彼の長男オレリアンは26歳となりドメーヌでは醸造の全てを任せられる程にまで逞しく成長したそうだ。その弟ジョアンは19歳で、彼は栽培に興味があるそう。今後は南アなどフランス以外の国でも学びたいと考えているそうだ。父エリック・パルテは大好きな畑仕事と息子の醸造を見守っているそうだ。残念ながら、オレリアンはこの日、ランスのフェアに参加していたので不在だった。ちなみにアンドレ・ボノームは78歳になったそうだ。
リノベーションしてできた新しい立派なテイスティングルームで試飲をした。
1.Viré Clessé V.V 2007
既に入荷済のワイン。酸のしまった感じとすっきりとした果実味、ミネラル感とのバランスがとてもいい状態にある。ドライな年だが、きっちりと造られている。実はエリック・パルテが最後に手がけた年となった。2008年から醸造は長男オレリアンが全てを担ったからだ。
2.Viré Clessé V.V 2008 (瓶)
長男オレリアンの記念すべきファースト・ヴィンテージ。2007年と比べると香りの要素が増して華やかな印象。繊細さとフルーツ味溢れる味わい。2008年からこれまで使っていたコルクよりもさらに長く質のいいものに変えたそうだ。エリック・パルテ氏は2009年より2008年の方がグレートな年だととらえているようだ。ミネラルと酸、果実味どれもが申し分のないレベルの葡萄がとれたからだ。
実は2007年からオレリアンは試験的にワインを造っていた。前回の訪問時に100%新樽の新しいキュヴェを実験的に造っていると聞いていたが、我が息子ながらそのワインの出来のよさと仕事ぶりにとても驚いたそうだ。
これで彼に全てを任せてもいいと考えたのだろう。
この新しいキュヴェは100%新樽で通常樽ではなく大樽で熟成させた。大きい分、過度に樽の要素がワインに影響を与えないので双方の良さがでるのだとオルレアンは考えているそうだ。またフレンチオークではなく、アメリカン・オークが使用されている。これにより、ヴァニラやココナツなどエレガントな甘いニュアンスがワインに奥行きと複雑味を与えてくれる。2007年は2200本で2011年12月頃リリースされるそうだ。
3.Viré Clessé V.V 2009 (瓶)
醗酵している段階で2003年のように酸度が下がったそうだ。通常の年よりも酸味が少なく、厚みのあるリッチな味わいになり、2009年は2008年に比べれば、長熟ではないだろうとの事。蜂蜜、ミネラル感に富んでおり、ゴージャスなムルソーのようなスタイル。
4.Viré Clessé Hors Classé 2007 (瓶)
今のところは若干の苦味が感じられるが、果実味の甘みとミネラル感がしっかりとあり、熟成させるとさらに新しい表情を見せるだろうと予感させてくれる味わい。エリック氏最後の作品らしく丁寧な仕事ぶりが伺える。
5.Viré Clessé Hors Classé 2008 (瓶)
2007年より柔らかで厚みがあり、繊細さがより際立っている印象。まだ熟成中ではあるが、現時点でかなり完成されてきている。リッチでとても洗練されていて、先代の味わいに戻ったかのようだ。今後さらに年の個性と代替わりによる個性の違いがはっきりと表れてくるのだろう。ヴィンテージ的にはエリック氏は2007年は酸がシャープで輪郭がくっきりとした年になったと言う。そして2008年の方が2009年よりも確実においしくなるはずだと言う。ラベルも前のデザインに戻すそうだ。
2008年の収穫開始は9月18日、2009年はそれより少し早い9月8日だった。ちなみに猛暑で知られた2003年は9月3日だった。2010年は逆に遅く10月2日でエリックは2006年のように酸が低くしなやかでミネラリーなワインになるだろうと語っている。
エリック・パルテ氏は最近他界したマルセル・ラピエール氏や数年前に亡くなったディディエ・ダグノー氏とも深く親交があったそうで、彼らから多くの事を学んだと言う。とても残念がっていた。コシュデュリやドーヴィサとも親交があるでドーヴィサのワインを今年は1ケース譲ってもらったそうだ。
エリックは娘婿だが、結婚する前は建築家だった。セラーのリノベーションなどその経験は今も活かされているようだ。ドメーヌの跡取り娘だった今の奥さんに頻繁にテイスティングに連れて行ってもらっているうちに、自身もワイン造りの道を歩みたいと強く願うようになったそうだ。結婚後、先代アンドレ・ボノームの指導の下、まさにゼロから全てを仕込まれた。それはとてもスリリングで楽しい経験だったという。実際には1984年からワイン造りを手伝っていたそうで、2001年から完全にエリックが手がけることになった。その彼が息子に2008年からワイン造りを任せることにした。伝統の技の継承はブルゴーニュという産地では何百年も前からこうしてなされてきたのだ。そう思うと特別な思いを抱かざるを得ない。
脱線ついでにもうひとつ。
ワイン業界の内幕をスキャンダラスに描いたドキュメンタリー映画『モンドヴィーノ』の中でモンダヴィが南仏でワイン生産をしようとしたが、地元生産者達の反対で裁判にまで発展したひとつの騒動があった。
その後、やむなくモンダヴィは撤退するのだが、故ロバート・モンダヴィが南仏でのワイン生産を依頼していたのが、先代アンドレ・ボノームだったのだ。彼のワインが大変なお気に入りだったようで、1980年代からオファーされていた。その手腕を醸造長として是非南仏で発揮して欲しいと何度もお忍びで自らがドメーヌまで交渉に来ていたが、アンドレ・ボノームは頑なに引き受けなかったそうだ。後の事の行く末も分かっていたのかもしれない。そして、いくら一生ドメーヌで生産し続けても得られない途方もない大金を積まれても自分が納得しない限り、決して引き受けたりしない職人気質がアンドレ・ボノームにはあったようだ。オレリアンはそんな祖父に似ているところがあるそうだ。
ただ、ビジネス以外では個人的にとても親しくしたようで、自身は参加しないとはいえ、モンダヴィが南仏から撤退が決まったときはとてもがっかりとし、ロバート・モンダヴィが亡くなった時はひどく落ち込んでいたそうだ。
エリックの二人の息子は共にワインの道を歩んでいこうとしている。後継者不足に悩む他の生産者にとってはとてもうらやましい話だ。祖父譲りの職人気質を持つオレリアンや弟ジョアンの今後のワイン造りに期待したい。
Remoissenet Pere & Fils
出迎えてくれたのは、ベルナール・ルポルト総支配人。身なりは小奇麗だが相変わらずのボサボサ頭。寝癖が彼のトレードマーク。以前にそれを見かねた部下から櫛をプレゼントされたそうだ。その時、何で自分に櫛をくれたのか何のことだかさっぱり分からなかったらしい。ただボサボサ頭だが頭はかなりキレる。例えるなら格好には全く構わないエキセントリックな教授のようなイメージ。彼はフランスきってのエリート校であるHEC出身でネゴシアンで25年以上の経験を持っている。ルイ・ジャドを始めこれまで数々のメゾンを指揮してきた。その手腕を買われ、5年ほど前からルモワスネを率いている。経歴は固いがとてもオープンマインドだ。常にウィットに富んだユーモアを交えた会話はとても楽しい。飲むのももちろん大好きで、すぐにご機嫌になる楽しい飲み方。前回来日時、時差ボケの中、ホテルでシャンパンだけを時間が許す限り何本も一緒に開けた。それが余程楽しかったのか、今でもそれを会う度に楽しそうに話してくれる。
AmZに入荷するのは恐らくずっと先のことだが、樽で熟成中の2009年産をいくつかテイスティングさせてもらった。ルポルト氏曰く、2009年は1999年に似ている点が多いとの事。
1.Chassagne Montrachet 1er Cru Morgeot 2009 (樽)
はつらつとした酸と、蜂蜜、ナッツ、樽香などのボリューム感、それらのバランスの良さが絶妙。
造ったワインの一部はプリムールで販売しているそうで残りはストック用となる。このキュヴェはジュースの段階から買い付けたそうだ。基本的にルモワスネでは赤は葡萄から買い付け、白はジュースまたは葡萄から買い付けるそうだ。
2.Meursault 1er Cru Charmes 2009 (樽)
アメリカンオークのようなヴァニラやナッツ、ココナツなどの甘い香りが印象的。ミネラリーでとても良く出来たワインに仕上がっている。これもジュースから買ったそうで全部で3樽分造られる。
3.Meursault 1er Cru Genevrieres 2009 (樽)
前出のCharmesよりは樽のニュアンスが前面に出ていないため、果実味とミネラル感がより際立つ印象。これも3樽のみ造られている。
4.Corton Charlemagne 2009 (樽)
安定して人気の高いルモワスネのコルトン・シャルルマーニュはジュースから買い付けるそうだ。今のところルモワスネではBeauneには自社畑を所有していないそうだ。濃密で品があり、新樽の香ばしさと果実味の力強さが見事にマッチしている。
5.Montrachet 2009 (樽)
通常よりやや大きい340Lの大きな樽を使用している。そのおかげで木の香りを抑えることができる。Montrachetには余計なメイクは必要ではないという思いからだろう。2009年は4樽が造られる。白ワインは基本的に全て新樽比率は50%。
9.Gevrey Chambertin 1er Cru Cazetieres 2009 (樽)
4樽のみ造られたキュヴェ。質感のきめ細かさと力強い果実味がバランスよく表現されている。
Clos de Bezeも生産していて、3樽のみ造られた。
10.Clos Vougeot 2009 (樽)
ルモワスネが所有している畑で0.4haの樹齢40年
の樹から5樽ほど生産される。国道より離れており、立地的にも恵まれた区画だそうだ。一部まだ借りている区画もあるそうで、将来的に購入するかもしれないとの事。ただ借りる価格はここ数年ほとんど変わらないが、売値はどんどん高くなっているそうだ。
11.Charmes Chambertin 2009 (樽)
3樽のみ生産された。ややドライなタンニンで、洗練されたフィニッシュが印象的。カシス、チェリー、フランボワーズなどの熟した香りがとてもいいアクセントとなっている。樹齢は50年程度。
12.Vosne Romanée 2009 (樽)
No.14ロットからの試飲。4樽だけ造られた。区画の違うものをそれぞれ醸造し、最終的にアッサンブラージュされるが、これはそのうちのひとつ。フルーツの凝縮度が高く、チャーミングで洗練された印象。
13.Vosne Romanée 2009 (樽)
No.22ロットからのもので、前述のキュヴェの方がエレガンスがあるが、こちらは力強さが前面に出ている。7樽造られた。どちらのキュヴェでも商品化しても申し分のない出来。これらを最終的にアッサンブラージュすることでワインに複雑味と動きが出て来るそうだ。
14.Chambolle Musigny 2009 (樽)
新樽の風味がバランスよくきれいに表れているこのワインは柔らかく繊細。果実味の凝縮度と酸とのバランスも良く、現段階でもとても良く楽しめる出来栄え。
醸造責任者のクロディー・ジョバール氏はジョセフ・ドルーアンで長年に渡り、醸造責任者を務めたロランス・ジョバール女史の娘にあたる。幼い頃からワイン造りに興味を持っており、それを学べる最適な環境にあったようだ。彼女のワイン造りはヴィンテージの個性を活かし、テロワールを的確に理解した上で、自分がなすべきことを確実に丁寧にこなしている。
決して過剰に手を加えたりせずに葡萄の力を無理せず引き出してあげるのが彼女のスタイル。スパルタで引き伸ばすのではなく、優しく指導し、個性を理解した上でその長所を伸ばしてくれる、有能な若いコーチのようだ。出来上がったワインはとても素直でエレガンス溢れるワインが特徴的。彼女の今後のワインがとても楽しみだ。余談だが現在、34歳の彼女は花婿募集中なのだとか。
6.Beaune Graves 2009 (樽)
とても濃密で柔らかくシルキーな口当たり。タンニンも角がなくきれいに溶け込んでおり、青みや雑味など全くない。
7.Pommard Arvelets 1er Cru 2009 (樽)
しなやかでエレガントなワイン。とても飲み口が良く、あきさせない複雑さに富んでいるワイン。昔、ベルナール・ルポルトが初めて買い付けた畑でもあるそうで彼の思い入れも強い畑だそうだ。
8.Corton Renardes 1er Cru 2009 (樽)
これも他の例に漏れず、タンニンの角がなく、しなやかで飲み心地のよいスタイル。質感もとてもシルキーでしっかりと構成されたワイン。
1/3haの畑から2009年産は5樽のみ造られるそうだ。栽培家には6樽分を前払いしていたが、5樽に減ってしまったとの事。年によっては減る可能性もあり、リスクもあるが、ある程度をキープすることができるメリットもある。以前は葡萄を買い付ける基準は重量だったが、生産者によっては量を出来るだけ造ろうとする所もあるそうで、そうなると当然、凝縮味に欠ける薄いワインしかできない。
これはブルゴーニュでは未だ当たり前の慣例のようで、ネゴスのワインの大半が何故薄いのかという要因のひとつであると考えられる。彼らはその慣例を止め、出来た葡萄の重量で買い付けるのではなく畑の面積に応じて、契約している。栽培家の利益を保証することで、より質の高い葡萄を造れる環境を整えてあげることが継続的な関係を築く重要なことだと考えている。
BIVBの紹介によるとルポルト氏はワイン界のミック・ジャガー的存在であるとか。完全主義者でロックンロール。彼独特のパーソナリティがブルゴーニュにもっと存在していれば、ブルゴーニュワインには全く別のイメージが生まれていただろうとも綴られている。
高級ワインにはユーモアが備わり、その卓越した性質には、よりリラックスした色合いが付加されていたかもしれない。彼は明確なワインメゾン像を持ち、ネゴスとワイナリーの中間に位置する体制を理念としている。2005年には僅か2.5haしかなかった所有畑を、11haまで広げ、畑には有機栽培を採用している。ブルゴーニュで最も優れたクリュを生み出すためには、最大限に手を尽くすことがメゾンのモットーだと語っている。
彼は自分のなすべき仕事をこれまでの経験から全てを熟知している。そこには寸分の狂いも迷いもない。またうらやましいことにその高い理想を実現できる絶大な資本も備わっている。これはとても重要なことだ。先代ローラン・ルモワスネに変わり、オーナーになったアメリカ人資産家エドワード・ミルシュテイン氏。リーマンショック後の影響はさすがにあるだろうと心配していたが、それは全くの杞憂だった。
彼はその程度の不景気など、ものともしない存在なのだ。一国の国家予算並みの財力は通常のリッチではなくメガリッチの部類に入る。本当に限られた数少ない存在のようだ。何ともうらやましい話で、不況にあえいでいる我々日本人からは本当に遠い存在だが、このような強大な資本と卓越したマネージメント能力の持ち主がタッグを組んでいる。ブルゴーニュでも最強と言っても過言ではない。これからもブルゴーニュの古い体制に少しずつでも新しい風を吹き込んで、より消費者が喜ぶ改革を行っていくに違いない。
Domaine de L'Arlot
Beauneから北上し、国道沿いに一際目を惹く、ライトブルーが印象的なドメーヌを訪問。
出迎えてくれたのは当主オリヴィエ・ルリッシュではなく、栽培・醸造責任者のPellegrinelli(ペレグリネッリ)氏。オリヴィエはスコット・ランドでのワインショウに参加するため、残念ながら都合が付かなかった。ちなみにペレグリネッリ氏が栽培・醸造責任者になったのは2005年からで、ラルロに来る前はCh.ド・ムルソーやローヌでワイン造りに携わっていた。ローヌのバロイというドメーヌにいたが、E.ギガルが買収して今はなくなってしまったそうだ。責任者とは言え、全て最終的な判断はオリヴィエ・ルリッシュが行う。彼らは指揮者とバンドマスターのような関係なのだろう。その彼と広報担当の女性を伴ってセラーで試飲することとなり、近年の作柄について、きれいに洗浄され管理の行き届いた醸造設備を前にして話してくれた。
2010年は2009年に比べると畑によっては30%近くも収量が落ちたそうだ。2009年末から翌年1、2月にかけて場所によっては-10℃にもなった。特にクロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュはその影響を受けてしまった区画があったと話してくれた。その後も春は涼しく、花が例年に比べて付かなかった。房も小さかったそうだ。これらが収量に大きく影響を与えてしまったようだ。ただカビは2007年や2008年よりも格段に少なく、選別をきちんと行いさえすれば2010年はとてもいいバランスを備えた素晴らしいワインになるだろうとも語っていた。2009年の平均収量は33hl/ha、2010年は25hl/haと大きく異なっている。
収穫を開始したのは9/26で、白のジェルボットから行われた。朝は白、午後に赤を摘んだそうで、赤はPetit Arlotから始めた。収穫時は寒くなっていたそうで、朝は1℃、午後になっても5、6℃と、かなり大変な環境での収穫だった。朝10時の休憩時には、みんなこぞって熱いお茶を求めていたそうだ。2009年は9/10から収穫を開始したが、気温は20度と全く違う環境での収穫だったと振り返る。
セラーへ移動し、2009年を樽から試飲した。
1.Vosne Romanée 2009 (樽)
スーショJ.Vとも言える、2003年に植え替えした区画のもの。やっと世に出せるレベルの葡萄ができるようになったというが、Suchotsとして出すのではなく、AC Vosne Romanéeとしてリリース予定。約600本のみ生産されるので、日本に入荷するかは未定だが、スーショほどの重さはなくても、チャーミングでフィネスもあり、タンニンの角も青みもなく飲みやすい味わいに仕上がっている。とても親しみ易いPetit Suchots。品質を考えれば価格はとても魅力的なものになるだろう。
2.Côtes de Nuits Villages Clos du Chapeau 2009 (樽)
約9000本生産。やわらかく果実味のしっかりとした味わい。タンニンの角もなくしなやかで濃密なエキス分がたっぷりとつまった印象。前述のVosne Romanéeよりもさらにオープンなスタイル。
3.Nuits St. Georges Petit Arlot 2009 (樽)
約5500本生産。クロ・デ・ラルロの若樹でその畑の上に位置する区画。タンニンがしっかりとしているが、クロ・デ・ラルロとはまたタイプの違ったタンニンだ。クロ・デ・ラルロのタンニンはヴォーヌ・ロマネのような力強いタンニンでプティ・ラルロはNSGらしい大らかなタンニンが特徴的だ。
4.Nuits St. Georges Clos de L'Arlot 2009 (樽)
約5000本生産。クロ・デ・ラルロは既に飲み心地がよく、シルキーでミネラリーなスタイルで、焦点がしっかりと定まった、とてもバランスの取れた秀作。熟度も十分に備わっている為、若いうちから楽しめる。
2009年は全体的にアルコール発酵が長かったそうで、8月頃になってようやく糖がアルコールに変換したそうだ。
5.Vosne Romanée 1er Cru Les Suchots 2009 (樽)
約5500本生産。ガスがかすかに残っていて舌先に少しピリピリするが、そんな状態でもこのワインの輝きは少しも変わらない。清らかでいて、とても力強いタッチ。まさにこれがスーショの本当の味わいだとペレグリネッリ氏は語る。スーショは熟すのが早い方なので、早い収穫が毎年必要なのだとか。
6.Romanée St. Vivant 2009 (樽)
約1300本生産。今までで一番いいブドウが取れたのではないかと彼は自信を持って語る。もちろん彼自身、ラルロの全ての収穫に関わったわけではないが、樹齢とヴィンテージの出来が見事にマッチしたのだという。Romanée St. Vivantは買収した当初それほどいい状態の樹ではなかったが、少しずつ植え替えて今日に至る。植え替えたものが30年ほど経ったこともあり、とてもいい状態の葡萄がとれたようだ。
7.Nuits St. Georges Petit Plets 2009 (樽)
約9000本生産。樹齢20年。今のところタニックな印象が強いが、果実味と酸は十分なレベル。ボリュームたっぷりで、通常年の2割増し程度のスケール感。
8.Nuits Saints Georges 1er Cru Clos de Forets St.Georges 2009 (樽)
約30000本生産。昨日、ブレンドしたばかりのものを試飲。フォレは7つのキュヴェをブレンドする。まだ全体的に落ち着いてはいないが、酸はそれほど高くなく強いフルーツ味を感じる。
2008年はマロラクティック醗酵がとてもゆっくりと進んだために出荷が大幅に遅れてしまった。これはコラージュやフィルタを一切しない事も関係している。自然任せで、人の力で早めたりすることはしないからだ。2009年は例年通り5月を予定している。
9.Nuits St.Georges La Gerbotte 2009 (樽)
約6000本生産。あと2週間で瓶詰め予定(11月下旬)。2009年は葡萄が早く熟す年だった為、フレッシュさを出すことが例年に比べ困難だったと語る。暑さのせいで熟度は日々どんどん上がる。それにより酸とフレッシュさは弱まってしまう。単純に早く収穫するだけでは大事な要素を葡萄が得る前に摘み取ってしまうので、タイミングの見極めが難しいそうだ。ただビオディナミになってから白ワインに必要不可欠な洗練されたフレッシュさがより際立つようになったと感じているそうだ。ビオディナミは様々な恩恵をもたらしてくれるのだ。
10.Nuits St.Georges 1er Cru Clos de L'arlot Blanc 2009 (樽)
約5000本生産。ナッツ、ライチ、白い花、菩提樹、ミネラル、ハニーなどの豊かな香り立ち。ジェルボットよりもさらにフレッシュさが際立つ。熟度が高い年の白はどうしても焦点がぼやけてしまうワインが多いが、酸度も程よく見事なバランスを保っている素晴らしいワイン。
Domaine Jacques-Frederic Mugnier
恐らくブルゴーニュでも最も美しいシャトーであろう白亜の城から出迎えてくれたのは当主ジャック・フレデリック・ミュニエ氏。落ち着いた物腰と時折見せる優しい笑顔がとても印象的で紳士と呼ぶにふさわしい。1900年に建造されたセラーで樽熟中の2009年をテイスティングした。
1.Chambolle Musigny 2009 (樽)
22樽生産。とてもよく熟した甘い果実のニュアンスがとてもきれいに表れている。黒糖などを思わせる香ばしい甘い香りに、ピュアで熟度の高い果実が溶け込んでいる。焦点もきっちりと定まっていてとてもバランスが良い。素直にいいワインだと思える1本。
2009年は最初はそれほどいい天気ではなかったと振り返る。暑くもなかったが、8/15から暑くなり始めたそうだ。そこからの1週間は35〜38℃までの気温が続いた。例年、8/15以降は気温が下がることが多いそうだが、このおかげで葡萄はたっぷりと熟度を備えた。収穫前のこの期間に暑かったおかげでよく熟し、それが2009年の特長になった。収穫は予定よりも少し遅らせ、9/10から始めた。収穫前にジュースの糖度を分析したところ、高い数値を示したが、皮までは熟していなかったそうだ。皮まで熟すにはまだ時間が必要だったので遅らせたそうだ。皮が熟していないと苦味や過度なタンニンが出てしまう。皮の熟度を測るには食べて判断するのが最善なのだという。待ち過ぎても酸がなくなるのでその見極めはとても難しいそうだ。
2.Chambolle Musigny 1er Cru Les Fuess 2009 (樽)
11樽生産。0.74アール所有し、収量は30〜35hl/ha程度だという。前出のChambolle Musignyよりもタンニンがしっかりとしていて硬さが感じられる。熟度よりも酸とタンニンが今は前面に出ているが、フィニッシュに洗練されたやわらかく甘い果実がはっきりと感じ取れる。彼のワインはどれも新樽比率は20%程度。これはシャンボールの繊細な個性をきれいに表現したいからだ。
2009年はアルコールの高さと熟度からパワフルでリッチな印象がとても強い。丸みがあり、やわらかく、若いうちから飲めてしまう魔法のような液体が特長的だ。ミュニエ氏は1990年と2003年を併せ持ったようなヴィンテージかなと評する。
2010年に関してはまだ何とも言えないなと答えてくれた。生まれたばかりの赤ん坊が将来どんな人物になるのかなんて誰も想像がつかないだろう?と彼は言う。
3.Bonnes Mares 2009 (樽)
5樽生産。収量は34hl/ha。香りはまだ閉じているが、タンニンはとても柔らかい。樽に入れたばかりの頃は彼には甘過ぎたそうだ。それが今になってバランスが取れてきたと感心しながらわが子のように褒めていた。
4.Nuits Saints Georges 1er Cru Clos de la Marechale 2009 (樽)
150樽生産。ご存知のように2004年に彼の元へ戻ってきた畑。残念ながら大人の事情でAMZには入荷しない。シャンボールのようなエレガンスとパワフルさが備わっている。香りは閉じていて、タンニンもやや乾いているが、それは最近までステンレスタンクに入れたものをまた樽に戻したばかりだからかもしれない。ただ甘く粘性のある果実味と洗練されたフィニッシュはとても心地よい。とても分かり易く良いワインになるだろう。
5.Chambolle Musigny 1er Cru Les Amorouses 2009 (樽)
8樽生産。とてもやわらかく、果実味豊か。喉の奥で光がさしてくるような暖かみのある味わい。タンニンの角がなく、熟して円みのある果実にきれいに溶け込んでいる。エレガンスとフィネスの究極系のようなワイン。
6.Musigny 2009 (樽)
16樽生産。樽は高級優良樽メーカーで知られるレモン社とフランソワ・フレール社の2つの樽を使っている。この方がより複雑味が出るそうだ。この段階ではミュジニーだけまだ澱引きしていなかった。これだけマロラクティック醗酵が遅かったからだそうだ。タンニンの質がきめ細かく、果実の熟度と酸のバランスが抜群。エレガンスの極み。
7.Nuits Saints Georges 1er Cru Clos de la Marechale Blanc 2009 (樽)
温暖な年に考えられるひとつの選択肢である補酸は行わなかった。酸を人為的に加えるとその年のバランスに狂いが生じると考えているからだ。これまでに唯一補酸をしたのは1990年のみだそうだ。
ワインは程よい粘性を備えた濃さに、レモンなどの柑橘系の香り。ハニー、ナッツ、ヴァニラなどの厚みのある香りが程よく混ざり合っている。ミネラリーでフレッシュな酸と奥行きのある構成は絶品。
ミュニエ氏のファースト・ヴィンテージは1985年。若い頃は石油エンジニアや商業パイロットなどワイン造りとは無縁の業界にいた。その彼がワイン造りに本格的に取り組むきっかけを与えていたのはル コンジェ サバティックというフランスの制度を利用したことからのようだ。
フランスには会社で3年働くと、1年間休めるシステムがあるそうだ。仏語で"Le conge sabbatique"(ル コンジェ サバティック)。英語でいうなら"キャリア・ブレーク"というようなものだろうか。フランス政府によると、その目的が「仕事を一時中断して個人的なプロジェクトを実現するためのもの」と説明している。
もちろん勤務先の会社の許可があれば、という条件付きだが、とてもうらやましい制度。休暇中はもちろん無給だが、休暇後にまた同じステータスに復帰できるというのがメリットだ。育休さえも満足に取れない日本では考えられない制度だ。フランスでは労働者の権利はこれでもかというぐらい守られている。だからストも多い。それはそれで問題ではあるけれども、守られているのは精神的にもゆとりが生まれる。
その制度を使って1年間仕事を休み、ワイン造りに没頭したそうだ。「いざワイン造りを始めてみたら、それが楽しくて仕方がなかったから今があるんだよ」と、懐かしそうに話してくれた。その後も、これも大好きなパイロットを兼業しながらワインを造り続けたが、今はワイン造りのみ全神経を注いでいる。パイロットは趣味で継続しているそうだ。いつもぴかぴかのグライダーがセラーの入り口においてある。
今度、マルセイユから100kmほどにあるシストロン(Sisteron)という町から飛んでスイスに行き、アルプス山脈でグライダー飛行を楽しむそうだ。その充実したオン・オフの切替がワインに表れているのだろう。ご存知の方もいるかもしれないが、彼には日本人の血が8分の1流れている。彼の曾祖母は長崎県島原市出身だったからだ。自信のルーツの一部である日本の文化や食にも非常に興味を持っている。春に京都や伊勢神宮などを巡ったそうだ。伊勢神宮では独特の荘厳な雰囲気にいたく感激したそうだ。彼の受け継がれた日本人の魂が恐らく騒いでいたのだろう。
Domaine Joseph Roty & Philippe Roty
出迎えてくれたのはフィリップ・ロティ氏。人懐っこく、まだあどけなさの残る顔立ちで、とても40を過ぎているようには見えないが、偉大なドメーヌの当主としての風格にはますます磨きがかかっているようだ。
彼の娘は17歳になり、現在は商業と醸造を学びながら、ボワセでパートタイムで働いているそうだ。ボワセではクレマン・ド・ブルゴーニュを売っているらしい。その下の娘は12歳で彼女は栽培家になりたいのだそうだ。「父親の仕事を継いでみたいと考えている事自体が幸せなことだよ」と、彼は笑う。
1週間前にInternational Wine Cellarのスティーブン・タンザー氏がテイスティングに来ていたそうだ。彼のワインには世界中が注目している。そのタンザーが座ったであろう椅子に座りながらテイスティング。
1.Bourgogne Aligote 2008
(Philippe Roty Label 以下 Ph.Roty)
4月に瓶詰。熟度と酸のバランスが良く、ハニー、マール、クリームなどの甘い香りが印象的。
2.Bourgogne Blanc 2008
Marsannyの下にある区画Chanfonnetの428mの長さの畝を1列だけ所有している。2008年は1990年植樹のPinot Blanc 90%とChardonnay 10%の比率。酸もきっちりと感じられ、すっきりとした味わいは様々な料理に合わせられるスタイル。きれいなミネラル感と熟度を備えた果実味は抜群のコストパフォーマンス。
3.Marsannay Blanc 2008
1993年と1996年植樹のChardonnayでミネラル感に溢れ、シトラス、白い花など華やかな香りが果実味に溶け込んでいて、とても好印象。
4.Marsannay Rose 2008
ロゼのアペラシオンの3つの区画から産出する。このアペラシオンからでもACブルゴーニュ・ルージュとしてリリースが出来るそうだが、ドメーヌではあくまでここはロゼ用だとして、それだけをリリースする。余った葡萄はネゴスに売却する。ロゼながら、赤ワインのような力強い果実味には毎回驚いてしまう。20樽のみ造られ、アルコール度数は13度もある試す価値十分のロゼ。バーベキューやアペリティフにも最適で、個人客が好んで買っていくのがこのワインだそうだ。
5.Bourgogne Grands Ordinaire 2008
100% Pinot Noirらしいエレガントな凝縮感。樹齢は30年を超えており、同名ワインには考えられない深みのある味わいが持ち味。
夏頃のニュースで新たなAOCが誕生するというニュースがあった。ブルゴーニュのAOC制度の一部が変化し、「コトー・ブルギニョン」と「ブルゴーニュ・コート・ドール」というAOCが誕生するというものだ。 INAO(国立原産地・品質研究所)が、ブルゴーニュの生産者の要請を受けて認可した。強い反対がなければ、数か月以内に農業大臣が承認するというもので、コトー・ブルギニョンは、生産量の少ない「ブルゴーニュ・グラン・オルディネール」を響きの良い名称に改称する方向で動いているようだ。
6.Bourgogne Pinot Noir "Cuvée de Presonniere" 2008
樹齢35年がメインだが、一部区画は60年を超えるものもあるという。質感もきめ細かく落ち着いた果実味で、しなやかさとエレガントさが際立つACブルゴーニュ。
94年まではジュヴレ・シャンベルタンを名乗っていた区画で法改正によって格下げされたが、品質は明らかにジュヴレそのもの。彼は世界的な需要の高さを感じ、現在の区画に接する1/3haの畑を新たに買い足したそうだ。
2008年は長熟型のワインになるだろうとフィリップ氏。2008年はヴィニュロンによってはっきりと差が出るワインになるだろうと語る。
7.Marsannay Rouge 2008
樹齢30〜60年。甘みもあり、タンニンも果実に溶け込んでいてとてもバランスが良い。現在、マルサネ村にはプルミエ・クリュはないが今後いくつかの畑が本当に昇格するかもしれないと話していた。彼の所有するQuartierもその候補のひとつだ。
8.Marsannay Rouge "Quartier" 2008 (Ph.Roty)
前出のACマルサネよりもタンニンがしっかりとした印象。女性的で繊細なニュアンスをかもし出すのがこのキュヴェの特長。樹齢50年の樹々はFixinから50mの所に位置し、石灰がとても多い土壌。
マルサネの持つ可能性と高い品質に彼は絶対的な自信を持っている。2011年産からは新たにLongeroies(ロンジェロワ)というキュヴェを増やすそうだ。ここではいいPinot Finが手に入るとの事。
9.Marsannay "Cuvée Champs St.Etienne" 2008 (Ph.R)
年産約4000本だが、ドメーヌとしては半数をリリースし、残りはネゴスに売却している。
彼の父であるジョセフ・ロティの代の1995年から借りている畑で、その昔ブルゴーニュのデュックという王が西暦680年からこの畑を所有していた。
赤く鉄分の多い特徴的な畑で平べったい石が多い。この畑は7列だけ他の生産者が所有している為、単独所有ではないがもちろんそこを購入することが出来ればモノポールを名乗ることが出来る。
ジビエと是非合わせてみたい重厚感のある味わい。
10.Marsannay "Cuvée En Ouzelois" 2008
樹齢80年。年産2700本。マルサネのワインはどのアペラシオンと比べても一番ジビエに合わせやすいとフィリップは語る。それは鳥獣類を思わせる要素がワインにあり、それがさらなる複雑味と深みを与えているからに他ならない。
11.Marsannay "Cuvée Boivin" 2008
植樹されたのは1936年と古く、70年を超える樹からは緻密で繊細かつ純粋な果汁が生まれる。年産1000本程度で、国内外の高い需要に到底応えられるものではない。純粋で熟した果実味とミネラル感、芯の通ったがっしりとした骨格はMarsannayの最高峰という枠には収まりきらない。名ばかりのプルミエクリュよりもはるかに高い満足度を得ることが出来る隠れた名品。
機械好きのフィリップはこれまで様々な最新機器を購入してきた。DRCと同じバッスラン社製のプレス機や、除梗装置等は、人の手による仕事よりもさらに効率が良く、かつ完璧な結果をもたらせてくれると感じているそうだ。人は時間が経てば疲れて集中力を失うが、機械はメンテナンスさえしっかり行えば、パフォーマンスは落ちないからだ。
プレス機は種を潰さない非常に細かな設定ができる為、余計なものまで抽出されることはない。これはとても重要なことだ。また除梗装置は従来の茎がついたまま除梗するのではなく、最初に茎を抜き取ってからゆっくりと除梗する為、余計な青さがさらになくなった。これで純粋な果汁を得る事ができるのだ。
そこへ新たにトラクターを購入したそうだ。Bobard(ボバール)社製のもので9万ユーロもしたそうだ。BobardはBeauneに拠点を置く会社で、多くの有名な生産者がBobardを使っている。その他の大手の製品もあるが、頻繁に故障する上、高いので生産者の受けは良くないそうだ。ちなみにフィリップの愛車は日産とマツダでこれまで故障知らず。「やっぱり車は日本車がいいよ」と、笑う。
当然ながら畑での作業も重視する。彼らはエフィヤージュ(摘葉)やエクレルシサージュ(摘果)などを細かく行うことで健全な果実を得ることに、神経を使っている。当然、収穫は全て手で行う。以前は収穫以外はなるべく家族のみで行うようにしていたが、より細かく丁寧に管理する為に現在4人のスタッフを雇っているそうだ。体つきがよく、真面目な人でないとこの仕事は厳しいと彼は言う。
醸造は伝統的なブルギニヨンスタイル。上面開放されたタンクで温度管理を徹底し、ピジャージュは手で行う。醗酵は約3週間。
樽熟は約18ヶ月、グランクリュを除けば、通常50%新樽で、残りは1年樽を使用するのが基本。樽熟の期間が他のドメーヌより長い為にリリースが遅くなる。毎年リリースされるのが1月頃で、船積みと船旅、出荷体制が整うのは3月頃となる。樽はフレンチオークの最上とされるトロンセ産とヴォージュ産を併用している。清澄や濾過は一切しない。
12.Marsannay "Cuvée Clos de Jeu" 2008
樹齢70年。年産900本。フィリップがマルサネのグラン・クリュだと評するキュヴェ。現段階ではタンニンはやや乾いていて、香りも開いていないが、その素晴らしさの片鱗ははっきりととらえることができる。凝縮度は高く、複雑味もたっぷり。スパイシーさとミネラル感、メリハリのある味わいの奥深さ。そのどれもが一流の品質。
13.Côtes de Nuits Villages 2008 (Ph.Roty)
樹齢50年。年産1500本。フィリップの家の周りにある畑で、一番手間をかけやすい畑だという。ジュヴレ・シャンベルタンのエボセルとFixinのプルミエクリュに隣接しているニシンのシッポと呼ばれる区画から産する。果実とミネラル感はプルミエ・クリュのような出来栄え。しなやかで焦点が定まった味わいは抜群のコストパフォーマンスを持つ。
14.Gevrey Chambertin 2008
樹齢25年。年産3000本。ジュヴレらしいタンニンがきっちりと感じられ、熟度も高い。継ぎ目のないシルキーなスタイル。この畑はジュヴレ村のシャルロパンではなく、マルサネの故ジャン・シャルロパンから買った畑。実はマルサネ・カルティエはこの一族から借りている畑だそうだ。
15.Gevrey Chambertin "Cuvée Champs-Cheny" 2008
樹齢40〜80年。年産3000本。Charmes Chambertinと地続きの恵まれた区画。とても濃密で果実味がぎっしりとつまった印象のワイン。バラ、スミレなどのフローラルな香りと、ヨードやハーブなどの香りがうまく果実味に溶け込んでいる。前出のACジュヴレもいいワインだが、スケール感の違いははっきりと感じることが出来る。品がよく、きれいな香りと果実味を持つこのワインは美しいワインという表現がぴったりと当てはまる。
16.Gevrey Chambertin "Cuvée Champs-Cheny V.V" 2008(Ph.Roty)
樹齢76年。年産1500本。所有面積は0.25ha。初めてリリースされたのは2002年。CharmesとMazoyeresに隣接する部分で、特に良質な古樹の区画。多くの石や石灰岩を含む土壌。同じ畑の前出のChamps-Chenyは樹齢が40〜70年である為、この特別の区画を別名義であえてリリースすることにした。
17.Gevrey Chambertin "Cuvée de la Brunelle" 2008
樹齢50年。テイスティングしているセラーのすぐ裏にある畑で、窓から畑仕事の様子がよく見える場所にある。甘く繊細な果実味がアタックから広がり、とても大らかな印象のワイン。香り立ちがよく黒果実の鼻腔をくすぐる華やかな香りが特長。
18.Gevrey Chambertin Cuvée de Clos Prieur Bas 2008
樹齢30年。Clos Prieur(Hautes)はプルミエ・クリュでClos Prieur Basは村名ワインとなる。黒い熟した果実とミネラルの風味がとてもバランスよく液体に溶け込んでいる。酸も程よく、うまみがぎっしり詰まっている。
19.Gevrey Chambertin 1er Cru "Les Fontenys" 2008
樹齢40〜80年。年産2500本。所有面積0.4ha。Mazis Chambertin上部、Ruchottes Chambertinの横にある区画。濃密でエレガントなスタイル。バランスの取れた秀作で、果実の凝縮感とミネラル感はこれまでのものよりさらにハイレベル。
20.Mazy-Chambertin 2008
樹齢90年。年産600本。所有面積は0.15ha。
収穫はほぼ最後に行った。グラン・クリュは100%新樽で熟成される。現時点ではややタンニンの硬さが感じられるが、スケール感ははっきりと感じ取れる。
21.Griottes Chambertin 2008
樹齢90年。年産500本。所有面積0.1ha。
現時点ではMazyより柔らかく、熟した甘い果実味を感じやすい。ブラックチェリー、燻した肉、カシス、フランボワーズなどが熟した豊かな香り立ちにスミレ、バラなどのフローラルの香りがうまく溶け込んでいる。大らかなスタイルで長く洗練された余韻はどのワインよりも秀でている。
22.Charmes Chambertin "Tres Vieille Vignes" 2008
樹齢126年。とてもやわらかくかつ濃密なエキス分が魅力的。フィネス溢れる見事としか言い様がない素晴らしい造り。2005年に色合いは似ているが、より多くの要素はあるようだ。1週間前にインターナショナルワインセラーのスティーブン・タンザーが来た際に、このワインを褒めちぎっていたそうだ。彼が言うにはCharmesの上にあるChambertinから雨で土やそれに伴う様々ないい要素が彼の区画へ流れているのではないかと笑いながら分析したようだ。Chambertinの品質をはるかに超えた傑出したワインなのだ。胸が高鳴る素晴らしい味わいを持っている。このワインを手に入れることが出来る幸運な人は極僅かなのだ。
ご存知のようにこのドメーヌはGevrey Chambertinでも特に古い歴史を持つドメーヌ。
家名は1610年まで、ドメーヌの歴史は1817年まで遡る。1610年といえば、ガリレオ・ガリレイが木星を観測し、月以外の衛星をはじめて発見した年である。ルモワスネのGivryのキュヴェ名にもなった(Le Prefere du Roi HENRI 4:アンリ4世のお気に入り)ブルボン朝フランス国王アンリ4世が死去した年でもある。
歴史あるドメーヌだけに樹齢の古い樹が今も大事に受け継がれている。このドメーヌの最高峰ワインであるCharmes Chambertinに至っては、前にも述べたように樹齢は125年以上と他を圧倒する樹齢だ。ひとつの世界遺産といっても過言ではない。当然、それらは若樹には見られないほど地中深くに根を張り、様々な要素を引き上げ葡萄の実に与えている。
先代ジョセフ・ロティが惜しまれつつも、この世を去ったのは2008年のこと。亡くなる何年も前から体調を崩していたので、今世紀に変わる頃には既にフィリップはドメーヌを任されていた。彼はその偉大な父の築いた名声を少しも落とすことなく、自らの力でさらに引き上げている。これはとても大変なことだ。恵まれた土地と才能はあるにせよ、それだけでは人を感動させるワインは造れない。彼はそれに驕る事無く、精進し、自分の進むべき道を、わき目も振らずに邁進したのだろう。
そんな彼と受け継がれた畑がある限り、このドメーヌの未来はひたすら明るいのだ。残念ながら彼の父が口にすることは出来なかった2008年のワインだが、その出来の素晴らしさに父ジョセフは天国できっと微笑んでいるに違いない。

















