Remoissenet Pere & Fils

出迎えてくれたのは、ベルナール・ルポルト総支配人。身なりは小奇麗だが相変わらずのボサボサ頭。寝癖が彼のトレードマーク。以前にそれを見かねた部下から櫛をプレゼントされたそうだ。その時、何で自分に櫛をくれたのか何のことだかさっぱり分からなかったらしい。ただボサボサ頭だが頭はかなりキレる。例えるなら格好には全く構わないエキセントリックな教授のようなイメージ。彼はフランスきってのエリート校であるHEC出身でネゴシアンで25年以上の経験を持っている。ルイ・ジャドを始めこれまで数々のメゾンを指揮してきた。その手腕を買われ、5年ほど前からルモワスネを率いている。経歴は固いがとてもオープンマインドだ。常にウィットに富んだユーモアを交えた会話はとても楽しい。飲むのももちろん大好きで、すぐにご機嫌になる楽しい飲み方。前回来日時、時差ボケの中、ホテルでシャンパンだけを時間が許す限り何本も一緒に開けた。それが余程楽しかったのか、今でもそれを会う度に楽しそうに話してくれる。

AmZに入荷するのは恐らくずっと先のことだが、樽で熟成中の2009年産をいくつかテイスティングさせてもらった。ルポルト氏曰く、2009年は1999年に似ている点が多いとの事。


1.Chassagne Montrachet 1er Cru Morgeot 2009 (樽)

はつらつとした酸と、蜂蜜、ナッツ、樽香などのボリューム感、それらのバランスの良さが絶妙。
造ったワインの一部はプリムールで販売しているそうで残りはストック用となる。このキュヴェはジュースの段階から買い付けたそうだ。基本的にルモワスネでは赤は葡萄から買い付け、白はジュースまたは葡萄から買い付けるそうだ。



2.Meursault 1er Cru Charmes 2009 (樽)
アメリカンオークのようなヴァニラやナッツ、ココナツなどの甘い香りが印象的。ミネラリーでとても良く出来たワインに仕上がっている。これもジュースから買ったそうで全部で3樽分造られる。



3.Meursault 1er Cru Genevrieres 2009 (樽)
前出のCharmesよりは樽のニュアンスが前面に出ていないため、果実味とミネラル感がより際立つ印象。これも3樽のみ造られている。



4.Corton Charlemagne 2009 (樽)
安定して人気の高いルモワスネのコルトン・シャルルマーニュはジュースから買い付けるそうだ。今のところルモワスネではBeauneには自社畑を所有していないそうだ。濃密で品があり、新樽の香ばしさと果実味の力強さが見事にマッチしている。



5.Montrachet 2009 (樽)
通常よりやや大きい340Lの大きな樽を使用している。そのおかげで木の香りを抑えることができる。Montrachetには余計なメイクは必要ではないという思いからだろう。2009年は4樽が造られる。白ワインは基本的に全て新樽比率は50%。



9.Gevrey Chambertin 1er Cru Cazetieres 2009 (樽)
4樽のみ造られたキュヴェ。質感のきめ細かさと力強い果実味がバランスよく表現されている。
Clos de Bezeも生産していて、3樽のみ造られた。



10.Clos Vougeot 2009 (樽)
ルモワスネが所有している畑で0.4haの樹齢40年
の樹から5樽ほど生産される。国道より離れており、立地的にも恵まれた区画だそうだ。一部まだ借りている区画もあるそうで、将来的に購入するかもしれないとの事。ただ借りる価格はここ数年ほとんど変わらないが、売値はどんどん高くなっているそうだ。


11.Charmes Chambertin 2009 (樽)

3樽のみ生産された。ややドライなタンニンで、洗練されたフィニッシュが印象的。カシス、チェリー、フランボワーズなどの熟した香りがとてもいいアクセントとなっている。樹齢は50年程度。



12.Vosne Romanée 2009 (樽)
No.14ロットからの試飲。4樽だけ造られた。区画の違うものをそれぞれ醸造し、最終的にアッサンブラージュされるが、これはそのうちのひとつ。フルーツの凝縮度が高く、チャーミングで洗練された印象。



13.Vosne Romanée 2009 (樽)
No.22ロットからのもので、前述のキュヴェの方がエレガンスがあるが、こちらは力強さが前面に出ている。7樽造られた。どちらのキュヴェでも商品化しても申し分のない出来。これらを最終的にアッサンブラージュすることでワインに複雑味と動きが出て来るそうだ。



14.Chambolle Musigny 2009 (樽)
新樽の風味がバランスよくきれいに表れているこのワインは柔らかく繊細。果実味の凝縮度と酸とのバランスも良く、現段階でもとても良く楽しめる出来栄え。

醸造責任者のクロディー・ジョバール氏はジョセフ・ドルーアンで長年に渡り、醸造責任者を務めたロランス・ジョバール女史の娘にあたる。幼い頃からワイン造りに興味を持っており、それを学べる最適な環境にあったようだ。彼女のワイン造りはヴィンテージの個性を活かし、テロワールを的確に理解した上で、自分がなすべきことを確実に丁寧にこなしている。

決して過剰に手を加えたりせずに葡萄の力を無理せず引き出してあげるのが彼女のスタイル。スパルタで引き伸ばすのではなく、優しく指導し、個性を理解した上でその長所を伸ばしてくれる、有能な若いコーチのようだ。出来上がったワインはとても素直でエレガンス溢れるワインが特徴的。彼女の今後のワインがとても楽しみだ。余談だが現在、34歳の彼女は花婿募集中なのだとか。



6.Beaune Graves 2009 (樽)
とても濃密で柔らかくシルキーな口当たり。タンニンも角がなくきれいに溶け込んでおり、青みや雑味など全くない。




7.Pommard Arvelets 1er Cru 2009 (樽)
しなやかでエレガントなワイン。とても飲み口が良く、あきさせない複雑さに富んでいるワイン。昔、ベルナール・ルポルトが初めて買い付けた畑でもあるそうで彼の思い入れも強い畑だそうだ。



8.Corton Renardes 1er Cru 2009 (樽)
これも他の例に漏れず、タンニンの角がなく、しなやかで飲み心地のよいスタイル。質感もとてもシルキーでしっかりと構成されたワイン。
1/3haの畑から2009年産は5樽のみ造られるそうだ。栽培家には6樽分を前払いしていたが、5樽に減ってしまったとの事。年によっては減る可能性もあり、リスクもあるが、ある程度をキープすることができるメリットもある。以前は葡萄を買い付ける基準は重量だったが、生産者によっては量を出来るだけ造ろうとする所もあるそうで、そうなると当然、凝縮味に欠ける薄いワインしかできない。

これはブルゴーニュでは未だ当たり前の慣例のようで、ネゴスのワインの大半が何故薄いのかという要因のひとつであると考えられる。彼らはその慣例を止め、出来た葡萄の重量で買い付けるのではなく畑の面積に応じて、契約している。栽培家の利益を保証することで、より質の高い葡萄を造れる環境を整えてあげることが継続的な関係を築く重要なことだと考えている。

BIVBの紹介によるとルポルト氏はワイン界のミック・ジャガー的存在であるとか。完全主義者でロックンロール。彼独特のパーソナリティがブルゴーニュにもっと存在していれば、ブルゴーニュワインには全く別のイメージが生まれていただろうとも綴られている。

高級ワインにはユーモアが備わり、その卓越した性質には、よりリラックスした色合いが付加されていたかもしれない。彼は明確なワインメゾン像を持ち、ネゴスとワイナリーの中間に位置する体制を理念としている。2005年には僅か2.5haしかなかった所有畑を、11haまで広げ、畑には有機栽培を採用している。ブルゴーニュで最も優れたクリュを生み出すためには、最大限に手を尽くすことがメゾンのモットーだと語っている。

彼は自分のなすべき仕事をこれまでの経験から全てを熟知している。そこには寸分の狂いも迷いもない。またうらやましいことにその高い理想を実現できる絶大な資本も備わっている。これはとても重要なことだ。先代ローラン・ルモワスネに変わり、オーナーになったアメリカ人資産家エドワード・ミルシュテイン氏。リーマンショック後の影響はさすがにあるだろうと心配していたが、それは全くの杞憂だった。

彼はその程度の不景気など、ものともしない存在なのだ。一国の国家予算並みの財力は通常のリッチではなくメガリッチの部類に入る。本当に限られた数少ない存在のようだ。何ともうらやましい話で、不況にあえいでいる我々日本人からは本当に遠い存在だが、このような強大な資本と卓越したマネージメント能力の持ち主がタッグを組んでいる。ブルゴーニュでも最強と言っても過言ではない。これからもブルゴーニュの古い体制に少しずつでも新しい風を吹き込んで、より消費者が喜ぶ改革を行っていくに違いない。