ーOOO-「紙の月」

  


 宮沢りえ演ずる主人公の、はじめて自分の意思で歩き始めたお人形さんみたいな危うい感じが良かった。
 彼女は、自分が夫の帰りを待つだけの主婦であることに不満を持っていた。銀行に職を得て、そこに自分の居場所を見つけだす。ひょんなことから、夫中心で自分に選択の余地のない操り人形のような生活に、反旗を翻す。
 だが、いざ自分で選んだ人生を歩んでみると、「あの人はこう言ったから」「あの人がやっているから」と、彼女は他人の言葉を借り続け、都合良く流されていく。
 横領して得たカネは、所詮他人のカネでしかない。彼女はフトコロを痛めることなく、心地よく湯水のようにカネを使ってみせる。だがその使い道は、他人の夢を叶えるためであり、恋人の歓心を買うためにカネを貢いだに過ぎなかった。


 彼女は自転車に乗って、顧客の集金に出かける。
 この「自転車」は、彼女が行い続ける巨額横領が自転車操業であることのメタファーでもある。
 右に左にユラユラ揺れながら、漕いで漕いで漕いで。
 最後にすごいいきおいで斜面を滑りきったところで、思わず強くブレーキをかける。
 彼女はその先、普通の人生を送る人々と同じように前に進んでいくことが出来なくなってしまう。


 結局、彼女は自分のために楽しんでお金を使うことは出来なかった。
 本当の幸せって何なのか、本当に自分がやりたいことって何なのか。それを「カネのチカラ」でつかむことは難しく思えた。