ーOOO- Tie a tie.

 学生の時は詰め襟で、就職してからもスーツを着ないで済ませてきたので、ネクタイを結んだことがない。
 私がネクタイを結ぶとしたら、冠婚葬祭の時くらい。
 あれはハタチのころ、はじめて親戚の結婚式にスーツで出席したときは大騒ぎだった。それまでは学生服で親戚の結婚式に出ていたので、ネクタイを結ばずに済んでいたのだ。
 式の直前にひとりで鏡の前で「ああでもない、こうでもない」とネクタイを結ぶのに四苦八苦していたら、見るに見かねたイトコのお姉さんが「どーれ、ちょっとみせてみなよ」と結んでくれたことがあった。
 その日のお姉さんは、結婚式だからドレスアップしていて、なんだかいいにおいがした。グッとキレイだった。
 私の後ろから首に手を回し「こうやって結ぶのよ」と言いながら、シュルシュルとネクタイを結ぶ。
 アレは、うれしいようなはずかしいような、こそばゆい思い出だ。


 年月は過ぎて。
 久しぶりに冠婚葬祭があるので、久しぶりにネクタイを結んでみた。
 今はもちろん一人で結べるし、わりと一発でそこそこの形に結べるようになった。
 冠婚葬祭の時くらいしかネクタイを結ばない自分のはずだったが、いつの間にかネクタイをマトモに結べるようになっている。
 そのくらいには、自分も冠婚葬祭に出席してきたのだなあ。
 自分も大人になったなぁ…というと大げさだけど。
 自分の人生は何も起こらない平坦な人生だと思っていたけれど、いつのまにかたくさんの冠婚葬祭を経験してきたし、人生に年輪のようなものが刻み込まれていることであるなぁ(詠嘆)とか思った。