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祭竒洞

2011-12-11

((ヴィヰをつれて來い!ヴィヰを迎へに行け!)) 〜ヴィイの話 1

| 20:40

今回は前回からの予告通り、ヴィイのお話その1。

……ようやっと、って感じですが。

例によってなんもかんもテキトー極まりないです。テキトーな引用とテキトーな解釈で本当に嘘ばっかりです。マジで本当じゃないですよ。嘘だと思うんなら一つ信じてみたらいかがでしょうか?

大体文中に出てくる日本語の参考文献読めば事足りる感じのヌル〜イ内容ですので、ひとつユル〜イ気持ちでお読みください。

あと同名の伺かゴーストさんとは関係ありませんので間違って踏んだ方はひとつ戻るなり読むなりでヨロシクです。

0.そもそもヴィイって何ぞ

ヴィイとは一般民衆の想像力による所産である。小ロシア人の間でその名で呼ばれるのは侏儒の親玉のことで、その両目の瞼は地面にまで垂れている。この物語はそっくりそのまま民間の伝説である。わたしはこの言伝えに少しも手を加えまいとした。ほとんど耳にした通りの、素朴さのままに語るのである。」

ゴーゴリヴィイ小平武訳より)

「ヴィヰとは、一般民衆の素晴らしい空想的創造物である。土精(グノームイ)(譯註―地下に埋藏される財寶を統御する醜い神々)の首魁で、瞼が長くのびて地面までもとゞく妖怪を、小ロシア人は((ヴィヰ))と呼んでをる。この物語は徹頭徹尾、民間の俗説である。わたしは一切それを改變することを欲せず、ほとんど聞いたとほりありのまゝにお話する次第である。」

(ゴオゴリ「ヴィヰ」平井肇訳より)

ロシアの文豪ゴーゴリの小説「ヴィイ」(Вий)に登場する妖怪だか悪魔だか何だかがヴィイです。上に引用したのはその冒頭。

この作品は1835年に発表された短編集『ミルゴロド』におさめられており、ロシアでは1967年・2010年と2度映画化され、一度は日本にも「妖婆 死棺の呪い」ないし「魔女伝説ヴィー」というタイトルで輸入されるなど、結構人気の作品。小説の日本語訳も上記2種の他、何種類か(確認できただけでもう2種類)あるようです。それと忘れちゃいけない我らが水木しげる御大がこれを元ネタに2回漫画を描いておりますし、ヴィイはキャラクターとして妖怪図鑑や鬼太郎などに登場させています。

さて、以下あらすじをざっくり紹介します。結末近くまで書くのでご注意。

ヴィイ あらすじ

 舞台は小ロシア(=ウクライナ)。ホマーという神学生は夏休みの帰省の途上、老婆の魔女に襲われるも、悪魔祓いの呪文でこれを撃退。逆に散々に老婆を打ち据えると、息絶えて倒れた老婆はいつの間にか美女に変わっていた。

彼は学校に逃げ帰ったが、ある金持ちに呼ばれ、その金持ちの死んだ娘のために三晩の祈祷をする事になる。彼女はホマーが先日打ち据えた美しい魔女であった。

 最初の晩にホマーが祈りを捧げていると、娘の死体が起き上がり、彼に向かって来た。ホマーが自分の周りに環を書き、悪魔祓いの呪文を唱えると、死体は環の中は見られず、環の中に入ることも出来ない。最初の晩はそのまま助かった。次の晩には魔女は仲間の魔物を呼んだが、同じようにしてやり過ごした。三日目 の晩には魔女と多くの魔物たちがホマーの描いた環の周りに集まったが、彼を見つけることが出来ない。

以下再び引用。

ヴィイを連れて来い!ヴィイを迎えに行け!」死人の声が響き渡った。(中略)間もなく重い足音が聞こえてきて、教会中に響き渡った。ちらと横目で見る と、なにやらずんぐりとして、頑丈な、足が内側に曲がった人間が連れて来られるところだった。全身真っ黒な土にまみれている。筋張った、頑丈な木の根さながらの、土のこびりついた手足が目についた。絶えずつまずきながら、重い足取りで歩んでくる。ながあーい瞼が地面まで伸びていた。その顔が鉄であることに 気づいて、ホマーはぎょっとした。化物は両脇を抱えて連れてこられ、ホマーの立っている場所のすぐ真ん前に立った。

「おれの瞼をあげてくれ。見えない!」とヴィイが地下に籠るような声で言った。魔物どもが一斉に駆け寄って、瞼をあげようとした。《見るんじゃない!》――となにやら内心の声が哲学級生にささやいた。が、我慢できなくなって、見た。

「ここにいる!」とヴィイが叫んで、鉄の指をホマーに向けた。そこにいた限りの魔物がホマーに飛びかかった。

小平武訳より)

ホマーは恐怖のあまり死んでしまいますが、魔物たちも一番鶏の声に気付かなかったため夜が明けてしまい、壁に貼りついてしまう、という、大雑把に言えばそんなお話。

……一部昔やってたサイトのコピペですがご了承ください。あと平井肇訳は打つのがめんどいんで略。ご希望あればそのうち。

ってなわけで、上記の引用から分かるように、

A.ウクライナの伝説

B.ノームの親玉

C.長いまぶたで、自分では目を開けられない

D.実際に伝説が存在します

E.まぶたを上げれば普通の魔物が見えないものを見通すことができる

という辺りがヴィイさんの主な特徴とされています。

しかし、今現在、 D.実際に伝説が存在します は研究者の皆様に否定的な見方をされ、ゴーゴリの創作だというのが定説となっている模様。ヴィイそのまんまの伝説と言うのは見当たらないようです。

しかし一方でよく探してみるとヴィイの元ネタ的な伝説はありそうな感じだそうで、今回は諸々から引用しながらそんな話をしてみようかと。

今回はスタイルを変えて、基本的に本や論文を一部引っこ抜いてテキトーに要約し、【】で囲って私の無駄話をくわえてみます。

ちなみに複数回の続きものにする予定なので、今回はヴィイ単体に近いもの、のお話。

ストーリーでヴィイにかかわる部分、あるいはヴィイと関連性のありそうな伝承なんかは、次回以降にまわすことにします。

1.ソロデヴィイ・ブニオ、早目、他

伊東一郎「《ヴィイ》――イメージと名称の起源」 (『ヨーロッパ文学研究』第32号 早稲田大学文学部、1984)によれば、スラヴ近辺には、一人で目が開けられない、あるいは目隠しをされているため普段は周りを見ることができない神話的存在が伝わっています。濃い眉毛と目に貼りついたまぶたを持つソロデヴィイ・ブニオ*1、目隠しをされている<早目>*2、巨大な眉毛と長いまつ毛を持つ老人*3などがその例です。彼らの目を開けるには熊手で持ち上げる、というパターンが多いようです。

【この目を開けるため熊手(特に鉄のくまで)で持ち上げるというパターンは後にもいくらか出てきますが、スラヴの方ではよく出てくるモチーフのようですね。ちなみに熊手と言っても、酉の市なんかの熊手とは多分またちょっと違うんじゃないかなぁ、と。私もあんまりイメージ湧きませんが。こんな感じなのかな?→】http://rodnovira.ucoz.ru/Bogi/viy2.jpg 


閉じられている目を開けると、ブニオは町や村を灰に変えて滅ぼし、<早目>は見たもの全てに火をつけてしまうのだとか。ちなみにこれらは夏の稲妻(モルガウカ)の擬人化である、という説もあるようです。

【ちなみにソロデヴィイヴィイは今回の話の主人公であるヴィイとは綴りが違います】

これらの伝承を「ヴィイ」として紹介している本もありますが*4、その記事の原典*5を当たると「ヴィイ」とは一切書かれていないようです。

また、ロシア民話「イワン・ブィコヴィチ」に登場する魔女の年老いた夫は、地下にいて長いまつ毛と濃い眉毛が顔にかぶさっており、十二人の大力無双の勇士が熊手でまつ毛と眉毛を持ち上げないと何も見ることができません。この魔女の夫とヴィイのイメージの類似は早くから指摘されてきたようです。熊手などで人に目を開けさせる、というモチーフは他にもロシア民話「ワシーリイ王子」の<獅子王>や白ロシア民話「プラズ・イリュシク」の皇帝プラジョルなどにも共通するようです。

【特に魔女の夫との関係が取り沙汰されるのは、地下にいるというイメージがよりヴィイと類似しているからでしょうか?】

逆に「イワン・ブィコヴィチ」の方が「ヴィイ」から影響を受けたものである、という仮説もあったようですが、スラヴ全体にモチーフが広がっていることから、この仮説は支持しがたい、というのが筆者の意見。

ちなみに上記のような「ヴィイの方が伝承より先」説が出てきたのは「ヴィイ」執筆以前に公刊されたフォークロア資料にはこうした存在について言及がなかったためだとか。

【「大工と鬼六」という話は北欧の昔話が明治時代に翻案されたものであるにもかかわらず、いつの間にかそれが土地に根付いた昔話のように語られてしまっている、という例もありますので。まぁあんまり関係ないですが。】


そんなわけで、属性と名称がヴィイと合致するものは今のところ伝承からは発見されていない、ただしヴィイの姿を彷彿とさせる悪魔的存在はウクライナを含めほとんど汎スラヴ的に知られておりゴーゴリは恐らく漠然とにせよそれらの知識を持っていただろう、というのが筆者の結論。

ちなみに、名前と属性が近いもので言えば、眼差しで人を殺す力を持つヴィラという女性の妖精が西・南スラヴに伝わってはいるものの、まつげや眉毛やまぶたで目が隠れているということもないようです。またヴィイは男性名詞ですが、男性のヴィラは存在せず、仮にヴィラが男性名詞となってもヴィレニャク、ヴィレニク等となってヴィイという形にはならない、意味としても「ヴィラに愛された人間の男」という意味なんだとか。

2.聖カシヤーン、ブニャク

【そんなわけで長らくこのソロデヴィイ・ブニオ他がヴィイの元ネタであろう、という説が主流だったんじゃないかと思う(というか、単に他にあんまり説が出てるのを見かけない)わけですが、10年ほどしてまた別の方面からの説が登場します。】

栗原成郎『ロシア民俗夜話』(丸善ライブラリー,1996)では、ヴィイに類似した伝承としてロシア正教の聖者であるカシヤーンが挙げられています。

聖人にはいずれも記念日がありますが、聖カシヤーンの記念日は2月29日、つまり4年に1回しか存在しないんだとか。聖カシヤーンはサタンの側についた、また貧者に無慈悲であったとされています。また別の伝承ではカシヤーンは農夫であり、聖者をも騙す詐欺師として語られています。いずれにせよ、ロシアの人々はこの聖者に否定的なイメージを持っているようです。

更に、カシヤーンは「彼に睨まれたものは全て死ぬ」「彼に睨まれた人間には大きな不幸が起こる」邪眼の持ち主だったともされます。ウクライナの伝説で彼はこう言われています。

「カシヤーンは膝に届くほどに長いまつ毛を垂らしていすの上にじっと座っている。その長いまつ毛のために彼はこの世界が見えない。うるう年の二月二十九日の朝に限って彼はまつ毛を上げて世界を見回し、その時彼に睨まれたものは滅びる。」カシヤーンの被害を避けるため、農民達は二月二十九日、特に日の出前は外出を避けたとか。他にも、彼が風を統御して疫病をもたらす、地獄の門番である、悪魔、悪鬼と深い関わりがある、などといった伝承が存在するそうです。ちなみに著者は、聖カシヤーンは冬そのものを象徴していると考えている模様。

【地獄=地下(地獄が地下じゃない可能性もないではないですが)にいて、目が開けられず、目を開けた時には災厄がもたらされる。なるほどヴィイに類似しています。】

また、ウクライナ伝承には「疥癬かきの」ブニャクという話があり、これまたカシヤーン・ヴィイと類似しています。

「ブニャクはまぶた(あるいは眉)が異常に長く、何かを見たいときには二人の人間が大熊手で彼のまぶたを持ち上げねばならなかった。彼の目で見られたものは全て死ぬ。ある日、自分の目を鏡で見たブニャクは恐ろしさの余り地の下へ転げ落ちた。地の下に落ちたブニャクは悪魔とすり替わった。」

【また熊手で持ち上げてもらうパターンです。】

ゴーゴリの「ヴィイ」には(同書ではヴィイ伝承か創作かは言及していませんでしたが)これらの伝承が影響を与えていたんではないかなー、というお話でした。

【「ブニャク」は先述の「ブニオ」さんと親戚でしょうか? ブニャクさんの綴りがわからないので何とも言えません。教えて詳しい方。】

3.で、結局何が言いたい訳?

【つまり、ヴィイという名前も、そのまんまの伝説もなさそうですが、いずれにせよ似たような話のパターンがいくつもあり、ヴィイがそれらのうちどれか、またはいくつもからイメージを借りてきているというのは恐らく確実なんじゃないかと。そのうち一つが聖人だってのは面白いですね。】


【ついでに蛇足。

ブニャクの話から思い出されるのがケルト神話に出てくる邪眼の持ち主、バロール(バラー、バラール)です。彼も邪眼と共に巨大なまぶたを持っており、これを開けるには熊手や滑車が必要でした。この邪眼に睨まれたものは命を落とすと言われていたそうです。そんな彼も最後は目を貫かれて(弓矢、石、鉄の棒などの説がある)殺されてしまいました。ちなみに邪眼は片目だけであり、もう片目については「普通だった」「元々片目だった」「後頭部についていた」と諸説あるようです。

邪眼・邪視についてはあまりに広く、深いので今のところ私の手には負えませんが、たびたび出てくる熊手で目を開ける、というのは、邪眼にある程度共通するモチーフなのでしょうか。】

【次回予告! ヴィイってノームの親玉って言ってるけど実際ロシアノームとかいるの? 結局まつ毛なの眉毛なの瞼なの? ヴィイってどういう意味なのさ? などの疑問に答えたり答えなかったりするよ!】

*1:アファナーシェフ『スラヴ人の詩的自然観』第1巻(1865) ウクライナのポドリア地方の「ヴィイ」として紹介

*2:W.ラルストン『ロシア民衆の歌謡』(1872) こちらにも類例としてセルビアの「ヴィイ」が登場、ただし注2の本からの引用。地域をセルビアとしているのは誤解に基づく?

*3:同上

*4:注2・3参照

*5:『祖国雑記』1851年7月号の記事「ポドリアで発見されたスヴャトヴィトの偶像」、ポーランドクラクフの新聞『時』の記事を翻訳したもの

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