アヌシー2013 短編コンペ3雑感

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Trespass (Paul Wenninger) 今年のアヌシー本体は「アニメーションの再定義」をひとつのテーマに掲げていましたが、この作品はそういう観点から選ばれたもののように思えます。全編ピクシレーションの作品で、監督の本業は舞踏家、アニメーション初挑戦です。監督本人が自分の部屋で日常を過ごしていくなかで、背景は様々な時空間を行き来します。それは可能世界の描写にも、もしくは過去の追憶にも見えますが、とにかく、日常が穏やかに侵犯されていきます。最終的には自宅のセットも解体され(ここらへんLonely Bonesとも少し共通)、ベースとなっていた日常自体の虚構性も明らかになるわけで、こうやって書き出していくとかなりオーソドックスな構造を持った作品に見えますが、監督本人の存在感と、基本的にインドアな昨今のアニメーションと比較すると正反対のロケーション設定が、作品に力強さを与えています。なかなかの力作。

The Event (Julia Pott) 昨年ウェブ上でリリースされた際に話題になった、ジュリア・ポットの新作です。彼女についてはいろいろ書き散らしているのでここでは控えますが、大きなスクリーンで、お祭り気分の客席のなかで観るには不向きな作品だなと感じました。もう少し静かで密やかな空間に向いている。上映後ジュリア・ポットの名前がアナウンスされましたが、本人は登場せず。

Maman (Ugo Bienvenu, Kevin Manach) この作品はちょっとした衝撃作でした。郊外の家、ママンの絶叫で始まるこの作品は、「コヴァリョフ『ミルク』の登場人物が運動神経抜群だったら」というような一家族の断片的なスケッチの集積のような感じというのが一番しっくりきます。この2人組の独特な動画感覚・デザイン感覚は、このPVを観れば存分に分かってもらえるのでは。日本だと水野健一郎が近い雰囲気を持っているか。面白い作品でした。MIYU PRODUCTIONS…気になる

Dog Skin (Nicolas Jacquet) 3年前の広島で選考委員をやっていたニコラ・ジャケの新作。大山慶を思わせるような写真のコラージュで、肉の不足する近未来を舞台に、IDを手に入れて人間になり肉にありつこうとする犬の話を語ります。後から出てくるジェレミー・クラパンの新作と並んで、アニメーションが提示する人間は本当は人間ではありません、という至極当たり前の事実をストーリーテリングのなかに組み込む冷徹さとクレバーさのある作品でした。移民の問題なども思わせつつ、人間が人間と認められることの曖昧さにも踏み込んで考えさせてくれました。面白かった。

Zounk! (Billy Roisz) この作品も「アニメーションを再定義しよう」枠。ザグレブのコンペに入っていそうな作品がアヌシーにしれっと入り込みました。ただ、コンセプトはまだしも作品自体の出来は…

The Caketrope of Burton's Team (Alexandre Dubosc) バルタの作品と並んで、なぜコンペに入っているのかが分からなかった作品のひとつでした。ケーキを使ったゾートロープで、モチーフはティム・バートン作品から借りているのですが、とくに唸らされたりニヤリとさせられるところもなく…

Kick-Heart湯浅政明) Kickstarterでの制作資金集めが話題になった湯浅監督の新作です。湯浅政明は海外のアニメーターにはかなりの人気があって、上映後の本人登場ではかなりの盛り上がりを見せていました。日本の商業畑の人の作品が短編コンペに入ると、良い意味でも悪い意味でも違和感を残していくのですが、それは単純にフォーマットが短編業界では見慣れぬものだからで、この作品でいえば、オープニングがあるというのが新鮮でした(他のコンペ作品にはありませんでしたから)。作品本編は、覆面プロレスラーの秘密と恋の話で、後半になるに従ってグルーヴ感が出てきて、オオルタイチの不思議なビートもかみ合って、もっと観たい!という気分になりましたよ。(僕は湯浅作品好きなんですよ。)続編あるっぽい終わり方してましたが。

History of Pets (Kris Genijn) 子どもの頃に買ったペットたちの死に捧げられたコメディ・レクイエム。あんまり覚えてないんですけど、軽快な作品でした。

Les Souvenirs (Renaud Martin) 『つみきのいえ』を思い出さざるをえないイントロのこの作品は、痴呆症にかかった妻を現世に引き止めようとする老人の夫の話。かわいらしい動物たちとして出ていく過去の思い出を追ってどこかに消えてしまいそうになる妻の姿は、コミカルなんだけれども途方もない悲しみを秘めつつ描かれます。残酷かつラフな抽象感のバランスがとても良い作品。

A Monster in the Reservoir (Sung-Gang Lee) 『マリといた夏』のイ・ソンガン監督の新作。湖に住む怪物と少女の時を経た交流の話で、なんというか、とても普通のファンタジーで、いかにもな語り口で進んでいったので、なんというか、普通だなと思いました。

A Girl Named Elastika (Guillaume Blanchet) 画鋲と輪ゴムを使った手間のかかった立体作品でした。観ることがすべてを語る作品。いかにも動画サイトにあがってそうな作品ですが、そうでもなかった。

次はコンペ4です。