押井守監督『アサルトガールズ』〜フード理論と押井守〜09年末特別更新(2/2)

 さて、09年末特別更新に付き日付をまたぎ連続更新である。ゼロ年代も残すところあと20数時間!。やはり09年の締めくくりは押井守監督の最新実写作品『アサルトガールズ』で良いのではないかと思い、12月30日にテアトル新宿にて鑑賞してきた。


テアトル新宿の玄関前掲示板には押井監督の直筆メッセージが。


*2001年公開の実写映画「アヴァロン」。

 世界の押井守監督の実写作品といえば、2001年公開の『アヴァロン』が近年最も有名なのではないか。管理人もこの作品を劇場で観て、本編もさることながら川井憲次氏の音楽のカッコいい事に痺れ、即効でサントラを買いに行ったという小エピソードがある。端的に言ってしまえば、本作はこの『アヴァロン』の世界観をベースにした「アヴァロン2」いや、「アヴァロン外伝」と言った方が正確かもしれない。(これはネタバレでは無く公式サイトに「アヴァロン(f)の世界」と明記してある)何故外伝なのかと言えば、後述で詳しく述べるが「アヴァロン」がポーランドで一大ロケを敢行し、登場する俳優も全て白人で揃えた所と違い、本作に登場する人間は全て日本人であるからである。前作「アヴァロン」の世界とは断絶しているようで断絶していない。しかし、かといってその後継でもない日本人オンリーが登場するところから、本作は「アヴァロン外伝」と言えよう。

 例によって成るべくネタバレにならないように書くが、一切の情報が必要なしと判断される読者諸兄は読み飛ばしていただいて結構である。さて、一言で言えば今回の『アサルトガールズ』は低予算映画である。『アヴァロン』の様な派手な演出、派手なCGの多様は後退している。恐らく不景気のせいなのだろう、ロケも伊豆大島で行われた*出典トイガンJP(ロケ地ついてに詳しい)09.10.29との事。というか、本作の舞台は100%伊豆大島のロケ地上でのストーリ構成であり、そこにCGを載せることで最小限の予算で最大の劇的効果が発揮されるよう工夫がなされている。どうしても、登場人物たちが一箇所の舞台から動かないと、世界観の広がりが表現し辛いが、そこは押井監督、冒頭部分のまた実に押井守的な世界観の説明が巧妙である。押井監督をして、経済成長が長期に渡りゼロかそれに限りなく近い現代日本「新たなる中世」と形容したのが実に押井的でいて的確な表現である。

 さて、本記事の副題である〜フード理論と押井守〜であるが、その前にそも「フード理論」とは何ぞや、と言うことについて簡単にご説明申し上げたい。「フード理論」とは、管理人が尊敬してやまないライムスター宇多丸師匠がそのラジオ、TBSラジオの「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」2009年10月31日に於いて紹介した、映画・アニメのストーリー構成におけるある法則である。それは、作中に登場するフードつまり「食」は、登場人物の人物相関(キャラクターの位置づけ)と密接に結びついている、というもので、詳しくは菓子研究家の福田里香氏が同番組内においてゲストとして招聘され、その理論を世界に紹介したのが始まりである。

 福田氏曰く、「フード理論」とは以下の三点から構成される。

【フード3原則】
「1,善人は食べものを美味しそうに食べる」
「2,正体不明者は食べものを食べない」
「3,悪者は食べものを粗末に扱う」

(追加「食べものでたわいもないギャグをするのは憎めないヤツ」)

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 「フード理論」について詳しく知りたい方は全編をポッドキャストにて公開されているので下記を参照されたい!

2009.10.31「お菓子研究家・福田里香さんに聞く!名作の裏に?フード理論″あり!!」(前編)
2009.10.31「お菓子研究家・福田里香さんに聞く!名作の裏に?フード理論″あり!!」(後編)
黒澤明七人の侍」を具体例に、細田守監督「サマーウォーズ」、宮崎駿監督「天空の城ラピュタ」まで、「フード理論」を適用するとアラ不思議!この法則がいかに的確かが伺え、また映画・アニメを観る際の新たなる指標を提示してくれるであろう。これマジで、アニオタのみならず必聴の価値あります。
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 この法則を適用すれば、古今東西あらゆるアニメ・映画を自在に評することが出来よう。例えば、宮崎駿監督の「天空の城ラピュタ」に於ける最も著名なフード場面は、パズーとシータが地下の坑道に潜り、そこで食パンに卵焼きとベーコンを乗っけて「じゅるり」と食うシーン、


*ああ…思い出しただけで腹が減ってきた。

 である。「フード理論」的に言えば、この時点でパズートシータには真の理解と連帯が生まれ、まごうこと無き「善人」であることが描写される。(実際にその通りである)そして、パズーが実質的に「手切れ金」のニュアンスを持つ金貨を握り締めて一人自宅に帰った時、不逞にもドーラ一家が占拠して肉を「もっしゃもっしゃ」言いながら喰らい付くシーン、「肉を旨そうに食っている」このドーラもパズーを門柱に縛り付けたりしているが、フード理論的に言えばまた善人である。(実際にその通りである)また、パズーが飛行船(タイガーモース号)の中で船員と一緒にがつがつ豚のように喰らい付くのは、共に食卓を囲む仲間、すなわちパズーがドーラ一家の仲間に入ったことを意味するという。(実際にその通りである)


はじめ人間ギャートルズ的な骨付き肉を実に旨そうに食うドーラ(善人)。実に高コレステロール食、ドーラの健康が心配である。

 福田氏曰く、ラピュタ冒頭でパズーが板場で肉団子を詰めて、親方に持っていくシーンがあるが、そこで親方はその場では肉団子に手をつけず、缶(容器)ごと持って作業場から消えていく。ここには、パズーと親方との心理的距離、すなわち実際の親子ではないという部分と、父親を亡くしたパズーの心の孤独と空虚感を表現する見事な演出であるという。正しくその通りである。そして極めつけは、実はラピュタに於いてムスカに食事シーンが無い!ムスカはただの1カットも、飯を食ってる描写が皆無なのである(何故なら悪人だから)。いや、脱帽です。その通りであります。(詳細は上記のポッドキャストを)


天空の城ラピュタでは、パズー・シータ・ドーラ&その子分&じっちゃんはあんなに旨そうに飯を食う(善人)なのに、何故かムスカ(及びその子分、将軍等)だけは一切食事シーンが無い(悪人)。まさにラピュタには「フード理論」の3原則が貫かれている。



 さぁ、説明が長くなったが、この「フード理論」を本作、『アサルトガールズ』に照らし合わせてみよう。確信犯的に、今回押井監督はラピュタの上記シーンを意識していると思うのだが、本作で唯一登場する男性キャラ・イェーガー(藤木義勝)が、粗末なフライパンを焚き火にくべ、カリカリのベーコンの上に半熟の卵焼きを載せ、ナイフで切った食パンを皿にしてパズー宜しく「じゅるりがつがつ」と本当に美味そうに食うシーンがある。と、それをグレイ(黒木メイサ)が「野営の真似事をしている暇は無い」とか何かいって邪魔をする。「フード理論」的に言えば、イェーガーは善人、グレイは悪人なのであるが、本作を見ればわかるが、正しく黒木メイサは悪人というオチなのである。

 本作では、基本的に実体としての登場人物が4名しか居ない。グレイ(黒木メイサ)、ルシファー(菊地凛子)、カーネル佐伯日菜子)、そして先の善人・イェーガー(藤木義勝)である。イェーガーを除く3名は、ファイナルファンタジー的な如何にも「クールで美形なゲームキャラ」として描写されているが、イェーガーだけは泥臭く不恰好で、そして一寸抜けている実に憎めない善人として描写されている。本作のポスターには大きく『菊地凛子』や『黒木メイサ』と銘打っているが、実のところ本作の真の主人公は愛すべき馬鹿・イェーガー(藤木義勝)その人に他ならないのである。この藤木義勝氏は『立喰師列伝』や『ケルベロス地獄の番犬』等、押井意監督の実写作品の常連であり、実に味のある配役であろう。


*押井実写作品の常連・藤木義勝氏。実は本作の本当の主人公。


 本編を最後まで見れば分かるが、このイェーガーが黒木メイサらに向かって「死ねぇー!このクソアマどもーー!!」と絶叫してライフルをぶっ放すシーンがあるが、こここそが本作の全てを象徴していると言って良い。例え虚構の世界でもクソアマは万死に値する。これに尽きよう。

 本作は非常にコンパクト且つ緻密で、そして実に笑える映画(というかB級です)であり、それで居て流石押井守監督らしい構成の怪作である。ちなみに、本作でも押井監督定番の犬が登場する。しかし、今回はバセットハウンドでは無く柴犬である(ネタバレに非ず、何故なら1カットのみだから)。加えて映像美でも押井節は健在で、ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」「オリバー・ツイスト」宜しく、雲の切れ間から後光が指すかの如き、まるで中世の宗教画のような空の画面は押井監督の研ぎ澄まされたセンスが画面から滲み出ていた。現在のところ全国の上映館は少なめだが、読者諸兄に於かれては是非とも劇場に足を運んでいただきたい。
 

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 ということで、「アニオタ保守本流ゼロ年代最後の更新です。因みに2009年度のベストアニメは1位『マイマイ新子と千年の魔法』2位『空中ブランコ』3位『東のエデン』(TV)でありましょう。2位と3位はタイでも宜しい。折角なので、珠にはアニメに拘らず映画のマイベスト3を挙げたい。

1位「アンヴィル!夢をあきらめ切れない男たち」(サーシャ・ガバシ監督)公式サイト
2位「スラムドッグ$ミリオネア」(ダニー・ボイル監督)
3位「イングロリアスバスターズ」(クエンティン・タランティーノ監督)

1位の「アンヴィル!〜」は本当に素晴らしいドキュメント映画だった。全くアニメとは関係ないが、是非ともオススメ、騙されたと思ってDVDが出たら必ず観ていただきたい世紀の名作であり、批評界を始め映画界等の各界から絶賛の嵐である。「負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、継続すること。駄目になりそうな時それが一番大事」。この映画から今年は多くの勇気をもらった。号泣するので、是非ともハンカチーフのご用意を。『継続こそ力なり』。最早陳腐化したフレーズだが、これこそは普遍の真実である。2010年は益々精進してまいりたい。勿論ラジオもであります。それでは、読者諸兄の皆様、良いお年を。そして2010年も引き続きご愛顧の程、宜しくお願い申し上げます。(アニオタ保守本流
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