さようなら小林よしのり先生

 ツイッターなどでは告白しておりましたが、私は小林よしのり先生の大ファンでありました。中学の時に読んだ『戦争論』で薫陶を受けた小生は、中学校二年生の時に小林よしのり先生へファンレターを書いたものです。

 その小林よしのり先生に、最近お会いする機会がありました。半年ちょっと前でしたが、ある機会があって小一時間ほど一緒の場に居られたことは幸せでございました。その時に、「僕、中学の時、先生にファンレターを送ったんですよ」と言ったら、もちろん小林先生は覚えて居るはずもありませんでしたが、喜んでくださいました。加えて「チャンネル桜は、好きも嫌いもなく、単に見ていない」と仰ったので、当然僕の事など知る由もありませんでした。

 さてそんな小林よしのり先生ですが、2012年6月11日のゴー宣道場ブログに『AKB48フォーマットはアジアを制覇するか?』と題して、AKB48インドネシアでも流行っている(と本人は主張している)事を念頭に、次のような記事を書かれていたので引用いたします。


=======引用開始(太字はブログの原文ママ)======
ネトウヨどもは、AKB48に熱中するわしを「とうとう発狂した」とか、「戦争論は偉大だったが、今やAKBのヲタ」とか、「誰か病院紹介してやれ」とか、「秋元康電通の商法に引っかかってる」とか、ありとあらゆる罵詈雑言で中傷する。

だがAKB48には、実は日本の国柄がぎっしり詰まっているからこそウケるのであり、その日本的価値観のままで、秋元康氏はアジアにAKBのフォーマットを拡大しようとしていることに、ネトウヨ・バカウヨは気づかない。

ニセモノの愛国者だからだ!彼らは日本とは何かを知らない。

元々、日本に関心などなく、弱者のルサンチマンを「愛国」で厚化粧し、「日の丸」を掲げて選民意識を持つことでしか、彼らはアイデンティティーを保てないのだ。

それはかつてのオウム真理教の信者とよく似た選民意識だが、正確にはもっと弱い自己を隠すために在日「陰謀論」をカルト信仰にして、排外的な攻撃性をむき出しにしている。

「かわいそうな人たち」「気の毒な人たち」とみんなに思われているのに残念ながら気付かない「残念な人たち」、それがネトウヨ

意識的なのか、無意識的なのかわからないが、秋元康氏は「大東亜共栄圏」を文化で実現しようと壮大な実験を開始している。

それにニセモノ愛国者ネトウヨ・バカウヨは全然気づかない。だが不思議なことにリベラルと思われる濱野智史氏や宇野常寛氏が、この「AKB48大東亜共栄圏構想」を屈託なく支持している。

https://www.gosen-dojo.com/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=1095&comment_flag=1&block_id=736#_736
2012.6.11 『AKB48フォーマットはアジアを制覇するか?』より
=======引用終わり========


私は、小林よしのり先生が、AKBの大ファンであることを批判しているのではありません。小林先生は過去に、「若い女の子よりも演歌歌手とか薄化粧の中年女性の素朴な性にチンピク無限大」とか言っていたので、年とともに趣向が変わったのだろうな、という印象しか有りません。

問題なのは、なぜ先生は徹底的に人を馬鹿にするのか、ということです。ネトウヨという人が仮にいるとします。いるとしても、ここまで徹底的に、剥き出しの憎悪を向ける小林先生の心情とは一体何であるか。フジテレビデモに集まった大衆を、「無職、低所得、ニートの吹き溜まりがデモをしている」と言った時もそう思いましたが、馬鹿にするならするで、普通ここまで、心底からの敵愾心を吐露したりするのは一寸異常です。

それはつまりこういうことなのではないですか。上記の小林先生のブログ記事の「在日」の部分を「ネトウヨ」に置き換えてみるとよくわかります。

それはかつてのオウム真理教の信者とよく似た選民意識だが、正確にはもっと弱い自己を隠すためにネトウヨ陰謀論」をカルト信仰にして、排外的な攻撃性をむき出しにしている。

まさに「ネトウヨ」という人々に向けられる人々への蔑視と敵愾心は、先生自身の選民意識と劣等感そのものと表裏一体なのではないか。一読者としてそう思わざるを得ない。

昔の先生は人を見下すということ、特に読者を見下すということをしなかった。手塚治虫先生も「読者を馬鹿にしてはならない」といっています。それは兎も角、昔の小林先生は、読者を馬鹿にするのではなく、自分を馬鹿にしていた。そうして自分を道化の一種として客観視することにより、自分を相対化させていた。それがゴーマニズム宣言最大の魅力であって、ゴーマニズム宣言が思想評論漫画でありながら、と同時にギャグ漫画としても何より秀逸であったことの証です。先生はそれを無自覚的かわからないがやっていたが、いまはそれがない。漫画としてもう無価値だと思います。

繰り返しますが、私は小林よしのり先生がAKBオタになったから批判しているのではありません。ちなみにこのAKBの件についてですが、最後に私が尊敬する村上龍先生の『桜の下には瓦礫が埋まっている。』から文章を引用して終わります。


======引用開始======
多くの若い男たちがAKB48によって生きる希望を得て、自殺を考えなおし、通り魔でもやってやろうとした気持ちを和ませて、日本社会の治安にも貢献し、握手会参加券を買うために一生懸命アルバイトに励むことで日本経済の下支えになっているのかもしれない。

だが、違和感はある。多くの若い男達が騙されているような気もする。AKB48がアートとは無縁のまがいものであるとかそういった意味ではない。

現状を批判したり否定したりしないように、つまり多くの若い男達のエネルギーや怒りを削ぐ機能を、「結果的に」AKB48は果たしているのではないかと思う。怒りを忘れたアホになるように仕向けられている気がする。

村上龍『桜の下には瓦礫が埋まっている。』P46より
=======引用終わり=======



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