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(元)だめ大学生日記2.0 RSSフィード

2017-10-24-Tue

最近のもの

充たされざる者」はノーベル賞作家カズオ・イシグロの作品で、著名な演奏家であるライダー氏がとある町の演奏会に招かれた際の混乱を題材にしている。町についていきなりスケジュールがわからなくなり、人に言われるがままに右往左往する様子が読み手を混乱させる。また、例えばホテルポーターが内心考えている娘との不和をいつのまにかライダー氏が理解していたり、その娘がいつのまにか妻と一体化されていたり、車で遠路はるばる連れて行かれたパーティー会場で扉をあけると実はホテルにつながっていたりと幻想的な記述が多い。しかし、読みづらく感じさせない翻訳がすばらしい。人のコミュニケーションは、結局のところお互いの推測や思い込みで成り立っていて、どこかがくずれるとこの小説の中の世界のように成立しなくなってしまうというようなことを考えながら読んだ。夫婦の不和とそれが子どもに与える影響も、隠れたテーマとして設定されていると思う。

蝦夷末裔」は前九年・後三年の役を書いており、炎立つを読みながら久しぶりに読み返した。史料に限りがあるなかで異本版の吟味をしたり、清原貞衡の正体を考察したりと、著者の考えが多々書かれている。前九年の役で名をあげた源頼義について凡将と評するのもそうなのかなと思わせる。

炎立つ」は1993年大河ドラマ原作藤原経清から奥州藤原氏の滅亡までを題材にしており、藤原経清と安部一族、清原一族、藤原三代の側を主人公にして書いている。特に、最終巻は藤原泰衡がメインとして扱われており、藤原三代の栄華をぶちこわしにした藤原泰衡というイメージを崩す描き方である。どうやっても頼朝が攻め込んでくることを悟り義経を密かに逃がして身代わりの首を頼朝に届け、また、奥州攻めに際しても、奥州十七万騎を解散させ、抵抗せずに藤原一族だけが責めを負うことで、陸奥の民全体を救ったということになっている。とはいっても、前半に比べて後半の駆け足感が否めないのも事実。前半の中盤、前九年の役黄海の戦いのあたりが特に面白く読ませる内容。源義家も魅力的に書かれている。

鉄砲を捨てた日本人」は30年以上前に書かれた本で、もはや古典戦国時代には鉄砲作成の技術が向上し、用兵面でも長篠の戦いのように鉄砲を最大限に活用し、当時のヨーロッパのどの国よりも鉄砲の本数が多かった日本が、江戸時代に入ると鉄砲の開発を放棄し、数も減っていき、刀剣の世界に戻ったという。なぜかというと、刀剣とは異なり、飛び道具は卑怯という意識日本にあったことだとか。鉄砲は手放しつつも、江戸時代に他の技術は着実に進歩しており、軍縮技術進歩は併存が可能であるというのが著者の主張。しかし、江戸時代鉄砲を放棄したというのも、戦いがないために単に需要がなかっただけなのでは。百姓は鉄砲を鳥獣対策として持っていたという話もあるし、鳥獣対策としては火縄銃で十分だっただけとも思える。問題提起としては面白いが、これを鵜呑みにして江戸時代をただ礼賛するのはどうか。

アイヌ学入門」はアイヌ風俗宗教などについても言及していて網羅的だが、後半はあまり興味がもてなかった。著者は考古学の立場からアイヌについて研究していて、オホーツク人の南下とともにアイヌ仙台新潟のあたりまで南下し、その後また北上していったこと、9世紀頃に三陸あたりから石狩へ移住があったことなどが紹介されている。また、アイヌ民話に出てくるコロポックルは、北千島のアイヌとの沈黙交易モチーフになっているそう。自然とともに生きているアイヌという姿ではなく、様々な相手と交易をし、相手から様々なものを取り込んでいくアイヌ像が書かれている。奥州藤原氏北海道で金の採掘をしていたのではないかという指摘も興味深い。

家族の樹」はミッドウェー海戦で戦死したアメリカ人飛行士家族の話が中心で、その他、飛龍と三隈からの漂流者で捕虜になった日本人についての小編もついている。取り上げられているミッドウェー海戦で戦死したアメリカ人飛行士は、戦死直後に息子が産まれ、その息子もベトナム戦争で戦死している。澤地久枝ミッドウェー海戦の全戦死者の名前を調べているが、親子二代で第二次大戦ベトナム戦争で戦死しているケースは、判明しているのはこの1件だけなんだとか。イタリアから移住してきたこの一族の成り立ちから、戦死後の残された家族の様子まで丁寧に書かれている。

安土往還記」は、織田信長に気に入られたイタリア生まれの船員の目を通して信長を描いている。「事が成る」ことに心血を注ぐ、孤独決断者としての信長像がおもしろい。そのような信長にとって、危険を顧みずに海を渡って布教に来る宣教師や船員は共感できる相手。作品中には実は「信長」という単語は一言も出てこない。安土城の豪華絢爛な様子が目に浮かんでくる。信長を題材にした小説は実はあまり読んだことがなかったように思うので、秋山駿信長も読んでみたいと思う。

「幻の女」は1942年に書かれた古典サスペンス。前半の軽快な調子が徐々に重たくなっていき、終盤で、恐怖が首の周りを包んだとくるあたりはぞっとする。しかし事前にあらすじを知っていたから予期しながら読めたが、何も知らずに読んだら最後のどんでん返しまでだまされるはず。戦争中にこういう小説が出る国と戦争していたら負けるはずだと感じました。

ミレニアム4」はミレニアム1〜3までとは著者が違うが、同じような雰囲気で書かれていて世界に入りやすい。主人公の後輩がかませ犬のように捕らえられて死んでしまうのがかわいそう。

2017-10-14-Sat

最近のもの

奥州藤原氏」は、著者の東北古代三部作の最後の作品。藤原氏についての文献史料が少ないため、京都の貴族鎌倉幕府側の史料から読み解くしかない。限られた文献を頼りに藤原三代の流れを解説している。頼朝がどうしても藤原氏を滅ぼしたかったのは、先祖代々の、藤原氏源氏御家人だという意識があったからだとか。藤原氏にとっては、征伐の名目をつくる義経は迷惑ものでこそあれ、ありがたい英雄などではなかったんだろうと思う。中尊寺に収められている藤原三代のミイラの調査結果についても触れられていて興味深い。

鎌倉幕府〜」は、昨年一度読みかけたものの、読みづらく感じて途中で投げ出したが、改めて読むとそれなりに面白い。通史記述の章が中心だが、鎌倉時代裁判や土地の相続について書いた章もあり、具体的な事例が紹介されている。12世紀の大規模開墾時代には分割相続が機能したが、開田の余地がなくなってくると分割相続では立ちゆかなくなり、また、合戦などで没収した土地の再配分も余地が少なくなったため、結果として裁判が頻発したんだとか。通史部分は、天皇将軍執権の名前がややこしくて覚えきれないが、なんとなくの流れを整理するのには良いと思う。モンゴル襲来の様子も比較的詳しく書かれているように思うが、壱岐対馬の戦いの様子などは一切書かれておらず、事件や戦いの記述が少ない最近の通史だなあという感じ。

「生きて帰ってきた男」は小熊英二の父親、賢治からの聞き取りをもとに再編成したもの。同氏は昭和19年に19歳で徴兵されて満州で終戦を迎え、チタでシベリア抑留生活を送った。帰国後も結核にかかったりかなり苦労した後、多摩地方でスポーツ用品店を営むことで高度経済成長の波に乗り、今に至るというもの。シベリア抑留時代だけではなく、日本に帰ってからの苦労や高度成長期の様子まで書いているのが特徴的。平均的な人生かというとそうではないのかもしれないが、戦中戦後を生きた一人の人の人生が浮かび上がってくる。シベリア抑留時代の同僚として、間島地方の朝鮮人で終戦直前に徴兵され、戦後同様にシベリア抑留された人が出てくる。満州国内の朝鮮人徴兵されていたというのは知らなかったが、国外に住んでいる日本国籍所有者という整理をしていたのだろうか。これを読むと、従軍した朝鮮人に対して恩給や補償をしない現行制度について疑問が浮かぶ。

江夏の21球」は有名なスポーツノンフィクションで、文章に引き込まれる。短編集で一つ一つの話が印象深い。村山実から長嶋ホームランを打った天覧試合にからめ、様々な関係者について書いている「異邦人たちの天覧試合」が印象深かった。様々な選手が取り上げられているが、巨人水原監督シベリア抑留経験者、阪神田中監督ハワイの2世で占領時には進駐軍通訳もしていたとか。また王貞治中華民国なので、高校生の時には国体に出場できなかった。

尾張下屋敷…」は、新宿戸山公園のあたりに昔あった尾張藩の下屋敷の広大な庭園について紹介している本。今も戸山公園の中に箱根山が残っているが、もともとは庭の中に湖をつくったときの残土で山をつくったのが今の箱根山として残っているそう。庭園の中には宿場町もつくられ、将軍などが来園したときには、作り物のお菓子や売り物が並べられたり、水田もあって実際に耕作が行われていたんだとか。広く公開されるものでもなく、お成りの際にしか使われない広大な庭を築く尾張藩の財力がすごいと思う。

河内源氏」は、源頼朝につながる武家棟梁河内源氏を、その始祖から辿っていて、頼朝の父の義朝までを主に扱っている。保元の乱では親子が敵味方に分かれるなど、けして順風満帆ではなかった様子がわかるし、前九年の役後三年の役への関わりも書かれている。摂関家や院など、当時の権力との距離を縮めることが、武士出世にもつながっていったことがよく分かる。

「破軍の星」は北畠顕家主人公架空の、奥州藤原氏末裔を思わせる安家一族も出てくる。新田義貞は、行動すべきところで行動しない優柔不断な存在として扱われており、足利尊氏は、敵ではあるものの武家棟梁としての包容力にあふれた大きな人間として書かれている。連戦連勝の北畠顕家が、最後敵陣に突っ込むところで小説は終わっているが、ものすごく面白い。また、奥州から京都までの強行軍の苦しい様子がよく分かる。北方謙三をはじめて読んだ(と思う)。

日本の歴史14」は、東北北部と蝦夷地琉球、海洋世界の3つを大きく扱っていて、それぞれ別の著者が書いている。特に東北北部の話に興味があり読んだが、前九年、後三年の役からはじまって十三湊の当時の様子、安東氏の繁栄についても書かれている。本土側からだけではなく、北海道側からも南下の圧力があり、戦いに備えるために環濠集落もできていたというのがおもしろい。琉球の関係では、奄美薩摩侵入まで琉球だったものの、直轄として薩摩に取り上げられたという経緯をはじめて認識した。海洋世界の関係では、対馬朝鮮の関係についてかなり書かれており、朝鮮地図と国内の地図での対馬の扱いなど、知らないことが多かった。冒頭で、外ヶ浜のことを詠んだ句をとりあげて外と中を区切る排外的な思想と断じたり、ところどころ、主張に?がつくが、紹介されている内容そのものはどれも面白い

2017-09-23-Sat

最近のもの

「贈与の歴史学」は、主に鎌倉室町時代の贈り物のやり取りについて分析されている。テーマはマイナーだが文章が読みやすい。徐々に経済化されていき、AがBに折紙として送ったものが、BがCにその折紙を贈与すると、AはCに現物を贈与する責務が生ずるなど、一般的な債務と債権のような取扱いがされている。また、贈り物としては馬が送られることが多いが、送られた側も困ってしまうので、そのまますぐに別の人への贈り物にしてしまうというのも面白い

日本中世の民衆像」は網野さんの講演を本にしたもので、文章は分かりやすく読みやすい。平民が負っていた年貢について改めて考え、米だけではなく鉄や海産物なども年貢として扱われていたなど面白い。一方で職人は、朝廷や寺社につながってその役を果たす代わりに年貢を負わない存在だったらしい。

日本の路地」は各地の被差別部落をめぐるルポ。著者は中上健次のように被差別部落を「路地」と言いかえている。自らが大阪の路地出身であることを元に、国内各地の路地をめぐっているが、この都市のどこどこに路地があり、そのルーツは何々だと詳細に記述しているのは、ある種の悪趣味さを感じないでもない。触れられたくない現地の人の心情を逆なでしていないか。著者が育った大阪の路地の様子が生々しく書かれている。

「王政復古」はかなり分厚い中公新書で、王政復古に至るまでの慶応三年の経緯が詳細に記述されている。土佐が、大義名分論、武力倒幕論で揺れ動いているなかで、薩摩が土佐をいいように利用しながら王政復古まで突き進んでいった様子がよく分かる。改めて確認すると、第二次長州征伐が失敗してから1年の間に、大政奉還、王政復古までいってしまうのだから、当時の通信事情の中でのその1年の激動っぷりは想像を絶する。

「秀吉と海賊大名」は、最近明智光秀の本能寺の変の裏には足利義昭がいたと発表した三重大学の教授が書いたもの。ただ、今回発表された書状については、2011年のこの著書にも既に書かれている。秀吉と光秀は、それぞれ三好家、長宗我部家とつながりがあり、長宗我部勢力が衰退するのにあわせ、光秀の勢いも衰えていったのだとか。伊予の河野家が長宗我部家に滅ぼされたという通説に対して反駁したり、後書きでも、豊臣秀吉の惣無事令の存在について疑問を呈するなど、一般に言われている通説に対して異を唱えるスタイルで全体が著述されている。自らの思いや感情が先に立っているように思える。

朝鮮戦争」は、朝鮮戦争テーマとした小説で、北朝鮮の南進から仁川上陸、中国軍参戦、停戦までが良くまとめられている。中国軍の文字通りの人海戦術の悲惨さが良く分かる。最後に内灘闘争が出てくるのが唐突感があるが、内灘闘争を題材にしている小説など今どきなかなか読めないのでこれも貴重。

2017-09-17-Sun

最近のもの

  • 芹沢光治良「人間の運命」新潮文庫
  • 獅子文六「てんやわんや」ちくま文庫
  • 能町みね子「ほじくりストリートビュー」
  • 牧久「昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実」
  • 古厩忠夫「裏日本 近代日本を問いなおす」岩波新書
  • 金子常規「図解詳説 幕末・戊辰戦争中公文庫
  • 佐々木克「戊辰戦争 敗者の明治維新」中公新書

人間の運命」は全7巻の超大作。芹沢本人を思わせる森次郎が苦学しながら帝大に進学、様々な人々との出会い、留学、空襲体験などが描かれている。両親が天理教だったため幼少期から大変苦労した様子がわかるし、いわゆる土俗的なものから抜け出ようと足掻く様子が、戦前の日本の様子そのものに重なって見える。日本版の教養小説で、一度は読んでみるべきだと思う。

「てんやわんや」は、戦後すぐに宇和島でしばらく過ごした著者の体験が反映されているという小説戦争の影響をさほど受けなかった当地の様子や、高知との県境の山地の様子が良く書かれている。話の内容もそれなりに面白い

「ストリートビュー」は雑誌の連載をまとめたもので、雑誌で読む分にはそれぞれ面白い記事なのだが、それがそのままなんの編集もされずに掲載されているので、それぞれの記事が単発で短く、突っ込み不足のまま終わってしまっている感がある。雑誌の連載をそのまま本にしてもダメという好例。

「昭和解体」は国鉄分割民営化の経緯を丁寧に追った大作。敗戦後に引揚者・復員者を大量に受け入れた国鉄は、慢性的に余剰人員を抱える構造のなかで赤字体質を改善できず、徐々に追い込まれていく。当局によるマル生運動は、国労側の反発で不発に終わり、そこで労組側が得た現場協議制度によってさらに労使関係が悪化していく様子が書かれている。遵法闘争やスト権ストなどの様子はほとんど知らないことだったので勉強になった。結局は、悪化した労使関係を、悪い労組と協力的な労組に色分けし、国労を潰すことで総評、社会党の勢力を弱めることが、分割民営化の出発点。

政治との関わりも赤裸々に書かれている。国鉄のキャリア組は「学士」といわれ、その中のいわゆる改革三人組が、臨調や党の国鉄再建小委と密接に連携をとりながら分割民営化に導いていったこと、田中角栄が倒れたことが、国鉄内の「国体護持派」の動きを弱めていったことも書かれている。分割民営化後30年が経過したが、当時の趣旨が体現されたといえる状況なのかどうか。最大の組織いじりの実例として読まれるべきものだと思う。

「裏日本」は昔の岩波新書で、新潟大学の教授が書いたもの。表日本の準周辺としての北陸の明治以降の動きを追っている。当時の巻町の原発住民投票など書かれていて興味ぶかい。

「幕末・戊辰戦争」は、政治的な状況よりも純粋に軍事的な観点から、当時のそれぞれの戦いの様子を追ったもの。軍事の天才と評されることが多い大村益次郎に対する評価が低いのが面白い江戸城開城以降の北関東の戦いはさらっと流す本が多い中で、丁寧に動きが書かれているので勉強になります。

「戊辰戦争」は、何年か前にも一度読んだが改めて再読。奥羽越列藩同盟側から見た戊辰戦争の流れが書かれている。奥羽政権は自分たちのビジョンを持っていたとかなり持ち上げているが、本当にそうだったのか?以前読んだときも感じたが、官軍側も世良修蔵に全ての罪をなすりつけているという指摘が印象的。

2017-07-29-Sat

最近のもの

  • 眦栂へ子「学歴・階級・軍隊 高学歴兵士たちの憂鬱な日常」中公新書
  • 荒井信一「空爆の歴史 終わらない大量虐殺」岩波新書
  • 柴田哲孝「TENGU」祥伝社文庫
  • クセニヤ・メルニク「五月の雪」(小川高義 訳)新潮クレスト・ブックス
  • 鎌田慧「空港 25時間」講談社文庫
  • 坂井豊貴「多数決を疑う 社会的選択理論とは何か」岩波新書
  • エリザベス・ウェイン「コードネーム・ヴェリティ」(吉澤康子 訳)創元推理文庫

「学歴・階級・軍隊」は10年ほど前に一度読んだが再読。著者の旧制高校への嫌悪感はなんなのだろうか。うまれた時代と自らが女性であることに強いルサンチマンを抱いているように見える。著者は、一時期はよく本を出していたが、最近は何をしてるんだろう。

「空爆の歴史」はゲルニカ、重慶、ドイツ、日本への空爆から、イラクへの空爆も含めて幅広く論じている。最初に飛行機を戦場で用いたのはイタリア軍!らしい。植民地で非対称的な戦争を行うための手段として飛行機は効果的だったのだとか。その構図は、近代国家同士の戦いだった第二次大戦を除き、今でも変わらない。

「TENGU」は何も考えずに読める小説。題材は面白いもののストーリー展開がややチープで先が読めてしまう。

「五月の雪」はロシア極東のマガダンを舞台にした短編小説がいくつか並んでいる。強制収容所への入口だった時代は去ったものの、まだその記憶が生々しいような時代のものから、2000年代を舞台としたものまでいろんな話が揃っている。アメリカに移住した娘夫婦をマガダン在住の女性が訪ねる短編が、幸せな娘夫婦や孫娘への複雑な気持ちが良く書かれていて心に残りました。

「空港」は鎌田慧のルポだが、パイロットや整備員、管制官など飛行機に携わる人たちにインタビューした内容をそのまま書き並べている。話されている内容はそれぞれ興味深いのだが、鎌田慧ならではの批判精神は全く見られず、ただ単に書き連ねるだけで、学生でもできそうな内容。自動車絶望工場を書いた人間とは思えない。著者は飛行機が好きらしいが、自分が好きなものを対象にすると舌鋒が鈍る好例ではないか。

「多数決」は、単純多数決がもつ欠点と、それを補うものとしての様々な手法を紹介している。3人候補者がいれば、1位に3点、2位に2点、3位に1点をつけてそれぞれ投票するとか。結構内容は難しいが、単純多数決ではなくてそのような手法を実際にとっている国もなくはないらしい。

「コードネーム・ヴェリティ」は第二次大戦中にドイツ占領下のフランスに潜入して囚われた女性無線電信士を題材にした小説。イギリスから、夜にフランスまで飛行機を飛ばし、レジスタンスの支援や人の行き来を密かに行っていたらしい。ゲシュタポの拷問の様子などおぞましいが、これがヤングアダルト文学として欧米で読まれているんだとか。