真魚八重子 アヌトパンナ・アニルッダ このページをアンテナに追加 RSSフィード

08-03-05

[]西村潔の世界

すいません、先週は気が狂いそうに忙しかったので、シネマヴェーラで現在上映中の「東宝ニューアクション」特集について書きそびれているうちに、西村潔の大傑作『死ぬにはまだ早い』の上映が終わってしまいました・・・。でも、まだ明日一日『ヘアピン・サーカス』の上映があります!前日の夜になんですが、明日お時間ある方は渋谷へ向かってください。同時上映の『薔薇の標的』も、オープニングの血の温度の低そうな格調高さや、機関車の解体シーンなどが西村潔らしいので、観て損はないです。

で、わたしがこの2本をメインに「西村潔論」を書いたファンジン『TRASH UP!!』が、今月下旬くらいには発売になりそうです。なので、明日『ヘアピン・サーカス』を観てその寒々しい世界に不安になった方は、しばらくしたら『TRASH UP!!』をぜひお手にとってくださいませ。

『TRASH UP!!』創刊号内容

・輸入DVDレヴュー(byビデマボーイズ)

・レナート・ポルセリ、裸と猟奇の小宇宙 (by山崎圭司)

・大怪奇映画俳優、ポール・ナッシーの軌跡と奇跡!(by 伊東美和

・フィリピンの映画王 シリオ・H・サンチャゴ(by餓鬼だらく)

・失われた天才、マシュー・ブライト監督の軌跡 (by岡本敦史)

・「MUNSTER」世界(byネモト・ド・ショボーレ)

・日本のミイラを求めて (by柳下毅一郎

・東宝クール・アクション そのビザールな世界(by真魚八重子

・コミック「殺しの落胤」(byうぐいす祥子)

・怪奇マンガ家「川島のりかず」の世界 (by木野下ヨリ太郎)

・「ダークサイド・ミラーズ」ロング・インタビュー(byfunerica)

・「genocide」インタビュー

・アルゼンチン・ロックの伝説 チャーリー・ガルシア(byそらみつ)

・怪奇爆音バンド ギャストリー・ワンズ(by Wild Ox)

・世界のワンマン・バンド(by Money cild)

・ストレンジMUSICレヴュー

コラム:古澤健(映画監督)、バウスシアター武川による「バウス日記」等々・・・

全部で104ページ!さらに、初回分はMIXDVD付き!!

 

詳細は公式ブログで→http://trash-up.blogspot.com/

 

わたしがちょうど西村潔論を書き始めてた頃の該当日記。『ヘアピン・サーカス』で泣いてます。http://d.hatena.ne.jp/anutpanna/20071002

ヘアピンサーカス(オリジナル・サウンドトラック)

ヘアピンサーカス(オリジナル・サウンドトラック)

サントラもちょっとクロスオーバー寄りですが、結構良いです。

[]サントラ2枚

ハウス オリジナル・サウンドトラック

ハウス オリジナル・サウンドトラック

これは絶対買う!大林宣彦監督作品『HOUSE』のサントラです。これを探していた人は多かったよね。CDがなかなか出ないので、アナログ買っちゃった人も結構いたのでは。

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先日買ったサントラCDの感想です。これはかなり良かった。藤本卓也meetsヴェルヴェット・アンダーグラウンドの"Candy Says"って感じ。「ルー・リードの繊細で静謐な曲に、藤本卓也のアレンジが入ってきちゃう」と表現すると一番近い気がする。この日の日記で聞きたい!と言っていた女性ヴォーカルの曲もちゃんと入っていました。でも、ほかは男性ヴォーカルなのですが・・・でもそれはそれで、韓国アシッド歌謡な雰囲気があって良かったです。これはCDですが、LPジャケのデザインをそのままスリーブにした仕様は、たぶん韓国のちゃんとこのアルバムの現代的な価値を理解している、若い人が復刻したんじゃないでしょうか。最近の70年代韓国サイケや韓国アシッド・フォーク(サヌリムやキム・ジョンミとか)の再評価ブームの一環なのでは。開いたときの内写真とか、紙ジャケならではの味わいがあってイイ。これはオススメかも。

 

[]皆がしてるのに、秘密の儀式なことが不意に不思議で―『色情団地妻 ダブル失神』

f:id:anutpanna:20080303205938j:image:leftほとんど映画と関係のない、セックスについてわたしが最近つらつらと考えていたことです。 

『笑い虫』(成人映画館公開タイトル『色情団地妻 ダブル失神』)は最近改名した(「ほたる」でしたっけ?)ベテラン女優・葉月螢さんによる団地妻モノ。

映画としてはとっ散らかってて、尺の都合上、何か物語の一部をカットしてしまったようなのに、映像中に除けきれない破片が残っているあたり、嗚呼ピンク映画だなーと久々に思いました。あと、予算の都合上、団地妻という身近な日常を描いているのに、そこに桃井望の変死事件(燃えた車内から他殺と思しきAV嬢と男の遺体が見つかったアレ)の断片を持ち込む不穏さも、日常からの暗い飛躍が相変わらず新東宝っぽいなあと。奇矯な、あざといと思う演出もありましたし・・・。

ただ、今回観ていて改めて気づいたのは、この作品に限ったことではなく、ピンク映画を観ているとわたしが勝手に陥る、なんでもないカットに日常的な既視感を覚えてフッと気持ちが遠のく状態があることです。今回もヒロインの夫のボサボサした頭を若干斜め後ろから捉えた、あまり意味の無いカットがあり、部屋の中でそうやって身近な人の頭をボンヤリ眺めていたことがあった気が一瞬して、自分の日常の何気ない光景が重なり微かな物思いに囚われました。

こういうなんということもない心象は誰しも日常的にあって、そんな瞬間と映画が重なるとき、たとえば自転車を漕ぐ葉月さんの足に当たる日の光とか、そんななんでもないものにフッと心が捉われると、ほんのつかの間、フィルムと自分の境目がなくなってしまうような感じが起こり心地よいです。普通、映画では何がしかの物語を伝えるために演技や構図は決められるけれど、最近の日本映画、特に低予算で作られるゆえに卑近なピンク映画では、なんでもない日常が空気としてスクリーンから漂い出してきて、観る側の日常的な風景の記憶と同化します。そこには、日々に溢れていることにフッと感じ入る、奇妙な郷愁がある。

性行為も同様で、この映画ではセックスシーンに工夫が凝らされてるわけでもないし、特別な評価に値することは何もないのですが、本作における夫婦の些細な日常のセックスは、本当に既視感のある日常の流れに溶け込んでいて、それでよけいにぼんやりとしてしまいました。まだ深夜でもなさそうな穏やかな夜に、団地の開け放した窓辺でなんとなく戯れて始まるセックスが、徐々に熱を帯びていって画面の奥、鏡に映る女の足の肉や筋に力がこもったり、昼日中、レースのカーテン越しに光が溢れる部屋で、外は物音もしなくて、子供の遊び声だけが遠くから聞こえる、何か不思議に時間が止まっているような午後のセックスや・・・。

大人の男女なら日常において、セックスをする機会のある人間はそれなりに多いと思うのですが、当たり前のことなんだけれどやはり閨房の秘め事で、おおっぴらに話したり共有する事柄ではないです。(まあ友人同士で明け透けに話すことはよくあるが。あと、勿論本番のセックスを開帳している人も、毎晩相手を変えたりしてる人も大勢いるけど、ここでは平均的な人間の話です)。

性行為の境地って、冷静に考えるとなんとも不思議な状態で、男女問わず日常をよく知っている友人や知人であっても、おいそれと見たことのない状態になっているわけですよね・・・。でも共犯者もいて、その行為をする相手の男/女にだけは視ることを許された秘密の姿で。そんな風に眉をしかめて、あらぬ声を上げて忘我の境地に到る激しい状態や出来事を、みんなが皆、外からは窺えない部屋で行っていることを思うと、改めて呆れるほど興味深い。こんなにみんなが知ってるのに、秘めやかな儀式であることから離れない行為って不思議な気がします。夜更けの閉ざされた窓々の向こうで、皆もわたしもそういった行為に耽っているのに、それはとても激しい体験ながら、口を閉ざされてひっそりした感触と記憶でしまわれている。この、わたしが今書いている不思議な感じは、(何を今更・・)と言われちゃうようなことかもしれないけど、たまに当然のことを改めて矯めつ眇めつしてしまうと、なんだか奇異な感覚に囚われることってあるよね・・・?

また、人生の中にはたぶん誰しも印象に残るセックスがあって、そこに到る成り行きの不思議や感情の移ろいは、とても神秘的で、非日常の高揚感を伴うものなのに、同時に誰にでもあり得るありきたりな人間の営みの、ちょっとした恵みの日に過ぎないことが、とても奇妙に思えます。まあそれはセックスに限らず、異様な一日の記憶というのは、たとえば身近な人の死とか、ある程度の年齢になれば必ず心当たりのあることだとはわかっているけれど、どうしたって自分では特別な感情を持たずにいられないし、他人との共有もしかねるのに、やはり大勢の人が持っているという奇妙な感覚。わたしのあの記憶はわたしにとってとても感銘深いのに、人に語れば陳腐な出来事に過ぎないというもどかしさ。

本作を観ていてそんなことを改めて考えたのは、ある意味、この映画には遍くありうる凡庸なセックスが、描かれていたからかもしれません。あえてそう演出したのか、たまたまそうなったのかはわからない。でもいかにもエロい性行為の演出じゃなく、日常的に、人の記憶にある等身大のセックスがあって、わたしが勝手に物思いに囚われたということです。ピンク映画は劇映画として、カメラという視点が誰のものでもない存在であるから、男女が二人きりでいる部屋に潜むあの不思議な高揚を、あくまで密やかなままに等身大で見せてくれることが面白い。