真魚八重子 アヌトパンナ・アニルッダ このページをアンテナに追加 RSSフィード

11-05-18

[]『ドリーム・ホーム』

試写でだいぶ前に見ました。

香港映画です。ヒロインはこれまで三池崇史ジョニー・トーの映画に出演し、このあともハリウッド進出作が控えているジョシー・ホー。実人生ではマカオのカジノ王の娘という、いわゆるセレブな生まれと育ちの彼女が、みずからプロデュース・主演したのが本作。監督は早熟の天才ながら、なぜか日本では東京国際映画祭などでしか上映されてこなかったパン・ホーチョン。

お話。チェン(ジョシー・ホー)は幼い頃から都市開発による立ち退きや、貧苦にあえいでくらしてきた女性。亡くなった祖父の「海の見える土地に住みたい」という願いが、チェンにとってもイヤなOL仕事を我慢して働く情熱の糧だった。ようやく見つけた憧れのマンション「ビクトリアNo.1」。しかし手に入れられそうだった不動産価格も、目に見えてつりあがっていく。もはや諦めるしかなさそうだった時、チェンはある考えを実行する――。

これは上述の通り、設定が素晴らしい。殺人鬼が誰かは開始直後からわかるので書きますが、ジョシー・ホーが高級マンション「ビクトリアNo.1」に進入し、いくつかの部屋を狙い定めて室内にいた人を惨殺していきます。

最近のアメリカンスプラッターにおける「アメフトの試合見物or大麻ツアーorリゾート旅行のため、車で移動中に田舎でエンスト、殺人狂が住む家に寄ってしまう」という安直な設定ではなく、マンション購入にファナティックになっていくヒロインの背景がしっかり描かれるので、彼女が殺人に走っても違和感はありません。そしてなぜそんなことを彼女がしたのかも独自の見通しがあり、明朗な理屈の通る映画です。発狂したとか、住人が羨ましくて妬み爆発などではありません。

最近のスプラッターの程度が落ちたのは、すでに『悪魔のいけにえ』に登場している、殺人鬼が目的も理由もなく快楽殺人に耽るキチガイ一家だったりする範疇から、いまだに新たな発想がないからです。70年代は理由のない殺人一家の不条理が新鮮で怖かったけれど、もう出尽くした今の映画で「理由のない殺人鬼一家」は頭を使ってなさすぎる。テキサスや森の辺境で近親婚を繰り返し奇形になってて社会倫理がないとか、フレンチスプラッターだと「殺人鬼がとにかくすごく気が狂ってる」など、どれも本当に安直。

『ホステル』や『スポーツキル』系の金で人命を買って拷問を楽しむ、金持ちのモラルの低さというのもいい加減飽きてきたし、残酷描写だけ凝りに凝ってより残忍になっていくだけの傾向も個人的に不快です。『SAW』のひがみ野郎ジグソウの言ってることが、キライだけどまだ個性的でマシに思えるくらいいただけない設定が多いです。

でも本作はラスト数秒のオチまでちゃんと、「香港の住宅事情」に則って行われます。ピカレスク的かと思いきや、結構シニカルなパンチもエンドクレジット直前に放ってきます。

ジョシーによる殺害方法は独創的です。酸鼻を極めるものですが、一筋縄ではいかない発想が多くて感心してしまいました。監督のパン・ホーチョンとジョシーが編集ですごくもめたというのは、ジョシーが「もっと残酷にしろ」と言ってたらしいです。女性にしては変わり者ですよね。

頭に袋をかぶせられ、掃除機で空気を吸って完全密封されちゃうのが、やはりジョニー・トー組の女優ミシェル・イェ。『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』の子どもたちのお母さん役です。引越し準備中に思い立った犯罪のため、ほかにも梱包財など、使用する殺害器具はホームセンターで買い揃えたもの。まさにDIY精神の人殺し映画です。被害者も可愛くてエロい女の子が二人いて、片方の子はずっと全裸で逃げ回ったあげくアホみたいなオチで死んだりするのもイイ。殺人ショーは殺人鬼が女性ということもあって、非力なためなかなか好勝負になったりし、最後に突入してくる警官たちまで息をつかせぬ展開。とにかく繰り出す殺人技がオリジナリティに溢れているので、小粋だとすら思いました。

殺人経過とジョシーの過去の説明が入り混じった時間軸のいじり方も凝ってるし、映像も香港の高層団地を様々に見せたり、映画としても根本的に面白い構造です。見てて痛いしグロくもありますが、とにかく殺人鬼が美女なのだから楽しい。最近のホラーではかなり気に入りましたよ。オススメ!

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『ドリーム・ホーム』公式サイト 5月28日(土)よりシアターN渋谷ほか順次全国ロードショー。

http://www.dreamhome-movie.com/index.html

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