真魚八重子 アヌトパンナ・アニルッダ このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

11-07-22

[][]『映画秘宝』9月号出ました

映画秘宝 2011年 09月号 [雑誌]

映画秘宝 2011年 09月号 [雑誌]

今月は巻頭特集が「怖い映画100!」。著名な方々の色々お題に沿った怖い映画が挙げられています。わたしは「高所恐怖症映画」と「暗闇に誰かがいる!」という記事を書きました。

あと、「すべらない役者の話!」でケヴィン・ベーコンミヒャエル・ファスベンダーヴィゴ・モーテンセンジャッキー・アール・ヘイリー等々、わりといっぱい担当しています。自分から書きたいといって加えてもらった役者さんもあるし、編集者さんから「真魚さん、爬虫類顔好きですよね」といって振られたり。爬虫類系好きだって、よくわかりましたね!内心書きたいなーと思いつつ、欲張りかも…と遠慮していたので嬉しかったです。

ケヴィン・ベーコンはもう、10代のころから好きで「ケヴィン・ベーコンの出ている映画はとりあえず劇場に行く」と決めていたので、これも書いてて嬉しかったー。トップ写真になってる『ビューティー・ショップ』のケヴィン最高!

それと、イエジー・スコリモフスキのインタビューが載っています。TRASH UP!!でもおなじみの岡本敦史さんがインタビューしてきたよ。わたしはスコリモフスキ監督論と、『エッセンシャル・キリング』評を書いています。『エッセンシャル・キリング』は去年東京国際映画祭で見て、2010年のベストワンに選んだ作品なので、見てほしいー。ヴィンセント・ギャロが苦手な人でも大丈夫!

[]『あるセックス・ドクターの記録』

ラピュタ阿佐ヶ谷で8月13日(土)〜10月21日(金)まで、レイトショーで「大映ハレンチ青春白書★キケンなお年頃」という特集があります。「セックス・ドクターの記録」は「ある女子高校医の記録」シリーズにも発展していく、意外に記念碑的作品。かなり面白いのでぜひオススメです。7〜8年前に書いた感想がHDに残ってたので、あげておきます。

『あるセックス・ドクターの記録』

(大映東京) 監督:弓削太郎 脚本:高橋二三

撮影:宗川信夫 美術:山口煕 音楽:池野成

出演:船越英二 吉田義夫 水木正子 石黒三郎 笠原玲子 応蘭芳 田武謙三('68)  

 

セックス・ドクターというと「夫婦和合の秘訣」を説く閨房学の先生みたいですが、泌尿器科の医師のことです。本作は性病を専門にしている医者が、ある幼い少年が輸血によって梅毒に罹病したのをきっかけに、血液提供者から梅毒の感染ルートを探っていく、一種のサスペンス。ただの下世話な好奇心で観たんですけど、これが結構面白かったです。

内容。医療設備のないリゾート地の離島で、嵐の晩、少年が大怪我をした。たまたま休暇で来ていた泌尿器科の医師(船越英二)は、他の観光客から血液の提供を受け、輸血をして少年の命を救う。しかし後日、この少年が輸血によって梅毒に感染したことがわかる。献血をした5人の観光客の誰かが梅毒の保菌者だったのだ。医師はひとりひとりを訪ね、血液検査を勧めていくことにする。

一人目は敬虔なクリスチャンの家庭に育った娘(水木正子)。婚約中の彼女は家族共々進んで検査を受けるが、何故か彼女だけが陽性反応を示してしまう。実は彼女はある年上の女性(応蘭芳)と、同性愛的関係にあった。梅毒はキスだけでもうつるのだ。だが、相手の女性にも性的交渉による罹患の覚えはない。 医師は彼女のルームメイトたちを疑うが…。

二人目の会社員は、医師の血液検査の勧めをまるで言いがかりのようにとらえ、反抗的な態度をとる。だが、「梅毒は盃をかわしたり、煙草の回し呑みや、よく殺菌してないお手拭きを媒体にしても感染する」と聞いて、怯えのあまり日常生活に支障をきたしてしまう…。

三人目は新興宗教の祈祷師(吉田義夫)。元々は屋台のラーメン屋だったのに、ある日突然「自分に神が降りた」と言い出したので、近所では「脳梅毒」の噂があった。

四人目はストリッパー。彼女には田舎から追いかけてきた純朴な青年がおり、汚れた自分を諦めさせるため、梅毒に感染して血が濁っていることを青年に教えようとするが…。

五人目は男のワガママを絵に描いたような中年男性。ずっと女遊びを続けてきた彼は、他人に梅毒をうつすことに罪悪感はなく、検査も受けようとしない。妊娠した妾も彼から感染した。「おなかの子のために治療を受けている」と告白されても、男は財産が目当てだと疑り「流産すればいい」と言い放つ。だが、出産で無理をした妾が…。

梅毒の知識を植え付ける啓蒙映画のような作品ですが、真の目的はカストリ雑誌のお下劣さだと思うのですよ。しかし感染ルートを探り当てていくサスペンスでもあり、またオムニバスとしてそれぞれのお話が楽しめます。2話目はコミカルで笑えるオチがついてるし、4・5話目は最後にほのぼのしんみりしちゃうような、人間の幸福を描いたお話で不思議な映画。

これ一本観ると、梅毒は湿度のあるものを媒体にするとか、保菌者のパーセンテージや、感染から3ヶ月で薔薇色の発疹が現れるとか、もう梅毒なら任せて!って感じに詳しくなれます。あと、人々が梅毒に対して持っていた淫靡で爛れたイメージと、その偏見を払拭しようとする現代的な医師の努力もわかっていい感じ。『静かなる決闘』も素晴らしい映画だけど、本作は時代のニーズ(エログロ)に応えた下世話な感じがイケてます。

医師が船越英二ってのもナイス。ソフトでおとなしそうな雰囲気が映画をまろやかにしてるし、でも映画の真の目的であるキワモノさにも、増村の映画で見せるような変態性がほのかに順応しているという。

この医師はずーっと出ずっぱりなわりに、常に観察者であって<一方的な視線だけを持つ>ために本人自体はなにか透明な存在なんだけど、献血したストリッパーの楽屋を訪ねるシーンで、船越さんがいかがわしい場所に困惑顔で立ってるのを、他のストリッパーたちが「アラ、イイ男ねえ〜」と惚れ惚れして見るシーンが好き。それまで一方的な観察者だった船越英二が、初めて他者の視線を反射した瞬間、批評されることで一瞬だけ彼自体も<輪の内側に入った>というか、生々しい存在になったのがなんか面白い。

途中、ホステスたちをからかったりくどいたりしながら、船越英二と一緒に梅毒に関し啓蒙をする素人くさい人は本物のドクターでしょうか。こういったセックス・ドクターがマスコミに登場するというのも60〜70年代な印象。高度経済成長や学生運動といった、昭和として強くイメージされているものから零れ落ちた、でもあの時代を確かにいかがわしく彩っていた空気感を留めた映画です。今は唐突に気が変になった人を「脳梅だ」と言わなくなったけど、わたしが小さい頃はまだそういう表現が生きてました。イヤ、今でも梅毒は流行ってて、わたしの友人も何年か前に罹患したりしてましたが、治療で治るという認識が広まって、梅毒のまがまがしいイメージも薄らぎましたよね。でもこれはその名残がある作品なのです。

わたしが本作を観て興味をそそられるのは、たとえば誰でも子供の頃に怖いもの見たさで、家庭の医学の性病の項目や皮膚病の写真を覗いたりすると思いますが、そういったヤバげなものに惹かれる好奇心によって、この映画は成立しているということです。大人になったら普通、もっと直接的なエログロが解禁になるし、すでにピンク映画は存在するのに、もっと婉曲ゆえに異様な感じがする「性病で映画を一本作ろう」という発想が風変わりで、だから、この映画はとても懐かしい。子供の頃に息をひそめて覗いたもの、子供の頃にヤバかったものの象徴が堂々と映画になっている、不思議な郷愁をかきたてる作品です。

 

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