円城塔 「後藤さんのこと」

宇宙には、どれほどの後藤さんが分布しているのか。これは、後藤さん学者の間でも未だに議論の続く難問である。光学観測される後藤さんと、呼びかけて返事の戻る後藤さんの数には、ズレがあることが知られている。というか後者が圧倒的に多い。宇宙に偏在する後藤さんの九割九分九厘は、後者の後藤さんだと言う者もある。いわゆるダーク後藤さん説。
「お世話になっております。ダーク後藤です」

(後藤さんのこと)

後藤さんのこと (想像力の文学)

後藤さんのこと (想像力の文学)

後藤さんのこと
さかしま
考速
The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire
ガベージコレクション
墓標天球

あまりに難しく理解しがたいものというのは、どんな人にとっても平等に価値がない。この本に書かれているのは無駄に難しく、無駄にバカバカしい短編6つ。何の意味もなく、頭を無駄に働かせ、悩ませながら読むのがいいと思う。

わかりやすい奇妙さを求める人には「後藤さんのこと」を、バカバカしさを求める人には「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」を。文系だけど理系っぽい小説ってどういうこと?という人は「さかしま」「考速」を読んで逃げ帰れ。Javaが好きだからと言って「ガベージコレクション」に興味があるという人は是非読んで首を傾げればいい。

ラストに控える「墓標天球」を完全に理解しようとするなら、おそらく6度の読書が必要である。わけがわからないまま全体を1度読み、羽を撒き散らす少女を追い、地面ばかり探す少年を追い、溝を掘る男を追い、隠された道を見つけ、最後に訳知ったように全てを読む。
しかし本書風に言うなら、この理解したような気分になれるような過程も全て無駄なものである。そして明らかに無駄ではない。