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Apes! Not Monkeys!  本館

2016-07-24

[]尻すぼみな陰謀論

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なんやかやと田中角栄ブームだそうですが、『産経新聞』も【角栄逮捕・40年後の証言】なる連載を始めています。となると気になるのはロッキード事件陰謀説をどう扱っているか、です。

連載第2回の「無罪を信じ米国人代理人を断った元首相…依頼した石井一氏は「追い落とそうとした米政権のワナにはめられた」」は、例によって大久保被告がほぼ全面的に自供しており、嘱託尋問調書の公判における価値は極めて限られたものになっていたこと、を無視していますね。第3回は「虎の尾踏んだ田中の自主外交 米公電が示した不快感「対米従属批判を恐れた」」とおおきく振りかぶって見せますが、米政府の事件に対する態度について「国務長官になっていたキッシンジャーは、この公聴会に先立つ75年11月28日付で司法長官、エドワード・レビ宛ての書簡で、ロッキード社の資料公開に異議を唱えていたことが分かっている」と認めざるを得ず、尻すぼみに終わっています。

[]FNSドキュメンタリー大賞「死刑囚と姉」

素人目にもいまだ長期間の拘禁の影響が残る袴田さんだが、番組内でもナレーションで指摘されていたように、はやり釈放直後とは表情からして違う。いまさらながら、再審開始決定と同時に釈放命令が下ったことの重要さを感じた。

なおこの番組では虚偽自白の心理について浜田寿美男氏や高木光太郎氏のコメントではなく、日本評論社から刊行されている『なぜ無実の人が自白するのか―DNA鑑定は告発する』(S・ドリズィン、R・レオ)が援用されていた。訳者は現在、アダルト・ビデオへの出演強要問題を告発してちょっとした時の人となっている伊藤和子弁護士。

ただ、袴田事件における「虚偽自白の心理」としては特に問題のない説明だったが、任意の取り調べの段階や逮捕からまもなく起きる虚偽自白のケースについては誤解を与えてしまわないかな、と少し心配になった。虚偽自白を引き起こす要因はただ一つではないので、あるケースで重要だったファクターが別のケースではほとんど効いていないこともある、ということをここで微力ながら補足しておきたい。

2016-07-07

[]『名張毒ぶどう酒事件 自白の罠を解く』

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少し前に読み終わっていたのですがご報告が遅くなりました。

数ある冤罪事件、冤罪疑惑事件の中でもこの名張毒ぶどう酒事件が抱えている困難さは、こじんまりした集落で起きた殺人事件で、犯人が共同体の外部にいた可能性がまずなく、奥西元死刑囚が無実だとすれば真犯人は同じ村落の中にいたことになる、という点にあります。捜査の過程で奥西元死刑囚ともう一人の住民が、それぞれ自分の妻が犯人であることを示唆する供述をしてしまったことも、、、、

そうした背景によるところが大きいのでしょう。

本書は第7次再審請求において著者が提出した2通の鑑定書を再編集したものです。周知の通り第7次請求ではいったん再審開始の決定が下ったものの、名古屋高裁で取り消し決定が下ってしまいます。本書ではこの取消決定への批判にもかなりの紙幅が割かれています。

さて私は虚偽自白に関する浜田氏の著作はほとんど読んでいますが、前月に刊行された『もう一つの「帝銀事件」』(講談社選書メチエ)を含め最近の浜田氏が強調しているのが「渦中の視点」という発想です。真犯人ならば進行中の事件を自ら生きた記憶を持っているわけですが、無実の被疑者は事件の「渦中」にいた経験を持ちません。そのため、虚偽自白には「渦中の視点」から見たときどうしても不自然な点が紛れ込むことになる(=自白が無実を証明する)、というわけです。

また虚偽自白に対する無理解、例えば「死刑になることが確実な事件で、拷問されたわけでもないのに嘘の自白などするはずがない」といった予断も、被疑者の「渦中の視点」に立てないからこそ生じるものだとされます。この「渦中の視点」について扱った講演(@日本認知心理学会)の記録がPDFファイルで公開されていますので、ぜひご一読下さい。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcogpsy/4/2/4_2_133/_article/-char/ja/

2016-06-30

[]「映像'16 追いつめられた“真実”〜息子の焼身自殺と両親の9年」

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5月30日(29日深夜)に放送されて録画しておいたのを見ました。

番組は高裁で原告勝訴の逆転判決がでたところで終わるのだが、一番衝撃的だったシーンは、一審敗訴後に支援者が一気に減って空席だらけの支援集会の様子。社会の関心が集まらないなか、番組スタッフもよく継続的に取材を続けたものだと思う。

2016-06-27

[]「録音・録画で『うその自白』は見抜けるか」

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6月23日に放送された NHK 「視点・論点」の浜田寿美男さんによる「録音・録画で『うその自白』は見抜けるか」、書き起こしが公式サイトにアップされました。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/247671.html

今市事件にも(名指しは避けつつ)言及して、虚偽自白の生まれる過程についての理解がないまま取調べ過程の録画が裁判に利用されることの危険性を指摘する内容です。

2016-06-21

[]『もうひとつの「帝銀事件」』

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本書はそのサブタイトルが示す通り、2015年11月に行なわれた「帝銀事件」20回目の再審請求*1にあたって提出された鑑定書を再編集したものです。もう一つの「帝銀事件」とは、12人が毒物で殺害された「帝銀事件」とは別の、平沢貞通という人物が巻き込まれ逮捕から39年後に獄死することとなった事件、「平沢貞通事件」(13ページ)を指します。

内容的には(1)目撃証言の心理学的検討、(2)平沢元死刑囚が(虚偽)自白に陥るまでの過程の心理学的検討、そして(3)自白から否認に転じるプロセスの心理学的検討、が3本柱となっています。(3)が独立した論点として設定されているのは、周知の通り平沢元死刑囚にはコルサコフ症候群の発病歴があり、そのため否認に転じて以降に行った「なぜ自白したか?」に関する説明の理解が歪められてきたと筆者は主張しているからです(「見逃されてきた平沢の正常性」)。

特に印象的だったのは2点。まずこの事件では平沢以前に被疑者となり「自白」までしたのにその後容疑が晴れた人物がおり、平沢公判にも証人として出廷しています。この事件の捜査、裁判に関わった司法関係者はまごうかたなき虚偽自白の事例を前にしながら、平沢については虚偽自白の可能性を真剣に検討することなく法的手続きを進めていったことになります。

また変遷が甚だしい目撃証言に対する確定判決の証拠評価は恐ろしく杜撰で、現在であればそもそも有罪判決は下せないのではないか、と思わされました。筆者は刑訴法第317条をもじって「証拠は、事実の認定による」という反転が生じていた(76-77ページ)と指摘します*2。にもかかわらず一旦有罪が確定すると、「再審」という高い壁が立ちはだかることになるわけです。

*1:長らく再審請求人だった平沢元死刑囚の養子武彦氏が2013年に亡くなったあと、2015年に請求人を引き受ける直系遺族が現れた。

*2:ただしこの事件発生は刑事訴訟法の改定前。