無罪判決の重要証人、偽証罪で起訴

小沢一郎の秘書が逮捕された件について検察(特捜部)の捜査のあり方が議論を呼んでいるわけだが、それと同じくらい注目を浴びてもおかしくない事例。
YOMIURI ONLINE 2009年3月18日 「無罪の決め手証言…羽賀研二被告の知人を偽証罪で起訴

 未公開株の購入話を巡り、詐欺などの罪に問われ、1審・大阪地裁で無罪判決を受けたタレント・羽賀研二(本名・當真(とうま)美喜男)被告(47)の公判でうその証言をしたとして、大阪地検は17日、羽賀被告の知人で元歯科医の徳永数馬容疑者(47)を偽証罪で在宅起訴した。徳永容疑者は「正直に話した」と否認しているという。徳永容疑者の証言は無罪の決め手になっており、偽証罪の公判の行方が、羽賀被告の控訴審に影響を与えそうだ。
(後略)

むろん一般論としては、被告人をかばうために偽証する人間が現われるということは現実にあるわけだから、一審で負けた検察が無罪判決の決め手となった証言を崩せないかと考えることは無理もない。しかし「偽証罪の公判の行方が、羽賀被告の控訴審に影響を与えそうだ」というのは本末転倒であって、まずは詐欺事件の控訴審で有罪判決をとってから偽証罪の起訴に進むのがスジではないのか。
毎日jp 2009年2月18日 「裁判員制度:「証人威迫」に厳しく 最高検基本方針」(キャッシュ

 最高検は17日、5月に始まる裁判員制度の下での捜査や公判の基本方針をまとめた。「裁判員に分かりやすく、迅速で、的確な立証が必要」と指摘した上で、公正な判断を確保するために裁判員や証人を脅す行為などに厳しく臨む姿勢を打ち出した。取り調べの一部を録画する試みについては、4月から本格実施する方針も示した。【坂本高志】
(中略)
 基本方針の主なポイントは次の通り。
(中略)
 <偽証や証人威迫など> 裁判員が判断を誤らないよう、偽証、証拠隠滅、証人威迫などについては積極的に罪の成否を検討し、従来より厳格な姿勢で臨む。事件関係者から裁判員に働き掛けや威迫行為があれば警察と協力して厳正に対処する。
(後略)

偽証に対して「従来より厳格な姿勢で臨む」こと自体については反対ではない。組織犯罪を追及するうえでもこの社会が“身内を守るため”の偽証に厳しい態度をとることは大切だろう。しかしやりようにとっては、偽証の追及それ自体が「証人威迫」になりかねないことに留意する必要がある。今回の場合在宅起訴であるからまだマシとはいえ、任意の取調べですら一般人にとっては強圧的なものたりうることを過去の冤罪事件は教えている。最高検が戒めている「証人威迫」とのそしりを受けないためにも、検察は本来の事件でまずは勝負すべきではなかったか。検察に不利な証言をした証人の偽証を追及するのと同じ厳格さで、捜査当局による証拠隠しや証拠捏造を追及することも必要であるはずだ。