『目撃証言の心理学』

本書で紹介されているアメリカの誤判研究によれば、調査対象とした205件のうち実に100件が目撃者の誤った識別(犯人でないひとを犯人であると識別してしまうこと)によるものだという。この結果がそのまま日本にも当てはまるとはもちろん限らないが、「目撃者証言に関する基礎的かつ幅広い入門書」(「序」より)として目論まれた本書を読めば、目撃者からの聴取や犯人識別、また裁判における目撃証言の評価といったプロセスがはらみうる危険性は直ちに了解できるだろう。
最近何度かとりあげた「面通し」の問題も本書で扱われている。著者らによれば日本の警察が一般的に行なっている「単独面通し」は誤識別につながりやすく、好ましくないものだという。ではなぜイギリスやアメリカでは手続きが標準化されている複数人でのラインアップ方式が用いられないのだろうか。私が危惧するのはコストや人権意識(の低さ)だけでなく、警察官のフォークサイコロジーに対する強い信憑が科学的方法の採用を妨げている、という可能性だ。仮にこれがあたっているとしたら、ことは目撃者による識別にとどまらず、例えば動機についての供述をとる姿勢や、知的障害をもつ被疑者の取調べなどをも「科学軽視、フォークサイコロジー重視」な態度が支配しているのではないか、と考えられるからだ。