「……したら死ぬだろう」


ラーメン店で客同士のトラブルから一方が亡くなったという事件ですが、一部報道は被疑者が「踏みつけたら死ぬだろうと思った」と供述している、と伝えています。

 今西容疑者は高校時代にラグビーをしていて、体重は120キロあり、取り調べに対し『踏みつけたら死ぬだろうと思った』と供述しているということです。警視庁は容疑を「殺人」に切り替えて捜査しています。
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20140930-00000039-jnn-soci

この事件についてではなく、同様なケースでの報道一般についてのコメントですが、普通の人間が「……したら死ぬだろうと思った」なんて自発的に供述しますかね? まず間違いなく、「踏みつけたら死ぬとは思わなかったのか?」と取調官が質問し、それに対して被疑者が否定しなかったのでこういう調書が録られた、ということでしょう。なにしろ日本の警察・検察が録る調書は被疑者の発言をそのまま記載するのではなく、取調官が“裁判官にわかりやすいよう”まとめているものです。だから「踏みつけたら死ぬとは思わなかったのか?」に対して「そうかもしれません」と答えても「踏みつけたら死ぬだろうと思った」と供述したことにされるおそれは十分にあります。
言うまでもなく「踏みつけたら死ぬとは思わなかったのか?」という質問にどう答えるかで、「殺人」で起訴されるか「傷害致死」で起訴されるかがかなり左右されることになります。自分の供述の法律的な意味を十分理解していないか、あるいは平常時なら理解できても事件直後の取調べという状況の中で一時的に理解能力を失っているような被疑者から、密室での取調べの結果として「……したら死ぬだろうと思った」という供述を録ることが、被疑者の弁護権を大きく制約している可能性について、メディアはもう少し敏感になるべきではないのでしょうか。