(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ナイス・エイジ〟NYLON100℃(DVD)

2000年初演時のDVD。今回の再演が良かったので、ついふらふらと購入。特典映像とかとの抱き合わせで、6000円を越える買い物だと敬遠したくなるが、今回は4000円だったのでなんとか。〝消失〟や〝フローズン・ビーチ〟も反芻したいのでぜひ廉価版のリリースを望む。(〝消失〟は、メイキングが良い、との噂があるが)
さて、初演と再演を比較すると、ストーリーにほとんど違いがないことにちょっと驚く。確かに、2000年という節目に意味があったことは理解できるが、何か工夫があっても良かったのでは、という気がしないではない。ちなみに、初演時は、初日の前日くらいにようやくホンがあがったらしい。(コメンタリーで大倉の発言)
また、再演でちょっと怪訝な思いをした芸人のカンダタ女中の澄代(少女時代)のキャラクターにある微妙な癖に、合点がいった。カンダタは三宅、澄代は村岡を念頭においたのあて書きだったのね。これも、再演で人物のキャラに少し手を入れるべきだった気がしないではない。
主なキャスティングの変更点は、次のとおり。(初演→再演)
廻時雄役:小市慢太郎→佐藤誓
廻想子(時雄長女):澤田由紀子→新谷真弓
神田正(ピン芸人):三宅弘城坂田聡
15歳の澄代:村岡希美植木夏十
廻富佐子(時雄母):今江冬子→立石凉子演劇集団円
時宗(時雄叔父):小林高鹿→加藤啓(拙者ムニエル

〝ナイス・エイジ〟NYLON100℃29TH SESSION

ケラ曰く、娯楽作という意味では最もまとまりがいい作品だと思う。このコメントは、なんとも微妙ですね。芸術点ではあまりいい点を付けたくない、という風にも聞こえる。初演は2000年本多劇場で、今回の劇場ロビーでそのDVDを発売していたのを見つけて購入。ちらりと観てみたが、前回からあまり大きな異同はない再演のようだ。
新しいアパートに越してきた廻一家は、ほとんど崩壊寸前の家族である。母親の澄代(峯村リエ)は昼から酒を呑み、父親の時雄(佐藤誓)はギャンブル狂。娘の春江(長田奈麻)や息子の時次(大倉孝二)たちとの関係もぎくしゃくしている。一家にはもうひとり想子という名の長女がいたが、十五年前の飛行機事故で他界しており、その出来事が以降の一家に暗い影を落としているらしい。
その越してきたばかりの廻家を、大家夫婦(原金太郎、池谷のぶえ)はなぜか追い出しにかかっている。実は大家夫婦はタイムパトロールで、廻家の浴槽はどういうわけかタイムマシンらしいのだ。しかし大家夫妻の説得も空しく、時雄は風呂から過去へと旅立ってしまう。
物語の主軸(すなわち現在)は2000年にあるが、長女が巻き込まれた日航機の墜落事故が1985年、時雄の少年時代が東京オリンピック目前の1965年、さらに太平洋戦争末期の1945年という3つの時代を自在に往き来する。時雄は、1965年には少年時代の自分と出会い、さらに1945年では若き日の自分の母親と対面し、自分探しの旅を続ける。一方、未来からやってきた春江の娘(松永玲子)は、1985年へと飛び、母親の春江や祖母の澄代とともに、想子を救おうと奔走する。
タイムトラベルを扱いながら、タイムパラドックスなどのSF的な面白さに向かわず、家族のドラマを一貫して描くところに、ややナイロンらしからぬ肌合いを感じる。しかし、3時間を越える上演時間にもかかわらず、ドラマの密度で少しも冗長さを感じさせないのも素晴らしいし、時代背景にこめられたそこはとない昭和へのノスタルジーもいい具合に作用している。
役者たちも素晴らしく、とりわけ想子役の新谷真弓のリリカルな芝居で際立つ物語の悲劇的な側面と、大倉孝二池谷のぶえの暴走するシュールなギャグとのバランスがいい。また、ハッピーエンドを潔しとしないダークな幕切れも、ケラのシニカルなスタンスがにわかに浮上し、最後の最後で物語を引き締めている感じだ。こういう芝居がナイロンの真骨頂だとは思わないが、その豊かな物語性には、正直予想外の感動を覚えた。

■データ
2006年12月11日ソワレ/世田谷パブリックシアター
12・9〜12・24
作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演/峯村リエ大倉孝二みのすけ松永玲子、長田奈麻、新谷真弓、安澤千草、廣川三憲、藤田秀世喜安浩平、大山鎬則、吉増裕士、杉山薫、植木夏十、皆戸麻衣、柚木幹斗、佐藤誓、志賀廣太郎青年団)、原金太郎、坂田聡池谷のぶえ、加藤啓(拙者ムニエル)、松野有里巳立石凉子演劇集団円)、秋山菜津子(声のみ)
舞台監督/福澤諭志+至福団 舞台美術/小松信雄 照明/関口裕二(balance,inc.DESIGN) 音響/水越佳一(モックサウンド) 映像/上田大樹(iNSTANT WiFE) 衣裳/三大寺志保美 ヘアメイク/武井優子 大道具/C-COM舞台装置 小道具/高津映画装飾 演出助手/山田美紀(至福団) 宣伝美術/大久保浩一(Homesize) 宣伝写真/相川博昭 宣伝ヘアメイク/山下まきえ、山本絵里子 舞台写真/引地信彦 票券・広報/土井さや佳 制作助手/市川美紀、寺地友子 制作/花澤理恵