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2008年06月14日
製薬会社のサプリメント嫌い
サプリメントや補完代替医療の世界では、製薬会社に対する不信の言葉をよく耳にします。補完代替医療と現代医療の人々は、それぞれ違った世界観や医療経験を持っていますから、ある程度互いに反発しあう部分があるのはやむを得ません。ところがそういう水準を越えて、製薬企業はサプリメントや補完代替医療に対し、意図的に敵対的な行為を仕掛けてくる、というのです。
実はときどき、それは本当かも知れない、と思うことがあります。例えば、ベニコウジ(Red yeast rice: 写真)という生薬があります。米に紅麹菌を植えて発酵させたもので、中国では胃の働きを整え血のめぐりを改善する生薬として何百年も用いられてきました。
1990年代にベニコウジから作られたコレスチンというサプリメントが米国で上市されました。コレスチンには高コレステロールを改善する作用があり、会社は二重盲検試験を行ってその臨床効果を立証しました。今でこそ臨床試験の裏づけのあるサプリメントも少なくありませんが、コレスチンはまさにその先駆的存在でした。
その当時、製薬会社メルクのメバコールという抗高脂血症剤がありました。活性成分はロバスタチンという化合物で、最初のスタチン系薬剤です。ロバスタチンはコレステロールの合成を阻害し、コレステロール低下作用を示します。その売上はピーク時で10億ドルと言われ、メルクのドル箱製品でした。
サプリメントのコレスチンと、処方箋薬(医師が処方する薬)のメバコールの間には因縁がありました。コレスチンにも、微量ながら紅麹菌が産生するスタチン類似の天然成分が数種類含まれていました。その中にはメバコールの活性成分であるロバスタチンもあったのです。
コレスチンの価格はメバコールよりずっと安く、メバコールのような副作用もなく、医師にかかる必要もなかったので、コレスチンは軽度の高脂血症の人々を中心に、手軽な抗高脂血症の対策として、広がりを見せていました。
メルクはこれを放置しませんでした。FDA(食品医薬品管理局)に働きかけ、FDAはついに「コレスチンは医薬品であるロバスタチンを含有するので、未承認の医薬品である」という判断を示しました。
コレスチンの会社は、ロバスタチンは自然に含有されており、純粋なロバスタチンを意図的に添加したわけではない。さらに量も極めて少なく、ロバスタチンにより効果が得られているわけではない、と主張しました。両者は裁判で争い、会社は第一審で勝訴しましたが、控訴審でFDAが逆転勝利し、コレスチンは米国で販売できなくなりました。
当時メルクのメバコールは特許切れを目前に控え、OTC薬(薬局店頭で販売できる一般薬)への転換を図ろうとしていました。店頭での販売になればコレスチンと直接競合します。コレスチンはメルクにとって、とても邪魔な存在だったのです。
もうひとつ最近の例をあげましょう。先ごろ製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)とアメリカ栄養士協会などが、ウエイトロス(体重減少)をうたうサプリメントは医薬品として取り締まるべきだ、とFDAに請願したのです。肥満や過体重は疾患であり、疾患を治療するものはすなわち医薬品である、という理屈です。もしFDAがこれを認めるなら、市場にたくさんある体重減少のサプリメントはすべて未承認医薬品となり、販売できなくなります。
実はGSKは、1年前に米国初の体重減少のOTC薬であるアライ(Alli)を発売したところでした。アライは処方箋薬ゼニカルのOTC版で、GSKの上市に向けたキャンペーン規模はOTC薬史上最大とも言われました。しかし発売後1年、アライは予測ほどには売上が伸びていません。GSKはそれで店頭で競合するサプリメントを排除したいのです。
体重減少のサプリの中には、品質も効能のほども疑わしいものが少なくありません(こちらとこちら)。そういうものに限ってきわどい宣伝で人目を引きます。一方、医薬品の開発には十年以上、百億円以上の開発費がかかっています。安直なサプリメントを許しがたく思う製薬会社の気持ちは、分からなくはありません。
しかし消費者の立場に立てば疑問が残ります。その後メルクのメバコールは、OTC薬への転換を3度申請し、3度とも安全性に不安が残るという理由でFDAの専門家会議で拒絶されています。メルクのロビー活動は、軽度の高脂血症の人々から安全で簡便な対応策を奪ったまま、置き去りにしているのです。
もし今回のGSKの請願が通れば、体重減少のサプリメントは市場からすべて姿を消します。しかしそのとき、疑わしいサプリとともに安全で有用な体重減少サプリもすべて姿を消します。GSKの狙い通りアライだけが残り、消費者は選択肢を奪われることになります。
(今日のまとめ)
公平と思われている医学ジャーナルや医薬行政の陰にも、製薬会社とサプリメント会社の利害の衝突があります。賢い消費者になるには、それを感じ取る力を養わなければいけません。
(last updated 6/15/2008)