京都朝鮮学校いやがらせ事件第三回口頭弁論傍聴記 1

本日も朝から京都地方裁判所に京都朝鮮学校いやがらせ事件民事裁判傍聴に行ってまいりました。昨日、雪が積もった京都は冷え込みはしていたが既に雪は跡方もなく消えていた。傍聴券抽選の前に辺りを見渡せば、在特会・主権の人らの知った顔はなくほとんどの傍聴券希望者は学校側支援者と思われる。その数約100名で抽選となり今度も当たりで大喜び。これで京都は全勝なのだが、これ、私は何かもっているのか?あれか、神は私にプログ書けと言うのか?いや神様、それなら財布にしまってあるこのロト6を当たるようにして下さいよ。それが当たるならもうね、仕事辞めて朝から晩まで裁判所に張り付いて毎日書くどころか、全裸で裁判所内をうろついてもいいから。駄目?等という不埒なつぶやきで裁判所に入場。よって、今回も今回も御所の焼き討ちと涙のラーメン紀行はなし。

では、裁判レポへ。
法廷内傍聴席から向かって左側に学校側弁護団12名が。100席ある傍聴席はマスコミを抜いて学校側支援者でうまり、やはり在特会・主権側は一人も見ない中、徳永弁護士が一人。そして裁判長が入場するなり、いきなりその徳永弁護士に「今日は時間どうりにきてくれまして」という一言。傍聴席に笑いが起こる。
きつい。これはきつい。あえて何も言うまい。

裁判は冒頭、被告10名全員が徳永弁護士に委任した項が確認され、書面の確認、裁判の技術的な整理の確認がなされ、その後に学校側弁護団が新たに提出した第5、6、7準備書面の説明がなされた。第8準備書面もあったようだが、それは次回になるようだ。
さて、それらの書面を概略でもってお伝えしようと思ったが、報告集会において学校側弁護団がわかりやすい概略説明のレジュメを用意されていたのでそのまま載せる。


以下は報告集会でもらった第5準備書面の概要である。
第1 はじめに
人種差別の違法の重大性、被害の深刻性につき、適正な評価をしてもらうために、この書面では学問上「ヘイトスピーチ」と呼ばれる人種差別行為の議論や、諸外国の刑法や、日本の民事裁判例を整理紹介する。
第2 ヘイトスピーチの概念及び悪質性
1、 ヘイトスピーチの意義
ヘイトスピーチは「憎悪と敵意に満ちた言論」といった意味である。人種、民族等の属性を、差別・排除の意図を持って強調し、憎悪や敵意を表明する表現行為とされる。
2、 ヘイトスピーチに関する議論の概況。
ヘイトスピーチ」に関しては、表現の自由との関係で、刑罰をどうするかにつき様々な見解がある。しかし、表現の自由を重視する学者であっても、極めて悪質な行為類型が存在し、そのような行為は違法とする点ではほぼ一致している。そのような行為類型とは、
① 人種的劣等性を主張するメッセージであること。
② 歴史的に抑圧されてきたグループに向けられたメッセージであること
③ メッセージの内容が迫害的で、敵意を有し、相手を格下げするものであること。
などとされる。
被告らの行為は、正にこの悪質な類型であり、加えて④差別を扇動するために公的になされたものであること、といった要素も備えている点でさらに悪質である。
刑罰を科すことに消極的な学者でも、民事責任追及による再発防止や被害救済が行われることを前提に、刑事消極論に立っているものである。本件訴訟は民事裁判であって、刑事規制消極論は関係ない。ヘイトスピーチの害悪の被害をそのまま賠償額に反映すべきである。

1、 ヘイトスピーチの特色ないし害悪
① 平等の理念という普遍的価値を否定し、差別社会を固定化する作用
憲法は個人の尊厳と平等の理念を規定する。人種は、個人の人格価値を決定するものではなく、人種による差別は近代的平等思想と相容れない。また、人種差別の表現は、対等な当事者間で行われるものではなく、厳然とした力の差のある関係の中で行われ、その力関係を維持・強化させる。差別意識には、「認識のふるい分け」という作用がある。特定の人種民族について抱いている根強い固定観念がふるいの役割を果たし、固定観念に合う情報は意識の中に入るが、固定観念に合わない情報を遮断し拒絶する。そして差別意識は温存され、支配従属関係を再生産する。ヘイトスピーチは、個人の尊厳や平等の理念を真っ向から否定し、人々の差別意識を顕在化・結晶化し差別を固定化する点で、重大な害悪である。
②  被害者が受ける深刻な精神的苦痛について
ヘイトスピーチの被害者は、個人の尊厳を否定され、深い傷を負う。
ア、集団的名誉の毀損
 ある集団に帰属すること、例えば朝鮮人であること、というのは個人のアイデンティティに不可欠の部分である。このために集団に対する名誉棄損行為は、集団に属する個人の名誉も傷つける。特に、歴史的に差別を受けて来た集団の場合には、その影響はいっそう大きい。ヘイトスピーチ規制に消極的と評される米国最高裁でさえも、集団の名誉棄損に対する刑事罰を許容している。
イ、具体的な精神的苦痛の実際
人種差別的侮蔑は、相手の自尊心を傷つけ、特にマイノリティの子供が被害者の場合、自己の価値・能力を疑問視するようになってしまう。被害者にとって思想の伝達というよりは暴力であり、頬を平手打ちされるかのように心を傷つけられる。被害者は自らの人種民族についてアイデンティティを拒絶し、傷は長期化し、目標意識を持つ事が出来ず、鬱病、アルコールや薬物、自傷行為や自殺になどに至ることもある。アイデンティティ確立途上にある子供が最も損害を受けやすい。
ク、ヘイトクライムの被害者の統計的調査
諸外国における統計調査によれば、ヘイトクライムによる被害は、それ以外の犯罪被害者と比べて、恐怖感、不安感、怒り、PTSD等の症状の発生やその持続期間がより深刻である。
③ 沈黙効果とその害悪
言論には言論で対抗すべきである。と言われる。しかしそれは、真理の発見や対話を目的とした言論の場合であって、相手を傷つけることを目的とするヘイトスピーチには当てはまらない。反論によってさらなる侮辱を受けるからである。ヘイトスピーチを浴びせられたマイノリティは、自らの尊厳を傷つけられたショックで、あるいは自らの言論の価値を否定されて、黙らされてしまう。黙るほかはない被害者は、外に発散することが出来ず、受けた傷を内面化し、永続化してしまう。
2、被差別者の声に耳を傾けることの重要性
ヘイトスピーチを裁く裁判で、被害者の自尊心がいかに損なわれるかがしばしば過小評価されてきた、と人種差別撤廃委員会は指摘する。それは個々の裁判官の意識の問題というよりも、社会的構造的な無自覚がある。この「無自覚性」に対処する一つの方法は、被害者の声を真摯に聞くことである。

第3 各国でのヘイトスピーチの取扱い
ドイツの刑法の民衆扇動罪は、特定の個人ではなく、民族などの集団全体に向けられたヘイトスピーチを犯罪としている。すなわち、公共の平和を乱す方法で、一部住民への憎悪を煽り、あるいはその人たちに対する暴力的または恣意的処置を促すか、一部住民を侮辱し、悪意をもって軽蔑し、あるいは中傷する事で、他者の人間の尊厳を攻撃する者は、3カ月から5年の自由刑に処せられる、と規定する。この条文の「憎悪を煽り」の例としてユダヤ人を「価値の低いやつら、寄生虫」と言って格付けること、「ユダヤ人はドイツ国民を政治的に抑圧し、経済的に搾取するために、嘘の歴史を捏造した」等という主張によってナチスの不法を否定すること、帝国旗を示して「外国人出ていけ」「勝利万歳」と発言するといった行為が挙げられる。その他、カナダ、フランス、オーストラリアの規制法制も紹介する。被告らの行為は、日本の現行刑法に犯罪であるが、諸外国のヘイトスピーチ処罰法にも該当する、極めて悪質な行為である。

第4 日本の人種差別事件において、高額の賠償額が容認された裁判例
日本の裁判所が、人種差別の本質を把握し、不当な人種差別的動機や、被害者に甚大な精神的苦痛が生じている事を認め、高額の賠償を認めた例を紹介する。
1 小樽市公衆浴場入浴差別事件
札幌地裁H14,11,11は、小樽市所在の公衆浴場に入浴しようとしたところ、外国人である事を理由として拒否されたという事案において、100万円の慰謝料を認めた。判決は、その行為が人種差別である事を認め、原告の精神的苦痛の本質が、単に入浴できなかった不利益にとどまらず、人種差別により人格権が侵害された点にある事を評価し、その結論を導いた。
2 宝石店入店拒否事件
静岡地裁浜松支部H11,10,12判決は、外国人が宝石店店舗に入ったところ、店主が「外国人は入店お断り」とするビラを呈示し、警察官を呼ぶなど不穏当な方法で店から追い出そうとした事案において、人種差別行為による精神的苦痛の重大さを理由に、150万の損害賠償請求の全額を認容した。同判決は「(人種差別撤廃条約の)実体規定が不法行為の要件の解釈基準として作用する」ことを前提とした。
3 上記判決の評価と本件への示威
以上の事案は、不当な差別的動機のもと、被害者の自尊心を大きく傷つけていた事案であり、各判決は、事案を適切に評価し、日本の司法のあるべき姿を明快に示した。その先例的価値は大きい。

第5 ヘイトスピーチの本質に照らした本件被害の評価

1 被告らの行為が、ヘイトスピーチの最も悪質な類型に属すること
被告らの本件行為は、歴史的に抑圧されてきたグループに直接向け、人種的劣等性を主張し、敵意と迫害のメッセージを、公にぶつけたヘイトスピーチである。
2 在日朝鮮・韓国人の置かれる特殊性について
在日朝鮮・韓国人は日本において歴史的に抑圧されてきたグループである。日韓併合条約で朝鮮半島が日本の植民地となり、在日朝鮮・韓国人は長く差別的な扱いを受けてきた。そして戦後解放されて以降も、政府は在日朝鮮・韓国人を各種の社会立法から排除するなど、差別的な取扱いをし、日本国民の差別意識も未だに存在する。
3 被告らの動機が人種差別攻撃にあり、深刻な被害をもたらしたこと
被告らは、歴史的に抑圧されてきた在日朝鮮・韓国人に対して「犬の方が賢い」「朝鮮人を保健所で処分しろ」「ゴキブリ朝鮮人、とっととうけろー」「朝鮮学校は、自分たちの悪行を棚に上げ、ひたすら差別だ、涙の被害者面で事実をねじまげようと(した。こうしたやり方は)不逞朝鮮人伝統芸能である」「朝鮮やくざ」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島に帰れ」等と怒号を繰り返した。これらが在日朝鮮・韓国人の人種的劣等性を主張するメッセージである事は明らかである。それらは在日朝鮮人・韓国人に対するむき出しの敵意を内容としている。そして、被告らはこのような主張を公の道路等で声高に主張し差別を扇動しているのである。被告らの行為は、朝鮮人に対する人種差別攻撃である。公園の使用の事などは全くの口実に過ぎない。結果として、原告らが受けた被害は極めて深刻かつ甚大である。
4 ヘイトスピーチの害悪に照らした原告の無形損害の評価
原告の受けた無形損害として、まず、原告の民族教育事業への深刻な影響がある。朝鮮学校の重要な目的は、生徒らが在日コリアンとしてアインデンティティを確立し、自らに誇りをもって生きていけるようにする事である。被告らの行為により、児童らの自尊感情が脅威にさらされた。その被害は、ヘイトスピーチの特性を踏まえて理解しなければならない。被告らの行為は多大な努力によって得られた朝鮮学校の教育効果の蓄積を、一瞬で消失させかねないものである。第二の無形損害として、社会的評価の毀損がある。朝鮮学校は、差別が厳然と残る日本社会の中にあって多大な努力をもって社会的評価を維持してきた。今回の被告らの行為は、在日朝鮮人に対する差別意識を扇動し、学校の名誉・信用を大きく損なった。これらの損害について、さきほど述べた「認識のふるい分け減少」や、集団的名誉棄損の作用等のヘイトスピーチの性質を十分に踏まえた上で評価する必要がある。

第6 まとめ
被告らの行為は極めて悪質なヘイトスピーチの類型に属するもので、社会的に強く禁圧されるべきものである。被害は極めて深刻かつ重大である。こうした違法の重大性と被害の深刻さに照らし、本件においては高額の損害が認定されるべきである。
以上。


読んでわかるように、この第5準備書面は、事件のあらましと民族教育の権利と無形損害を訴えた第1準備書面と、人種差別事件であると法理を説いた第2準備書面の補強の役割をもたせている。しかし、もう一方でヘイトスピーチそのものの犯罪性と破壊性について現行法内にも適用できるように法理が説かれている。これは裁判前に学校側支援のレターで述べられた画期的な書面が用意されていると喧伝されていたが、尤もだとうなずけた。そうなのだ。この事件は校門前の単なる騒乱ではない。この事件の最も核心的なものは被告らが吐き出した、悪意にまみれたヘイトスピーチであり、人間の尊厳をこれでもかと踏みにじるヘイトクライムそのものなのだ。それがいかに惨く破壊的な犯罪であったかをこの第5準備書面が明らかにしている。極めて価値のある準備書面であると思われる。

続いて残りの第6、7の準備書面在特会・主権側の徳永弁護士から「表現の自由の所感」というかなんというかわかりかねる準備書面というものがあったが、長くなったのでこれは次回に。