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棒日記VII -Life without art is stupid- このページをアンテナに追加 RSSフィード

2006-08-16 どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。

静寂の叫び ジェフリー・ディーヴァー B-

静寂の叫び〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

リンカーンライムシリーズを書く前の作者出世作。海外でも日本でも優れたエンターテイメント作品としてランキング物の上位に支持された。人質犯との交渉を緻密に描きつつ、また耳の聞こえない人々を始めとして人物描写にも力を入れた作品である。緊迫した交渉だけでなく、終盤の展開は驚きがあり緊張感満点。中盤間延びした点と、力の入った人物描写に馴染めないものを感じた。

海外小説を読むのは多分3年か4年ぐらいぶり。ほぼ全く海外小説を読まないのは、いわゆる翻訳調に嫌悪感があること、外国人の名前や特徴が覚えられないこと、主にウィットなど会話の間合いが掴めないこと、などなど色々とあるが極論すれば苦手だ、という一言に尽きるだろう。とはいえ、そういった苦手意識を持ったのは文学作品を読んでのことなので、ヴェルヌ・ウェルズ・ドイル・クリスティ辺りのメジャー所以外は海外エンタメを読まなかった経験を考えれば、エンタメ小説ならアリかな、と思いちょうど友人から勧められた本書を手にとったというわけ。ブックオフで各105円だったし。ただ結論からすればその苦手意識が払拭されるほどではなかったな、という印象であった。とにかくディティールの描写になればなるほど馴染めない。以下の感想はそんな苦手意識を抱えた上で、ということを承知願いたい。

さて、本書は巧緻に長けた人質犯と歴戦の交渉担当官との戦いがメインに据えられている。何がなんでも人命を優先する日本とは違い、人質解放には手を尽くすとはいえあくまで犯人逮捕する事が主眼のアメリカのスタイルはこういった事件の緊張感を高めている。単純に突入することも出来ないが、相手の要求を唯々諾々と飲み込むことも出来ない。その狭間で必死にバランスを取りつつ、大事件を通して名を上げよう、名誉挽回をしようとする利己主義者、ハイエナのようなマスコミなどとも戦わなければならない中間管理職的な辛さも事件を一筋縄ではいかなくしているのだ。このやり取りはとにかく緊張感がありり先を読ませる。

もう一つの軸が人質側からの視点である。こちらは絶対的強者である犯人からの精神プレッシャーを描きつつ、こちら側の語り手である教育実習生の心を掘り下げる。ただこちら側の試みはあまり上手くいってないように思えた。いくら子供な上に耳が聞こえないからといって、人質という極限状況であまりに自由に振舞いすぎているのだ。これで犯人に殺されない方がおかしいというぐらいにである。それからかなり複雑な教育実習生の心理描写は散漫な印象。彼女の成長や周囲を惹きつける性格が一つの見所ではあるのだが、自分がどうしてもニュアンスが分からないのか、それとも整理されておらず観念的過ぎるからなのか、まるで彼女という人間をつかむ事が最後に至るまで出来なかった。

終盤の急展開は本書のクライマックスと言っていいだろう。これには確かに驚いた。若干上記の心理描写の点に関して飲み込めないものが続いているのだが、それも衝撃的な展開のおかげで緩和されている。犯人の行動におけるいくつかの釈然としない点まで本書の真相は回収しているのが上手い。若干強引ではあるが、この驚きは代え難いものだ。