2007-03-29 ありがとう、心から
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 アントニイ・バークリー B-
シェリンガムもの三作目。それだけでも一本本格が書けそうなアイデアを惜しみなく使いまでして、いわゆる“古き良き探偵小説”への批判を前二作よりも色濃く主張している。それだけでなく、ユーモア小説としても相変わらず一級品でもあり、様々な楽しみ方が可能なミステリと言えるだろう。
バークリーが主張する自然なミステリを極端に表現すると本書になるのだろう。探偵こそが絶対であるような世界においては、様々な不可侵の常識が存在する。曰く、最も怪しげな人間は犯人としては
そもそも本書のような試みがむしろ意外だと感じられることが、本書刊行当時のミステリ小説の現状を表していると言ってもいいのかもしれない。そして現在のミステリの視点から見ても本書はなかなか面白い試みであるので、長い年月を経ても結局ミステリというジャンルの内情はそうは変わらないと言えなくもない。
本書はアンチ・ミステリだと言う事もできるだろうが、昨今のアンチ・ミステリと違って本書はメタな表現をあまり強く主張しない。あくまで本線は地味に地に足の着いた古き良きミステリ批判として機能している。それでいて舌先の皮肉は痛烈過ぎて読者も一緒になって凹まされてしまうようなものであり、バークリーの小説を創る力が並々ならぬことを再認識させる。単純に読み物として面白いことも忘れてはいけない。
ただ、メインの試みの為に、シェリンガムの推理の過程が歪められているのは欠点と言えるだろう。また若干前作と事件の構図が似通っているのも、やや新鮮味を欠くかもしれない。

「ヴェインの謎」は、バークリーの本音(?)が炸裂するラストがいいですよね〜。最終章のシェリンガムとモーズビー警部のやりとりは何時読んでもニヤリとしてしまいます。同じシェリンガムものの「絹靴下殺人事件」と本書を比較すると結構面白いと思いますので、よろしければそちらもどぞ。
「ヴェインの謎」は特に警部の最後の一言が痛烈でしたね〜。忘れられそうに無い一言です。「絹靴下」も勿論読む予定なんですが、いやはやバークリーって目茶目茶面白いっす。