Hatena::ブログ(Diary)

棒日記VII -Life without art is stupid- このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-06-19 どんな一歩でも踏み出せば世界は変わる

オーダーメイド殺人クラブ 辻村深月 B

| 21:59

オーダーメイド殺人クラブ

オーダーメイド殺人クラブ

もしこの小説タイトルを見て、「辻村深月久々のミステリーかっ!?」と腰を上げた人、残念でした。この作品、相当看板に偽りアリ(個人的にはこのタイトル考えた人は猛省すべきだと思う)。本書は辻村深月の作品の中でも、一二を争うほどの直球青春小説である


ほとんどの人がどこかしらで「あるある」と頷いてしまうような思春期の痛さの表現とか、女同士の相当微妙駆け引きとか、もはや作者の代名詞であるような観察眼に基づく表現も、もちろん本書の特徴ではある。しかし本書の最大の特徴は、全編を通して「何も起きない」ということではないだろうか。


小説の世界は空想の世界だ。何を作り出したっていい。だから色々なとんでもない事件がおきる。でも、本当に今生きている僕らの目線からすれば、世界が一気に様変わりするような事件はなかなか起きないものである。それでもきっと、変わり映えのしない今から連れ出してくれるような何かが起きる、そう誰もが信じ続けられる、最後の時が思春期なのだ。そんな十代の気持ちと目線と現実を、きっちりと書き切ったのが本書なのである。



(ここからネタバレ。)


例えば主人公、小林アンの周りで絶えず起きる女同士の小競り合い。女子三人グループの中で誰か一人を外そうとする動きが常にあり、アンは自らもその連鎖に加わりながらも悩み続けている。しかし決定的な決裂は結局最後まで起きない。誰かが無視されることは何度かあっても、友情が後戻りできないほど壊れることはないのだ。

もう一人の主人公といってもいい徳川君の行動もそう。澁澤龍彦をこよなく愛し、猟奇的事件を起こす“少年A”の風格充分という風にアンの目に映る彼もまた、実際は何も起こせていない。実は、積極的に動物の息の根を自ら止めるような人間ではないし、少し気に入った女の子興味本位で殺せるような人間でもない。妹を心配する一面を持つ、少し根暗男の子ンに過ぎない。

けれども、アンの目線からしてみれば、同じグループの女の子に無視される日々は何にも勝る絶望だし、実際は少年Aにはなれない徳川君は計り知れない人物に見える。知らず知らず視野を狭めることで一喜一憂を導く彼女の世界が、ふっと広がる瞬間を捉えている。それが本書の凄いところだ。


思春期的な考え方がいいとか、悪いとか、そういうことを作者が言いたいのではないだろう。後から思い出してみれば下らないようなことでも、その時に一喜一憂したことが後に無駄になることはない。色々と細かなことで悩んだことがあるから、もっと大きな悩みと向き合っていけるのだ。


だからきっと、本書を読むべきは、日々のことで悩んでいるティーンエイジャーたちだろう。


今とても大きな悩みに押しつぶされそうになっているかもしれない。でもその悩みの中から一歩踏み出せば、もっと大きな世界がある。その大きな世界では、案外今の悩みはちっぽけに見えたりするもんだ。そんなメッセージがこめられているように僕は感じた。

根岸鴨根岸鴨 2011/07/15 19:00 久しぶりにのぞいたら更新されてるじゃないですか! 待ってました!! また寄らせていただきます。