2012-02-20 意図を測りかねる破壊的なパンデミック小説
第五番 久坂部羊 C-
これはどう判断していいのか・・・正直言って読後の素直は「困惑した」ということになるだろうか。
本書は著者の第3作『無痛』の続編と言っていい作品であり、『無痛』の重要キャラクターはほぼ全員登場する。『無痛』を読んでいなくても分からないことはないが、キーとなる出来事や人間関係に関する説明はかなりあっさりとしているので、『無痛』を読んでいた方が良いことは確かだろう。というか、これだけ結びつきの強い作品でありながら、帯等に一切説明がないのはどうなんだろう・・・これは作者でなくて出版社の問題かもしれないが。
本書を一言でいえば、新型伝染病というアイテムによって、日本の医療の危機・現状を暴きだす作品である。医師に対する過剰な期待や厳しい目、医療に関する民衆の浅はかな見識などを痛烈に抉る。過去作品でも、何らかの医療問題に作品を通して警鐘を鳴らしていた作者だが、本書はかなり派手に突っ込んでいる。いきなり医師がぶっ殺され、とんでもない勢いで伝染病は広がっていき、容赦なく死んでいく。
この伝染病が拡大していき、愚かな人々、愚かな医師が大量に死んでいくさまはエンタメとして面白い。特に業のあるものが、まるでつじつまを合わせるように死んでいくのを見るのは、何か見てはいけないようなものを突き付けられているような、著者の他作品にもある独自の凄味と言えるだろう。ここまでは良いのだ。著者独特の倫理観を超越したような人物描写はいつも通り面白いし、展開もスピード感に富んでいる。
困惑するポイントは、主に『無痛』の登場人物絡みである。そもそも本書の中心の筋である伝染病の話しに、『無痛』の登場人物はほとんど関係ないと言っていい。厳密にいえば無理に関係“させられている”印象が強い。そう、最大の困惑は、何故『無痛』の登場人物を絡めたのか?ということなのだ。もちろん異様な外見をした無痛症の男や、病魔が視覚化されるという超常的な特殊能力を持つ男、というケレンの効いた人物を出すことによって初めて暴かれる医療の現実ということはあり、正に『無痛』はその試みを達成した作品であった。
しかし、彼らは“飛び道具”である。話しの中心に持ってこなければいけない。しかし本書ではその扱いが中途半端なのである。脇にいるのか、はたして中心なのかがあいまいで、唐突に終盤に話の中心に侵入し、破壊的な展開を生みだして消えていく。新型伝染病のパニックの末に暴かれる真実、という梗概においては、彼らの存在は不可欠ではなかった。一方で、“飛び道具”である彼らを使うことで表現できるような医療の真実も、本作では十分に伝わってない。ただただ異形の存在に振り回され、そして空中分解してしまった、そのような印象ばかりが残ってしまったのだ。
凄味はあるし、上述の通り新型伝染病から生まれる現代日本医療の問題点を知れたこと、中盤までの展開の面白さなど、魅力は多々あるが解釈に難しい作品、というのが僕の率直な感想である。著者の意図を知りたいところである。
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