2011-12-25
NHKスペシャル「福島第一原発 あのとき何が」と水位計の謎
12/18に、NHKスペシャル「シリーズ原発危機メルトダウン〜福島第一原発 あのとき何が〜」が、福島第一原発1号炉の操作室セットを作り、再現ドラマ形式で事故の経緯を教えてくれるというので見てみた。
出だしは1号炉制御室のセットで、「非常用電源停止」「す、水位確認できません」「放射線モニター確認して」と叫ぶところから始まる。選び抜いた3つの言葉で、今回の事故初期の特徴を表現しようとしている。確かに、当初東電や保安院が出してた情報は、状況と、水位を中心としたわずかな炉のデータと、原発構内の線量だけだった。そしてナレーションが入り、3分かけてタイトルがでる。この辺の安定した様式美はNスペだなあ。
対象を1号炉に絞り、さらに番組中で「イソコン」と呼ばれる非常用復水器(IC:Isolation Condenser)と、圧力容器水位計が正しい値を示さなくなっていた事の2点に焦点を置いた構成。現時点での1号炉のポイントはこの2点なので、構成意図はよくわかる。
ICの動作状況については、東電の説明も調査が進むにつれて段々と変化してきたし、まだ謎がある。だからNHKの説明は勇み足になる可能性もある。そのリスクを多分理解しながらもあえてこの番組を作ったのは、事故当時ほとんど説明できなかった上に、事故から9ヶ月も経ったのにまだ説明しないわけにもいかないと判断したからではないか。
NHK自身は検証番組と称しているが、結果的には、現在知られている公式仮説の内から選んで「説明」した番組だった。公式仮説の正当性を検証したり、新たな事実を明らかにした部分は示されなかったから説明番組と呼ぶべきだろう。メルトダウン前に既に配管が破れてた、などの「別のストーリー」を並べてきちんと考えるのなら検証番組だが、NHKにそこまで求めるものでもない。
だから、この番組を「御用」だと言う人がいてもおかしくない。私はNHKが御用をやらずにどこがやるって思うし、きちんとした「御用説明」をするというミッションには価値がある。これが正しい事実だ、ではなく、東電や政府はこの線で考えています、と受け取れば良い。ただし、NHKの声は否応無く大きいから「別のストーリー」をかき消す声にもなる。
もっとも、現時点で知られている「公式仮説」をだいぶはしょったところもあり、そのまま受け取ると不正確ではある。
・紹介されたメルトダウンのタイミングは、ほぼ最速仮説で、本当のところはまだ判らないこと
・イソコン(非常用復水器)の動作状況は、まだ未確定だし、番組中では省略があること
などは、NHKの「仮説選択」の結果だから、そう決まった訳ではない。
圧力容器水位計は重要なポイントなので、別セットで実験模型を作り(柏崎の設備を借りたのかな?)CGも用意したにもかかわらず、まともに原理を説明できていなかった。多分、説明がヘタなんじゃなくて、原理が理解できなかったのだろう。説明番組なのに、ぶーぶーぶー。
確かに、水位計は地味だが、5月に「やっと東電がメルトダウンを認めた」っていう妙な儀式の際に持ち出されたのは、水位計が実は壊れてました、ってネタだったのが気になる。また、私が最初の日に聞いた「水位が確認できません」と「核燃料棒溶融の可能性」という2点の印象はとても強いから、水位計は大事な気がする。
例えば、緊急災害対策本部の文書(会議資料?)3月11日22時35分付けでは、「運転状態不明、水位確認できない」と報じ、東電は目が見えていないという、ウソつきよりも怖い事態を示していた。 また、当初の1号炉に続いて危機に陥った(ように見えた)2号炉について、核燃料棒の溶けっぷり予想を黒枠付きで報じたから、政府が考えている事故進展のメインシナリオは、有名なチャイナシンドローム方向だと確認でき、自分の知識が足りない中、事故進展のスピード感を得るのに役立った。なるほど、メインのシナリオが順調に進めば、この位の時間で壊れるのかってこと。「最悪の想定」?いや、これは何も対処できなかった場合の「まっすぐ前」であり、東電はそこから逃れようと努力をしてた訳で。
その後も水位計(だけじゃなくて、数日経って徐々に発表が増えてきた圧力や温度他のいわゆるプラントパラメータ)が理解不能な挙動をしていることは、頭の痛い問題だったし、なにより「東電の目が見えていない」という恐怖感を与えるものだったから、「結局どうだったのさ」という答え合わせがしたいんだ。それに必要なのは多分核物理の知識じゃなくて、お風呂屋さんのボイラを作ってる人とかが良く知ってると思う。
水位計の構造
差圧式水位計の仕組みなんて書いたって、誰が読むんだろ、という気もする。判る人は図を見れば一発で判るから読む必要ないし、判らない人は説明を尽くしてもあまり聞かない。
簡単な水位計を図に示す。不透明な缶には水が入っていて、外からは見えない。そこで、底面近くからガラス管を引き出してみる。すると不思議な事に、ガラス管の水面と不透明な缶の水面は同じ高さになる。なぜか。
水には重さがある。上のほうの水は下の水を押し、下の水は自分の重さを加えてさらに下の水を押す。どの位押されているか、という力みたいなものを圧力という。太い缶でも、細い管でも、水深が同じであれば、底の圧力は一緒だ。圧力が違うとそれに押されて、水は圧力の低い方に動く。そうやって、「釣り合い」が保たれるから、不透明な缶とガラス管の水面は同じ高さになる。
じゃ、圧力容器で同じ事をやってみよう。すると、あらあら、水は遥か上方、700m位まで上ってゆく。なんでや。
本当は上の説明は不完全だ。水の重さは考えたけれど、空気の重さは考えていない。実際には空気にも重さがあり、両方の水面を同じ圧力(1気圧程度)で押している。圧力容器で試すと、容器内の水面は、内圧=70気圧で押されるのに、水柱側はわずか1気圧で押されているに過ぎない。これを釣り合わせるためには、700mもの水柱が必要になる。
これでは不便だし、圧力容器の内容物が直接外に露出してるのは危ないから、管の先を圧力容器の上部(気相部分)につないでみる。そうすれば、圧力容器内の水面も、管の中の水面も、同じ気圧で押されるから、水面の高さは一致する。
圧力容器のすぐ外に人間が入って観察するのは現実的じゃない。じゃ、webカメラでも置いたら?それは良い案だけど、カメラは放射線に弱いし、映像ケーブル引き回さなきゃならない。そtれに、福島の原子炉を設計したころには、カメラは手軽なものじゃなかった。
昔から圧力センサというものはある。種類はいくつか有るけど、構造は単純だし、そう壊れないし、放射線にも強い。水の高さと底の方の水圧は比例するから、圧力センサを置く事にする。さっき言ったように、気圧というものがあるから、気相の圧力と水中下の方の圧力を引き算すれば良いのかな?。原理としてはその通り。
でも、工学(技術)ってものはここでは終われない。エンジニアは引き算には慎重なんだ。例えば、物差しで2つの物を測るとする。一つは灼熱のアフリカのサバンナで、もう一つは寒いキリマンジャロの上で測る。そして引き算をする。物差しがプラスチックだったら、寒いところでは縮み、暑いところでは伸びるから、両方の誤差は引き算すると大変なことになる。多分関係ないけど、山の上では気圧が低いことが影響するかもしれないし、他の条件も気がついてない相違があり、誤差を生むかもしれない。だから、可能なら、引き算する時には同じ材質の物差しで、同じコンディションで測りたいんだ。
そこでもう一本水管を立て、基準水柱と呼ぶことにする。水の高さ(基準水位)Hrを一定に保ち、水面は圧力容器内圧で押す。例えばHrをTAF(Top of Active Fiel:有効燃料頂部)に置けば、水位差Δ=Hs-Hrは「燃料棒の上側に何センチ水があるか」を示す。HrやHsは下部の水の圧力PrやPsに比例するから、この水位差ΔはPr−Psに比例する。こうすると、似たような圧力センサを似たような環境で使う事ができる。
こんな原理だから、基準水位Hrが下がると、計測される見かけの炉水位は上がる。NHKが言っていたのは、この最後の1文だけだ。
二重管を使って、内側は炉水圧を、外側は基準水圧を測る。外側の管の上には、蒸気を冷やして水に戻す復水器と水タンクがあり、基本的には復水器で結露した水が落ちて基準水面高を保つのに使われる。水が多すぎれば内側の管に流れ込んで減らし、何らかの原因で水が基準水位に達さなくなれば、水タンクから供給することで基準水位を保つ。タンクは水洗トイレのタンクと同じような仕組みで、水が減ると流れ出し、水面が上がれば蓋が閉まるようにしておけば電気も必要ない。ただし、Nスペの柏崎原発の実写映像や説明用CGを見る限り、復水器はあるがタンクは無い。
水位計不具合の原因
<外部温度:東電はなんとなく温度説>
東電は、「原子炉圧力容器・原子炉格納容器の計測機器の状況について(9/17)」とか「二号機水位計の水張作業について(10/21)」「燃料状態把握のための各種アプローチについて(11/30)」とかいう文書を出していて、以下の記述がある。
1号機
・5 月11 日に基準面器・計装配管へ注水し原子炉水位計を校正。
・原子炉水位計は燃料有効頂部マイナス5m以下であると指示。
2号機
・6月22日、10月21日に基準面器・計装配管へ注水を実施(校正作業は未実施)
・仮設差圧系の指示値から、燃料有効頂部マイナス5m以下であると推定。
・6月22日には炉側、基準面器側両方の配管の水が短時間で蒸発。10月21日では炉側配管の水のみがゆっくりと蒸発。
水位計の復水器が、周囲の高温のために働かなくなったと暗にいっているように見える。2号炉で6月と10月を比較しているけれど、事故当日の高温高圧の炉とは全く違う状態だから、ほぼ参考にならない。70気圧もあった圧力容器内圧はほぼない、285度もあった水温もだいぶ冷えている、格納容器の温度も違う。解明しようと努力したことは認めても良いけど、今後周囲温度説をはっきり持ち出すんだったら、その根拠にはならない。
格納容器内、事故当日や翌日の水位計周辺の温度は判らない。現時点でも情報はないと思う。水位計は通常運転時には働いていたから、その時の格納容器温度では機能していた。一方、炉が停止してしばらくの間に格納容器の温度が上がる理由はまだ見つからない。
Nスペでは単純に「炉が空焚きにより高温になった結果、基準水位柱の水が蒸発して減った」と説明した。空焚きになった後はそうかもしれないけれど、それ以前の時点で既に水位計測は狂っていなかったのか。核燃料棒が露出してゆく過程ではどうか。説明は単純すぎる。
上では温度を考えた。温度と圧力というキーワードから考えると、圧力は原因にならないか?。炉内の蒸気圧が低すぎて結露しなかった可能性は?。でも、炉停止からあまり時間が経っていないのに、気相部分の構成が変化しキセノンや水素で一杯になり、水蒸気圧は高くなかった、とも思いにくい。
<内部の温度と圧力:減圧と気相過熱説>
停止直後の炉の状態はどんな感じだったんだろう、と思い、Wikipediaに載っていたTetensの式を使って飽和水蒸気圧曲線を書いてみた。昔は中学で習ったが、今でも飽和水蒸気圧は中学の理科で、飽和水蒸気圧曲線は高校の化学でやってるはずだ。
水(液体)は蒸発すると水蒸気(気体)になる。蒸発が進み気相空間中に水蒸気が多くなると、下に水がまだあっても蒸発できなくなる。正確には蒸発する分と水に戻る分が釣り合う(飽和平衡)。温度が上ると気相に含まれうる水蒸気は多くなる。それをプロットしたのが飽和水蒸気圧曲線。
原子力を考えるというサイトには「原子炉容器の内圧は加圧水型よりは低く、87.9気圧、302度Cの設計」「冷却水は70.3〜70.7気圧、285〜286度Cで沸騰させ」とある。この温度での飽和蒸気圧は、68.3〜69.3気圧なので、運転時には蒸気はほぼ飽和している。
炉が止まった直後には、圧力容器内部は運転時と同じぐらい高温高圧で、気相部分はほぼ飽和蒸気だろう。核燃料が崩壊熱を発するから、炉内の状態はこの曲線上をつたって右上に移動する(図参照)。つまり、ゆっくり圧と温度が上がり、少し水は蒸発し、少し水位が下がる。圧力が高くなると圧力容器が破れて大変なことになるので、減圧弁(逃がし安全弁:SRV:Safety Release Valve)が働いて蒸気を抜く(東北電力の説明)。
圧力容器は、料理に使う圧力釜に似ている。圧力釜にも減圧弁がついていて、圧が上がりすぎないように自動で蒸気を漏らす。原子炉の場合、蒸気の行き先が下の方のトーラス(サプレッションプール)内の水であるところが違う。
逃がし弁が開いて圧が下がる(減圧、図で下へ行く矢印)と、炉内の水(炉水/1次冷却水)は、即沸騰し、急速に蒸発し、水位が下がり、水の蒸発熱で温度が下がる(左への矢印)。弁が閉じるとまた蒸気は飽和し、ゆっくり圧と温度があがる(右上への矢印)。高圧注水できなければこのループを繰り返し、蒸気として排出された分だけ炉水は減ってゆく。単純化した説明だけど、番組で取り上げた1号炉の事故初期はだいたいこうなっていたはず。
減圧時に沸騰するのは、炭酸飲料のペットボトルの蓋をあけた瞬間に、高圧だったボトル内部が大気圧まで減圧され、炭酸が泡立つのと似ている。
すると、外に引き出された基準水管でも同じことが起こったのかな。つまり、減圧時に炉内が沸くのと一緒に、基準水管内も沸いてしまい、その間に水位が下がる。減圧後、定常状態では復水器が働き、水を補給するけれど足りない。また減圧が起こり、水位が下がる。ここまでは核燃料棒がまだ水面下にある状況のことだ。
核燃料棒が露出しはじめれば、露出した部分が気相を熱し、水中の下部が水を熱している訳で、気相温度>液相温度となりそうだ。気相部では飽和曲線よりも右下の状態、つまり湿度が下がって水が蒸発しやすくになっていたと考えれば、完全に空焚きにならずとも、基準水柱高も減ることになる。
東北大の圓山重直さんが、かなり早い時期から、大胆に仮説構築をしている。メルトダウン以前に圧力容器ないし配管に破断があったという「別のストーリー」が特徴なんだけど、例えばHeat-Transfer Control Lab. Report No. 19, Ver. 2 (HTC Rep.19.2, 2011/10/13) 放射線データによる原子炉事象の検証では、
しかし、炉心の核燃料棒が水面から露出し、上部が過熱蒸気で満たされると基準水位が減少し、水位計は正確な値を示さなくなる。
といっているので、上で書いてきたことの後半部分は、この1文の説明ということになる。
<非凝縮性気体説>
"阿修羅"というサイトの”あっしら”さん(達?)の議論では、「この水位計の問題点は早くから指摘されており、スクラムなどで原子炉が急減圧したとき、復水槽に酸素や水素といった非凝縮性気体が気泡になって溜まり、基準水柱の水を圧力容器に押し戻し基準面の役割を果たせなくなるとされてきた」「今回の事故の場合、燃料被膜管ジルカロイの酸化で大量の水素(非凝縮性気体)が発生した」「蒸気と放射線による水分解で酸素や水素も生じている」と言っている。途中で基準水面がなぜ下がるのかに説明がつながってないと思うけれど、ヒントを与えてくれる。
水素や酸素といった気体は、復水器で蒸気が水になる時に一緒に水にとけ込む分は少なく、気体のまま残るだろう。次第にこれらが復水器の気相に溜まれば、水蒸気の分圧は下がる。すると、基準水柱の水は蒸発しやすく、復水器で水蒸気は凝縮しにくくなるかもね、ってことかな。通常運転でも水分解はあるから、核燃料棒の露出が始まってから、水素主犯でこういう現象が起こったということになる。やっぱり露出後の話。
あるいは、水柱は基準面まであるけれど、管が細くて途中で泡がひっかかり、水管全体としては軽くなり水圧が下がったという意味なのか。
日立の原子炉水位計の特許を見ると、放射線で水が酸素と水素に分解され、これが復水器に溜まって「材料の劣化を引き起こす」問題を解決する、と書いてある。「通常運転時には、これらの非凝縮性ガスが凝縮槽気相部に蓄積し、材料の劣化要因となりうる」。でも、基準水位を狂わせるとは書いていない。
<TMIと同形なのか?>
ついでに、やっぱり水位計の誤表示がからんだスリーマイル島の事故も調べてみた。福島は沸騰水型だが、TMIのは加圧水型の軽水炉で、加圧器の水位計が狂ったとのこと。
フリーの研究者吉田信夫氏の科学と技術の諸相というサイト、TMI原発事故というページには以下の記述がある。
この水位計は、もともと加圧器内の水面を検出するものであり、定常運転のときには信頼できる値を示している。ところが、事故時のように加圧器の上部にある逃がし弁開いていると、圧力の低い外部とつながっている開口部に向かって、熱水が噴き上げるように泡立つため、水面の検出が正しく行えない。むしろ、噴き上げる水に押されるようにして、水位計の針が振り切れてしまう。これを見たオペレータは、加圧器内部に余分な空間がなくなるほどに水がいっぱいになったと考えたのである。
これを見る限り、スリーマイル島では、福島の差圧式ではなく、何らかの手を使って水面位置を直接求めていたようにも見える。
wikipediaでも、「すでに原子炉内の圧力が低下していて冷却水が沸騰しておりボイド(蒸気泡)が水位計に流入して指示を押し上げたため加圧器水位計が正しい水位を示さなかった。このため運転員が冷却水過剰と誤判断し」と書いてある。
他のサイトもいくつか当たったけれど、やっぱり蒸気や水の流動で水面検出器に誤りがでたようだ。水位計が同形でないとすれば、福島の水位計の故障原因をTMI事故から学ぶことは出来ない。「TMI事故で欠陥が証明された水位計をまだ使っていた」わけではないけど、やっぱり水位計が壊れたと。
結局判るのかな
NHKと同じ事故進行ストーリーを仮定した。その上で仮説が3つ、あるいはそれ以上出た。どれかが正しいか、他に理由があるか。
もう少し細かく言えば、「注水していないのに見かけの水位値が上がっていった」から、基準水柱の水の方が、圧力容器の水よりも速く減っていったんだろう。上のどの仮説もまだ、これをうまく説明できない。あっしらさんのがなんとか説明できるのかな。3つを組み合わせてもっともらしくするには、水位計の時系列データと溶融のシミュレーションを組み合わせることが必要で、本稿で試したような定性的な考察の範囲ではなくなる。
3つの仮説は3択という訳ではなく、基準水柱減少という現象の3つの断面だ。例えば減圧説にしたって、通常運転時の格納容器温度では、かなり大幅に減圧しないと基準水柱は沸かない(減圧幅は自動減圧弁の機構によるし、遠隔手動だとまた違う)。格納容器温度が上がれば、減圧幅が小さくてもよくなる。要するにパラメータを共有する式が3本立つということ。
1号炉は、他のプラントパラメータもろくに取れないうちに壊れたらしいので、検証は難しいかもしれないけど、東電には他の炉のデータや実験や計算をがんばってもらい、説明できるところまで持っていって欲しい。そうしたらウソかどうか考える事もできる。何だか主体性のないヒドい言い方だけど、こちらではデータ眺めるくらいしかできない。実際東電は、5/11という比較的早い段階で検証作業を始めている。酸素ボンベしょって、水位計に水を張りに行った。彼らにとっても、一番最初に知りたい謎解きだったんじゃないか。
ここで書いたことは、事故進行のストーリーとして一番メジャー(公式の想像といっていいだろう)な、NHKと同じラインを仮定していることに注意して欲しい。違うラインで事故の進行を説明すれば、どの仮説、あるいは他の仮説が正しいかは、違って見えてくる。私はそこまで手を広げられない。
想像の原子炉を正定する
物理的事実としての原発事故に対して、観測されたことから構成されるものを「想像の原子炉」としておく。データが十分なら、自然と想像の原子炉は本当の原子炉と重なるので、政府発表や報道の問題は、それをどう描写するか、ということだけだったはずだ。
実際には、水位計をはじめとして視界は限られ、東電の現場だってぼんやりと何重にもブレて見える想像の原子炉と戦っていた。事故から数日経って増えてきた東電データは「想像の原子炉」のバラバラの部品群に過ぎず、政府とマスメディアはその組立予想図や完成予想図を示せなかった。東電や保安院がやったのは、バラバラの部品群の一部を放り投げる、つまりプレスリリースなどの形でWebに公開することだけだ。ほとんどの人は見てないだろう。
彼らが説明を放棄したので「想像の原子炉」は中に浮いたままになり、私もそうだが、データを読もうとしていた人達は個々に、組み上がらない部品群をなんとか組み合わせようとしただろう。しかし精々ごく一部の部品が、ほぼ偶然かみ合うくらいのことしか出来なかった。ごく一部の人は端的な断面図ぐらい描いてみせようと発言していたりもしたが、それも3/15ぐらいから、データの種類が増え始めてからのこと、放射性物質の大量放出が始まった後のことだ。
ずいぶん時間がたった。「標準の想像の原子炉」は、不明な物理的事実と完全には一致しなくても、はっきりした姿として「正定」されるべきだろう。だから、よってたかって公式の想像の原子炉をチェックした方が良いし、余裕があれば別のストーリーを構築すれば良い。被災地のことや、現在や未来のことを考える方が建設的かもしれないが、過去を「正定」する作業も重要なはずだ。
以上は炉の話に限ってのこと。3/15から大量の放射能が出たことは明確に見えてた訳で、判らなかった炉、判っていた線量、だった。両者ははっきり別の問題であり、後者について、政府の対応やメディアの不説明には大きな瑕疵と責任がある。想像だから説明しにくかった、という理由は後者にはない。
私は考えたことをいやいや書いている。炉のことなんて、20年以上も前に大学の学部の授業で、多分1.5時間x3〜5コマ分ぐらい聞いた記憶を多少更新した程度だから間違ってるかもしれないし。RCICは良く覚えてたけど、イソコンなんて技術的には地味だからすっかり忘れていたし、飽和蒸気圧曲線なんて中学校以来だろう。
いまさらでも良いので原子力関係者は全力で説明すべきなんじゃないか。あるいは業界に入らなかった原子力工学科卒業者が横から説明するのが一番良いと思うな。あやしい提言なんかいらない、説明だけでいい。そろそろ事故調の畑村報告も出るだろうけど、このままじゃ誰も解説しないでスルーすることになる。それは、「国民的な不幸」じゃないのかな。






