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"Ask not what the net can do for you - ask what you can do for the net."

インターネットの学術利用をテーマにした専門サイトACADEMIC RESOURCE GUIDEブログ版です。記事は主に以下の4点です。

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好評販売中!『ブックビジネス2.0』

好評販売中!『これからホームページをつくる研究者のために』

 

2009-04-20 (Mon)

[][]2009-04-15(Wed): 読書記録−鹿島みづき著、愛知淑徳大学図書館編『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』(勉誠出版、2009年、2625円)

・「いただいた本−『歴史知識学ことはじめ』『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』『法情報サービス図書館の役割』」(編集日誌、2009-04-04

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090405/1238918528

の読書記録最終回。

・「読書記録−横山伊徳、石川徹也編著『歴史知識学ことはじめ』(勉誠出版、2009年、1785円)」(編集日誌、2009-04-09

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090412/1239530413

・「読書記録−指宿信編『法情報サービス図書館の役割』(勉誠出版、2009年、2100円)」(編集日誌、2009-04-12

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090413/1239555115

・鹿島みづき著、愛知淑徳大学図書館編『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』(勉誠出版、2009年、2625円)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4585071253/arg-22/

を読み終えた。

レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙

まずは目次を再掲。

http://www.bensey.co.jp/book/2089.html

正直なところ、本書の主要な部分については、私の範疇を超えており、正面から批評することは難しい。おそらく図書館関係の雑誌に本格的な書評が出ると思うので、そちらを参照していただいたほうがよいだろう。

ここでは、本書における著者の基本的な考えといったところに絞って感想をつづっておきたい。私にとって最も評価したい本書の特徴は、本書が安易な反インターネット論に基づいて書かれているわけではないことだ。いや、むしろインターネットの登場を受けて、図書館図書館学には何ができるのかを突き詰めて考えた末に本書が生まれたのだろう。「はじめに」ではこう述べられている。

サーチエンジンで検索される玉石混交の莫大な情報に、くまなく目を通すことは非現実的です。しかし、振り返ってみれば、これはインターネット情報資源に限ったことではありません。国内で年間8万冊出版される本の情報、あるいは数万冊を所蔵する小さな図書館が蓄えた情報でも同じです。その内容のすべてを個人がチェックすることは不可能です。

すでに述べたように、著者が安易な反インターネット論に与しているわけではないことは、ここに明らかだろう。そして、インターネットの存在を肯定した上で、図書館図書館学の可能性を論じたのが本書ということになるだろう。第4部「課題と展望」の第10章「主題分析の先に見えるもの」にある

世界的な連携が容易なインターネットでつながった世界だからこそ、次世代の情報の組織化を担う新パラダイムに対応する意義が高まりました。情報が無差別に発信・検索されてしまう現在のインターネットのなかで「図書館は違う」と示すことは可能です。そのためには、統制語彙の活用を一例とする付加価値情報とそれを支えるインフラが求められています。

(168頁)

という一文がそのことをよく示しているように思う。

さて、内容には踏み込めないとしたが、気になった点を一つ二つだけ述べておきたい。いずれも本書の範囲や著者の責任を超えると思うが、

  1. 日本語としては難しい専門用語
  2. 日本語に翻訳されない専門用語

をどう扱っていくかが、今後の課題ではないだろうか。著者自身、「次世代図書館を目指す活動の中で、私たちは何をどのように準備すればよいのかを真剣に考える必要があります」(168頁)と述べているが、まず直近で考えるべきは、この点だと思う。本書の書名にある「主題」「主題分析」「統制語彙」といった言葉、あるいは「レファレンス」「ファセット」「パスファインダー」といった言葉を、日本語の世界に生きる我々が理解し使いこなせるような言葉へと、概念レベルから捉えなおして言い換えていくべきではないだろうか。


[][]2009-04-14(Tue): 読書記録−上野佳恵著『情報調査力のプロフェッショナルビジネスの質を高める「調べる力」』(ダイヤモンド社、2009年、1575円)

丸山高弘さん(山中湖情報創造館)のおススメに背中を押されて、早速購入・早速読破。

・「おススメ「情報調査力のプロフェッショナル」」(丸山高弘の日々是電網 The First.、2009-04-12

http://maru3.exblog.jp/8167091

情報調査力のプロフェッショナル―ビジネスの質を高める「調べる力」

・上野佳恵著『情報調査力のプロフェッショナルビジネスの質を高める「調べる力」』(ダイヤモンド社、2009年、1575円)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478490538/arg-22/

目次は以下の通り。

全体的な構成としては、序章から第6章までで「調べる」という行為の考え方と実際の技法を扱い、最後の第7章では著者である上野佳恵さんが「マーケティングを専門とするビジネスリサーチを職業とするまでの歩み」をまとめている。

この種の本はあまり詳しく書くとネタばれになってしまうので、詳述はしないが、読もうかどうか買おうかどうか迷っている方は、まずは「第7章 情報のプロフェッショナルへの道」だけでも立ち読みすれば、決断できると思う。本書の真価はこの章にある。大学での勉強、特に卒業論文への取り組みをきっかけに、著者がリサーチの世界に入っていく過程、そして日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク(MDB)やマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、インフォナビという自分の会社を設立する様が描かれているが、ここは決して単なる自伝ではない。「はじめに」から第6章までに述べられている著者の考えは、この章に凝縮されている。「情報感度」(204頁)、「『公式』は存在しないけれど、『王道』はある」(206〜207頁)、「情報の仕事はコミュニケーションの仕事」(225頁)といった言葉こそが本書のエッセンスではないかと思う。

2009-04-13 (Mon)

[][]2009-04-12(Sun): 読書記録−指宿信編『法情報サービス図書館の役割』(勉誠出版、2009年、2100円)

勉誠出版からいただいた3冊の本を引き続き読んでいる。

・「いただいた本−『歴史知識学ことはじめ』『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』『法情報サービス図書館の役割』」(編集日誌、2009-04-04

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090405/1238918528

・「読書記録−横山伊徳、石川徹也編著『歴史知識学ことはじめ』(勉誠出版、2009年、1785円)」(編集日誌、2009-04-09

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090412/1239530413

今回は『法情報サービス図書館の役割』の感想メモ。

・指宿信編『法情報サービス図書館の役割』(勉誠出版、2009年、2100円)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4585052089/arg-22/

法情報サービスと図書館の役割 (情報とメディア)

本書の位置づけは、編者である指宿信さんが「はしがき」で語っている。

本書は、法律に関する情報、すなわち法情報について、これを利用者に提供することの意味と、そのサービスの有り様について描くと共に、それら法情報に対するアクセスの確保という観点から、図書館ライブラリアンが果たしうる役割について考察を加えたものである。

(1頁)

また、「本書執筆の背景と出発点となる問題状況」を次の3点に整理している。

  1. 司法制度改革での市民に対する法情報サービス提供の不十分さ
  2. 法情報に関する専門職としてのロー・ライブラリアンの未確立
  3. 法学教育における法情報の調査方法のカリキュラムへの未反映

この問題意識から、

http://www.bensey.co.jp/book/2055.html

を基に著者等を追加。

という構成をとっているわけだが、考えうる最高の書き手たちによって個別・全体いずれの観点でもよくまとまった論考が集まっている。特に全編にいえることだが、「こうした問題点ならびに現状の理解への批判的視点と、改革のための考察」(4頁)がバランスよくまとまっている。

・blog of Dr. Makoto Ibusuki(指宿信さん)

http://imak.exblog.jp/

一つだけ難点を挙げれば、執筆陣に本書の中でもその役割が再々言及されている民間出版社の人間がいないことだろうか。また、実現は相当困難と思われるが、立法・行政・司法のいずれかの分野で公職にある方から、本書の趣旨に沿う寄稿があれば、よりいっそう充実したものと思う。とはいえ、これらの点は別に本書の欠点ではない。むしろ、もっと知りたいという好奇心を喚起させるだけの魅力を本書が持っているということの証だろう。

以下は、特に関心を持った章についての個別のメモ。

門昇さんによる第3章「わが国におけるリーガルリサーチライブラリアンの役割」は、ぜひライブラリアンに読んでほしい。公共図書館大学図書館といった館種の違いに関わらず、現在、日本のライブラリアンが置かれている状況と課題がよく示されていると思う。

ロー・ライブラリーに勤務しているライブラリアンであるということだけでロー・ライブラリアンとなるわけではない。

(70頁)

という言葉をはじめ、門さんが投げかける数々の指摘を日本のライブラリアンはわが身に引き寄せて考えられるだろうか。

・法情報の世界(門昇さん)

http://www.law.osaka-u.ac.jp/~kado/

山本順一さんの第4章「アメリカにおける法律図書館の歴史とロー・ライブラリアン」からは、非常に大きな示唆を得た。ここで詳しく書くことは避けるが、とにかく山本さんに感謝。

岩隈道洋さんによる第6章「地域法サービスにおけるロー・ライブラリアンの役割」にある

裁判を受ける権利の中には、「法を知る」権利も含まれるはずであると考えるべきなのであろう。

(133頁)

という指摘には強い衝撃を受けた。「知る」権利ということをもっと考えていかなくてはいけない、と強く自戒させられる。

齊藤正彰さんの第7章「リサーチ・ツール:法情報データベースの現状と課題」と、いしかわまりこさんの第8章「デジタルコンテンツと紙媒体」は、さすがにこのお二人と思わせる内容。紙媒体の情報とウェブ媒体の情報の双方を知り尽くしていればこそ、説得力を持ってウェブで発信される法情報の限界を示している。

・齊藤正彰@北星学園大学(齊藤正彰さん)

http://www.ipc.hokusei.ac.jp/~z00199/

・法情報 資料室 ☆やさしい法律の調べ方☆(いしかわまりこさん)

http://www007.upp.so-net.ne.jp/shirabekata/

齊藤さんのブログによれば、

最初に原稿を提出したのは、2005年4月15日でした。

もちろん、刊行までに何度か改訂しています。

・「法情報サービス図書館の役割」(お知らせ、2009-03-30

http://sait-hokusei.blogspot.com/2009/03/blog-post_30.html

とのこと。刊行までに少なくとも4年の歳月を要したわけだ。この間の編者と著者、そして出版社の尽力に驚嘆する。編集期間が長くなること決しては良いことではないが、本書の品質を考えれば、それもまたやむを得なかったのだろう。

さて、反対意見も根強いが、もう1ヶ月後の5月21日には裁判員制度スタートする。我々一人ひとりが否応なく人を裁く立場に置かれるようになるいまこのときこそ、誰もが手にすべき一冊だろう。

裁判所 - 裁判員制度

http://www.saibanin.courts.go.jp/

法務省 - よろしく裁判員

http://www.moj.go.jp/SAIBANIN/

日本弁護士連合会 - はじまります。裁判員制度

http://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/

2009-04-12 (Sun)

[][]2009-04-09(Thu): 読書記録−横山伊徳、石川徹也編著『歴史知識学ことはじめ』(勉誠出版、2009年、1785円)

・「買おうかどうか迷う本−『歴史知識学ことはじめ』と『社会科学情報のオントロジ−社会科学の知識』」(編集日誌、2009-03-18

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090322/1237692876

・「いただいた本−『歴史知識学ことはじめ』『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』『法情報サービス図書館の役割』」(編集日誌、2009-04-04

http://d.hatena.ne.jp/arg/20090405/1238918528

と紹介してきた

・横山伊徳、石川徹也編著『歴史知識学ことはじめ』(勉誠出版、2009年、1785円)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4585003061/arg-22/

を読み終えたので簡単な感想を。目次は以下の通り。

  • 歴史知識学のめざすもの(横山伊徳)
  • 序章 「歴史知識学の創成」研究(石川徹也)
  • 第1部 歴史知識化システム研究−情報学の立場から
    • 第1章 史料のデジタル化(前沢克俊、伊藤直之)
    • 第2章 史料検索システム(伊藤直之)
    • 第3章 編纂史料からの人物情報の抽出(北内啓、城塚音也)
    • 第4章 人物史データベースの構築(赤石美奈)
    • 第5章 翻刻支援システム(山田太造)
  • 第2部 編纂研究の共有化プロジェクト−歴史学の立場から
    • 第6章 鎌倉遺文を対象とするVirtual Laboratory構築プロジェクト(遠藤基郎)
    • 第7章 21万通の古文書を集める(近藤成一)
  • 第3部 歴史知識学への期待
    • 第8章 歴史知識学の意義(松岡資明)
    • 第9章 文理融合研究への期待(堀浩一)
    • 第10章 討論−歴史知識学の可能性
  • おわりに−「歴史知識学の創成」ことはじめ(石川徹也)

http://www.bensey.co.jp/book/2091.html

を基に著者等を追加。

さて、本書は、

2008-11-22(Sat):

東京大学史料編纂所 前近代日本史情報国際センター 公開研究会「歴史知識学の創成」

(於・東京都東京大学 山上会館)

http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/index-j.html

の内容を一部再構成したもので、この研究会は以下のプラグラムで実施されている。発表題目の右に矢印で附したのは該当すると思われる本書の章。

東京大学史料編纂所 前近代日本史情報国際センター 公開研究会「歴史知識学の創成」【PDF】

http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/news/2008/cdps_workshop_2008.pdf

本書は、伝統的な学問である歴史学に情報学という比較的新しい学問の手法を取り入れてきたこの四半世紀の現状報告といったところだろうか。図書館学と情報学がもっと接近するべきである、つまり両者は離れすぎていると主張することが多い自分としては、歴史学、特に東京大学史料編纂所における取り組みは、こういった分野間融合の可能性を示してくれる内容であり、その点では十分に満足感のある内容だ。だが、同時に本書の書名にも掲げられている歴史知識学の現時点での限界も感じさせられた。

第3章「編纂史料からの人物情報の抽出」(北内啓、城塚音也)にこういう記述がある。

「人物情報抽出システム」の開発プロジェクトの中心的な取り組みは人物データベースの構築ですが、最終的にはそれを活用するための検索・閲覧システムも必要になります。

(43〜44頁)

以降、それでは使いやすい検索・閲覧システムを実現するためには何が必要かが論じられるのだが、この中心的な取り組みとしてのデータベースの構築と、最終的な活用形としての検索・閲覧システムの開発の対比は、本書を語る上で非常に象徴的だ。

大学や企業に籍を置く歴史学や情報学の研究者によって語られるデータベース構築の実際は、多くの人が抱いている歴史学のイメージを鮮やかに打ち砕いてくれるだろう。ともすれば、埃をかぶった古書を紐解いていくという「いかにもな」歴史学はここにはない。史料のデータベース化がもたらしうる可能性には、大きな期待を抱きもするだろう。史料群の中に眠る未知の可能性を具体的な手法も含めて提示している点は、本書に限らず、歴史知識学の醍醐味をよく伝えている。

だが、一歩引いて、活用するための検索・閲覧システムとなると、本書では決して多くは語られていない。検索・閲覧のためにどのような配慮がなされているのか、どのような活用を考慮しているのか、そして、そもそも誰が活用すると想定しているのか等々。デジタルアーカイブの分野でも語られていることだが、どのような利用・活用の実現をイメージしてデータベースが構築されているのか、データベース構築と検索・閲覧システムの開発をつなぐべき一本の線がはっきりとは見えてこない。この点は本書の課題であり、この課題に答えられない限り、歴史知識学の創成はごく限られた領域でしか実現しないのではないかと危惧してしまう。

少し本書から離れれば、東京大学史料編纂所のウェブ発信のあり方に対して、私は数年前から批判を続けている。

利用にあたってはまず「東京大学史料編纂所データベース」のページに入り、利用するデータベースとして「鎌倉遺文フルテキストDB」を選択しなくてはいけない。せっかく優れたデータベースが多数あるにも関わらず、この構造のためデータベースに直接リンクして紹介できないことが多い。東京大学史料編纂所にはこの構造の見直しをお願いしたい。いち早くデータベースの開発に取り組んできた東京大学史料編纂所だが、ウェブでの発信における利便性や操作性の改善については無頓着すぎると思う。

・「東京大学史料編纂所、鎌倉遺文フルテキストデータベースを公開」(新着・新発見リソース2006-10-17

http://d.hatena.ne.jp/arg/20061017/1161018857

今回東京大学史料編纂所スタッフが中心となって編まれた本書を読むと、なるほど、これでは史料編纂所のサイト構築が一向に改善されないわけだと妙に納得するところがあった。データベースの構築は重要ではあるが、そこに傾斜するあまり、フロントエンドインターフェースが置き去りにされているのではないだろうか。ウェブの仕事を10年続けてきた知識と経験に基づいていえば、最終的にどのように利用・活用してもらうのか、その絵を描かない限り、この先何十年にも渡って有効なデータベースの設計・構築はできないと思うのだが、史料編纂所の方々はどのように考えているのだろうか。

ここで連想するのが、図書館システムのことだ。図書館システムも実に様々な課題を抱えている。図書館システムの問題を見るにつけ、先駆的であったがゆえにかえって問題に直面しているというアイロニーを感じなくもない。ほとんどの人がウェブのこれほどの隆盛を想像しえなかった時代にシステム開発が進められたため、かえってウェブ時代に対応できなくなっているのが、いまの図書館システムだと思っている。「歴史情報研究に取り組みはじめて四半世紀が経とうとしている」(序章)という東京大学史料編纂所も、実はこれと同じ課題を抱えているのではないだろうか。

このことは研究会での基調講演に基づくと思われる第8章「歴史知識学の意義」(松岡資明)でも指摘されている。

冒頭で紹介したデータベースにはおおいに問題があります。特に大型コンピューターの時代に作られたデータベースをはじめとして死屍累々と言われています。せっかくの研究成果がほとんど社会に生かされていない。データベースは日常的に多くの人の目にさらされ、内容が修正改善されていかないと、なかなかすぐれたものにならないと言います。人間文化研究機構のような大組織がつくった巨大なデータベース群は別としても、小さなデータベースをどう保全、維持してゆくのかも大きな問題となるでしょう。

(139頁)

この指摘をしているのが、歴史学者ではない松岡資明さんという点もまた象徴的だ。

課題の指摘が多いように思われるだろうが、これは可能性に期待すればのことと思ってほしい。歴史知識学が切り拓くのは、歴史学の未来だけでない。歴史との関係を抜きには語れないほとんどの学問が、歴史知識学の創成に恩恵に預かることだろう。だが、現状のようにデータベースや大規模システム開発に偏った体制では、せっかくの可能性が半減してしまう。本書で示された可能性がどのように実現し、課題がどのように解決されていくのか、

・前近代日本史情報国際センター

http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/cdps/cdpsindex.html

をはじめとする東京大学史料編纂所の今後に注目したい。

以上、いろいろと書いたが、要するに歴史学に関心がなくても情報のこれからに関心がある方にはおススメの一冊であることは、誤解のないように申し添えておきたい。

歴史知識学ことはじめ

2008-10-11 (Sat)

[][][]2008-10-09(Thu): 牛山素行著『豪雨の災害情報学』読了

豪雨の災害情報学

・「牛山素行著『豪雨の災害情報学』(古今書院、2008年、3675円)」(編集日誌、2008-09-26)

http://d.hatena.ne.jp/arg/20080929/1222614945

で紹介した

・牛山素行著『豪雨の災害情報学』(古今書院、2008年、3675円)

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4772231145/arg-22/

を読み終える。

書評にまとめるほどには読みこめていないので、まずはメモ程度に。

著者自身は本書を、

「リアルタイム情報によって被害が軽減された」とか、「早期避難により人的被害をゼロにした」といったことは、自明なことだと感じられるかも知れないが、実は、これらのことを具体的・定量的に示した調査研究例はほとんど無い。本書の取り組みは、日本の防災に関係する事項で定性的によく言われることを、少しでも定量的に示すことを目指した試行錯誤であるといってもよい。

(ii頁)

と位置づけている。通読して、この位置づけに深くうなずく。一見、自明のことと思って看過してしまいがちなことに対し、著者が丁寧に実態を検証していくさまは、専門分野に関わらず科学の方法論としても参考になると思う。

また、たとえば降水量のような記録と過去の災害のような記憶を扱っているだけに、図書館アーカイブズの関係者は様々な示唆を得られる一冊だろう。印象的な一節をいくつか紹介しておきたい。

降水量の「記録的」「過去最大」といった情報源としては、気象庁のAMeDASデータが使われることがほとんどである。しかし、AMeDASの全国展開完了は1978年であり、その蓄積は30年程度にすぎない。AMeDASより前のデータは「役に立たない」などということはなく。「デジタル化されていないので使いにくい」にすぎない。われわれの先人たちは、その時代ごとの持てる力を最大限に発揮して、後生に貴重な災害の記録を残し続けてくれている。われわれは、その記録をもっと有効に活用すべきではなかろうか。

(31頁)

広島市周辺地域においては、今回事例を大きく上回る規模の豪雨災害が過去に何回か発生していたことが今回確認された。しかし、それらはいずれも30年以上前の古い記録であったため、住民らの記憶から消え去ってしまっていたことが考えられる。

(61頁)

どちらも図書館アーカイブズの役割に引き寄せて考えられる指摘ではないだろうか。また、図書館アーカイブズが災害の記録と記憶についてどのような貢献ができるのか、という観点でも議論を深められるだろう。言うなれば「防災支援」の可能性である。

その他、ウェブサイトを中心に学術情報資源のあり方に関心を持つ自分としては、第3章「認知されない・使われないリアルタイム水文情報−2002年7月台風6号および前線による豪雨災害」の衝撃が大きかった。サービスを提供することは重要だが、その先にある幅広い利用・活用をどのように実現するのか、引き続き考えていかなくてはいけないだろう。

・「「豪雨の災害情報学」刊行」(豪雨災害と防災情報を研究するdisaster-i.net別館、2008-09-22)

http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-c98e.html


[][]2008-10-07(Tue): 大阪大学総合学術博物館・大阪歴史博物館監修『城下町大坂−絵図・地図からみた武士の姿』(大阪大学総合学術博物館叢書3)(大阪大学出版会、2008年、2100円)

城下町大坂 (大阪大学総合学術博物館叢書)

10月31日(金)から11月1日(土)にかけて開催される大学出版部協会編集部会の秋季研修会に講師としてお招きいただいているのだが、初日は

・大阪大学総合学術博物館・大阪歴史博物館監修『城下町大坂−絵図・地図からみた武士の姿』(大阪大学総合学術博物館叢書3)(大阪大学出版会、2008年、2100円)

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4872592131/arg-22/

を題材にした作品ケーススタディが行われる。せっかくの機会なので、自分も参加させていただくことにしたので、本書を読んでみた。目次は以下の通り。

  1. 城下町大坂−絵図・地図からみた大坂の武士の活動
    • 大坂の武士と絵図・地図
    • 大坂城入城
    • 大坂の武家屋敷
    • 大坂湾警備の展開
    • コラム「発掘された城代家臣屋敷」
  2. 武士の情報と生活−町人と武士の接点
    • 武士の情報の出版
    • 町人による情報の収集
    • 武士と出会う場所

なお、本書は2008年2月20日(水)から3月31日(月)にかけて大阪歴史博物館で開催された

・大阪歴史博物館・大阪大学総合学術博物館連携企画 第52回特集展示「城下町大坂」

http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2007/jokamachiosaka.html

を元にしているという。

・大阪歴史博物館・大阪大学総合学術博物館連携企画 第52回特集展示「城下町大坂」 - おもな展示資料

http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2007/jokamachiosaka/jokamachiosaka_item.html

で本書にも収録された資料のいくつかを見ることができる。

・大阪大学総合学術博物館

http://www.museum.osaka-u.ac.jp/

・大阪歴史博物館

http://www.mus-his.city.osaka.jp/

・大阪大学出版会

http://www.osaka-up.or.jp/

先日のデジタルアーカイブズの話とからめて、いろいろと思うところはあるが、それは当日にまた。

・「日本アーカイブズ学会 2008年度第1回研究集会「デジタル情報技術が拓くアーカイブズの可能性」でコメント」(編集日誌、2008-10-04)

http://d.hatena.ne.jp/arg/20081006/1223225217

2008-10-06 (Mon)

[][]2008-10-03(Fri): 二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』、読了

・「二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』(岩波書店、2008年、2940円)」(編集日誌、2008-09-27)

http://d.hatena.ne.jp/arg/20080929/1222614944

で新刊として紹介した

労働は神聖なり、結合は勢力なり―高野房太郎とその時代

・二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』(岩波書店、2008年、2940円)

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4000025937/arg-22/

を読了。

高野房太郎といえば、どんなにかんばっても大学受験に備えての日本史の勉強の片隅に出てくる人物というのが大方の記憶だろう。いや、日本史が大学受験の必修科目ではない以上、それすらむしろ例外かもしれない。

そんな高野房太郎という人物の一生が、本書には実に躍動感を持って描かれている。高野の人生のハイライトシーンは、労働組合期成会や鉄工組合を設立し、生協運動のさきがけとなった頃だろう。だが、その期間は実は1897年から1900年までのわずか3年ばかり。その前史であるアメリカを中心とした海外生活は実に10年。日本帰国後、高野は精力的に活動するわけだが、その素養をアメリカ生活の中でどのように磨き深めていったのか、本書の前半部は実に丹念に追いかけている。まさに歴史家の仕事というべきだろう。

多数の史料を読み込んでいるからこそだろう。本書の随所で著者は、従来の学説や理解に対する数々の新説を示している。残念ながら、自分にはその当否を判断することはできないのだが、著者が示した新たな解釈はどのように評価できるのだろうか。ここはぜひ同じ分野の研究者の反応を期待したい。

なお、目次は以下の通り。

  1. 文明開化の子−長崎時代
  2. 若き戸主−東京時代
  3. 諭吉の孫弟子−横浜時代
  4. 桑港で日本雑貨店を開業−夢の実現と破綻
  5. 職工義友会を創立−日本労働運動の源流
  6. アメリカからの通信−日本最初の労働組合論
  7. アメリカ海軍の水兵−「戦時特派員」を装う
  8. 職工諸君に寄す−組合結成の呼びかけ
  9. 労働組合期成会の人びと−労働運動の応援団
  10. 鉄工組合の誕生−日本最初の労働組合
  11. 横浜で「共働店」開業−生協運動の先駆
  12. 鉄工組合の衰退−治安維持法前後
  13. 高野房太郎と片山潜−指導者としての資質
  14. 終章「失敗の人」か?

著者の渾身の力作であり、重厚な研究書であるが、同時に評伝として存分に楽しめる。労働問題や生協運動の先駆者として、あるいは海外に出た初期の日本人・明治人として、幅広い層の関心を刺激する一冊である。ぜひ、大勢の方に手に取ってほしい。