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地下室のアーカイブス(岩川ありさBLOG) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter


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2012年04月16日

[]【004】打海文三『愚者と愚者下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ』角川文庫,2008.



 『裸者と裸者』に続く、打海文三の応化16年シリーズ第2弾下巻。


 応化16年、内戦状態に陥った日本で、女の子だけのマフィア、パンプキン・ガールズを組織する月田椿子は、渋谷を拠点にして、アンダーグラウンドで進撃を続けている。戦争を持続させるシステムを破壊するために闘うという、矛盾を一身に引き受けた少年少女たちを描いた下巻において主題となるのは、「性の再定義」の問題である。パンプキン・ガールズの突撃隊員のひとり三千花はMtFトランスジェンダーであることがばれてしまい、彼女をパンプキン・ガールズの一員として認めるかどうかで、ひと騒動が起こる。椿子は、「わかった。女の子を再定義しよう。自分で女の子だと思えば女の子。それが女の子の定義だ」といい、三千花をパンプキン・ガールズの一員として迎える。戦争のさなか、女の子を生き延びるのは大変だ。それでも、なりたいものになろうとする「女の子」の権利を妨げないという椿子の言葉は、フェミニズムクィアポリティクス叙事詩としても読める「応化16年シリーズ」らしい。


 日本国内において、たくさんの勢力が内乱を続けるという設定の中で、女性差別ゲイヒロイズムを掲げる「黒い旅団」による、MtFトランスジェンダーの虐殺が起こり、女性差別とトランスジェンダー差別に反対するパンプキンガールズなどの諸派との大規模な闘いが勃発する。ルール無用の闘いが続く中で、「黒い旅団」の狂気は暴走し、やがて、男性至上主義の「黒い旅団」にも亀裂が見えはじめる。そこで見た真実は、「黒い旅団」の革命防衛隊の司令官で、事実上のNo2である多村毅が、ゲイヒロイズムを掲げ、女性排除を訴えながらも、実際には、FtMトランスジェンダーであったということだ。トランスし、男性性を過剰に身につけた多村によって、MtFトランスジェンダーが虐殺されたということ。そして、多村が男性として生きるようになったのには、戦下において、男性から性暴力を受けたことが関わっているということがこの下巻においては非常に重要になってくる。


 性暴力で受けた精神的な外傷をいかにして恢復するのか。戦時下での性暴力とその報復の連鎖を食い止めることができるのかといった問題が、この小説の根底には響いており、現実の社会問題隠喩として響く。その際、打海文三は、破局的な戦争の中で、クィア・ポリティクスとフェミニズムが交差する領域を物語として描いてみせる。誰かが悪を犯さなければ、生き延びられない戦争の世界を描き出しながら、この小説は、戦争に徹底して反対する。首都圏の武装した女の子たちは、ワンピースとハイヒールを履きながら、「出たとこ勝負だ!」と叫びながら、生き延びる道を模索する。そして、「おまえが罪を犯すなら、わたしも罪を犯そう」という言葉で結びついたパンプキン・ガールズの闘いは続いていく。まさしく、ジェンダーを揺るがす彼女たちの闘いの記録である。


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