Hatena::ブログ(Diary)

記憶の残滓 by arkibito

2016-02-04

パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト

f:id:arkibito:20160204115303j:image:w320


マルコ・パンターニ

スキンヘッドに口髭を蓄えた型破りな容姿。

魔の山に単騎突進し、

スーパーマンのようにヒルクライムを駆け抜けたその超攻撃的なスタイル。

豪快さと力強さに加え、どことなく漂う危うさと脆さを兼ね備え、

長いロードレース史上でも稀有なユニークさで、

世界中を魅了した愛すべき海賊(ピラータ)。

その栄光と影の歴史である。


90年代フジテレビが毎年放映していた時代に

もっとも熱狂的にロードレースに熱をあげ、

もっとも自転車にのめり込んでいた自分にとってはもちろん、

あの時代を知っている人ならおそらく誰でも

パンターニは憧れのヒーローの一人だ。

インデュラインの登場で、ロードレースは個人と個人のぶつかり合いから、

システマティックな戦術によって戦うという方式へと変わり、

その戦術はのちにランスによって不動の方程式となるのだが、

そういった形式的で、組織的なやり方ではなく、

情熱的で人情味にあふれ、

無鉄砲で型破りな一匹狼を人は愛するものだ。

時に後先も考えずに麓から容赦なくアタックを繰り返し、

ついには圧倒的な差で山頂ゴールをする。

独特の無茶な姿勢で自殺的とも思えるような猛スピードで山を駆け下りるその姿。

かと思えば山ではあれだけ無敵を誇りながらも、平地のTTはからきしダメという、

そういう欠点さえもがチャーミングに思えてしまう。

例えば、完璧なシューマッハよりも

セナやマンセルの方が魅力的だったりするのと同じで、

その人間臭さが誰もを魅了したのだ。

だから2004年に彼がオーバードーズで亡くなったと聞いたときは

かなりショックを受けたことを今でもはっきり覚えている。

それが直接の原因ということでもないけれど、

自分はちょうどこのころから自転車を降り、

30代になるまでの長い間自転車に興味を失ってしまうことになった。


f:id:arkibito:20160204184724j:image:w320


選手時代に果たして本当に彼がドーピングに手を染めていたかどうかはわからないし、

この映画もどちらかというと遺族側の視点に立っているので少し公平性を欠くから、

どうかははっきりしない。(でも、ないと信じたい)

時代背景を考えると、

98年にフェスティナ事件という未曽有の大スキャンダルが起こり、

そこから数年は異常とも思えるほどの

ドーピング対策&ドーピングスキャンダルの嵐だった。

ツール・ド・フランス自体が大会存続の危機に瀕し、

UCIASOもクリーンなイメージを打ち出す必要性と、

自らの正当性をアピールする必要があったし、

そのためには見せしめ的に誰かを吊し上げる必要があったのも事実。

組織に準じないパンターニは絶好のカモだったともいえる。


そしてチーム。

ロードレースに限らず、スポーツには常に2つの側面が存在する。

ひとつは、純粋に個人あるいはチームとしての力量を比べ、

速さと技、強さを極限まで追求し、勝利を目指す競技としての側面。

そして、もう一つは、それらを運営し管理し、

利益を生み出していくビジネスの側面。

国際的に巨額のマネーが動き出せばロクなことはない。

スポンサー様のために勝つ=儲けるためには、あらゆる手段を使う。

そこで導き出した一つの答えが、ドーピングであり、

そのドーピングシステムはより巧妙により組織的に構築されてきたというのは

明確に暴かれた事実である。


そして悲しいかな結果的に当時の多くの有力選手たちが、こののち、

悪しきドーピングシステムに従って薬物に手を染めたことを告白し、

ある者はペナルティーを受け、

ある者は引退に追い込まれる事態になったのも事実。

主催者側も、チームも、個人も、

どのレベルにあっても当時(そして今も?)はグレーゾーンであり、

自己保身に躍起になっていた。

そんななかで、時のスターだったパンターニ

様々な面で矢面に立たされてしまうこととなる。


ドーピングの真偽はいったん置いておくとして、

結果的に当時のすさまじいドーピングバッシングの真っ只中に放り込まれ、

警察につけまわされ、マスコミに追い立てられ、

しまいには世間から裏切り者とののしられる日々の中で、

誰からも味方されず、

仲間であるはずのプロトンからも卑下され(ランスからのひどい悪態)、

愛すべき自転車への情熱さえも失って、

いかばかりの闇を抱え込んだのかと想像してしまう。

そしてついにはその弱さに漬け込む悪魔の誘いに乗って、

本当に薬に手を出してしまったことは

(ジャストタイミングの清ちゃんのニュースが泣ける…)

決して許されるべきではない事実で、

言い訳にもならないのだけれど、

自転車と薬という切っても切れないロードレース界の闇の

スケープゴートになってしまったことは無念でならない。

そしてこの闇は今なおロードレース界に暗い影を落としたままなのだ…


この映画を見て決定的に悲しいのは、

作中に登場する人物のほとんどが薬物疑惑にまみれ、

実際に薬物使用によってペナルティーを受けることになる人たちばかりだということ。

1998年のあの忌まわしいフェスティナ事件のニュース映像で、

大粒の涙を流して悔しがったリシャール・ビランクも、

その騒動の最中、選手の代表として主催者側と毅然と戦ったローラン・ジャラベールも、

結局は猿芝居だったのだし、

当時(インデュライン時代とランス時代の狭間)総合を争ったライバルたち、

つまりヤン・ウルリッヒやビャルヌ・リースといった面々もみな

見せかけの強さを晒していたに過ぎない。

そして極めつけは、大金と名声に目がくらみ自ら進んで道化役を買って出た

忌まわしきランス・アームストロングという悪魔。

奴は白でさえも黒に染め、すべてを茶番へと陥れた。

極めて悲しいことだが、

これもまたロードレースの歩んできた紛れもない歴史なのだ。

歴史は歴史として受け止めざるを得ないが、

自転車を愛するものとしては心底悲しい事実である。


とはいえパンターニが残した超人的な記録、

つまりラルプ・デュエズ速記録や、

史上7人目そして現時点では最後のダブルツール達成は今でも色あせることはない。

ただ…

もし、あのスキャンダルの中で一人でも支えれあげる人がいればどうだったろう?

もし、あの99年のジロで追放されずにマリアローザを獲得していたらどうだったろう?

もし、彼が欲望と疑惑にまみれたプロレーサーの道を進まなかったらどうだったろう?

大好きだった自転車競技を大好きなままでいてくれたであろうか。

邦題に、”ロードレーサー”ではなく”サイクリスト”と記されているところに、

製作側のパンターニへの厚い愛情を感じる。

つまり、純粋に速さと強さだけを追い求める自転車少年として…

享年34歳。

あまりに若すぎる、そして惜しい死だ。


f:id:arkibito:20160204184722j:image:w360


最後に、話は少しそれるけれど、一番の驚きは、

あれだけハイペースな戦いをしていて、

ガードレールもないダウンヒルであんな無茶な姿勢でスピードを出しているのに

当時はヘルメットなし!

今なら完全にありえないだろうなあ。


第七藝術劇場

f:id:arkibito:20160203102102j:image:w360


さて、今回久々に十三にある第七藝術劇場を訪れたのだが、

ここは思い入れのある映画館。

自分が学生のころは、

「トレスポ」「アメリ」といったミニシアター系映画がヒットし、

小劇場が盛況だったのだが、そのブームも去るころになると、

体力のない劇場が次々と閉鎖に追い込まれた。

この第七藝術劇場も一時休館に追い込まれたのだが、

その間、貸しスペースとして提供されていて、

何度かイベントをさせていただいた。

複数の大学の団体と一緒に学生映画の自主映画祭などもして、

自分の作品もこのスクリーンで流されたこともある。

あの時はゲストに犬童一心監督が来ていて、コメントももらった気がする。

立地的にはちょっと怪しいところにあるのだが、

細々とでもずっと営業を続けているのは素晴らしいですね。

2012-07-17

ツール2012 雑感

競技的な乗り方に興味を失いつつあるなか、

同じく競技的なイベントにも興味が薄れつつあるが、

ツールとなるとまた別腹なのか、ちょいちょいチェックを入れている。

今年はピストレロもシュレクもフースホストも出ないので

最初から白けた感があったのだが、それはそれと誰かが穴埋めしてくれるもの。

今年は五輪イヤーで気合入りまくりのスカイチームの独壇場。

コンタの登場以来、対個人戦の色合いが強かった総合争いだが、

その前は、ランスウルリッヒインデュライン、レモン、イノーの時代なんかは、

今のように絶対的に強い1つ2つのチームがいて、

そこにどう挑んで行くかという展開だったので、

ポスタル・バネスト・T-モバイル・ラヴィクレール)

なんか一昔前のツールに戻ったなあという印象が強い。


総合は、大本命のエヴァンスに3分近く差をつけた

薄毛ロッカー・ヴィギンスでもう決まりでしょ。

これで決めれなかったらよっぽどです。

こんな展開だと、ますますエヴァンスがブーニョやロミンゲルに重なって見える。

山岳は残ってるけど、コンタやシュレクのような総合争いできる山のスペシャリストならまだしも、

エヴァンスのアタックならヴィギンスでも潰せるだろうし。

山岳王争いは相変わらずカタなしだなあ。

昔はキアプッチだったりヴィランクだったり、華やかだったけど、

ここ最近はどうもピリっとせん。

スプリント争いは超人ハルクvsキングコングのバトルは面白い。

逆に総合争いメインのチームで満足にアシストのいないカヴどんは、

まったくいいところがない。

もう上れないスプリンターってのはおしまいかなあ?

それでも最終日はやってくれるかな?

2010-11-11

衝動買い

いきなりやってきた冬の寒さに、もう1枚長袖ジャージが欲しくて

イロイロ探してたら、思いがけないものを発見して衝動買いしてしまった。

BANESTOのロングジャージの92年ものです。


自分の中で最強ローディーでありヒーローなのが、M・インデュラインです。

史上初のツール5連覇(91〜95)、そのうち92-93の2年連続はジロとのダブルツール、

世界選手権も取ってるし、当時のアワーレコード保持者でもある。

そんな偉大な王者ですが、なによりその人懐こい顔と、穏やかな性格なのがいいんです。

アメリカンな絶対王者とは大違い。

元々は89年のツール王者P・デルガドのアシストとしてキャリアスタートし、91年に下克上。

あいつの方が速いからあいつに勝たせようとあっさりエースの座を譲っちゃうデルガドも人がいい。

イノーが後継者のレモンとやりあったのを考えるとなおさら。

トライアルでタイムを稼いで、山岳ではライバルを徹底マークするという

現代の戦術を初めて生み出したのも彼なのです。

彼の戦術はランス以降、ツール制覇の定石となっていくのだから偉大です。

その必勝の方程式で90年代では本当に無敵でした。


そんな彼のBANESTOのジャージ、いつかはほしいなと思ってたのです。

で、Yahooオークションに初参加したものの、非会員なので入札に上限があり

ぱしゃ君に無理を言って落札してもらいました。といっても5350円。

適正サイズMの自分にはXLは大きめなのと、

20年近く前の衣類なので、実用できるかどうかは微妙だけど、うれし!


f:id:arkibito:20101110210420j:image

2009-08-13

プレイバック ツール’94

どこからともなく湧き上がってくる”走りたい欲”、この欲求不満を解消するために、

家で眠っていた過去のツールのビデオ(随時DVDに再ダビング中)を引っ張り出してきて

このところ連日見ている。

僕にとってはツールといえば、インデュラインが5連覇を果たした時期がど真ん中の時期。

アームストロングが7連覇した時期より、こっちの方が役者も多く、まさに黄金期だったと思う。

ちょうど80〜90年代に活躍したベテラン選手と、90年代〜2000年に台頭する新人選手が

並んで走る時代で今見るととてもおもしろい。


今見ているのは94年。英仏トンネルが開通した年で、フランス北部リールを出発、

カレーでTTTをこなしたのち、イギリスに渡り、そこから南下、

後半にピレネー、アルプスの山岳が集中、その間に山岳個人TTがあるというコース設定。


インデュラインはその年までツール3連覇、

しかも史上唯一の2年連続ダブルーツール達成で無敵状態。

ただ直前のジロで3位となり、膝の故障と力の衰えで連覇は不安視されていた。

対抗馬は、前年ツール2位、プエルタ3連覇のトニー・ロミンゲル、

あるいは同時代のライバルだったジャンニ・ブーニョ、クラウディオ・キヤプッチ。


結局、ライバルが体調不良で脱落する中体力を維持し続け、

TTでの堅い走りと、後半の山岳でのケタ違いのスピードでインデュラインの4連覇。

2位はウルグモフ、3位はかのマルコ・パンターニ

マイヨ・グランペールは若き日のリシャール・ビランク

(後に歴代最多の7度の山岳王となる記念すべき1回目)

マイヨ・ベールはウズベクの暴れ馬アブドジャバロフ!

(やつに比べたらカブなんてお子ちゃま)


この年引退やグランツールはラストというベテラン選手の最後の勇姿が印象的。

3回の総合優勝を誇るグレッグ・レモンのラストラン。

TTTでもまさかの失速で、チームメイトのマイヨを死守できず。

結局序盤戦のなんでもない平坦コースで集団についていけずリタイア。

かつての数々の伝説を残したヒーローのラストはあまりに寂しかった。

同じくキヤプッチも得意の山岳ステージでまさかのリタイア。

ブーニョ(今で言うエヴァンスだな)も衰えがすさまじく、

全く優勝争いに絡むことがないままフェードアウト。

逆にデルガド・ベルナールのバネスト最強アシスト、

モテやルブランなどはまだまだ健在。


今や大物選手のまだ初々しい姿も楽しい。

のちに7連覇を果たすアームストロングは2回目の出走で、マイヨではなくアルカンシェル姿。

山岳個人TTでは、2分後にスタートしたインデュラインにいとも簡単に抜かれてた。

序盤の平坦コースでは、早くもチッポリーニ劇場がこの年から開演、ただし衣装はまだ地味。

3位に入った期待の新人(!)パンターニはまだ24歳で、トレードマークののスキンではなく、

なんと波平カット!実況に「これでもれっきとした新人です」と言われてた。

パンターニの本気のアタックにも余裕でついていけるインデュラインって一体どうなってんの?

初めての山岳王に輝いたビランクは、アルプスステージ制覇で号泣。しかしよく泣く。

かわいそうなのは、スプリント王ジャラベール。

第1ステージのゴールスプリントで、あろうことかカメラを構えていた警官に衝突。

顔面骨折で一時は引退間際までいく大怪我でリタイア。

当時インデュラインの後継者と目されていた期待の新人アレックス・ツェーレも

観客と衝突し、結局体調不良で早々に優勝争いから脱落。速いけどホントに運のない人。


そういえば今や名将とうたわれるビャルヌ・リース(現サクソバンク監督)や

ブリュイネール(アスタナ⇒ラジオジャック?監督)の現役姿もチラチラと。


ああ、もうこのブログ書いてるだけでおもしろい。帰ったら今日も観よっと。