桂屋孫一のニューヨーク・アートダイアリー

2016-07-20

"Kanze Noh Theatre"@Rose Theater(或いは「翁」の心)。

20:06

今日は、今週末放送されるオススメ番組から。

レディ・ガガのシューズ・デザイナーでアーティストの舘鼻則孝氏+桐竹勘十郎師が、パリのカルティエ現代美術財団で行った「舘鼻文楽」(拙ダイアリー:「『舘鼻文楽』@カルティエ現代美術財団」参照)の模様が、来る7月24-25日にNHK WORLDのスペシャル番組「Bunraku in Paris」として放映される(→http://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/special/201607/23.html)。若しかしたら僕も映ってるかも(笑)…是非ご覧頂きたい。

さて本題。

湿気も少なく、何とも気候の良いニューヨーク…その舞台芸術の殿堂、リンカーンセンターが主催する「第20回リンカーン・センター・フェスティヴァル」で、二十六世宗家観世清和師率いる能楽観世流の公演が開催された。

観世清和宗家が能公演で来紐育されたのは、23年前のメトロポリタン美術館ギリシャ神殿での公演以来と云う事なので、総勢30名の座員を率いた本格的な公演は、今回が初と云っても過言では無い。そして良い意味で「肩書」や「名前」を重用するアメリカ人に取って、「宗家」に拠る公演の意味も絶大だ。

さて前回のダイアリーに記した様に、11日に来紐育された宗家はその日の夕方に日本クラブで、翌12日にはジャパン・ソサエティでの講演会を精力的に熟され、愈々13日、リンカーン・センター・ローズ・シアターでの公演初日と相為った。

初日公演を観る為に、僕はタイム・ワーナー・ビルの5Fに在る会場のローズ・シアターのロビーで友人達と待ち合わせ、宗家夫人や観世会の方とのご挨拶を済ませると、早速劇場内へ…。

ニューヨークに来てからの16年間、此の地で能を見る機会も多かったが、橋掛りもキチンとしたこれ程本格的な舞台は初めてで、仕上がりもかなり美しい。そして客席を見渡すと満員で、歌舞伎公演に比べても外国人の姿が圧倒的に多く、能への強い関心が窺える(反面、在ニューヨーク日本人の能に対する関心が、歌舞伎に比べて低い証しでも有ろう)。

また今回の公演番組はかなりシブい選択がされて居て、則ち「翁」「羽衣」「隅田川」「石橋」「葵上」(狂言は「仏師」と「柿山伏」)で、僕から云わせると如何にもヨーロッパ向きの曲ばかりだが、決して「ウケ狙い」や「分かりやすさ」重視では無い、能の本質を伝えたいと云う考えが垣間見える。

そして初日の「翁」が始まった。

ローズ・シアターは非常に音響の良い劇場なので、宗家の謡も小鼓の音も響き渡り、抜けが良い(良過ぎる、とも云える)。また役者達が烏帽子・狩衣等の、正式な装束を着けた「翁」が海外で舞われるのは恐らく初めての事で、それもそもそもこの「翁」を舞い見せなければ「能」の根源は分からない、との宗家の意気込みの証しだ。

思わず唾を吞み込みたく為る様な緊迫した雰囲気の中、地謡をも含む出演者全員が揚幕から登場し(これは「翁」だけ)、劇場内に朗々と響き渡る宗家の謡とテンポ有る小鼓…荘厳な翁舞も、その後の大蔵流のクラシカルな三番叟も、人間の肉体の内側に込められた力を、大地の豊穣を言祝ぐ力を十二分に感じる事の出来る気合の入った素晴らしい舞台で、終了後には万雷の拍手が送られた。

その後インターミッションを挟んで、観世芳信師に拠って舞われた「羽衣」は、美しい装束と世界各地に伝承される似た物語で観衆を魅了したのだが、驚いたのはこの「羽衣」の最中に何と場内から爆笑が起きた事だ!…それは羽衣を返せという天女と、返さない漁師の白龍のやり取り、そして最終的に「いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを」と云う天女の台詞に、素直に返して仕舞う白龍が滑稽に見えたらしい。

これは舞台上部に設置されたモニターに出た英訳の所為も有るかも知れないが、外国人からすると、天界人と人間が対等に駆け引きをし、結局は「嘘を吐くのは人間の方じゃないか」との天界人の一言で人間が素直に納得する処が、コミカルに映ったのだろう。

然し今回の公演を見て居て強く思ったのは、何しろ能の詞章の長さとその英訳の難しさだ。恐らくは宗家のご意向だと思うが、地謡の謡は訳しても役者やアイの台詞全ては訳さず、何故ならば例えば僕等がイタリアンオペラを観る時に、眼が舞台に向かわず翻訳モニターに集中して仕舞うのと同じ状況を避ける為に相違ない。少ない字数と意訳で、外国人にどれだけ能の物語が伝えられるかは判らないが、能と云うのは現代日本人の殆どが観た事すら無く、況してや何を云って居るのかチンプンカンプンな芸術なのだから、外国人にはその感性だけでも伝えられたら良し、とせねば為らないのかも知れない。

美しい「羽衣」が終わり、万雷の拍手の中席を立って帰ろうとしたら、宗家を含めた黒紋付姿の役者達数名が再び舞台に登場し、アンコール的に「土蜘蛛」の御仕舞が始まった。これはジャパン・ソサエティのレクチャーの時と同じ「サービス」で、土蜘蛛の糸宗家に拠って投げられると会場はどよめき、正式演目には無いショー的要素の強い仕舞をアンコールに持って来た、憎い演出に喝采を送りたい。

そして初日の公演自体はこの「土蜘蛛」でお終いだったのだが、もう1つ驚愕したのは、お仕舞後の外国風「カーテン・コール」に登場した宗家が、観客に何と「投げキッス」を送った事だ!日本では決して見れない、いや、考えられないパフォーマンスだったが、観客は拍手喝采でそれを受け止めた…流石「リンカーン・センター・フェスティヴァル」で有る(笑)。

翌14日もローズ・シアターへ…さて僕は全公演を観た訳では無く、なるべく演目が重ならない様に日を選んでの観能だったので、この日の「隅田川」、「仏師」と「石橋」、そして土曜日の「葵上」で打ち止め。で、この日は前日の評判も上々だった事も有り、会場は満員御礼で、公演前・インターミッション中を問わず、数多の外国人から色々な質問を受ける事と為った。

そうして始まった「隅田川」は、宗家のシテ、森常好師のワキ共素晴らしく、物語的には判り易い事も有って、ニューヨークの観客の感動を誘った。続く狂言仏師」では、予想通り会場はそのコミカルな動きと台詞に沸き、「石橋」では豪華な装束と派手な動きに溜息が洩れる。そして再び「土蜘蛛」のアンコールを経て、この晩の宗家のカーテン・コールは「投げキッス」では無く、両手での「ダブル・ピース」で有った。

そんな翌朝に出た、ニューヨーク・タイムズのレビュー(劇評→http://www.nytimes.com/2016/07/15/theater/review-at-lincoln-center-festival-timeless-japanese-noh-dramas.html)は、「色々な細部が、独特で不思議な名残りを記憶に残す」としながらも、矢張り能への理解の難しさが溢れた内容だったが、これがどう影響するかは、残りの公演の入り具合による。

そして土曜日のマティネは、再びの「翁」と「葵上」…舞台関係者に拠ると、マティネの公演のチケットが最も捌き辛いらしいのだが、タイムズのレビューが効いたのか空席も目立つ程では無く、この日は坂本(龍一)教授等も居らして居て、華やかさも増す。

そんな中、宗家に拠る「翁」は初日よりも小鼓が合い、より纏まった出来映えだったし、「葵上」はかなり端折られて居たとは云え、シテの岡久廣師の六条御息所は迫力が有り、見応えが有った様に思う。

「葵上」上演後には、本公演恒例の「土蜘蛛」の仕舞、そして、この日の宗家の「ご挨拶」は何かと案じて居たら、出演者全員が揚幕から登場しての所謂西洋式「カーテンコール」…これには、今迄何処で拍手をして良いか、喝采を叫んで良いか悩んで居た観客も、西洋式にスタンディング・オベイションとブラヴォーの歓声で応えた。

さて、僕が思うに今回の観世流公演のミソは、矢張り何と云っても「翁」だ。

それは公演期間中に起きたニースでのテロトルコでのクーデター、或いはルイジアナバトンルージュの警官殺傷事件(→https://m.youtube.com/watch?v=U_VaNhI4CLo:こんな運動が有名ミュージシャン達から起きて居る程、最近人種差別問題は深刻化して居る)等の、不穏な世界情勢に我々が直面して居る今こそ、「翁」の思想程日本の伝統文化を代表し、「ニューヨークから」日本人が世界に向けて発信すべきモノも無いからで、その上テロの犠牲地で有るニューヨークと云う街は、その「発信地」としては世界最高の場所だったろう。

そして「翁」の「天下泰平・国土安穏」の思想程、「憲法第9条」に深く関わる日本人の歴史観は無く、日本人が守り続けねば為らない最たるモノもない。その意味でこの「翁」こそ、2020東京オリンピックの開会式(どうしてもオリンピックをやるならば、だが)のオープニング・イヴェントに相応しいと思うが、如何だろうか?

能の持つ日本人の心の根源、神や自然との共生、平和への祈り…「リンカーン・センター・フェスティヴァル」と云う晴れ舞台で宗家に拠って舞われた「翁」の心が、ニューヨークの、いや世界の舞台芸術愛する人々の心に、深く届いたと信じたい。


*お知らせ*

2016年12月16日、19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。

2016-07-14

古典芸能な近況。

13:10

7月9日(土)

9:30 久々の激しい雨の中、かいちやうと浅草寺で待ち合わせ、観音様の功徳日で有る「四万六千日」のご祈祷を昇殿して受ける。帰りに鬼灯市で見た鬼灯は、風鈴の音と共にしっとり濡れて、清廉な趣き…そんな止まない雨の中、この日しか頂けない「雷除け」を購入し、ホッと一息吐く。

10:30 連れ立って浅草を後にして上野に向かい、藝大美術館で開催中の「観音の里の祈りとくらし展IIーびわ湖・長浜のホトケたち−」を観る。顔や眼を掘り起こしたお像も有ったが、立派な指定品も多く、場所柄か垂迹系の仏様が多い様に思った、中々のラインナップ。今日は観音様にご縁の有る佳き日だ。

12:30 かいちやうと別れると青山に向かい、久々に会う友人とビストロ「L」でランチ…此処の「フォアグラ・クリスピーサンド」は絶品で、然も廉価。が、コースには紅茶しか付いて居なかったので、その後近所の「F」に行ってコーヒーを頂く。

15:00 表参道で、現在僕を取材して居る某テレビ局のディレクターと打ち合わせ。然しこの企画、ちゃんと番組になるのだろうか?ディレクター氏には、もしこの番組がオクラ入りに為ったら、テーマ曲もキチンと入れてその番組っぽくビデオ編集し、僕の葬式にでも流して貰う約束に為って居るのだが、それでは自分が観れないのが辛い…が、仕方無い(笑)。

16:30 歌舞伎座にて「七月大歌舞伎」夜の部を観る。今月は「猿蟹合戦」為らぬ「猿海老合戦」の体で、後半の海老蔵歌舞伎十八番二曲はさて置き、主人公と敵役を猿之助海老蔵が演じた「江戸両国八景 荒川佐吉」が最大の見処。そしてその「合戦」結果は、猿が海老を喰い捲り、僕も猿之助の素晴らしい演技に涙したのだった!幕間には、恒例「B」に出掛け、「日之影栗のプリン」を頂く…嗚呼、秋が待ち遠しい。

21:30 行きつけの代官山「A」に行き、僕の中で夏に為ると食べたく為る、激ウマ「夏の食の風物詩」トップ3に入る、「鰯入りガスパチョ」を頂く。その他にも、鮎や桃等の旬の食材を使った、Kシェフのアイディア溢れる料理を堪能…この店は食の宝石箱だ。


7月10日(日)

8:00 起床後、小川洋子著「琥珀のまたたき」を読む。不思議な小説だ。偶に自分で、小川のファンタジックな作品に惹かれるのは何故だろうかと考える。

10:30 東京ステーションギャラリーで開催中の、UBSアートコレクションからの展覧会「12 Rooms 12 Artists」を観る。この展覧会の白眉は矢張りフロイドで、出展は版画作品がメインだが油彩とパステルも有り、彼の力強いアート俯瞰するには充分。が、矢張りフロイドの真骨頂は油彩で、メトロポリタンでの展示を思い出す(拙ダイアリー:「ルシアン・フロイドの『離見の見』」参照)。フロイド展が日本で開催されるのは、一体何時の日の事だろう?

13:00 原美術館に行き、コレクション展「みんな、うちのコレクションです」を観賞。加藤泉の木彫大作や、横尾忠則作品が気に入った。

15:00 友人と表参道でお茶をするが、余りの暑さにどうしてもアイスが食べたくなり、表参道ヒルズの「Ben & Jerry's」で買い求め、道端で道行く人々のウォッチングをしながら食べる。然し人間、顔や姿は本当に千差万別で、カップルを見たりすると彼等は何処でどう知り合い、お互いどう思って居るのだろうか等と考えを巡らせて仕舞う。然し偶に日本で感じるのだが、肌の色が均一でファッションも似たり寄ったりな事に、少々居心地が悪くなる。

16:30 ワタリウムに立ち寄った際、偶々居らした園子温氏をKさんに紹介して貰う。キタコレビルでのライヴ・イヴェントに、飛行機の都合で出演出来なかった園氏に会えたのは幸運だったが、Kさんに「大変な変わり者のマゴイチさん」と紹介されたので、少々俯く。ワタリウムで展覧されて居た園氏の映画「ひそひそ星」は、ニューヨークでもジャパン・ソサエティの「Japan Cuts」で上演される予定。

18:00 自宅に戻り、掃除と明日の出発準備に没頭する。BGMはRCの「Rhapsody」。


7月11日(月)

5:30 起床し出発準備を始めるが、参院選の結果が余りにも酷く、落胆放心状態。大体投票率が低過ぎるし、投票者の多くが「改憲派の2/3得票」の意味等判って居らずに投票したと云う事を聞き、愕然とする。そしてテレビ画面では首相ドヤ顔が大写しされ、吐き気を催す。この侭では日本は本当に亡国だ。

11:00 成田でANA010便に搭乗。10月終わりから開始される、羽田-NY直行便が待ち切れない。機内では若い友人から強く薦められた「ズートピア」と、以前から興味の有った「ロブスター」を観る。「ズートピア」は良く出来た映画で、ヒューマ二ズム表現は或る意味在り来りだったが、「ゴッドファーザー」のパロディの残酷な極小「コルレオーネ」が余りに可愛く、身悶える(笑)。一方の「ロブスター」は、ギリシャ人監督ヨルゴス・ランティモスに拠る、カンヌ映画祭審査員賞を受賞した不思議な味わいの有る近未来SFドラマ。「独身」が許されない世界の話で、独り身はホテルの様な施設に送られ、其処に居る2週間でパートナーを見つけられないと、何と他の動物にされて仕舞うと云う、身に詰まされるストーリー(涙)…「ロブスター」と云うタイトルは、主人公が「動物にされる時には、何に為りたいか?」と聞かれた時の答えなのだった。主演のコリン・ファレル始め、レイチェル・ワイズレア・セドゥ、お気に入り俳優ベン・ウィショウ等の個性派俳優が画面を締め固め、奇妙極まりないが幻想的ですら有る美しい作品と為って居て、僕は大好きだった。

18:00(NY時間) 日本に比べればパラダイスな気候のNYに戻ったのも束の間、今年の「リンカーンセンター・フェスティヴァル」に招聘された、能楽観世流二十六世宗家観世清和師の講演会@日本クラブへ。とても数時間前に到着したとは思えない程お元気だった宗家講演会は、ユーモア溢れるトーク、お仕舞や参加者への「謡の稽古」(!)も含めて、無事終了。その後は宗家、着任されたばかりのお能経験者で有られる国連大使国際交流基金所長、日本クラブ事務長等と7名でディナー。


7月12日(火)

9:30 時差ボケの頭を振りながら、来年春に売り立てをする契約を最近取った、在日本某美術館コレクションに関する電話ミーティング。

10:15 某アーティストがチェルシーに持つ現代茶室へ…この日は朝から、この秋ニューヨークで開催される中国美術セールに、日本人個人コレクターから出品される黒田家旧蔵・旧重美の油滴天目茶碗と、千宗旦・鴻池家旧蔵の玳玻花入、そして砧青磁龍耳花入の撮影。茶花師の朝倉寛氏が生ける、夏椿や蓮が美しい。

13:00 オフィスに出社後、日本で肥えた身体を絞る為のサラダ・ランチを食べ、溜まった手紙の整理や経費精算に精を出す。

18:00 ジャパン・ソサエティーで開催された、観世宗家のレクチャー&デモンストレーションに出席。今回の宗家の来紐育に関して少々お手伝いをさせて頂いたのが、このJSと日本クラブでのレクチャーだったのだが、この日のレクチャーも満席・ソールドアウトで大盛況。その内容は、先ずは外国人学者に拠る能楽の基本レクチャー、そして宗家ユーモア溢れるお話、装束や面、楽器の説明、装束の着付実演、お仕舞いやダイジェスト能(羽衣)、最後にはプログラム外の「土蜘蛛」の仕舞迄超盛り沢山の内容で、最後は宗家に拠る観衆との謡のお稽古アゲイン(笑)!そしてこの晩の宗家のレクチャーは、僕が今迄ジャパン・ソサエティーで経験した如何なるレクチャーの中でもベスト3に入ると断言できる、素晴らしい物と為った。

20:15 レクチャー後は、レセプション・パーティー。宗家率いる観世流能楽師囃子方等30名を含むおよそ100名のパーティーは賑やか且つ華やかに進行し、ささやかながら後援させて頂いた甲斐も有ったと云うモノ。僕も旧知の亀井広忠師や坂口貴信師、森常好師や観世元伯師等と歓談し、近況や明日からの本番への意気込みを聞いたりして居たが、然し宗家の様子を拝見して居て思ったのだが、能楽師の方々は時差ボケに強そうで、誠に羨ましい(笑)。


さて愈々13日から、能楽観世流が世界最高峰と云っても過言では無い舞台芸術の祭典、「2016 リンカーンセンター・フェスティヴァル」に登場し、初日の演目は「翁」と「羽衣」。そして公演は17日迄続き、演目は他に「隅田川」「石橋」「葵上」、狂言も2曲上演される。曲のラインナップを見ると如何にもヨーロッパ人好みだが、さてアメリカ人の反応や如何に…?

次回ダイアリーは、その模様をレポートするので乞うご期待!


*お知らせ*

2016年12月16日19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。

2016-07-08

猛暑下動向。

01:05

7月3日(日)

7:00 余りの暑さと時差ボケの中、寝たか寝ないか判らない侭、起床。前日、成田に着いた飛行機のドアが開いた時に肌で感じた、まるでバリ島の如き湿気を思い出し、辟易する。

8:00 ダッカでのテロで、日本人が撃たれた事をニュースで知る。そして犠牲者の方が、撃たれる前に「I'm Japanese, don't shoot!」と云い、命乞いをしたらしい事を聞く。撃たれた方は本当に気の毒で、心より御冥福をお祈りしたい。が、そういった場所に派遣する政府為り会社なりは、日本人(外国人)だからこそ狙われる可能性が高いのだという事を、社員に徹底的に知らせるべきだろう。

12:30 酷暑の中乃木坂に向かい、友人と「C」でランチ…一番少量のコースを頼むが、余りの暑さの為、個人的夏の風物詩で有る大好物の「カラスミの冷製カッペリーニ」を追加する。鳴呼、極旨

14:00 21_21Design Sightで開催中の「土木展」を観る。土木工事を「デザイン」として見る着眼点が面白い。工場萌えや廃墟萌えが居る位だから、「重機萌え」も居るに違い無い(笑)。

19:00 如何しても焼肉が食べたく為り、友人と銀座「U」に赴く。此処の「ザブトン」は秀逸過ぐる。


7月4日(独立記念日・月)

9:00 ニューヨークの今日は独立記念日でお休みだが、僕は東京支社に出社し、今回の来日の大目的たるプレゼンの下打ち合わせをする。然し「連休パー」は痛い。

10:30 クライアントが来社し、プレゼンを行う…厳しい。

12:30 20年以上の付き合いの長い同僚と、久々のランチをし語り合う。人生色々。

14:30 骨董商の顧客を訪ね、蕪村と大雅の屏風に関する打ち合わせ。この時に出された唐津の平茶碗が余りに素晴らしくて欲しく為るが、財布が僕の云う事等聴く筈も無い。

19:00 西麻布の鰻屋「I」でディナー。鰻巻、肝焼、白焼、鰻重のフル・コースを頂くが、実はそのディナー前に時間が余り、近くの老舗イタリアン「C」でケーキを食べて仕舞った事を回想し、その事をマリアナ海溝並みに深く後悔する。


7月5日(火)

9:30 運転免許証の更新。ゴールド免許なので、都心の警察署で簡単便利。然し、何故講習の教官とはあんなに愛想が無いのだろう?

12:00 某骨董誌編集長氏と、青山でランチ。骨董の話も然る事ながら、政治の話で盛り上がる…流石元首相秘書官

14:00 京橋骨董商を2件訪ね、木彫仏や御正体等を拝見する。手の良い興福寺千体仏や、藤末鎌初の黒い菩薩像に惹かれる。嗚呼、最近買ってないなぁ…。

15:00 某美術館の方々が来社し、プライヴェート・セール用の或る重要作品を御覧になる。「この作品」は「この美術館」に行くべき物なので、何とか売買成立させたい。

16:30 都内某ホテルにて、クライアントと某コレクションに関する打ち合わせ…だったのだが、早く着いて仕舞ったので、時間を潰すと云う大義名分の下、このホテル名物のデザートを注文し急いでパクつく。が、食べて居る最中に早目に到着した顧客が登場してしまい、誠に恥ずかしい思いをする(涙)。

18:00 アーティストT氏とそのアシスタントのSさんが来社し、杉本博司氏がデザインした当社東京オフィスを見学。

20:30 その後3人で五反田寿司屋「I」に移動し、美味しいお寿司を頬張る…至福のひと時だった。


7月6日(水)

10:30 顧客から某日本美術作品を受け取り、偶々滞日中の外国人コレクターの代理人に見せるが、残念ながら購入に至らず。

11:30 都内某ホテルの天麩羅屋「Y」で、政治ロビー活動を行って居る某IT社長と食事。此処でも話は選挙に終始するが、今現在大徳寺聚光院の襖絵が京博から戻って居る事を聞き、それを見る為の旅のプランを一緒に練る。

13:30 銀座メゾン・エルメス・フォーラムで開催中の展覧会、「奥村優樹による高橋尚愛」展を観る。フォンタナやラウシェンバーグのアシスタントを務めたこの高橋尚愛と云うアーティストに関しては、彼の作品を以前ショーンケリーの所で観て居るが(→拙ダイアリー:「『アート』より『あんこ』」参照)、高橋本人とのインタビューを含めた奥村の協働リサーチ・ワークは、大変興味深い。

16:30 有名骨董商を訪れた後、同じビルに在るのオオタ・ファインアーツを訪ね、「草間彌生モノクローム」展を観る。草間氏が新作をこれだけ精力的に描いて居るのには、驚く他無い…このまま彼女は、120歳位迄描き続けるのでは無いか?

18:00 恵比寿ガーデンシネマにて、アカデミー外国語映画賞候補作品にも為った、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督作品「裸足の季節」を友人と観る。トルコ人女性監督に拠るこの「反逆の物語」は、何と美しい芸術作品なのだろう!そして本作に見るイスラーム文化圏の、然も田舎町での「女性の立場」とはとても信じ難い物だが、これが現実なのだろう。

20:00 映画鑑賞後は、六本木のK夫妻の中華料理店「K」でディナー。黒酢酢豚やニラとホタテ炒め等、相変わらず美味過ぎる。こんな隠れ家で美味しく有難い店は、心底大事にしたい。


7月7日(七夕・木)

8:00 ニュースで昨日東京が36.7度だった事を知り、道理で体が空気に同化して居る気がした筈だ、と納得する。微熱状態と云えば聞こえは良いが、そんなロマンティックなモノじゃない。

10:00 実家の在る街の役所に行き、参院選の事前投票をする…当然「非自公」。最近、こうなったらと思い、僕はトランプ大統領を熱望して居る。彼が米大統領に為り、日本を突き放す事こそが、日本人に自国の事を真剣に考えさせる唯一の方法では無いか?

12:00 その足で実家に帰り、久し振りに母親の手作り料理を頂く。メニューはコシの有る讃岐ざる饂飩と、野菜天婦羅。母が元気そうで一安心。

16:00 都内某ホテルのラウンジで、ギャラリー勤務の若い友人の悩み相談を受ける。好きな事を仕事として生きて行くのは難しい…が、好きで無い仕事をして生き延びるより、余程マシだ。そして正義は、必ず実行されねば為らない。

17:00 老舗骨董店で、軸装された某重要中世絵画を顧客と共に観る。この作品の「ツレらしきモノ」を僕の顧客が持って居るのだが、紙や修復跡、筆致や線が非常に近く、「ツレ」に間違い無い事を確認…希望が出て来た。

19:00 某ホテル内の寿司店「K」で、アーティストとディナー。この店とは長い付き合いなので、隠し事等出来ないのだが、その分気の置けないハッピーな店で、寿司屋とはかく有るべきと思う。その後は、隣のカフェ「S」で「アイス・モンブラン」を頂く…アイスの部分がヨーグルト・シャーベットっぽくて、意外なアッサリ感が良い。マロンちゃんとしては、秋が待ち遠し過ぎる。


石田純一都知事選に出るそうな。然も「野党統一候補なら」って…終わってるな、我が国日本。


*お知らせ*

2016年12月16日、19:00-20:30、ワタリウム美術館での「2016 山田寅次郎研究会4:山田寅次郎著『土耳古画考』の再考」 に、ゲスト・コメンテーターとして登壇します。

2016-07-01

「喪失」と「補足」。

00:02

今年も半分が終わって仕舞ったにも関わらず、忙し過ぎて、このダイアリーも中々更新出来ない…で、先ずは参院選に就いて。

今こそ真剣に自公を倒さねばならないのは必然だが、どうせ奴等が勝つのでは無いか、との諦めも有る。然し国民は、アベノミクスの失敗に代表される様な「過ち」を決して認めず、ガリガリ君を経費で買う様な都知事並みにセコい宰相を早急にクビに追い込む投票を行わねば、EU離脱を決めた英国民以上の後悔をする事に為るだろう。

そして思うに、今回から18歳から投票出来る様に為った事を考えると、ミュージシャンやアーティスト、タレントに拠る政治発言が、もっと聞こえて来ても良いのでは無いか?と強く思う。

何故か日本では、こう云った連中が政治を語る事を暗黙の内に禁じて居る気がして為らないが、俳優だろうがミュージシャンだろうが、日本国国民である以上「自分が生きて居る国」の在り方について発言をする事は、これからこの国で何十年も生きて行かねば為らない若者達の為にも、彼等の「憧れ」としての責任が有る気がするのだが…。

一方都知事選も同様で、志の有るミュージシャンかアーティストか誰かが立候補しないだろうか、と夢想する。僕が日本に行った時に偶に耳にする、ふやけた、甘っちょろくて吐きそうに為る言葉を並べた歌を歌いながら、ダブル不倫していたり、教祖の息子だったりする人気歌手ばかりでは、日本のミュージシャンの世界での活躍を期待出来る訳も無いし、況してやオリンピックの開会式イヴェントのオープニング・アクトを任せられる者等、居る筈もない。

その意味で嘗ての青島幸男の様に、「オリンピックなんか、止めちまえ!」位の公約をする候補者が出て来て欲しい…音楽や芸術こそ、政治が持ち込まれて全く構わないモノも無いのだから。

さて今日の本題…最近日本人作家をフィーチャーした、2つの展覧会に行って来た。

先ずは、アッパー・イースト・サイドのTaka Ishii Galleryで開催中の展覧会「Koji Enokura」…この展覧会では、榎倉康二晩年のキャンバス作品やドローイング大作、或いはユニーク・フォトが並ぶ。

榎倉康二は、海外アート・マーケットに於いて「具体」に続く戦後日本美術のブームと為った、「もの派」のアーティストとして此の所海外でもかなり認知され始めた作家の1人だが、その写真作品にもファンが多い。

初期作品は既にかなり高額に為って来て居るので、今回のニューヨークでの展示作品中最も高い作品は15〜20万ドル位では無いかと思うが、作品のチョイスが良いので、作家の才能を感じる事が出来る良い展覧と為って居る。

もう1つはと云うと、久し振りのチェルシーで危うく見逃しそうに為ったAlbertz Bendaで開催中の展覧会「Motohiko Odani: Depth of the Body」…そして其処で観た大作「Terminal Impact (feauturing Mari Katayama's "tools")」に、僕は色々と考えさせられた。

小谷に拠ってインストールされた、この三連スクリーンで成る「ヴィディオ・スカルプチャー」は、両足を切断し、左手も2本指のアーティスト、片山真理がフィーチャーされる。片山の作品は今年の「六本木クロッシング」でも観て居るが、アートとしてもそうだが、何しろ彼女自身の身体が持つインパクトが物凄く、そのアートの強暴性とセクシーさに驚愕したのも記憶に新しい。

そしてこの3面スクリーンに映し出される、義肢を付けて歩く片山の肉体に観られる「喪失」と「補足」の暗喩は、タイトルの「Terminal Impact」が歩行時に於ける「義肢」と接合部の衝撃を示す様に、歴史上の彫刻に於けるそれを代弁する。

さて「義肢」と云えば、思い出すのは作家平野啓一郎の著作「かたちだけの愛」だが(拙ダイアリー:「雪の日には、ラヴェルを聴きながら」参照)、この純愛ストーリーにも「Terminal Impact」にも、そしてアーティスト片山真理自身にも僕が強く感じたのが、焼物に云う処の「呼び継ぎ」で有った。

心の「呼び継ぎ」に関しては、映画「ずっとあなたを愛してる」に関して綴った僕のダイアリー、「『再生』、或いは『呼び継ぎ』の心」を参照して頂きたいが、それは身体に於いても然り、と云う事が、この作品を観ると良く解る。

片山が喪った両脚は、絵やデザインが施された義肢に拠って代替され、その義肢に因って片山の身長は伸び、ハイヒールも履く事が可能と為る。そして確かに歩行が可能には為るが、当然健常者の歩行とは異なるし、義肢のサイズや履く靴に因る用途、デザインに拠っても義肢を付ける側の気持ちが大いに変わるで有ろうからだ。

自分の何かを「喪失」し、「補足」し、補足された物を「元来の自分」とは別の物として「再生」する…人間が人生に於いて、この行為を実践し続ける意義を改めて考えさせられた展覧会で有った。

そして僕は今、再びJFK空港のラウンジ…再び日本への短期出張へと向かう。

NN 2016/07/05 18:47 日本ではタレントが政治的発言をすると干されるからね。
すべては腰抜けなマスコミのせいでしょ。
恐ろしい国ですよ。

孫一孫一 2016/07/05 23:05 仰る通り。日本のマスコミは、マジクソだな。

2016-06-22

「縁深き」浮世絵版画が作った、オークション世界新記録。

07:23

やっと舛添都知事が辞任した…リオ五輪が如何の斯うの云って居たが、事の序でに東京五輪も止めて仕舞えば良い。

で、この件に関する最近の議論で、最も納得が行かないのが「あんなケチ臭いカネの問題で、50億も掛けて都知事選を行うのはカネの無駄だ」「都政の空白が起き、リオ五輪に影響が出る」云々の屁理屈だ。

では聞くが、あれがケチ臭いカネで無かったら、どうなのだろう?今回の一件は、明らかに政治資金規正法違反且つ、一般の企業だったら横領罪に限りなく近い訳で、額の大小に関わらず、罰せられなければならない。「ケチ臭い」か「臭くない」かは、倫理には全く関係がないし、決して過ちを認めない首相共々、その倫理観の無さが今の日本の象徴的な部分なのだから。

序でに選挙に掛かるで有ろうその50億は都民の税金で有り、嘗てその都民が「ケチ臭い、倫理に悖る都知事」を選んだのだから、自己責任に於いて自分達が納めた税金で、正しい「我々の都知事」を選ぶべきでは無いか?

と、腸煮えくり返る今日この頃、嬉しいニュースが…来年のヴェニスビエンナーレ日本代表に、知己の有る岩崎貴宏氏が選ばれたとの事。是非とも頑張って貰いたい!

そして僕はと云うと、再びパリへとやって来た。

今回パリの高名なるオークショニアで有り、敬愛されるディーラー、シィエリー・ポルティエ氏の浮世絵茶道具のコレクションをクリスティーズ・パリが売る事に為ったのだが、そのオークションがこれ又高名なるオークション会場で有る「オテル・ドゥルオー」で開催される事に為ったからだ!

さて、 実は僕とこのポルティエ氏の浮世絵コレクションとは奇妙な縁が有って、その縁に就ては以前此処に少し書いたが(拙ダイアリー:「舘鼻文楽」@カルティエ現代美術財団」参照)、シィエリー氏の父上ギィ・ポルティエ氏が集めたこの浮世絵コレクションは、全部でたったの10枚。

然しその内容は歌麿と開化絵の三枚続を除いては、写楽歌麿、国政、豊国、春潮の大首絵が揃って居て、状態こそ俗に云う「フレンチ・コンディション」(19世紀フランスに渡り、彼の地に未だに残って居る浮世絵版画に有り勝ちな、決して良い状態では無いが、長い間愛玩されながら大事にされて来た気配の有る「作品状態」の事)だが、魅力的なラインナップで有る。

相変わらず遅延したUA機をド・ゴール空港で乗り捨て、急いでオテル・ドゥルオーに向かい、直前まで下見会を観ると、サラダとケーキを食べながら「インタレスト・ミーティング」を熟す。

3時半のオークションの時間に為ると、もう会場は超満員の人で溢れ返らんばかり…流石「名士」のコレクション・セールだ。そしてフランス独特の雰囲気でのオークションが始まったのだが、同じオークションでも英国米国英語圏のそれとは全く違う、オークショニアの裁きが面白い。

そして豊国の大首絵から始まった「ポルティエ・セール」は好調に売れて行き、運命のロット6、歌麿の名作シリーズ「歌撰戀之部」の中の作品「深く忍(ぶ)恋」の番と為った。

この紅雲母摺の美しい大首絵は、上下に少々トリミングが有る物の中々の美しさを保って居て、コレクションの白眉。そして8万〜10万ユーロのエスティメイトで始まったセールは、オニの様なスピードで競り上がると、30万ユーロ位からは会場に居た2人のディラーの一騎打ちと為り、結果何と浮世絵版画のオークション史上世界最高価格と為る、74万5800ユーロ(約8900万円)で売却されたのだった!

因みにバイヤーは、フランスや日本各所で云われて居る様に、ガゴシアンでもMETでも無いので、悪しからず(笑)。

思い起こせば、この歌麿の「深く忍恋」が19世紀フランスに渡って以来、たった一度だけ日本に里帰りしたのが、僕の父がカタログも書いて携わった1980年の「ロートレック歌麿」展で、シィエリー氏の父上ギィ氏が自ら日本迄運んで来た、氏に取っても生涯たった一度の来日時の事だった。

僕はピカソの「アルジェの女たち」を含めた、美術品の「世界記録」誕生の場に何度か立ち会っているが、「この世界記録を作った歌麿を、36年前に僕の父も観て触ったのだ」と思うと感慨も一入で、このオークションに来たお陰で、僕は改めて父親、そして美術品の持つ素晴らしいご縁を痛感した佳き日と為ったのだった。

歴史とご縁で繋がるアートの世界は、本当に素晴らしい!


PS:然し史上最高額と云っても、ピカソの「泣く女」やレンブラントに比べれば、それでも日本の版画は未だ未だ安いので有る…。