桂屋孫一のトウキョウ・アート・ダイアリー

2010-08-28

「花降る絵画」と「魂の力」。

17:22

昨日は、仕事を休んだお陰で、2つの「正反対の」素晴らしい芸術に触れる事が出来た。

昼食は久々に「神田藪」で、何時もの「せいろ」と「天たね」。食事後は銀座に出て、安藤七宝店で開催中の、「創業130年特別展」を観る。9月のオークションに出品される作品とそっくりのモノも有り、興味を惹いた。

銀座を後にし、今度は庭園美術館で開催中の、「没後25年 有元利夫天空の音楽」へ。

結果から云うと、この展覧会は、本当に素晴らしい!それは、先ず有元の作品が、最初からこの邸宅に掛かっていたのでは無いかと思える程の「建築との親和力」、そして勿論有元作品の持つ、一見静かに見えるが、実は恐ろしい程の冷徹さと、全くぶれない強いメッセージ性の賜物である。

若かりし頃、有元利夫の作品を知って以来、筆者の数千冊に及ぶアートライブラリーに唯一存在する日本近代画家の「全作品集」は、有元の「それ」だけである。そして筆者が有元作品を観て何時も感じるのは、彼の絵画から匂い立つ様な「音楽」、「予兆」と「エクスタシー」であり、しかもそれ等は、決して直接的では無いが、須らく「死」を感じさせるのだ。

この展覧会は、正にその美しくも悲しい、「音楽と予兆とエクスタシー」に溢れて居る…「星の運行」、「オラトリオ」、「春」、「真夜中の占い」、「ある経験」、「案内」、「望郷」等、展示作品中好きな作品は数多いが、上記作品の殆どに「降る花びら」は、その最たる物と云えると思う。この夏、必見の展覧会の1つである。

さて「有元」を堪能後の夕食は、作家の平野啓一郎氏から強力に薦められたドキュメンタリー映画を、新宿のレイトショーで観るその為に、「敢えて」焼肉にした。何故なら、言い訳がましいが、そのドキュメンタリーを観るには、「パワー」が必要だろうと、幸いにも妻と同意したからだ(笑)。

そのドキュメンタリー・フィルムとは、「ザイール'74、伝説の音楽祭 『ソウル・パワー』」。時は1974年、ザイール(現コンゴ)の首都キンシャサで行われた、モハメド・アリジョージ・フォアマンのボクシング世界ヘビー級タイトルマッチ(アリが勝ち、「キンシャサの奇跡」と呼ばれる)に先駆け、3日間に渡り開催された、「ブラック・ウッドストック」とも呼ばれる「黒人音楽祭」の記録映画である。

出演者は、「ゴッドファーザー・オブ・ソウル(GFOS)」ことジェームス・ブラウン&J.B.'s、「ブルースの神様」B.B.キング、「サルサの女王」セリア・クルス、「南アフリカの闘士」ミリアム・マケバ、その他にも先日ニューヨークブルーノートで観た、ジョー・サンプル率いるクルセイダーズディスコ世代の筆者には懐かしいスピナーズやシスタースレッジ、そしてビル・ウイザース等の豪華キャストである。そしてこのキャストを観て判る様に、この音楽祭はアフリカ出自のジャズフュージョンソウルサルサ等を網羅した、云わば「凱旋」音楽祭だったのだ。

映画中のミュージシャンのパフォーマンスは、本当に素晴らしいの一言。あの1974年当時に、自分達の「ルーツの地」で行うライヴに、力が入らない訳が無い。虐げられて来た黒人とその音楽、しかしその音楽が「金」になると解った日から、彼らの音楽はその強力なメッセージを、初めて「外に向けて」発信する様になる。この記録映画もその「パワー」全開で、筆者は体を動かさずには居られなかった…観たのが新宿でなく、ハーレムやLES(ロウワー・イースト・サイド)だったら、立ち上がって間違い無く「バンプ」か何か踊っていたに違いない(笑)。

もう一点重要なのは、この映画にはアリ自身とプロモータードン・キング、音楽祭制作スタッフや投資家等も出演しており、その中でも当然と云えば当然だが、取分け眼を惹くのがアリの言動である。

しかしアリと云う人は、何と「眼から鼻に抜ける」顔をしているのだろうか。頭が良く顔も良く、口も立ち、世界チャンピオンで革命家でもある「王」が、映像の中で繰り広げるその言動は、しかし時折ミュージシャン達へのイラつきを含み、自分が黒人世界の最高代表者としての力を見せつけながらも、「ブラック・ミュージックの母国」、アフリカへの「『再』伝道師」としてのミュージシャン達の姿に、ある種の驚異を覚えているのが、見えるからだ。

試合がフォアマンの怪我で延期になったのにも関わらず、そもそも自分の試合の「為に」若しくは「便乗して」企画された筈の音楽祭が、あれだけの数のザイール人をスタジアムに集め、そしてその熱狂振りを見れば、自身の力のみで孤独に闘い、世界を変えようとして来たアリに取っては、「音楽」の持つそのパワーに対する驚異と焦りも、当然だったのかも知れない。

いずれにせよ、この「ソウルパワー」のパワーは、スゴい。こう云っては何だが、最近のJポップに聞く甘っちょろい歌詞等とは正反対な、人間のアイデンティティーの根幹を問う音楽に触れる事ができる。また、映画のパンフレットが、これまたマニアックで素晴らしく、驚くべきは、劇中の「字幕」が全て採録されて居る事で、聞き逃したアリの名台詞も、後で確り確認出来るし、有名人お薦めソウル・アルバムや、観た帰りに寄れる「ソウル・バー・ガイド」迄付いて居る(笑)。

映画の最後、JBと一緒に「I'M SOMEBODY!」と叫べたら、もう貴方は立派な「ブラザー」(笑)…「魂の力」に触れたい者は、渋谷の「アップリンク・ファクトリー」に急げ!

新宿K'Sシアターでの上映は、昨日で終った模様)

置物2号置物2号 2010/08/31 00:08 展覧会にも登場した息子は、NYでよく下見会を徘徊していたので孫一さんの事も一方的に知っています。またいつかご紹介しますね。多忙な滞在、おつかれさまでした!

孫一孫一 2010/08/31 01:27 イヤー、今深夜のパッキング大変なんです…そうですか、息子さん、下見会に来てましたか!いつか是非ご紹介下さい。ニューヨークは、もう寒い様です。