"Accelerated Buddha":杉本博司レクチャー@クリスティーズ・ニューヨーク。

土曜日の夜、アッパー・イーストで重要顧客とのディナーを終えた後、タクシーに乗ってヘルズ・キッチンの自宅に帰る途中、既に10時半過ぎだったにも関わらず42丁目が異常に混んで居て、「さては何か有ったな?」と思って居た。

そして昨日の朝のニュースを観て驚愕!タイムズ・スクエアで「発砲事件」が有ったと云う。然も警官が2人の一般人を誤射したと云うのだ…詳しくは追って新聞等を読まねば判らないが、「やっぱり」此処はニューヨークで有ったと、こう云う時に実感する。

さて、下見会が始まった。

先週末は「ジューイッシュ・ホリデー」だった事も有り、「余り人が来ないのでは?」とも思ったが、豈図らんや、メジャー・コレクター達を含めての多くの顧客が来場。

日本美術の凡ゆる時代(古墳時代から昭和迄)と、凡ゆる分野(絵画・宗教彫刻・版画・茶道具・漆工芸・金工等)を取り込んでキュレートした今回のセールだが、特に人気が有るのは版画と明治工芸か。

要は世界の日本美術コレクターのトレンドが其方に向いている訳だが、数年前迄は複数居た、例えば大物の屏風等を買う絵画コレクター等も最近は大人しく為り、新しい、また若いコレクター層の登場が心から待たれる。

そんな中、昨日は現代美術家杉本博司氏に拠るレクチャーを開催。

何時もオークションが開催される、略満員と為った「Woods room」で開催された今回のレクチャーは、今迄クリスティーズで開催された如何なる物とも異なり、初めてアーティスト且つコレクターに拠る物で、その内容も誠にユニークで有った。

自身の経歴から始まり、作品、そしてコレクションの話へと移ったが、化石の話に時間が費された日には、「もしやこのレクチャーは、『恐竜時代』で話は終わってしまうのでは?」と危惧したが(笑)、近作の例えば東京原宿に出来た「オーク表参道」内の「茶洒 金田中」の内装や、その玄関先の彫刻作品「究竟頂」迄解説は続いた。

そして、このレクチャーに来た聴衆達が最も「得をした」事はと云うと、この春グッゲンハイム美術館で開催した杉本版「三番叟」(拙ダイアリー:「SANBASO, divine dance"@Guggenheim Museum」参照)の5分間のダイジェストのみならず、新作(リヴァイス)ヴィデオ作品「Accelerated Buddha」(「加速する仏陀」)の「本邦初公開」に立ち会えた事だろう!

三十三間堂を撮った作品「千体仏」シリーズを基に作られたこの5分程のヴィデオ作品は、現代美術家森万里子さんの御主人で有る作曲家池田謙氏の音楽と共に次々と「重ねられて」行き、その重なる速度はどんどん「加速され」て速くなる。

本作のコンセプトは、100万体の仏様を5分間で観る事に拠って「悟りの境地」に近付く…と云う物なのだが、成る程、徐々に速度を速める、まるで踊っているかの様にさえ見える千手観音と、池田氏の「声明」の如き音楽に拠って、観者を恍惚状況へと誘う作品で有った。

そうして、最新作を含めた2本のヴィデオ作品とユーモアたっぷりの話(自身のコレクションをメトロポリタン美術館に寄贈「しない」と宣言した時、会場は沸きに湧いた!:笑)に大満足の聴衆は、大きな拍手を杉本氏に贈り、1時間弱に渡るレクチャーは無事終了。

アジアン・アート・ウィークのレセプションを経た後は、個人コレクターを中心とするVIPクライアント18名を招待して、杉本氏を囲んでの「ボード・ルーム・ディナー」。

さて、筆者がレクチャーと共にオーガナイズしたこの「ボード・ルーム・ディナー」も、実は異例中の異例と云える物で、それはその18名が日本美術、現代美術、そして写真の3部門から選出招待されたVIPコレクター達だったからなのだが、しかしこのディナーが実現したのも、メイン・ゲストがその3部門を跨いで活躍するアーティスト、杉本博司氏だからこそ。

「シアター」や「数理模型」等の杉本作品が壁に飾られ、明後日のオークションに出品される平安期「男神像」と来年3月に出品される鎌倉の「如意輪観音像」が展示された、ロウソクがロウソクが灯るボード・ルームに、顧客と各部門長を含めた全員が杉本氏を中心にして長いテーブルに座る。

通常の「ボード・ルーム・ディナー」は、同一分野のコレクターを集めての物なので、この様に多国籍で「異分野」のVIPコレクターを集めての物は極めて珍しく、どうなるかとの危惧も有ったのだが、何のその、何時に無く話題も豊富でフレンドリーな素晴らしいディナーと為った。

そして10時半も廻ってやっとディナーは終わったが、実はその後…オッと、此処からはオトナのお話…(笑)。

明後日は愈々オークションで有る。


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ

●「特別展 京都洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」
日時:2013年11月16日(土)、15:30-17:00
場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0
問い合わせ:朝日カルチャーセンター新宿教室(03-3344-1941)迄。


奮ってご参加下さい!