Asian Art Week, but "Ellsworth" Week !

再びマイナス気温に逆戻りしたニューヨークでは、アッパー・イースト・サイド中心に開催されている「Asian Art Week」の展覧会も真っ盛り。

Sebastian Izzardでは鍋島や肉筆浮世絵が展示されるが、特に宮川一笑の肉筆「若衆逢引図」が面白い。またMIKA Galleryの小さな金銅阿弥陀立像や千手観音像はとても可愛く、Floating World Galleryの恩地孝四郎等の創作版画、高橋弘明や小早川清、伊東深水等の素晴らしい状態の近代美人画も見応え充分。

また、今回の「Asian Art Week」では近代日本人作家も多く紹介されていて、最近ニューヨークに進出した現代美術画廊TAKA ISHII Galleryでは、北代省三の写真展が開催されて居るし、Onishi Galleryは現代日本陶芸と金工作品を紹介して居る。

北代の写真は遠くから見ると抽象的で、近くに寄って初めて「被写体」が判ると云うのが面白いが、個人的には同時展示されて居るモビール作品に惹かれた。また大名物茶壷「千種」に関する書籍の日本語訳をしていると云う、フリア美術館のC女史にばったり会ったOnishi Galleryの展示では、金工の大角幸枝の作品や伊藤赤水の現代的な花入等が興味深かった。

そんな今週は世界中から顧客がやって来て居るので、当然夜も忙しい(笑)。イヴニング・セールの後は、寒空の中中国美術ディーラー2人とアッパー・イーストサイドのメキシカン「R」へ行き、相変わらずバカウマのワカモーレや肉を頂く。

また最近大台に乗ったディーラーY氏からご招待を受けたのは、チャイナタウンの「O」…日本からの重要顧客T氏やI氏を含めた6人で海鮮料理に舌鼓を打ち、その後は飲みに繰り出して夜中迄大層盛り上がる。

そしてもう「春分」だと云うのに、再び街中が真っ白に雪化粧された昨夜は、前夜よりほんの少しだけエデュケーショナルな夜で(笑)、ジャパン・ソサエティーが主催した20人限定のトーク・レクチャーに出席。このトークの特別ゲストはアーティストの名和晃平氏で、場所はパーク・アヴェニューの豪華個人宅、お酒と料理も出ると云う、豪華且つ新しい試みだ。

昨晩のゲストは顔馴染みのキュレーターやコレクター達がメインだったが、中には来紐育中のアーティスト清川あさみさんの姿も。ソファに座りグラスを傾けながら、ギャラリー・ディレクター手塚女史と名和氏との対話は、ピクセル作品誕生秘話や、自然と科学と芸術、そして人間に関する興味深い話の数々で、その後のレセプションも含めて楽しい時間を過ごさせて頂いた。

と云う事で、本題…クリスティーズでは、待望の「エルズワース」セールが始まったが、そのメイン・イヴェントは火曜日夜に開催された、ニューヨークでは東洋美術セール史上初の「イヴニング・セール」だ。

セール会場はパックされた人、人、人で異常な熱気…そして、故エルズワース氏が生涯で最も手で触れたで有ろうロット1の西漢時代「金銅熊」の競りが始まり、それが20万〜30万ドルのエスティメイトに対して285万3000ドル(約3億4200万円)で落札されると、会場は一気に盛り上がった!

その後も熱気有るオークションは続き、日本美術もエルズワース氏のリヴィング・ルームにずっと飾られて居た「厩図屏風」一双が、20万ドルのエスティメイトに対して50万9000ドル(約6100万円)と云う超高値売却、然し須らくエスティメイトの2倍3倍は当たり前で、中には10倍近く迄値の上がった作品も多かった。

そして、こう云った記念すべきオークションで偶に有る様に、このイヴニング・セールでも「ハプニング」が起こったのだ!

それは或る作品が高値に為り、1対1の緊迫した競りに為った時の事…オークショニアが身を乗り出し、遠くのビッダーからのビッドを待って居たら、観衆が息を呑む静寂の中、突然「ゴトッ」と云う大き音が会場に響いた。

皆「何の音だ?」と辺りを見渡して居ると、前の席の客達が騒めき始めたので、其方の方を見ると、何と壇上正面に飾って居た、エルズワース氏が最初に購入したと云われる仏教美術で有る中国宋〜金時代の「木造菩薩坐像」の左腕がホゾから取れ、台の上に転がって居るでは無いか…。

会場は騒然とし、すわ「ボブの祟りか!」(笑)と云った声も彼方此方で聞かれたが、幸いにも「左腕」は床に落ちずに台上に留まった為ダメージも全く無く、会場は安堵の溜息に包まれた(結局セール最終ロットだったこの仏像は、20万ドルのエスティメイトに対して168万5000ドルで落札され、「手落ち」は無かった:笑)。

そして「ノー・リザーブ」セール(底値を設定し無い、「成り行き」でのセール)の為、大概エスティメイト下限の70%位から始まるオークショニアの発句に誰も手を挙げないと、オークショニアの云う価格は少しずつ下がって行き、然し一度誰かが手を挙げると今度はドンドン手が挙がって、最終的にはエスティメイトの何倍にも上がって行く、と云う事が繰り返され、たった58ロットを売るのに要した時間は2時間半以上…通常「1ロット、1分」がオークションの基本だから、相当時間の掛かったセールと為った(涙)。

結果、世界新記録を4つ生んだこの晩の「イヴニング・セール」は、最高価格を記録した明時代の椅子4脚の968万5000ドル(約11億6220万円)を含む58ロットで、結果総計6110万7500ドル(約73億3200万円)を売り上げたのだった!

その後も「エルズワース・セール」は絶好調で、昨日金曜日迄の4セールで総額1億2427万5625ドル(約149億1300万円)を売り上げたが、今日土曜日終日、そしてオンライン・セールを未だ残して居る…このコレクション、一体幾ら売れるのだろうか?

と云う事で、ニューヨークに戻って以来1日も休みの無い僕は、土曜日の今日もこれから出勤して、顧客とのテレフォン・ビッドを終日受けるので有った…(涙)。