桂屋孫一のニューヨーク・アートダイアリー

2016-02-26

谷間動向@紐育。

23:49

2月18日(木)

10:00 ロンドン香港のお偉方と、今抱えている数十億単位の仕事に関するテレビ会議。今でもテレビ・電話会議は大の苦手なので苦痛。

11:00 時差ボケに因ると思われる頭痛と闘いながら、招待状や手紙等の整理と出張精算に明け暮れる。今年はハナから出張が多くてタイミングがどうも合わず、招待されたニューヨーク裏千家武者小路千家、Y氏の初釜に悉く行け無かったので、初春の気分が出ない。

18:00 飛行後の身体が硬直して居る為、ダウンタウンに在る行き付けのマッサージに行き、Aおばさんの熱いマジックハンドに久し振りに癒される。

20:00 家で納豆豆腐とヨーグルトを食べ、カラヤンのパーフェクトなマーラー5番「アダージョ」を聴きながら、優しく撫でる様な筆致の古井由吉の「雨の裾」を読んでる内に、ソファーで寝落ちする。マーラー古井由吉で眠る悦びは代え難い。


2月19日(金)

4:30 時差ボケで超早起き。入浴後貯まったメールを整理しながら、日本から持って来た吉富のお干菓子で一服頂く。

9:00 出社し、名誉会長のオフィスで名誉会長+VIPクライアントとの3人での、某重要作品を巡る電話会議。この作品を扱えれば、もう今の仕事に未練は無い位の勢いのモノだが、それが何かは教えて上げない(笑)。

13:30 中国政府が経営するオフィス近所の四川料理「W」で、今日が社員としての最後の日と為る英国人中国美術専門家のNを囲んでのランチ。余りの空腹に自らの掟を破り、担々麺餃子迄食べて仕舞う…何て弱い人間なんだ、俺ってヤツは(涙)。

17:30 社内でNのフェアウェル・シャンパン・パーティー。N位人格穏やかで尊敬出来る男は中々当社には居ないのだが、そんなNの将来に皆で乾杯。Nは或る意味、当社アジア美術部門の「良心」だったので、彼の退職は本当に残念…が、人生の選択決定は何時か必ず、何処かで為されねば為らない。


2月20日(土)

7:00 夜中に何度か起きた末、起床。重い頭を振りながら珈琲を淹れ、クラシックギタリスト益田正洋のCDを聴きながら、出さねば為らない書類に取り掛かる…気が重い。

11:00 ダウンタウンに髪を切りに行く。担当のKさんが相変わらず明るくて世間話が弾むが、その所為か腹が減り、美容院近所の「S」で蕎麦ランチ…ミニ丼を付けなかった自分を褒めて上げたい。

13:00 その足でアジアソサエティーで開催中の展覧会、「KAMAKURA: Realism and Spirituality in the Sculptures of Japan」を観に行く。出展されて居る鎌倉彫刻は、アメリカ国内からだけのモノだけだが、決して悪くない展覧会。が、僕の所に出展依頼の来ていた、前に東洋仏教美術セールで某コレクターに売った胎蔵品付木造如意輪観音が出て居らず、残念…持ち主は断ったのか?然し観心寺蔵のモノを始め、如意輪観音と云う仏様は如何なる仏の中でも、矢張りセクシー。

15:30 UESから今度はチェルシーに向かい、PACEで始まって居る杉本博司「Sea of Buddha」展を観る。セラの鉄壁の如き楕円形のホワイト・ウォールに並んだ三十三間堂観音は圧巻。そして、以前クリスティーズでも放映した映像作品「Accelerated Buddha」(拙ダイアリー:「"Accelerated Buddha":杉本博司レクチャー@クリスティーズニューヨーク」参照)の完成版も展示されて居て、「加速する仏」を正式に3Dで体感する…これは必見だ。もう一軒のPACEで開催中のIrving Penn「Personal Work」展も観たが、未だにアーヴィング・ペンをどう見るべきかで思い悩む自分に気付く…誰が何と云っても、間違いなく良い作家なんだけどなぁ。「Optician's Shop Window」が何しろ素晴らしい。

19:00 古くからのニューヨークの友人Aと、和食屋「T」で食事…久々のマスターHの美味い料理に舌鼓を打つ。不動産会社を経営して居るAは「これぞ遣り手」な人物だが、世代が一緒なので気が置けない。その後Aが顧客に呼び出されたので帰ろうとしたが、入れ替わりにこれも久々の常連T氏が入って来たので、「我々は何時永久帰国すべきか?」等の深刻な話を結局深夜1時頃迄して仕舞い、食べ過ぎと共に後悔する。


2月21日(日)

前夜のツケと旅の疲れで終日ダウンし、寝たり起きたりを繰り返す。そんな僕を癒して呉れたのは、芸新の「特集 This is 江口寿史!!」…若い頃余り漫画を読まなかった僕に取っても、「すすめ!!パイレーツ」「ストップ!!ひばり君!」「名探偵はいつもスランプ」「爆発ディナーショー」は、青春の1ページだった。彼の漫画のストーリー・テリング、そして何と云ってもギャグのセンスは、山上たつひこ鴨川つばめ、そして魔夜峰央に負けない。


2月22日(月)

10:00 マディソン街と5番街の間の顧客宅で、プライヴェート・セール向けコレクションの各作品の値段交渉。

12:30 交渉を一時中断し、その顧客とガゴシアン+MASAのコラボ和食店「Kappo Masa」でランチ…すき焼き弁当が中々イケた。

13:30 食後交渉を再開し、何とか合意を取り付ける。スゴい価格なので眩暈がするが、やるしか無い。

19:00 NYの大学に留学中の某美術館の娘さんYさん、世界最強ギャラリーのYさん、ファッション・ブランド・デザイナーT氏との4人で、ディナー@久し振りのチェルシー「B」。未だ21歳のYさんの「将来アートに関わりたい」と云う心意気に打たれる…これだから若い人と会うのは止められない。


2月23日(火)

4:30 時差ボケの為、起床。仕方無くお抹茶を二服頂き、高階秀爾「日本人にとって美しさとは何か」を読了。その間、日本の友人からのLINEで、アメリカの某超大手画廊が日本に出店する旨を知る…本当か?でも何故今頃?

13:00 霙混じりのチャイナタウンの「Y」で、荒川修作ファウンデーションキュレーターと某IT系アートカンパニーのロイヤーとランチをし、貴重な情報を得る。フレッシュな情報こそアート・ビジネスの宝。

15:00 会社に戻り、来週行われる重要プレゼンの資料をチェックする。この仕事は絶対に獲りたい。

19:00 寒さの為か体調が優れず、帰宅。時差ボケの上、念の為の風邪薬を飲んだからか、メールをチェックして居る間に寝落ちし、その間、靴を脱いで上がる何かのイベントに行ったのだが、帰りに余りの脱いだ靴の多さに他人の靴を履いたりして、自分の靴が中々見つからない夢を見る…不安の現れだろうか?


2月24日(水)

7:00 NBCニュースで、ネヴァダでトランプがまた勝利した事を知り、ウンザリする。今回の大統領戦は史上最低の候補者ラインナップで、実際誰が勝ってもサイテーだろうが、万が一トランプが勝てば「アメリカン・プーチン」と化す事必然…政治家の人材不足は世界的傾向だが、此処に極まれりの感有り。が、アメリカのせめてもの救いは、日本の様に党内の一回戦で負けても復活戦で勝って(比例代表もそうだ)、国民の審判の何も無い侭一国の宰相に為れるシステムでは無く、少なくとも党の代表戦時から一挙手一投足が国民に見られ、評価され、その中で1年間戦い抜いて「直接選挙」に因って大統領に為り、その「任期」を全うする、と云うシステム。これならば選ばれた大統領も選んだ国民も、「一票」に責任感と自覚が出ると云うモノだ。

12:00 国連勤務のコレクターと、オフィス近くのブラッセリー「R」でランチ。海老入りサラダを食べながら、上記大統領選の話や今の日本人の芸術的・哲学的リテラシーの低さ、教育と選挙制度改革の必要性で同意する。

18:00 僕がCo-hostを務めた、イタリア在住の彫刻家安田侃の展覧会「Touching Time」@クリスティーズ(→http://www.christies.com/privatesales/2016/kan-yasuda-touching-time-february-2016)のレセプション。有力画廊キュレーター、コレクター等が多数来場。安田氏曰く、「大きくて傷の無い、美しい大理石を切り出してスタジオに運び込めたら、僕の作品の半分は出来た様なモノだ」…ミケランジェロの時代から、イサム・ノグチやへンリー・ムーア、バーバラ・ヘップワース迄が取り続けた最高級の大理石場に、遺された石は少ない。有機的で美しい大理石とホワイト・ブロンズの作品を堪能出来るこの展覧会は、3月26日迄。

20:00 ロックフェラー・センター内のレストラン「S」で、安田氏とその御家族、イタリアからの石切職人やコレクター等を囲んで、総勢20名程でのセレブレイション・ディナー。安田氏は気さくで楽しい方で、食事石切場を舞台とした世界から石を求めてやって来るアーティスト達の話を聞く。ムーアとノグチが犬猿の仲だったと云う話が秀逸。


2月25日(木)

7:00 朝のニュースで、3.11後3日で発表出来た筈のメルトダウンを、東電が「マニュアル見逃し」を理由に「5年」経って発表した事を聞く…と云う事は、隠されて居る事が未だ未だ有ると云う事…最低な話だ。

13:30 ロウワー・イーストサイドのShin Galleryでの展覧会「I Wanna Be Me」を、オーナーのHと共に観る。 僕の重要顧客でも有るHが最近オークションで購入した、バルテュスやダリ、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(拙ダイアリー:「道行く人よ、心して/目を留めよ、良く見よ」参照)、ペルーのアーティスト、テレサ・ブルガ等のフィギュラティヴ・アートで構成された展覧会は、グラフィティケイオスの中に素晴らしい「人物画」が光る、Hならでは物だ。然しバルテュス、素晴らしい…この作品を持つHがマジに羨ましい。


2月26日(金)

9:30 再び出張へ向かう為、現在JFK空港のラウンジ。誘惑の多いパントリーでは、プレイン・ヨーグルトとフルーツだけを摂る…嗚呼、自分を褒めてあげたい!今回の出張では、今抱えている3つの大きな仕事に於いて各々重要な局面を迎えるのだが、僕が出来るのは全力を尽くす事だけ。


人事は尽くした…天命を待とう。

AKAK 2016/02/27 12:21 コメントを書くのは初めてですが、アートやオークション、茶道、美味しいものの話などに興味があって、こちらのブログをいつも拝見しております。
本を読むことが好きで、大学を出た後もなるべく自分で学ぶ時間を作るよう心がけては来ましたが、あまり触れて来なかった哲学もさることながら、好きな芸術などの知識であっても自分のものになる感覚を味わえていません。
もし機会があれば、哲学や芸術リテラシーを向上させるために必要なものは何であったのかなど、ほんの少しのアイデアでも書いていただけると大変参考になります。

孫一孫一 2016/02/27 19:18 AKさん、コメントを有難うございます。難しいご質問ですが、僕のアートに関する場合は「好奇心」と絶え間無い「行動」です。つまり美術館や博物館、能楽堂や歌舞伎座に観に行ったり、お茶会等に参加したり、本を読んだりし続けて居る内に、チョットしたブレイク・スルーが彼方此方で起きたりして、そんな時にもっと知りたい、観たい、行きたい、と改めて思います。ご参考に為ったか判りませんが、「好きこそ物の上手なれ」では無いでしょうか。これからも、如何なるアートにも触れ続けてください!

AKAK 2016/03/01 23:04 お返事どうもありがとうございます。
好奇心、絶え間ない行動。
鑑賞者・受け手としての自信が無く、やや消極的になっていましたが、
ブレイクスルーの種がまだまだ転がっていると思うと楽しみになりました!