「La La Land」に観た、今日本に必要なモノ。

重要なミーティング2つと、レクチャーをする為に短期で日本に行って来た。

その日本では「森友学園」問題が国会で質疑されて居たが、安倍総理には本当〜に愛想が尽きる。夫人は「私人」だと言い張るが、私人だろうが公人だろうが、こんな大きな問題に説明責任が有る事位火を見るよりも明らかで、詭弁も大概にして貰いたい。

また政治的圧力無しで国有地の価格が「8億」も安く為るならば、誰だって買いたいに決まって居るのにも関わらず、国として調査をするとも言明もせず、夫人に釈明もさせない…アメリカだったら、この時点で一発公聴会モノなのに、甘っちょろい話極まりない。

さて今回僕が招聘されたレクチャーは、イギリスのラグジュアリー・トラベル会社の主催で、コンラッド東京のアネックスを借り切って世界中からのバイヤーを集めた、謂わば「展示会」のイヴェントとしての催しで、聴衆は外国人4:日本人6の割合(→https://www.travelvoice.jp/20170302-84180)。

今回のレクチャラーは僕を含めて2名で、もうひと方はコラムニスト且つ「世界のベスト・レストラン50」の日本評議委員長をされて居る方。この方のレクチャーはヴィデオやパワーポイントを駆使した、流石21世紀的で然も「食」と云う興味深い分野の話だったので、レクチャー・タイトルの様に桃山時代を標榜し、自分の舌と口と声だけで「Zipangu Revived」と題された講演をする僕としては、一寸おっかな吃驚だったのだが、当日の朝観た或る番組で、ファッション・デザイナーの山本耀司氏が「コンピューターを信じるな、先ず疑え!」と強調して居た事を胸に、心強く登壇。

冒頭に「私は今回、私の口以外何も使用せずにレクチャーするので、一生懸命聞くか、確り寝るか何方か選んで下さい(笑)」と云ったお陰か、海外から見た日本文化、外国人の日本美術趣味、福田美術館や江之浦測候所等のラグジュアリー外国人への将来的オススメ・スポット、ホンモノ志向の重要性の追求等の内容だったレクチャーを、200名近い聴衆の方々にメモを取ったりして真剣に聴いて頂いた。質疑応答も講演後の質問も多かったので、少しは役に立ったのでは無いだろうか…と自画自賛で幕を閉じました。

閑話休題。前回、北斎の娘お栄の事を此処に書いたが、今回の帰りのANA便で、このお栄を主人公としたアニメ映画「百日紅〜Miss HOKUSAI〜」がヴィデオ・プログラムに入って居るのに偶然気付き、観てみる事にした。

そもそもアニメが大の苦手な僕が(ジブリですら1本も観て居ない)、此処半年で2本もアニメを観るなんて奇跡的なのだが(因みにもう1本は「君の名は」)、お栄が主人公なら話は別だ!

この「百日紅さるすべり)」は、何と杉浦日向子作の漫画が原作だそうで、北斎を始めとし、お栄、渓斎英泉、歌川国直、葛飾北明、魚屋北渓等が登場する、江戸庶民の生活感溢れる作品だ。小説「眩」で英泉と恋に陥ちたお栄が、本作では北渓に恋心を寄せるのも面白い。

このアニメ映画は、「クレヨンしんちゃん」の制作グループが手掛けたとの事で、何処か大人向けに出来て居て、海外でも上映され受賞もしたらしいが、他のお栄作品と違う点は、北斎のもう1人の娘、つまりお栄の年の離れた妹が盲目の少女として登場し、ヒューマン・ドラマ化されて居る所だろう。

そしてもう1点興味深かったのは、北斎の「百物語・さらやしき」のアイディアに為ったで有ろう、吉原の「花魁ろくろ首」を始めとする百鬼夜行的妖怪が登場するオカルトな箇所で、これは流石、元荒俣宏夫人だった杉浦の原作の為せる技に相違ない。

世の中に、こんなにお栄の事を気にして居た人が居た事には正直驚いたが、此れも「肉食系女子」時代の賜物かも知れない。そう為ると次は「百福図」を描いた暁斎の娘、「暁翠」の出番か?…と思わなくも無い。誰か暁翠の事を書いてくれませんかね?川鍋楠美暁斎記念館館長も、お元気で頑張ってらっしゃる事ですし…。

では、此処からが真の本題…吃驚する程再び寒く為って居たニューヨークへの同じ帰り便で、2度目の鑑賞をした「La La Land」で有る。

本年度アカデミー賞で、作品賞は逃した物の6部門を獲ったこの「La La Land」には(逃した理由も何と無く判る)、過去の名作ミュージカル映画へのオマージュがふんだんに使われ、本作で史上最年少タイ記録で監督賞を獲ったデミアン・チャゼルの脚本は、最後の最後でその輝きを見せる。

また主演の2人の演技が各々素晴らしく、当初エマ・「ワトソン」がキャスティングされたらしいが、この「夢のハリウッド」映画ではエマ・「ストーン」の起用が大正解だったと思うし、元々好きだったゴズリングの演技は、「ブルー・ヴァレンタイン」並に良かったと思う。

そしてこの映画を見終わって、アメリカン・ドリームに代表される強い「ポジティヴネス」こそが、今日本に一番欠けて居るモノだと感じたのだが、そう強く思ったのには、実は村上春樹の新作がタイムリーにも刊行された事と関わりが有る。

(此処から先のダイアリーは、「ハルキスト」対応して居りませんので、悪しからず)

そもそも村上春樹の小説に長年共感出来ず、「1Q84」でこの「剽窃作家」に絶望した僕は(拙ダイアリー:「『1Q84』読了と、今此処に在る危惧」参照)、「騎士団長殺し」は未だ読んで居ないし、読む事も無いかも知れない。が、どうせ透明で神経過敏でモテモテの「僕」が、複数の女性と散々セックスを楽しみ、自己愛に塗れ、簡単な事をさも意味有りげに、長々と哲学チックに書いて居るのでは無いか?と疑わざるを得ない…さて読んだ方、如何でしたか?

「外に出る勇気」や「ポジティヴネス」、そして「明るい未来への希望」と「他者との積極的な関係性の開示」…今の日本に最も欠けて居るモノが、「La La Land」には有る。

最近読んだ、セックス・シーンが皆無なのに愛が溢れ、現実的且つ最後に希望の光が覗く平野啓一郎の恋愛小説「マチネに終わりに」と、恐らくは好対照な村上春樹の新作…何方に今日本人が共感すべきかは、云う迄も無いだろう。その意味で、「La La Land」の様な映画を今作れる日本人は皆無に違いない…寂しい限りで有る。

そしてニューヨークでは、春のAsian Art Weekが愈々始まる。

次回のダイアリーは、歴史的なオークションに為る可能性大な、「藤田美術館セール」に就て…乞うご期待!


ーお知らせー
*3月12日(日)15:00-16:00、クリスティーズ・ニューヨークの社屋に於いて、武者小路千家家元後嗣千宗屋氏に拠るレクチャー「Quintessence of Asian Art – The Fujita Museum Collection」(東洋美術の真髄ー藤田美術館コレクション)が行われます。入場無料・全席自由ですので、下見会と共に皆様のご来場をお待ちして居ります。

*3月13日(月)18:30-19:30、ジャパン・ソサエティにて、同上千宗屋氏に拠る「The Subtle Art of the Japanese Tea Ceremony」と題された講演会が開催されます。詳細はこちら→http://www.japansociety.org/event/sen-sooku-the-subtle-art-of-the-japanese-tea-ceremony

*3月16-17日(木-金)、The Kitano Hotel New Yorkに於いて、「桃源茶会」が開催されます。今年は濃茶席を千宗屋氏、薄茶席を谷松屋戸田商店が担当されます。お問い合わせ・お申し込みはMs. Mariko Ikeuchi (212-885-7072)、若しくはRSVP@kitano.com迄。

*3月27日(月)22:25-23:14、NHKプロフェッショナル 仕事の流儀」に出演します→http://www.nhk.or.jp/professional/schedule/。どんな事に為って居るのか全く判りませんが(笑)、お時間が有る方はご覧下さい。